ウィッグと防衛本部
ロミオと話を終えた、私達の次のお仕事は、大林と蓮井に関しての情報収集だ。
何か問題を起こされる前に、捕まえるのが最善だけれど、間に合わなかった時のためにも、何をしようとしているのか、できる限り調査しておく必要がある。
「それじゃ、手始めに、車に積んであるマントとウィッグを持ってこようか」
そう言いながら、車に向かって歩きだした。
「わざわざ変装して、街に行くんですか? 私は、耳が痛くなるから、ウィッグは、あまり好きじゃないんですが」
私は、付いてないから知らなかったけど、獣耳って押さえつけとくと痛くなるもんなのか。こんど、耳が出るように穴を開けたのを特注で作っておこう。
「シアルは、付けなくても良いよ。王都では、そこまで顔を知られてるわけじゃないから。――私の髪は目立つからねー。知らずに定着していた『握手やサインに気軽に応える、下手なアイドルよりも取っつき易い神』の称号が、邪魔をして調査に、ならないと思うんだよ」
「愛されるのは良い事ですけど、その愛され方は、ちょっと間違ってるんじゃないですか? もう少し神らしくしてくださいよ」
話しながら歩いているうちに車が見えてきた。鍵、何処やったっけ?そのうちキーレス付けたいな。
「意外な事を言うね? ガーディアンが言うんなら理解できるんだけど、この星生まれのシアルがそれを言っちゃうかー」
車に積んであるバッグからウィッグを取り出してっと。髪が短いとこういうとき便利だね。外した後に髪がペタッとなるのだけは、頂けないけど。
今回被るのは、黒髪ロングのウィッグだ。
「私、何か変な事言いましたか? 凄く当たり前の事しか言ってない気がするのですが」
あとは、マントを着てっと。着替えも持ってきてるけど、レディーが外で生着替えとか、あり得ないのだ。私、露出狂じゃないし。
「この星で、神らしいって事は、私らしいって事なんだよ」
「……とんちですか?」
「とんちじゃないよ!? 言ったままの意味だよ! 今は、シアルと、とんち比べしてる場合じゃないからね!?」
「えっ? もう少し詳しく」
「それ絶対、わざとやってるでしょ? 私が、ちょっと気取った言い方したもんだから、詳しく説明させて、辱めようとしてるんでしょ? 説明したら、したで『へー』とか興味なさそうな返事するんでしょ? 知ってるんだからね!」
最後に車のミラーで身だしなみチェック。うん、これで銀髪だったらニコルみたいだ。
颯爽と街に繰り出してから、暫く歩いたけれど、今のところサインを求めてくる人は居ない。それ自体は、ありがたいけど……何か、複雑な心境だな。私の特徴は銀髪以外に存在しないのだろうか? 構われないのも寂しいものだ。
わざと、地毛をウィッグから、はみ出させて、さりげなく神アピールするのは、どうだろう? ……いかん! 何を考えている!? 醜い承認欲求に飲まれる寸前じゃないか! 目的を見失うな私っ!
「いつもの事ですが、まだ目的地を教えてもらってないんですが、最初はどこへ向かうつもりですか?」
「最近、私への風当たりが強い気がするけど気のせい? 高層ビルの横で、ビニール傘を持って歩いてる気分なんだけど?」
「その例えは、さっぱりわかりませんけど、風当たりは気のせいですよ。なんにも変わってません」
「そう? それならいいんだけど。最初は、ガーディアンの資料を見るのに、RMI防衛本部まで行く予定だよ。格好いい名前だよね。RMI=ルモイじゃなければ」
ガーディアンに任命された、地球人は、ルモイ王国まで送迎人に連れられて来た後に、防衛本部で、名前、出身、年齢、性別、などの情報を記入してもらって名簿として保管している。
それには、配属先や、過去の功績、犯罪歴、そういった情報も記載されているはずだ。顔に関しては、登録した時期によって、写真だったり似顔絵だったりマチマチだ。
載っているのは大まかな事柄だけで、日々の活動が細かに書き込まれるわけではないけれど、大林と蓮井に関しての情報なら、どんな事でも集めておきたい。
それにしても、私は殆どのガーディアンと、一度は会ってるはずなんだけど……大林と蓮井の両名は、全く記憶にない。
この星で、何をやるべきか、何のために呼ばれたかなどは、RMI防衛本部とロミオが説明するので、新人が来たからといって、私から会いに行く事は、まず無い。
でも大抵は、シバに連れて来られた事に対しての抗議や、地球への戻り方など、何かしら目的を持って、私のところまで、自ら訪れるものなんだけど。多分、来てないな。これが何を意味するのか……。
結局、誰にも気付かれないまま、辿り着いたのは、RMI防衛本部。
仰々しい名前だけれど、2階建ての民家を2軒、連結したような建物だ。
ガーディアンは、数が少なく、近隣の魔獣討伐などで、常に出払っている状態だから、大きな本部なんて、必要ないという事なんだろう。
普段、本部に居るのは、受付嬢が二人、事務員が数名、緊急時に備えて当番のガーディアンが5人、それだけだ。
神が、わざわざ受付を通る必要なんて無いから、そのままカウンターの奥、資料室を目指す。受付嬢がギョッとした顔をしているけど、突然、神が訪れたら驚くも仕方ない事だろう。
急ぎの用件だし、防衛本部、部長の沢井君を探すのも面倒だ。私が来たと聞いたら、向こうから来るだろう。その時にでも、話せ「ぐえっ!」……後ろから襟を掴まれたんですが?
「おい! お前、断りもなくカウンター内に入って来るな! 一体、何のつもりだ!」