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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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神歴1200年とマッチ売りの少女

『トンットンットンッ』ノックが静寂を破る。


まったく朝から面倒だ。 午前中くらいゆっくりさせて欲しいな。


 ……立場上、嫌な顔も、だらしない姿も見せられない。入ってくる前に身だしなみチェック、服良し! 髪良し! 姿勢良し!


「おはようございます。アネル様」


 白の祭服に、茶色のミディアムヘア、細めのフレームの銀縁メガネをかけた人狼……。


 深く腰掛けた、お尻を前にスライドして、ブラウスの第一ボタンを外す。


「チッ、シアルか。おはよう、どうしたの?」


「アネル様、おはようござます。今、人の顔を見るなり舌打ちしませんでしたか?」


「よそ行きモードは疲れるし、ノックと同時に名乗ってよ。そしたら、気張らなくてすむし」


「このドア、厚くて外から呼びかけたって聞こえないじゃないですか」


「ああ言えば、こう言う。分かったじゃあ、次からはエイトビートでノックして。ツツチャツ、ツツチャツ、て感じで。4小節くらい。150BPMで、お願いね?」


「そんな、いろんな意味でロックな、ノックあり得ませんから。それに、私は忙しいんです。そんな、のんびりノックなんてしてられません」


「えぇ!? 速い方が良いの? 16ビート? いや、おかしくないそれ? ちょっと正気を疑うんですけど?」


「アネル様の頭で、練習しても良ろしいですか? まあ、断られてもやるんですが」


 グーだね。グーを構えてるよ。顔が怒ってないないのが、なお怖いね。……嗚呼、こ、これは、謝った方がいいやつだ。


「あっ、ごめん、悪ふざけが過ぎた! ちょ、やめて? ね? ね?」


「…………『ゴッ!』」「アウっ!」


 


――――痛む頭を摩りながら苦言を呈する。


「シアルも1200年前は可愛かったのになあ『お姉ちゃん、お姉ちゃん』て、私は1200年経っても全く成長してないのに。やっぱり身体に精神がひっぱられた? あーあ、10歳くらいの時に、成長止めてやればよかった。20歳じゃ遅すぎたか」


「流石に1200年も経ったら成長してくださいよ。そんな誇らしげに言われても困ります。むしろ恥じてください」


「恥ずかしぃー!! ぽっ! で、シアル。ルモイへ出張だって聞いてたけど、随分戻ってくるの早かったね。まだ1週間も経ってなくない?」


 顔を赤くする演技なんて、神の力を持ってしても困難なので、とりあえず擬音で誤魔化しておいた。


「急ぎ、伝えたい用件があったから帰って来たんです」


「嫌だよ、面倒な話とか。もう私も歳だから、無理はできないからね。そうだ、シアルに全権委任するよ。この星の運命は委ねた」


「都合のいい時だけ、年寄りぶらないでください! ……はぁ、もう疲れた。お姉ちゃん、そろそろ真面目な話していい?」


 お姉ちゃんと言われたら、聞かないわけにはいかないね。嗚呼、なんと甘美な響きだ……。


「仕方ないね。でもあれだよ! 『仮妹』のアルバイト募集だけは、何度言われても止めないよ? 今の子、年齢的な問題で、来月には引退しちゃうし」


「百合ロリ神とか、一部で呼ばれてるみたいだし、本当はやめて欲しいんだけど。まあ、血のつながった妹達に会えなくて寂しいんでしょ? それだけは見逃してあげるよ」


「さっ、寂しくなんてないし……」


「こっちに呼んじゃえばいいのに?」


 それは、私も何度も考えた。でもハードルが高すぎる。


 あっちでモニターしてくれる人は絶対必要だし、それ以外に体の問題がある。


「こっちに呼ぶとしたら、不死の秘術なしだと、死んじゃうかもしれないから、使わなきゃいけないじゃん。その前に老化停止を使うのが絶対条件だからね。まだ、6歳と、14歳だよ? やっぱ無理だよ。うん、無理!」


 今のところ、この二つの魔法を掛けた後に解除する手段は、作られていない。


 不可能ではないはずなんだけど、需要が無いからね。そんな、お金にならない開発は、メーカーもしたくないんだろう。


「そういう自分だって、肉体年齢は17歳じゃないの。そんなに違う?」


 やっぱり10歳で止めてやればよかった!


「はー、やっぱり1206歳は言う事が違いますわー。自分は良いですよねー、バインバインで、嗚呼、寒いわー、脂肪が少なくて体が冷えるわー。マッチ―、マッチは要りませんかぁ? マッチを買ってくださーい!」


「やめて、バッドエンドは苦手だから。それにしても、お姉ちゃん、17歳だったらもう、成長止まっ――」


「ごほんッ! シアル司祭、そろそろ話を聞かせてもらえんかのう? この後、神事に参加しなくては、ならんのじゃ。わしも忙しくてのう。祭る神なしでの神事ほど、滑稽なものも無いじゃろ?」


 チッ、痛いところを突かれた、妹達も流れているのは同じ血だ。いっそ成長を止めてやった方が、シュレディンガー的な発想で幸せなのかもしれない。


「もらえんかのう? ってなによ!? 思い付きでキャラ代えると、信者の信仰が揺らぐから止めてよ? 絶対よ?」


 話を逸らす事には成功したけど小言が始まったよ。でも、その件に関しては心配ないのだ。


「大丈夫だって、すでに『神は二つの人格を持っている』って、まことしやかに囁かれているから。一個くらい増えた所で何の問題も無いよ」


「それって、ちょくちょく地が出るから、そんな噂になってるんでしょ? そんな事、偉そうに言わない! 新キャラ禁止!」


 言われてばかりじゃ、姉の矜持にかかわるし。たまには反撃しとこう。


「うん、今回はシアルの言う事聞いておくことにするよ。言う事、聞かないと叩かれそうだし。シアル司祭は、神を平気で殴打するって、まことしやかに囁かれているくらいだからね」


 チラッ、んんん? 表情が変わらない……あれ? 効いてない?


「そんな些細な事、どうでもいいの。それよりも、はい、これ受け取って、これを渡すのが今日ここに来た理由の一つ」


「ええええ! それこそ信仰揺らいじゃうよ!? ペシペシ叩かれながら言う事を聞かされてる神ってどう思う? シアルは、自分に甘すぎない!?」


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