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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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魔法と家電

 わりと歩きやすかった大道から分岐した小径は、木の根が飛び出していたり、足を取られそうな窪みが有ったり、枝が張り出していたりで、歩くだけでガリガリと、体力や精神力を削ってくる。


 キミコは、そんな悪路を物ともせず、障害物を難なく躱しながら、大道と変わらぬ速度で、すいすいと進んでいく。


 こんなところで、置いて行かれるわけにはいかない。僕は必死に後を追いかける。目の前で、楽し気にピョコピョコ跳ねる尻尾を、掴みたい衝動を抑えながら。




 魔法は、どうやって使うのか聞いてみると、「村で練習すると怒られてしまうのでぇ、もう少し行ったところに、少し開けた場所があるのでぇ、そこでやりましょー」との事だった。


 白髪の彼に渡された、便せんに印刷された図柄と、キミコが洞窟内で使って見せた治癒の魔法は、模様は違えど、雰囲気は一致していた。


 白髪の彼も、使えもしない物を渡したりはしないだろうから、きっと僕でも使えるんじゃないかと思っている。




 キミコの言っていた少し開けた場所というのは、木材の伐採場の事だった。残された切り株が、少し邪魔な気はするけれど、走り回るわけでは無いだろうし、問題は無さそうだ。


 小径の先を眺めると、木製の柵が見える。あそこがキミコの村なのだろう。


 先に村へ向かい、一度休むという選択肢もあるのかもしれないけれど、やっぱり好奇心が勝った。


 使えた魔法によっては、地球に帰ったあとマジシャンとしてデビューするのも悪くないかもしれない。攻撃魔法とかは、使い道がないので、やめていただきたい。


 手紙には、今後の生活で役に立つと書いてあったし、日常生活で使えるものメインだとは思うのだけれど。




 最初にキミコが手本を見せてくれることになった。


「えっとぉ、教えるのは、円を描いて、使う魔法でいいんですよねぇ?」


 円って何だ? あの空中に浮かぶ幾何学模様の事か? というか、それ以外にあるのか? さっぱり分からない。


「た、多分、それじゃないかな? じゃあ、そのやり方を教えてくれ」


「はい! わかりましたぁ! まずは、自分の体の周りなら、どこでもいいので、魔法陣を思い浮かべますぅ。最初は少し難しいんですけどぉ、できないときは、頭の中で、そこにある、そこにあるって、言い続けるとぉ、簡単な魔法陣なら、はじめてでも大体は成功するって教えてもらいましたぁ」


 言い続けるっていうのは、自己暗示ってやつだと思う。円は、魔法陣の事だったか、最初からそう言ってくれれば良いのに。


「でも、慣れたら、そんな事しなくても簡単に出せますよぉ」


 キミコの頭上に洞窟で見た物と同じ魔法陣が描かれた


「はい! でましたぁ。次は魔法陣に手をかざすと魔力が充填されますぅ」


 そして、手をかざすと色が月白から青に変わる


「これで完成なんですけどぉ、しばらく放っておくと、消えちゃうので、その前に指で弾きます!」


 キミコが、まるでデコピンでもするように、人差し指で魔法陣を弾くと、あの時見たのと同じ光の粒子が降り注いだ。そして、もう一度、空中に同じ魔法陣を描画する。


「それとぉ、弾く前なら、歩いても着いてきてくれます」


 キミコが歩くのに合わせて、魔法陣も移動している。


「次に、着いてきてほしくない時は、ステイ! っていいますー」


 今度は、歩いても一か所に静止したまま動かない。


「でも、これだと指が届かないじゃないですかぁ? そんな時は、リリース! っていうと、指で弾いた時と同じで、魔法が飛んでいきますぅ。代わりに、魔法の名前を言っても大丈夫ですよぉ」


 リリースの言葉に合わせて粒子が出た、思ったより簡単だ、解りやすくてよい。魔法の名前って言われても分からないしな。リリースで覚えておこう。


「言葉で撃つと、いつ飛んでくるのか、わかっちゃうからぁ、人に撃つ時は、できるだけ指で弾くんだよって、去年亡くなった叔父さんが言ってましたぁ」


 一瞬、ヒロポンが、まともな事を言ってるような錯覚に陥ったけど、よく考えたら『人に撃っちゃダメだよ?』が、正解では、なかろうか? それともカルチャーギャップ? 嫌だなー、そんな世界だったら。


「キミコ、他の人が弾いたらどうなるんだ?」


「出した人しか触れないから、何にも起きないですよぉ。自分でも、指以外では触れないのから、気を付けてくださいねぇ?」


 これにて、キミコ先生の魔法講座は、終了だ。


「しかし、魔法の詠唱とかないんだ。魔法というとなんかこう、唱えるって印象だったから意外だったな。まあ、僕は、魔法を詠唱する自分の姿とかを想像するだけで、見悶えてしまいそうだし。ありがたい限りなんだけど」


 テレビとかで見ると、格好よく見えるけど、あれをいざ自分が実際にやるとなると、かなり抵抗がある。


「そういうのも、あるみたいですよぉ! 実際に使ってる人は、見た事ないですけどぉ」



 この先は、細かく解説するような事もない。語るのも聞くのも詰まらない話だ。


 ただひたすらに反復練習あるのみ。結果だけで充分だ。成功したのは、覚えた5種類のうち4種類だった。


 一つ目は、親指サイズの光弾が、放たれて、光の尾を引きながら飛んで行った。そして直径30センチ程の木の幹を見事に貫通した。小さいけれど、貫通力が高いらしい。どういう生活を想定しているのだろうか?


 二つ目は、発動した瞬間、爆発した。キミコに、知らない魔法を使うときは、何が起こるか分からないから、離れてから起動ワードで発動した方が良いと、言われていなかったら死んでいた。今後の生活が不安になってきた。


 三つめは、魔法陣が青く光ったと思うと、硬質化して物質に干渉できるようになった。叩いてみるとカンカンと音がする。これで、何から身を守れと言うのか?


 四つ目は、魔法陣が鏡のような光沢を放ち、遠くの景色が、大きく映し出された。映せる景色は直線上だけで、障害物を貫通できない事だけが非常に残念だが、これは良いものだ。できれば、全てこういう魔法にしていただきたかった。


 五つ目は、魔法陣が複雑なやつだ。何度やっても、魔法陣が浮かび上がらなかった。


 キミコ先生曰く、描画の段階で、どこか間違っているか、魔法因子という物のレベルが足りないか、相性が悪いか、じゃないですかねぇ? との事だった。とりあえず保留にしておこうと思う。




 思いのほか時間が経過していたようで、気付けば大分、辺りが暗くなっている。


 ふと空を見上げれば、太陽の位置は、相変わらず高い。


 高いのだが、輝度が低い。他に気になるのが、存在する位置だ。


 最初に見たのと同じ位置、いや、気付かないだけで多少動いた可能性もあるかもしれないが。


 沈まない太陽。あれは本当に恒星なのだろうか…。




 太陽も非常に興味を惹かれるが、しかし、世の中には、優先順位という物がある。


 知らなくてはならない事が、幾つあるのか? 数えるのも億劫になるような現状で、近々の生活や安全に、直接影響する可能性が低いと思われる事柄の調査に、割いているリソースはない。


 今、最優先なのは、今日の寝床と食事を確保すること、これに尽きる。




 魔法の練習を始める前に、確認していた木柵の先、予想通り、そこがキミコの村だった。


 外から見た感じで、おそらく数件の民家があるだけの、小規模な村だろうと想像していたが、入ってみると思いのほか広い。


 森を切り開いて、ここまでの土地を確保するのは、どれほどの労力が必要になるだろうか? 恐らく長い年月をかけて少しずつ広げたのだろうと思われる。


 しかし、わざわざ、こんな森の中に住む理由がわからない。もうすこし暮らしやすい土地は、この世界には無いのだろうか?




 村に入ると、まず目に入るのが、畑だ、僕は、農家の息子でもなければ、田舎の育ちでもないので、何の植物かは解らない。解らないのだけれど、見た事は、ある気がする。写真やテレビでだ。


 ここに辿り着くまでもそうだった。


 太陽がいっぱい空に浮かんでいたり、狐耳少女が存在していたり、牛位の大きさの、狼のようなものが、普通に森に生息していたり、自分がいた場所とは違う所へ来たと強く感じさせるものが存在する。


 その一方で、周りに生えている植物、飛んでいる鳥、地を這う虫、時折姿を現す小動物などは、どこかで見た事があるような物ばかりだ。


 地球には絶対に存在しない、幾つかのものを発見していなければ、ここが地球以外の場所だとは、思いもしなかっただろう。


 村に入って、暫くは、人影が無かったが、畑が少なくなり住宅らしき建物が増えてきたところで、初めて住民と遭遇した。


 中年男性コスプレイヤー、もとい、キミコと同じ狐耳、狐尻尾の中年男性だった。


 キミコの知り合いのようだ、キミコに気さくに話けている。


「やあ、キミちゃん、今日は随分と、遅いお帰りじゃないか」


「ただいまですぅ。今日は、召喚場で、はじめて人間さんを見つけて、一緒に遊んでたので、すこし遅くなっちゃいましたぁ!」


 彼女に『コ』の重要性について、問いただしたいという、強い衝動にかられたが、世の中には優先順位という物がある。


 聞いても、疑問が氷解する可能性が、極めて低いと解っていながら、それに時間を割くのは愚かな行為。ここはグッと我慢しよう。


 あと、僕は遊んでいたつもりは、なかったんだけど、キミコ的には、狼に襲われる、その程度の事は遊びの範疇だったみたいだ。


 そんな血生臭い遊びは、遠慮したいところだ。


「そうか、それは良かったじゃないか。そこの彼がそうだね? こんな楽しそうなキミちゃんを見るのは久しぶりだ。ぜひ、これからもキミちゃんと仲良くしてやってくれ」


 それだけ言うと、狐耳の男性が去ろうとする。


 おそらく僕と出会った直後は、キミコも興奮していたのだろう。最初は全く話が通じなかったが、時間とともに落ち着いたのか、最初より意思の疎通は楽になった。それでも、要領を得ない答えが返ってくる事もある。


 この意思の疎通が楽そうな、男性を逃がすわけにはいかない。


「あの、ちょっと待ってください! あのですね? キミコには色々と聞いたんですが、ちょっと、色々とアレで、すこし話を」


「ああ、皆まで言わなくても大丈夫だ、キミちゃんだからね。うん君の言いたいことは、わかるよ。キミちゃんの家に行くと良い。キーちゃんのお父さんは、私なんかよりも、君たちの事に詳しいから、色々と教えてくれるはずだよ」


 キミちゃんだから、うん、キミちゃんなら仕方ないね。どうも共通認識だったみたいだ。


 僕がお礼を言うと、頑張りなさい。と言い残して彼は去っていった。


 その後は、道行く人と軽く挨拶をかわしながら、キミコの家へと向かう。


 目に付く住居は、どれも木造で、道には電柱などは無く、当然電線もない。


 だというのに、家から漏れてくる光は昼光色。ランプを照明に使っているのなら、電球色に近い、暖かな色になる気がする。


 不躾とは思いつつも、通り過ぎざまに、大きく開いていた窓から、室内を注視してみると、蛍光灯のような物が見えた。どうにもこの世界の技術水準がわからない。


 各家の横手に、必ず一つ家庭用ボイラーのような見た目の機械が設置されている。あれで発電でも、しているのだろうか?


 魔法のある世界に金属製の機械は、どうも似つかわしくない気がするが、これは先入観というやつか。


 一人で悩むより聞くのが早い……かもしれない。なに、分からなかったとしても、失う物は何もない、キミコに聞いてみよう。


「あの機械は、上の蓋を開けてぇ、中にある赤い石ころに手をのせるとぉ、魔力を吸い取って、貯めておいてくれるんですよぉー。それを使って、魔法家電を動かしてるんですぅ」


 やっぱり、最初がおかしかっただけか、ちゃんと話が通じている。それは、さておき『魔法家電』て、名前おかしいよな?


 家庭用電気製品を略して家電。家庭用魔力製品を略したら家魔じゃないだろうか? かなり語呂が悪いけど。


 最初は、コスプレイヤーだと思っていたから、疑問にすら感じなかったけど、他の世界なのに、言語は日本語を使っている。


 家電を知っている日本人が『魔法で動く家電のような物』を略したら魔法家電になるのでは、ないだろうか?


 日本と何かしらの繋がりがあるのは間違いなさそうだ、その辺りもキミコの父親と話す事で、判明すると良いんだけど。


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