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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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道化と泣きぼくろ

「おい! お前、断りもなくカウンター内に入って来るな! 一体、何のつもりだ!」



 え? いや、神のつもりだったんですが?


 この坊主頭の、厳ついオッサンは、部長の沢井君だ。


 ロミオとほぼ同期で、かなり古い付き合いのガーディアンだ。


「ゲホッゲホッ! 苦しいからっ! って、沢井君か。もう、酷いじゃないか」


「誰だ? 俺は、お前の事なんか知らないんだが。とりあえずカウンターから出ろ!」


「ちょ、待って、ほら、今ヅラ取るから。ネットは、外すと付けるの面倒だから、勘弁してよ」


 ネットを被った姿はマヌケだけど、外した時の威厳の欠片も無いペッタンコの髪を見せるよりは、マシだ。それに言った通り、全部の髪をネットに収めるのは結構重労働なのだ。


「ああ、アネル様か。今日は、どういったご用件で」


 熱烈歓迎とか、求めてたわけじゃないけど、『ああ』は、酷くね!?


「謝ってよ! あと、ヅラ被ってても気付いてよ! 私、結構、傷ついたよ?」


「無茶言わんでくださいよ。髪が見えなかったら、気付けるわけ、ないじゃないですか」


 ええぇぇ! 言い切られたよ!? あれか? キャラ付けが足りない!? 語尾か? 語尾なのか? 語尾に『にょろ』なのか? 『私がアネルだにょろ!』いや、だめだ! 流石に痛い、痛すぎる。


「大体、二人いるのに、どうして私の襟を引っ張るかな? シアルじゃダメだったのかい?」


「そりゃあ、アネル様の方が、ちょうど掴みやすい高さだから」


「沢井君! それは暗に、神に対してチビと言っているのでは、ないかね?」


 私だって、17歳で成長を止めなければ、後1センチくらいは、伸びたはずなんだ! まあ、それでも155センチにも届かないんだが……。


「アーちゃーん! やっぱりアーちゃんだ!」


 茶色に染めた髪をワンサイドアップにまとめた女性が階段を駆け下りてくる。そして……『ボフッ!』突然、横から抱き着かれた、ええい! その肉塊を私に押し当てるんじゃない! 間違いようも無い、ガーディアンの増渕 里緒菜くんだ。


「本部に入ってくるのを、2階の窓から見て、一目でアーちゃんだと気付いたよ! どうしたの? ウィッグなんて被って。でも、黒髪のアーちゃんも可愛いね!」


「里緒菜くん、ちょっと苦しいから、離してほしいにょろ」


 ハッ! しまった。何を口走った私! 考えていた事が思わず口をついた。


「にょろ!? どうしたのアーちゃん! アーネル教のマスコットキャラから、ゆるキャラに転向するの?」


「ゆるキャラになんて、ならないから! っていうか、私って、いつからマスコットキャラだったの!? 違うからね? 神だからね?」


「そっかー、アーちゃんも背伸びしたいお年頃か! お菓子あげるから、向こうでお話ししようよ」


 背伸びしたいお年頃って! 私1217歳なんですが! まあ、好きか嫌いかと、聞かれたら好きではあるんだけど、里緒菜くんと話すとペースが狂う。


 姉キャラの彼女に接触すると、私の姉キャラと対消滅を起こして、アイデンティティが崩壊しそうになるのだ。


 ちなみに歳は、生きてる年数だけなら私の方が約400年、長いんだけど、身体年齢は、私が17歳で、里緒菜くんが22歳。シアルと私の関係と同じで、見た目の年齢が逆転してしまっている。


 ちょっとシアル助けてよ! 目線で救援要請だ。さあ助けるんだ!


「あ、あの? 里緒菜さん。アネル様は、急ぎの用件で来ているので、申し訳ないのですが、放してあげてもらえますか?」


「そうなの? 遊びに来てくれたんじゃないんだ。ちょっと残念だな」


 よくやったシアル、やっと解放されたよ。あの肉塊を押し当てられると、精神を切り刻まれる錯覚に陥るのだ。


「まったくもう、君たち古参組は、本気で私の事、マスコットキャラ程度にしか思ってないよね! 新人に変な事、吹き込まないでよ? お願いだよ?」


「私としては、アネル様にも問題があると思いますよ。一般市民に接するのと同じような言動で、ガーディアンにも接していれば、今みたいな状態にはならなったのでは、ないかと」


 シアルの言う事も、わからんでもないのだけれど。


「だって、私が民衆向けキャラを使い始めたの、神歴400年頃からだし、そのキャラでガーディアンに話しかけたら、鼻で笑われたし!!」


「あたしは、無理してるアーちゃんも、可愛くて好きだったけどなあ」


「うん、ありがとう、里緒菜君。全然、嬉しくないけど。……はっ!」


 あっ! 受付嬢がいるの忘れてた……。仕方ないなー。バッグに手をいれながら受付嬢に近づく、こんなもんかな?


「そこの貴方たち、お勤めご苦労さまです」そう言いながら受付嬢の右手を掴み私の横顔がデザインされたメダルを5枚握らせた。もう一人にも5枚っと。


「仕事が終わったら、これで遊んできなさい。きっと楽しすぎて、今見た事なんて忘れてしまうんでしょうね? 忘れられてしまうのは、残念ですが、民の喜びが私の喜びです。遠慮しないで受け取ってください」


 5万も握らせておけば問題ないだろう。


『ベシッ!』「あたっ!」またシアルに後頭部を叩かれた。今日2回目だよ!


「何するのかと思ったら、口止料ってバカなんですか? マスコット神と噂されるより、民を買収しようとする神の方がよっぽど外間が、悪いですから!」


「あの、これ?」受付嬢が目を白黒させながらシアルに話しかけてる。


「出したものを引っ込めるのもアレなので、受け取っておいてください。アネル様は、自分が来たことで、皆が緊張するのを嫌って、わざと道化を演じているので、変な噂を流さないよう、お願いしますね」


「は、はあ。わかりました。アネル様ありがとうございます。頂いておきます」


 助けてもらったみたいだけど、私の素の行動が、道化だと……。


 酷い言われようだけれど、ここは我慢。さっさと用事を済ませて逃げ出すのが一番だ。


「ゴホンっ! 沢井君、今日は、ガーディアンの個人資料を確認しに来ました。資料室を使わせてもらいますよ」


 ――――――ようやく資料室に入れたよ。ガーディアンの同席は、遠慮してもらった。


 沢井君は、兎も角、里緒菜君がいたら、資料の確認どころじゃない。えぐり込むように撫でまわされて、帰る頃には、真っ白に燃え尽きてしまう。


 目的の資料だけは、出してもらったので、すぐ確認作業に入れる。




 さて、大林 圭太……肉体年齢が23歳、出身は東京都、王国に辿り着いたのは、神歴400年3月、ガーディアン歴は長い方だね。


 血液型とかは、まあ、どうでもいい。第三召喚場で召喚ね。配属は、魔法機器の開発部門。魔獣討伐も行っているようだけれど、人手不足の時だけみたいだ。ほぼ開発専門って感じか。


 犯罪歴は無し。住まいは、街外れの一軒家だ。お金には困って無いだろうに、不便な所を選んだものだ。


 顔は、あれ? 写真だ。似顔絵の時期だと思うんだけど、写真に差し替えてるのかもしれない。


 濃い顔してるなー。彫りが深い。日本人と、白人のハーフだったりするんだろうか? 覚えやすくて、ありがたい顔だ。髪色は黒、髪型は、特徴のない短髪だけど、いつの写真か分からないから参考にならないか。




 次は、蓮井 琉々奈……肉体年齢が25歳、出身は埼玉県、王国に辿り着いたのは、神歴402年……6月…………。


 第三召喚場で召喚、大林と同じだ。配属は、最初は、モセウシの防衛担当に任命で、その後、各街を転々として、900年に本人の希望で魔法機器の開発部門に移動。


 犯罪歴は、無しか。住居は、大林の家のすぐ近くだ。こっちも合わせて行ってみるか。


 蓮井も、顔は写真で残ってる。髪は、黒。髪型は、多分後ろで纏めてると思う。正面からだから、詳しい髪形わからない。まあ、重要じゃないからいいけど。


 顔つきは、ちょっとキツめの顔をした、お姉さんって感じか。左右対称にある、泣きぼくろが特徴的だ。


「アネル様、何か分かりましたか?」


「うん、色々とね。ここまで来た、甲斐は有ったよ。次は、二人の住居に行ってみようか」


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