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4-9 下心が隠せない。

後から考えると恥ずかしい事だったりする妄想とかありますよね?

 馬に乗る女性は美しい。

夕日を背に、静かに馬を歩かせる姿は気品がある。

 たとえ手に大振りの剣を持っている姿でも見ほれるだろう。

 不意に馬を走らせ、剣を振り上げ的に叩きつける。

多分、切り裂かれる瞬間まで見惚れたままかもしれない。

 いや、たぶんあの世に行っても満足な気分なんじゃなかろうか?

 いやいや、何勝手な妄想にふけってるんだ。

ベネットの練習が終わるまで待たせてもらってるだけだから、そういう気持ち悪いポエム考えるのはやめよう。

マジで何を考えてんだ。

 騎馬戦闘の練習なんか初めて見たけど、馬もよく怖がらないもんだ。

時折、剣をふるった後に自由になった手で懐を探り何かを取り出すしぐさをしている。

 あれはもしかして……

拳銃を馬上で使う訓練だろうか?

 しかし、よくあんな馬鹿でかい剣を片手で保持できるな。

しかも馬上でだ。

練習だから、何度か剣を取り落したり、おそらく拳銃の模型らしきものを取り落したりしているけど、落馬しそうになる素振りはない。

馬から落ちると最悪、命の危険があるからな。

物を落とした方がましという判断で、落馬には細心の注意をしてるんだと思う。

乗馬の練習をたまにやらせてもらってるが、とてもじゃないがあんなに上手く乗りこなせない。

 一息ついたのか、ふいにベネットが俺の方を見る。

どきっとするほど冷たい視線が俺を突き刺す。

恥ずかしいことを考えてたのがばれたかと思ったが、俺だと気づくとなんとも複雑な表情に変わった。

俺は、彼女の仇に似ていて、なおかつ彼女を守った父親の面影もあるとか。

ただでさえ不細工でハンデキャップがあるのに、状況までが味方してくれないのに諦めきれないってのも難儀だよなぁ。

 俺は、柵に片方の肘をついた姿勢のまま彼女に向かって手を上げる。

 ゆっくりと穏やかに馬がこちらへと向かってくる。

膝だけで操作しているから、まるで馬の意思でこっちにやってくるみたいに見える。

「ヒロシ、最近大活躍みたいね?」

 馬を降りながら、ベネットはそんなことを言う。

 大活躍って言うのはどういうことだろう?

商売は、うまく行ってるけどな。

「ギルドの支部長をとっちめたんですって?」

 どう尾ひれがついたら、とっちめたって話になるんだろう?

まあ、グラスコーあたりが適当な事ほざいて回ってる気もする。

酒は、人の気を大きくするしな。

「誤解です。単に独立のお誘いを断っただけでーす。」

 実際それだけの話だ。

「独立の話を持ち掛けられるだけでも、十分なご活躍だと思いますけど?」

 さっきまでの複雑な表情も取れて朗らかに笑ってくれる。

それだけだけでも十分なご褒美だ。

「ベネットさんもご活躍なようで、何より怪我がないようでうれしいですよ。」

 実際、彼女の活躍を耳にする機会も増えている。

賞金首の巨人やら魔獣やらを狩った話もあれば、集落を襲うオークの一団を壊滅させる作戦を成功させた話も聞いた。

 オークってあたりにちょっとわだかまりがあるが、ハンスと他のオークは別物と考えよう。

ゴブリンだろうと、オークだろうと、人間だって悪いことをする奴らはいる。

 それは置いておいて彼女の最近の活躍は目覚ましく、銀髪の剣姫と一般層でも認知されるようになってきている。

実際この美貌だもの、そりゃ人気も出るでしょうよ。

「ありがとう、ヒロシが売ってくれた防刃服のおかげで何度も命拾いしてるわ。」

 ベネットに売った最初の一枚はすでにボロボロで、追加購入してもらっている。

役に立ってくれているようで何よりだ。

「そうだ。ヒロシ、馬の練習ちゃんとしてる?」

 それは、教えてくれるって事かな?

「何度か、ここで練習させてもらってますよ。 ありがたいことに何とか人様に見せられるレベルにはなりましたかね。」

 実際、全力疾走をしても周りを見渡す余裕も出てきた。あるいは強化されている能力値のおかげかもしれないが、上達したことに変わりはない。

「本当にぃ?」

 おどけた仕草も可愛いな、もう。

「まあ、ベネットさんと比べたら赤子レベルかもしれませんけどね。」

 頬を緩めないように注意しないと。

「いいわ、とりあえずこの子に乗ってみる?」

 ベネットは自分の愛馬をなでながら、俺の方を見て、乗せてもいいというように馬を見る。

馬が俺の方を見ると、仕方ねえなというようにブルブルと鳴いた。

ベネットと違って、俺デブだもんな。ごめんよ。


 全力疾走中でも何とか片手を離せるようになったけど、それでも若干怖い。

ベネットの愛馬は、よくしつけられているのか怯えている様子を感じ取っても安定して走ってくれるが、下手な馬だとその時点で走るのをやめてしまう場合もある。

最悪、降り落そうとしてくる馬だっている。

そういう話を交えながら徐々に練習の難度が上がってくるが、ベネットの指導は的確だから何とか俺もくらいついていける。

 ただ、ロイドと比べると若干スパルタかもな。

基礎ができてない人間だったら、泣いてたかも。

「じゃあヒロシ、槍を手に持ったまま全力疾走してみましょうか?速歩の時と同じように先端はその子の視界に入れないこと、でも石突はお尻にぶつからないように保持してね。」

 大丈夫だろうか?速歩の時点で大分揺れていた。

これは、大分腕に力を籠めないとダメかな?

 いや、逆かもしれない。振動を吸収するように肩から力を抜いて。

 よし、行ってみよう。

手綱を使って合図をすると、勢いよく飛び出すように馬が駆け出す。

俺の意を汲んでくれたように、あっという間にトップスピードに乗せて駆け抜けていく。

コーナーを曲がるときもスムーズに駆け抜けてくれる。

俺は、槍の動きに専念できた。

 と言っても、振るうわけじゃない。単に保持しているだけなんだが。

それでもだいぶ難しい。

これを意識せずにやれないとダメだな。

 馬場を一周し終えると、何とか無事に終わってほっとした。

 ダメダメ、このまま馬から下りないといけないんだから。

「降りますよ?」

 気を抜かず、槍を立て体を持ち上げるようにして馬の背から下りた。

上手くいった。

ぱちぱちと拍手が聞こえる。

 俺は、今度こそ気を抜いて槍を収納する。

「よくできました。これで、ヒロシも騎兵デビューできるわね。」

 振りむいた俺に、ベネットはお褒めの言葉を投げかけてくれる。

「いやいや、騎兵なんかやらないですよ?」

 口車に乗せられてやってたけど、どう考えても死にスキルだな。

「残念。ヒロシが側にいてくれたら安心できるのにな。」

 その言葉に俺は真顔になってしまう。

「冗談よ。冗談。」

 そういうとベネットは、手綱を俺から受け取り、馬を厩舎へと連れて行ってしまう。

呆けてしまいそうだが、俺は彼女を追うように厩舎へ向かった。

 そもそも、練習に付き合ってくれた馬にもお礼を兼ねてお世話してあげないといけない。

当然持ち主のベネットにも礼をするのは当然だろう。

人として当たり前のことだ。


「ありがとうヒロシ。あの子気難しいところがあってね。私以外だと触らせないようなところがあるのよ。

 でも、一人で世話をするのは大変でしょ?気に入ってくれて助かるわ。

 だけど私よりなついてて嫉妬しちゃう。」

 どうやら俺のブラッシングがお気に召したようで、お世話をしている間ずっと鼻をすり寄せられてた。

キャラバンの馬とは違い、変顔はしないし、とても美しい馬だ。

悪い気はしない。

 でも、なんで気に入ってるなら俺の頭をかむのだろう?

うまいのか、俺の頭は?

 その点、ロバたちはなついてても噛んでこないので助かってる。

しかし、動物の世話ってのは大変だ。

水の準備は呪文一つで何とかなるが、寝床の寝藁や飼料の準備、けがや病気がないかのチェック。

口にしたらきりがないくらい細かい作業も多い。

気が付けば、すっかり日が落ちていた。

時間がいくらあっても足らないな。

 ここから、どこか食事にでもって言ったらカールがくいっぱぐれる。

最悪、買い置きのパンがあるとはいえ大家さんに怒られたばっかりでほったらかしにするほど根性はない。

「すいません、本当はベネットさんにもお礼をしなくちゃいけないんですが……」

 俺の気持ちを察してくれてるのか、ベネットは首を横に振る。

「早く帰ってあげて。私は食堂で何とでもなるもの。」

 それにお風呂にも入らなくちゃという言葉に、俺が相当汗臭い状態だと気づいた。

とてもじゃないが、女性をエスコートできる状態じゃないな。

帰ったら、体を洗おう。

「日を改めて、何かお礼をさせてください。あ、それと大したものじゃないですが、これを。」

 疲労回復には甘いものだ。

ベネットとあった時に渡しておこうと思ってたチョコレートセットを取り出す。

割と高めの高級チョコレートだ。

流石にこれをハロルドにお願いするのは躊躇われた。

チョコレートは、それ単体で職人がいるくらい製法が難しい。

安易にお願いできる代物じゃない。

「あ、ありがとう。」

 ほのかに香るので、中身は察してくれてるみたいだけど、餌付けされてるとか思ってたらどうしよう。

他意がないと言ったら嘘になる。好きな子が好きなものを贈るのは下心があるからだ。

そういう下心が見透かされてたら、嫌われるかもしれないけども。

 受け取ってくれてるのなら問題ないよな。ないよな?

本当、こういう経験がないから何が正解なんだかさっぱりわからん。

 習おうにも、慣れてそうなのは手あたり次第って感じのベーゼックくらいしか、知り合いにいないぞ?

あー、ロイドならハーレムの主やってたんだから、うまいやり方知ってたかも。

 でも、今知りたいんだよ。

 ぎこちないまま、見送ってくれるベネットと一緒に居留地の出口までたどり着いてしまった。

「じゃ、じゃあ帰ります。」

 門の横で警備している傭兵たちの冷やかし交じりの視線が痛い。

「うん、気を付けてね。」

 チョコレートセットで口元を隠す仕草が可愛い。

あー、あげてよかったなぁ。

駄目だ、頬が緩む。

もしかしたら、単にチョコの香りを楽しんでるだけかもしれないじゃないか。

変な妄想するな。

 俺は、緩む頬を隠すように、そそくさと居留地を後にした。

ブックマーク、評価、感想お待ちしております。

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