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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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王城とロミオ

 ユニコーンとの戦闘後、休憩は車内で交代で済ませ、車をほぼ止める事無く、走り続けた結果、王都に到着したのは、翌日のAM4:00、出発から23時間後だった。


 思いの外、早く辿り着けたのは良いだけれど、早朝から押し掛けるわけにもいかず、宿に入って就寝した。


 そして今は、AM11:00、王の私室へ向かっている最中だ。


 何の連絡もせずに、突然訪ねてきたので、警備兵がやかましい。


「アネル様、どうかお待ちください。王の許可がなければ、この先へは、お通しできません!」


 警備兵くんの立場もわからないでは、ないけれど、私がロミオ如きに、許可を求めるとか有り得んのだ。


 もし、ロミオが、黒だった場合、変に時間を与えると面倒な事になる可能性もある。その理由からも、ここで引き下がるわけには、いかない。


「私が、無理に通ったと、国王に伝えておきます。貴方に迷惑はかけないと、アネルの名に懸けて約束しましょう。それでは、通していただきますよ」


 当の本人達が、どう思っているかは別として、一般の人々から見れば、私の立場は王より上。ヒエラルキーの頂点に位置する。私が強く言えば、拒否できる者はいない。


 私がこの世界に来た当初からの知り合いで、今だに、私を崇めるような、人は一人もいないんだけどね。対等どころか、酷いのだと格下(人間的に)のような扱いをしてくる輩までいる。(主にロミオ)


 まあ、気にしてないけど。外でやられるのは困るけど、プライベートなら変に堅苦しいよりずっと良い。


 部屋の場所は、何度か来たことがあるので覚えている。


 歩く廊下は、本当に質素だ、調度品なんて、ほぼ無いに等しい。彼は、あまり贅沢をするような人間では無い。


 その辺りは、好感が持てるのだけれど、権威付け的な意味合いで。もうちょっと何とかして欲しい気もする。


 人間族の管理を丸投げした私が、とやかく言える事ではないし、建国から1100年間、この国を存続させ続けている、ロミオの手腕は確かなのだろう。私が口を挟むような事ではないか。


 それに、他の人が言ったら聞く事でも、きっと私が言ったら聞かないしな!


 ロミオの野郎ぉ!! あれなのだ、人格の良し悪しと、相性の良し悪しは、別物なのだ。


「さて、シアル司祭、ロミオの私室の前に着いたわけですが、彼との会話のなかで、私の言動が、おかしいと思っても、今回は見逃してください。彼との掛け合いのなかで、探りを入れていく予定なので、全て意味がある事だと、理解しておいてください」


 まずは予防線を張っておいた。従者に怒られる神とか、ロミオに舐めらてしまう。


 まあ、今更な気もするけど……。


「はい、畏まりました」


 うむ、素直でよろしい。いつも、そうあって欲しい。


「それでは、行きましょう」『トン、トン、トン』「ロミオ、アネルです」


 ……『トン、トン、トン、トン』「ロミオ、居ないのか?」


 ……『トントントン』「ロミオくーん、あーそぼー!」


 ……『ドン!ドン!ドン!ドン!』「ロミオ! 居るのは、わかっているぞ!! ドアを開けて、今すぐ出て来い! いいか、五つだ、五つ数える間だけ待ってやる!! 出て来なければ扉を爆破するぞ! 本気だぞ!! ひとつ、ふたつ、みっつ、よぉーーーっつ、いつぅぅぅぅぅつ!」


 あの野郎! 居留守か? 居留守なのか!!


 右手を伸ばしてギリギリ届く距離に、ランドマインを描画! 魔力充填……完了!! 移動して、ロミオの私室の壁に体をピッタリ貼り付ける。よし魔法陣が壁を貫通して、ロミオの部屋に入った!!


 壁が壊れたら私も痛いが、そんなこたぁ構いやしない! 数々の死線を潜り抜けてきた特攻女神を甘く見ない方が良い!!


 さあ、出て来ないなら、いく『ゴッ! ガッ!』「ぐへっ!」


 くぅ…シアルに後頭部を叩かれて、頭を壁に強打した!!


「痛いじゃないか!!」


「痛いのはアネル様です!! 城内で何やってるんですか!!」


 まずい、少し我を失っていたようだ。


「ゴホンっ! シアル司祭、先程も言いましたが、一見、奇行に見えたとしても、全てに意味があるのです。私を信じては、もらえませんか?」


「アネル様、本当に今のも意味のある行動なのですか?」


 シアルが怪訝な顔で、聞いてくる。


「ええ、もちろんです。憤怒に身を任せたわけでは、ありません」


 『ガチャ』言い訳していたら、鍵を回す音が、響いてドアが開いた。


「これは、シアル司祭、お久しぶりです。少し散らかっていますが、どうぞお入りください」


 ロミオがシアルを見ながら、挨拶してる。というか私の方を一度も見ないのだが。


「お久しぶりです、細川様。連絡も無しに、突然押しかけてしまって、申し訳ありません」


 あれ? 私、ハブられてる? まあ、良い。ドアは開かれた。




 室内に入った私は、ガラス天板のテーブルを挟んで設置されているソファーに、勝手に腰を下ろした。


 続けて、私の前に座った、セルフレームの眼鏡をかけた、肉体年齢23歳の男がロミオだ。中々、甘いマスクをしているのだけれど、その顔にロミオという名前が似合いすぎてもう、クッ! まずい変な事考えたら吹き出しそうだ。今日は煽りに来たんじゃなく、話しに来たんだ。がまん、がまん!


 シアルにも横に座れと勧めたが、どうも、現在はお仕事モードの様で、拒否されてしまった。後ろで立って話を聞くようだ。




「さて、久しぶりだねロミオ。10年ぶりくらいだったかな? 国の運営も順調のようで、なによりだよ。……ん? そこに飾ってある写真は、今の奥さんと息子さんかい?」


 ロミオは、大体100年周期くらいで、結婚している気がする。同じガーディアンと結婚すれば、死別する事も無いのに、選ぶのは、普通の人間ばかりだ。


 人伝に聞いた話だと、ロミオ曰く『別れが有るから良いんだよ。だから時間を大切にできる。それに、永遠に同じ女性に縛られるとか、考えただけで、眩暈がしてこないかい?』らしい。


 私の乙女回路は、とっくの昔に断線しているので何とも思わないけれど、正常に作動してる女性に言ったら、白い目で見られそうな言葉だ。


「ああ、そうだ。しかし、そんな事が聞きたくて来たわけじゃないんだろ? 用事があるならさっさと済ませてくれ、アネルが思うより、国王ってのは忙しいんだ」


「つれないなーロミオは。しかし君も、よくやるよ。結婚しても、子供が出来ても、皆すぐに年老いて、私たちの前から居なくなってしまうってのに。私は、先の事を考えたら、とても、そんな事する気には、なれないな」


「用件を言えと、言ったんだが?」


 少し苛立ったように、ロミオが言った。あまり無駄話をして、本題に入る前に話を打ち切られた面倒だし、そろそろ、はじめるか。


「全く、君は、せっかちだ。じゃ聞くよ。これに見覚えがないかい?」


 差し出したのは、金属製で一辺が2センチの、ダイス状の機械部品。


 テーブルに置いたそれを、ロミオは右手で握り、目の前に持っていき、手の中にある機械を数秒凝視した後に、テーブルに戻した。


「これは、なにかの部品か? 質問の答えは解らないだ。似たような物は、いくつも見た事があるが、全部同じに見える。俺は、技術職じゃないからな」


 表情は、全く動かなかった。でも、部品を見たときの手の形が、若干だけど不自然だ、こちらから見えないように、四指を立てていた。


「そうかい、解らないか。じゃあ、教えてあげるよ。これは、魔法器具に使われている、魔力を一時的に貯めておく、部品の1つだよ」


「なら答えは、解らない、ではなく、見た事がない、だ」


 相変わらず眉一つ動かさない。完璧なポーカーフェイスだ。でも、普通は、そんな物を何の説明も無しに、突然みせられたら、困惑の表情を浮かべるものだが。


 ロミオがテーブルに置いた部品を摘まみ上げて、指先で転がしながら、ロミオに話しかける。


「これは……、魔力が残ってるね。……優しい私が、一つ忠告してあげるよ。何かわからない機械に、魔力を流さない方が良いよ。何が起こるかわからないし。嗚呼! もしかして、青くなるとでも思った? 思っちゃった?」


「その、青くなるというのは、何の事だかわからないが、忠告は、心に留めて置おこう」


「あー、やっぱり魔力流したんだ。こんなの、見たってわからないからね。適当に言ってみただけなんだけど。そっかー流したんだ」


 後ろに立つシアルに、無言で右手を差し出すと、冷たく硬い感触の物体が手のひらに乗せられる。それを、ロミオの前にかざしながら、魔力を通して、青に変色させる。


「アネル、お前は、本当に嫌な女だな」


 苦々し気な顔だ。ようやくロミオのポーカーフェイスが崩れた。


 そうだ! その顔が見たかったんだ!! もっと私を楽しませろ!


「うふふっ! ありがとう、ロミオは良い奴だね。私は、小さい頃から、ちやほやされて育ったからね。死ぬまでに一度で良いから、罵倒されてみたかったんだよ。君のお陰で夢がかなった」


「今までも、散々罵倒してやった記憶があるんだがな。……で、なぜ今更、兵器開発に関して口を出す?」


 ここから、どう攻めようかと思ってたけど、あっさりゲロったよ。


 悪気がないって事? 今までの兵器開発の延長線だと思っているのか…。


「あら? 認めると思わなかったよ。そりゃ大量破壊兵器を作ってる可能性があるんだから、文句の一つも言いに来るよ」


「大量破壊兵器!? そんなものの製造を指示した記憶はないが?」


 演技の可能性も捨てきれないけど、本気で驚いている雰囲気だ。


 王国内の黒幕は、他にいる可能性がでてきた?


「青く変色する金属、名前はリアス鋼って言うんだけどね。通常魔導兵器には絶対使われない素材なんだよ。使うとしたら特殊な魔力エネルギーを使う兵器。そして、そのエネルギー源を持っているのは、私だけのはずだったんだよ」


「俺は、部下から、新たに発見された金属で、流し込んだ魔力を殆どロスすることなく伝える事が出来る。と、聞いたぞ。そして、それを使って開発すると報告を受けていたのは、シールド発生装置だ」


「じゃあ、さっきは新素材が露見しないように、知ってることを隠そうとしたわけだ」


「まあ、そう言う事だ。実験の失敗で大地に大穴を空けた件も含めてな」


 これは、あまり話したくない。けど、事の重大さを知ってもらうためには、言わざるを得ないか。……クレーターを作っちゃったの国境スレスレなんだよなー。怒るかな?


「昨日の夜、南西で銀の光の柱が観測されたって報告を受けていないかい?」


「ああ、聞いているが、何か知っているのか?」


「うん、あれやったの私だから。件のエネルギーを少しだけ充填して、全長1.4メートルの銃で撃った結果があれだよ。あっ! 人道支援だから、怒らないように。それに、君らもクレーター作ったんだから。それを忘れちゃダメだよ?」


 そうだ、冷静に考えたらお互い様だ。怒られたら、逆に糾弾してやる!!


「人道支援ね……。それは、聞かなかった事にしてやる。アネルが来た理由は納得できた。……少しアイツと話をする必要がありそうだ」


「リアス鋼を持ってきた人かい? それなら、私も話があるから連れてきて欲しいんだけど」


「名前は、大林 圭太だ。今から呼び出すから、少しここで待っていろ」




 結果から言うと、大林 圭太に会う事は、できなかった。


 リアス鋼のインゴットと共に行方をくらませたらしい。


 近隣の住民の話だと10日前くらいから、大林の自宅に明かりが灯るのを見ていないそうだ。


 実験の際に大林に同行していた、蓮井 琉々奈という名のガーディアンも同時に姿を消したそうだ。


 実験に同行していた一般兵10名は、荷車を引くためだけに連れていかれた人員のようで、魔法兵器の開発に、何らかかわりが無かった。彼等とも話をしてみたけど、実験の際には、立ち合いを拒否されていたらしく、何も見ていないらしい。


 もし、何らかの方法で、実家と連絡がとれれば、衛星の記録から居場所を探れるかもしれないけれど、向こうで調べるのに30分かかったら、こっちに連絡が来るのは約21年後。


 その間、相手が、大人しくしていてくれる、わけがないよね。


 結局わかった事なんて、ほとんど無いけど、ロミオと敵対せずにすんだ事だけが、唯一の救いだ。



「ロミオ、私達は数日、王都に滞在する事にするよ。どこかに手掛かりが落ちてるかもしれないからね」


「宿は、どうする? 王城の客室を使うか?」


「いや、遠慮しておくよ。知り合いの宿があるから、そこに宿泊しようと思ってる。でも、車だけ預かってくれると助かるかな」


 この星で、駐車場があるのは、アネル大聖堂だけだから、毎回止める場所に困るのだ。まあ、道路交通法とか無いし、駐禁の心配はないけれど。


「好きにするがいいさ。こちらでも、大林たちの事は、調べてみる。帰る前に一度、俺のところに寄っていけ」


「じゃあロミオ、私たちは行くよ。この先、何が有るかわからない。警戒は怠らないようにね」


「ああ、お前も気を付けろ、一番狙われる可能性が高いのが、俺とアネルだからな」


 まったく、常に嫌な奴で、いてくれればいいのに、偶に良い奴になるのも気に入らない。


「ういうい。ロミオに心配されるとか、雪でも降りそうだし。んじゃね」


 おっと、いけない。シアルが持っている紙袋を受け取って、ロミオに渡さないと。


 何度も食べようとしたけど、ことごとくシアルに阻止されて、無事に王都まで持ちこまれた、マドレーヌってやつを。


「嗚呼、そういえば、忘れる所だったよ。これ、シアルからのお土産だ。息子さんと奥さんに食べさせてあげて」


「アネル様、それは……」「いいの! じゃ行くよシアル」


 ロミオに押し付けるように、紙袋を渡し、シアルの手を引いて駆け出した。


 後ろから、廊下を走るな、とロミオの声が聞こえたけど、神の行いは天災みたいなものだから、諦めてくれたまえ、ロミオくん。



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