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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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優良誤認と冷凍マグロ

 太陽から戻ってきた、私達は現在、アネル大聖堂の入り口を出た所だ。


「はい! 周りの友達は全員いますかぁ? まだ戻ってきてない人は居ませんかー!」


「ええ、私達二人ですから。そのネタ気に入ったみたいですが、本人が思ってるほど、周りは面白くないので、やめてください」


「はーい! 全員いますね! シアルさんは私語は禁止! ちゃんと先生の話を聞いてください! そんな、こわい顔で、拳を握りしめて威圧しても、屈しませんよ! 先生は、体育教師気質なので、やんなら、やんぞです!」


「………………」「ねえ?」「………………」


「無視は、やめようよ。時に無言は、罵詈雑言よりも鋭い刃を持つんだよ。先生も、先生をやめるから? 自主退職するから。ね?」


 何事も引き際が肝心だ。卒業式までは在籍したかったが、涙を呑んで、一足先に卒業する事にする。卒業式にヒョッコリ現れて再開も、なかなかグッとくるストーリーだ。それも悪くない。卒業式ゴッコに付き合ってくれる相手が居ればだが。


「わかりました。その代わり、もう二度とやらないで下さい。それで、ルモイ王国までは、どうやって向かうつもりですか? まさか、歩くとか言いませんよね?」


 今日のは、遠足ゴッコだったから、卒業式ゴッコは1回目のカウントでよろしいか?


「マドレーヌの賞味期限きれちゃうし、乗り物を使おうか? ――――まあ、賞味期限のシールを偽装して渡すって方法もあるんだけどね。ロミオ以外が食べたら可哀想だし。それは、やめとこう」


 それに、せっかく賞味期限を偽装するなら、生クリームたっぷりのケーキを持って行った方が良いに決まってる。


「どうも昨日の話を聞いた限りでは、アネル様が恨まれる理由はあっても、アネル様が恨む理由は、無いと思うんですが、昨日の話以外にも、何かあるんですか?」


「シアルにしては、詰まらない事を聞くんだね? そんなの、逆ギレに決まってるじゃないか? もっとも、今回の視察で、順ギレに昇格するかもしれないけどね」


「逆ギレって……まあ、自覚があるだけ、マシなのかもしれませんね。――――それで、その順ギレというのに昇格した暁には、細川様には、消えていただく、という理解でよろしいですね?」


 さすが元蛮族の元バンは、一味違うな!!


「いや! よろしくないよ! なんで殺る気満々なの!? それが私の意志で、言われずとも察しました、みたいな言い方しないでよ! 外聞が悪いでしょ!?」


「えっ! 殺らないんですか!?」


「ビックリしないでよっ! 殺らないよっ!?」


 この娘は、どこまで本気で言っているんだろうか? たまに真顔で冗談いうから、全然わからん。


「それに、ロミオは、そう簡単に死なないよ? 本当に死ぬまで殺し続けたら、逆に、こっちの心が死んじゃうよ!」


「何回くらいですか?」「ロミオだったら10回くらいじゃない?」


「見ないで殺ればいいんですよ」「ええええぇぇぇ!!!」


 そっかー。見なければ、心は痛まないのかー。いや、痛むし!


 まあ、真面目な話、普通の人間や亜人と違って、苦しむ姿を延々と見続ける事になるから、避けて通りたい道だ。


「前から思っていましたけど、全然『不死』の秘術じゃないですよね? 名前負けしてませんか?」


 うむ、今まで聞かれなかったのが不思議なくらいの質問だ。


「あれは商品名だからねー。若干、優良誤認の気があるけど。向こうでは周知の事実だよ。説明書にも小さく書いてあるから『連続死亡時の再生可能回数には個人差があります。確実な再生を保証するものではありません』って。当社では一切の責任を負いかねるらしいよ?」


 あれは詰めが甘いよね。パッケージの右下あたりに、極小で、『商品名はイメージです。実際の効果とは、なんら関係ありません』て、書いとけば良いのに。


「そこは大きく書いて欲しいんですが? 見えないようなところに書いたって、意味ないじゃないですか? 訴訟にならないんですか?」


 自分が買ったわけでもないのに、こまけぇな!


 何て言ったら納得するだろう? っていうか、私メーカーの人間じゃないのに、なんで、こんなことで悩まされてるの!?


「いや、それ私に言われてもな……特権階級だけなんだよ。不老不死が許されてるの。そんな人たちが連続で死んだりしないから。実際のところ、気にするような事じゃないんだよね」


「……いまいちスッキリしませんが、そういうものだと思っておきますね」


 いや、スッキリしないのは、こっちなんですが?


 一生懸命考えて、回答したのに淡泊な返答ね。まあ、間違っちゃいないけど。


「それが賢い選択だね。知っておくだけで、いいんだよ。1日と、かからず、辿り着ける国でも、理解し難い文化があるんだから、他の星なら尚更だよ。……おっと、逸れたね。なんだっけ?」


「乗り物ですよ。何に乗っていくかって話です。最近忘れっぽいんじゃないですか? 歳ですか?」


 懲りない娘。また私と勝負したいのかしら? ふふっ、楽しいわね。


 じゃないよ! ちょっと待てよ? 私の一つ前のセリフ、軽口叩いてないんですが!?


「話が逸れるのは、私のせいばっかりじゃ、無い気がしてきたよ。不当な非難を受け続けていた気がするよ。――――あと、一応、1000歳過ぎたら10年や20年の歳の差なんて、誤差だからね? 本当は、わかってて言ってるでしょ? それもう、ブーメランというか、完全に自爆テロだから! 私を巻き込まないで!?」


「アネル様、話を脱線させないでください」


「泣いちゃうよ!? うん、もう、いいや! じゃ、今回は『ユニコーン』に乗っていこう!」




 そんなこんなで、やって来たのは、大聖堂の裏手にある庭に建てられた、木製の小屋だ。


「さ、行こうかシアル、あっ! そっち違うから、そっちは『スレイプニル』だから。――ほら? よく見て? 足回りが全然違うでしょ? ちゃんと名前、覚えてあげてね?」


 心底嫌そうな顔でこっち見てるんですが……名前は大切だよ?


「いや、もうどっちでも良くないですか? これ、色以外なにか違うんですか?私には、同じに感じるんですが」


 これだから素人は嫌だよ! 顔も全然違うじゃん。


 ユニコーンはちょっと、つり目で凛々しい感じだし、スレイプニルは、真ん丸な目で愛嬌がある顔してるじゃん。


 それに、外で話した事を、まるで理解していないじゃないか。うん、教育が必要ね。


「わかってない。全然わかってないよシアル。私なりの文化だよ。こだわりがあるの! 他所の文化に、とやかく言っちゃいけませーん。戦争になっちゃうよ!? 不干渉で、不感症で、マグロのように生きるのが賢い選択なの。覚えといてっ!」


「正しいような、そうでもないような。実に反応に困る言葉ですね。じゃあ、ユニコーンでしたっけ? こっちで行きましょう。マグロを語る人が、ユニコーンに乗るのは、甚だ滑稽では、ありますが」


「私は、穢れなき乙女だから、何言ってるのか全くわかりません」




 微妙に太陽が明るくなってきたし、そろそろ出発しないと。


 二人で、ユニコーンに乗り、小屋をでる。アネル大聖堂を出るまでの道が狭いのだ。ぶつからないように注意しながら正門を目指す。


 そこさえ過ぎれば、道は結構広い、まだまだ住民は夢の中だ。人通りが殆どない道をスンスン進んでいく。そろそろ街の外へ出るぞ、という辺りで、人影が増えてきた。


 この星で、ユニコーンに乗っている人(神)なぞ、私しか居ないのは、住民の誰もが、知り及んでいる事だ。皆が、こちらに向かって手を振ってくる。


 サービス精神旺盛な神として有名な私だ、窓を開けて手を振り返しながら、徐行運転で進んでいく。そのまま5分ほど進むと、前方に住民は居なくなり、開け放たれた門を残すのみである。


 バックミラーを覗き込めば、まだ、こちらへ向かって大きく手を振る、国民たちの姿がみえる。別れの言葉がわりに、クラクションを数回鳴らした後、一気にアクセルを踏み込んだ。


 土煙を引き連れながら、1台のピックアップトラックが東門から外の世界へと飛び出していった。


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