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4-3 根掘り葉掘り聞かれるよな、そりゃ。

 もうすぐ夜が明けるのか空がうっすら明るくなっている。

街道脇の森の中とはいえ、見上げれば空が見えるくらいには開けている。風は穏やかだから雪の中とはいえそこまで、そこまで凍えることもない。

 とはいえ、焚火のぬくもりはありがたい。

火に薪をくべながらもうそろそろ見張りの時間も終わるだろう。

 不意にごそごそとテントからベーゼックが這い出してきた。

そういえば見張りの交代するんだった。

 まあ、でももう明るくなってるし寝るって気分でもないんだけどなぁ。

「ヒロシ、あったかいお茶貰えないかな?」

 寝起きで辛いのか、目をこすりながらこちらにやってきて腰を下ろす。

「はいはい、神父様の仰せの通りに。」

 俺は軽口をたたきながらカップを取り出してお茶を注ぐ。

「しかし、まさか君が来訪者だったとはね。道理で強いわけだ。」

 今まで口に出して来なかった話題を振られてちょっと俺は面を食らった。

てっきり興味がないのかと思ってたけど、聞くのをためらっていたのかな?

一応口止めをしておいた方がいいかもしれないし話しておくべきだな。

「確かにいろいろとおまけを貰えてますからね。ダメな俺でもなんとかやっていけてますよ。」

 そういう俺をベーゼックは不思議そうに眺めてくる。

「ヒロシは、全然そうは見えなかったから驚いてるよ。普通の来訪者は大抵目が血走ってるか、ふんぞり返ってやれやれ俺が何とかしてやるぜみたいな態度だって聞かされてたからね。」

 まあそりゃ大抵の人間は天狗にもなるか。俺にだってそういう面が無いわけじゃない。

「伝説では魔王やら勇者を名乗ったり、賢者を名乗る来訪者は多くいるし、実際に化け物じみた力で国を作った人物もいるんだ。

 それに比べて君はどうだい?たかが行商人の丁稚でしかないわけだ。驚くなという方が無理がないかい?」

 まず最初に魔王が代名詞として来るって言うのはどういうことだろう?

そもそも最初から魔王を名乗るような奴だったのか、それとも色々悪行を重ねた結果なのか。

あるいは、本当に魔族に担がれたとか?

 興味はつきないが、意外に思ったのはベーゼックの話しぶりだ。

伝説についての補足が俺が口をつぐんでる間にポンポン語られる。

話半分で聞いているから、ほとんど頭の中に入ってこないが、やたらと具体的で暦についてもなんとか王の治世何年目とかって話まで出てくる。

「つまり、その中の魔王を名乗る一人が大陸のど真ん中に国を建てたと?」

「そうなんだ。その魔王アムゼルは軍を焼き払う大魔術や当時随一の騎士セーシェルを一瞬で屠るほどの剣術を身に着けていてね。」

 まるで漫画の話をされてるみたいだ。

ある意味憧れみたいなものでもあるのかね。

「で、その国はどうなったんです?」

 そう聞くとベーゼックは固まる。

そして、ため息をついて残念そうにつぶやいた。

「滅んだよ。」

 まあ、そりゃ200年も昔の話だし、滅んでいてもおかしくはないよな。

「しかもアムゼルは毒で暗殺されて、嫁同士の権力争いで築き上げられた都は見るも無残に荒れて10年も持たなかったなんて顛末さ。」

 そりゃまたなんとも。

ハーレムの恐ろしいところはそこだよなぁ。

本人が生きているなら何とかなるかもしれないけど、後継者やら序列やら考えて実行させる仕組みを作っておかないと碌なことにならないよな。

 ハーレム作る人間がそこまで考えますかって聞かれると、正直考えないと思うけども。

話を聞きうる限りのハチャメチャさ具合から言って、絶対その場のノリでハーレム作るよな。

「あり得るかい?建国からたった3年でうかつにも毒殺されて滅びました。そんな残念な魔王っていったいなんなんだって思うよ。」

 憤懣やるかたない様子だけど、予想の範疇です。

「まあ、調子に乗ってたんじゃないですかね。もしくは、他国の謀略にやられてたか。」

 間近で見守っていたわけでもないから、伝聞からわかることには限界がある。

思いもよらない奇策で潰された可能性だってなくはない。

 少なくとも魔王様本人は無敵だったかもしれないけれど、無敵なら無敵で対処する方法はいろいろと練られるだろう。

死亡後の顛末からするとすでに切り崩しの工作は目立ち始めた時点から行われてたんじゃないかね。

 ただ、ベーゼックには不満だったらしく、恨みがましい目で見られてしまった。

「しかし、ずいぶんと伝説にお詳しいようで、驚きですよ宣教師様。」

 正直俺はどっちかというとベーゼックの歴史に対する真摯さに驚いている。

歴史的資料の解釈や伝承の信憑性、実際の史跡への調査報告の話も交えられていて、到底女の尻を追っかけている不真面目な生臭坊主とは思えないくらいだ。

「夢物語に憧れただけだよ。爺やが話してくれた昔ばなしが面白くてね。」

 ベーゼックは何かを懐かしむように焚火を見つめる。

「幸い、教会じゃ古い書物が腐るほどあるからね。暇があれば、あーあの話は本当なのか、それとも嘘なのか確かめてみるかと書庫に入り浸ってたらいつの間にか。」

 おかげで逃げ場ができたとベーゼックは自嘲気味に笑った。

確かに、書庫に入って歴史資料をまとめるっていうのは修道士としては真面目に見える。

将来が閉ざされた貴族の子弟としては、自分の好きな話を深堀するという趣味は慰めになったんだろうな。

 しかし、人は見た目によらないものだな。

英雄譚だけにとどまらず、歴史関係についての造詣も深い。

何でもかんでも自分に有用かどうかで人を見てしまうのは人としてどうかとも思うが、場合によればベーゼックに教えを乞う機会があるかもしれない。

 しかし、魔王アムゼルねぇ。

どういう気持ちで名乗ったんだろう?

 いや、日本人とも俺の世界の人間とも限らないから本名の可能性もあるけども……

もし自分で思いついて名乗ってたとしたら恥ずかしすぎないか?

魔王を名乗って調子に乗ってたら自分の死後に嫁さん同士の喧嘩で全部失ったうえに、歴史に名を残す。

しかも決して褒められたような扱いじゃないってある意味罰ゲームじゃねえか。

下半身でしかものを考えてない魔王とか言われてたし。

 まあ、死んでしまえば後のことなんてどうでもいいのかもしれないし、俺も思いっきりはじけたほうがいいのかなぁ。

「そんなことよりヒロシの話をしてくれないか?」

 何処か少年のようなキラキラした目でベーゼックは俺に詰め寄ってきた。

「は?いやいやいや、俺は大したものじゃないって言わなかった?」

「嘘をつくな。あれだけマジックアイテムを使ってたんだ。相当な魔術師なんじゃないの?」

 うわめんどくせえ。

そりゃ、来訪者だってわかれば俺の持ち出してきた道具の正体は気になるのも当たり前だ。

かといって詮索されてうれしいわけでもないんだよなぁ。

「あんまり感心しないけどなぁ。秘密を知られた来訪者は秘密を知った奴をどうしてたんだっけ?」

 ちょっと脅し気味に言ってみる。

「まあ、秘められた知識に触れたものはたいてい殺されるものさ。だけど、ヒロシ、君はそんなことできないだろう?」

 なんで断定されるんだろう。

 癪に障るが、確かにベーゼックを消すとかそういうつもりはない。

 徹底的に情報隠蔽するべきだって言う考え方もある。

だけどそれはすでに手遅れだ。

最初の状況でハンスたちには来訪者であることは伝わってるし、能力についてもある程度ぼかしているとはいえ分かってるだろう。

みんなそんなに鈍感じゃない。

 その上で、グラスコーの他にもベネットとトーラスも知っている。

そして先生とアレストラばあさんに至っては、話してもいないのに正体がばれてる。

今更隠し立てしても消さなくちゃいけない人間が多すぎるし、ばれることを防ぐためなんて些細な理由で害していいなんて思う人間は一人もいない。

ばれたら仕方がないので、それに見合った行動をするだけだ。

 とはいえ、ベーゼックに平然と、お前にはできないだろうと言われると本当に癪だ。

「いいじゃないか、別に減るもんじゃないだろう?」

 釈然としないが、別に悪意は感じない。

「本当に大したことないよ。単に元居た世界のものを買うことができるってだけで……」

 言葉を濁しながら俺は仕方ないといった感じで話し始める。

「へぇ、あんなものが君の世界には普通にあるんだね。」

 そりゃ、それなりに選んで買ってるから、大したことないと言われたら困る。

「まあ、でも手元に届くのは遅いし、それなりに元手も必要だから何でもかんでも買えるってわけじゃないよ?」

 好き勝手に無茶苦茶なことができると思われないように釘をさしておく。

それでもベーゼックの興味は尽きないのか、俺の能力について根掘り葉掘り聞かれた。

ついでに俺が元居た世界についてもかなり深いところまで突っ込まれる。

どこまで話してよかったのか。これで教会が俺を捕まえにやってくるんじゃないかとちょっと不安だ。

一応口止めしておいたが、口が軽そうだからなぁ。

ちょっと対策を考えておかないといけないかもしれない。

 まあ、ギルドの時と同じように案外気にも留められない可能性も無きにしも非ずだ。

ベーゼックの語る来訪者の伝説を聞くに、俺よりよっぽど優遇されている人間はいる見たいだし。

そういうめちゃくちゃ目立つ来訪者以外も、結構多いんじゃないかな。

それにいちいち気を配ったりしないはずだ。

 多分、きっと……だといいなぁ……

 でもそれはそれで、ちょっと悲しいかな。

わがままなのは分かってるんだけど、目立ちたいのか目立ちたくないのか自分でもわからん。

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