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4-2 いろいろ宿題を出された。

 いくつかアレストラばあさんには発注を掛けたわけだが分かったことがいくつかある。

 まず金属加工技術については工作機械というものが大切であるという話だ。

銃剣のように割とシンプルな構造のものであっても職人がこだわって仕上げるならともかく大量に均一の製品を作るというのは手作業では不可能に近い。

一品物でよければそれは職人の腕に任せて時間を掛ければいいけれど、それだとどうしたって価格は高騰してしまう。

 かといって、数を打てばいいから様々な職人に発注をかけてそこそこの製品を仕上げてくれという形になると品質にばらつきが大きくなりすぎる。

 もちろんそれで構わないという商品だってある。

 だけど、そうなるとどんどんと品質は低い方へと引っ張られていく。

数を作った方が職人の手取りは増えるからだ。

それじゃあ、商品価値はどんどん下がっていってしまうだろう。

 そこで数をこなせつつも一定水準を保てる加工機械というのはとても大切だということだ。

 ただ今回揃えなければいけないものに工作機械は含まれていない。

 いやむしろそれをそろえる方が自分としては楽だったかもしれない。

もちろん用意しないといけない金額は高いかもしれないけれど買えば済む話だ。

言ってしまえば俺のチートの範疇だろう。

 でもそういうことじゃなかった。

 そこでもう一つ重要だと思ったことだけど、技術って言うものには系譜があるってことだ。

 アレストラばあさんの機嫌がよくなったのは俺の考えがアレストラばあさんの考えに合致したからだ。

彼女の考え方からすれば突然湧いて振ったアイディアでそれまでの考え方ではできなかったものが出来上がったとしても意味はない。

それは一代でついえてしまい、結局新たな発展には寄与しないという考えだった。

 だから俺が仮にタオルを売りたいからタオルを作ってくれという依頼をしていたなら断っていただろうということだ。

 もちろん、鍛冶屋のばあさんにタオルの製造を頼むわけがないので、あくまでも例え話なんだが、完成品をいきなり作ってくれって言うのは気にくわないということらしい。

 俺以外の来訪者が依頼してきたものも大半が一品物で、しかも製造方法について考えたわけでもないものばかりだったらしく、俺も似たような感じだろうと思ってたとのことだ。

 しかも落書きみたいな図面をもって来るならまだましな方で、大半が口頭で何を作って欲しいのかすらあやふやだったとか。

一応、見せてもらったほかの来訪者の図面というかイラストを見せてもらったけど、絵心はある感じのイラストだった。

 うん、イラストだった。

せめてサイズくらいは記入すべきだったと思うし、構図を気にして斜め上からの視点のイラストって作り手からしたらイラストの嘘以前に見えない部分はどうするんだって突っ込みたくなるよな。

 そこから想像で補って作り上げちゃう人もいるから一概に駄目だとは言わないけど……

そういう意味で俺が依頼した織機を作って欲しいというのは気に入った依頼だということだ。

三面図を用意しておおよそのサイズについても言及していたのも好印象だったらしい。

 言っても素人の作ったいろいろと無茶のある図面だったから事細かに駄目出しされたわけだけど。

ネットで調べて簡略化できるところを簡略化して結構いい感じの図面に仕上がったと思ってたんだけどなぁ。

 やっぱり俺には才能ないな。

 そしてもう一つ分かったことは、人に頼む時の下調べは大切だってことだ。

「で?何とかなりそうなのか?」

 グラスコーが悩みこんでる俺に話しかけてくる。

「いや、何とかなりそうは何とかなるだろうけれど、時間はかかるかな。やってみますけど……」

 帰路に就く最後の野営中でモーダルまであと少しだとは言え気を抜いていい状況じゃない。

上の空だとグラスコーも心配するか。

 とはいえ調べておかないといけないことが増えた。

ばあさんに頼まれた揃えるべきものが物品だけじゃなかったからだ。

 どうやらばあさんもいろいろと試行錯誤をしていたらしく旋盤やフライス盤なんかの改良をしている最中だったらしい。

織機にそこまで本格的な機械が必要だとは俺も全く想定してなかった。

なので、それらの工作機械に必要とされる金属や素材の類ももちろん要求されたんだが、それ以上に強く求められたのがいろいろな知識だった。

 要はちゃんとした図面を渡せばいいという話なのかもしれないが、そこは違うらしくあくまでどういう思想で工作機械を作り上げていったのかというのを知りたいらしい。

書籍を漁ればあるいは、そのものずばりの書籍もあるかもしれない。

 だけど、俺にはどんな知識が要求されているのかの概要すらつかめていなかった。

 もちろん、完璧な知識をよこせという話ではなく、手掛かりとなる情報でいいということだから専門知識を一から完璧に把握しないといけないわけじゃない。

少なくとも依頼先が何を欲しているか、把握できるくらいにはなっておかないとまずかった。

「中途半端に資料を作ったものだから勉強不足だなって痛感しましたよ。」

 グラスコーのにやにや笑いにはむかつくが、俺は素直に反省の弁を述べた。

「商人って言うのも面倒なものだね。神に仕えられて俺は本当に幸せだよ。」

 ベーゼックは心底安堵したような口調で言ってるが、まああれだけ質問攻めにあってるのを見てればそういう感想にもなるか。

一応、メモを取ってあるから内容はあとから見直せると思うけど、本当に数が多くて気が滅入る。

むしろポンと現物を渡して自分で調べてって言った方が楽なんじゃないかとも思うんだが、それはそれでなんだか違う気もする。

ばあさんの要求でも現物を渡せって事じゃないとは釘を刺されたからなぁ。

 依頼をするにしても人となりを把握するって言うのは大切だし、事前準備、下調べっていうのは本当に大切だ。

分かる人に話をつなぐって言うのも大切だから人脈って言うのも大切だなと感じた。

 突発的な旅だから大したことのないお使い程度に考えていたけど俺にとってはとても収穫の多い旅だったな。

せっかくネットに繋がってるって言うのにそれを生かせてないのも痛感する。

ちょっと落ち着いたら本格的に検索を掛けよう。

 というか今は野営中だってのを忘れがちだ。検索は後回しにして警戒に徹するべきだな。

「ばあさんの熱気にあてられてるみたいだから言っとくが、人はできないことはできないぞ?

 いろいろ注文されてたが半分もできりゃ上出来だ。ほどほどにしとけよ?」

 グラスコーに苦笑いを浮かべられて、ちょっと気負いすぎていた自分に気づく。

そうだよな。

そもそも俺はそんなエリートサラリーマンみたいな人間じゃない。

ちょっと冷静になろう。

「まあ、ボチボチやりますよ。」

 期限が定められているわけでもないし、駄目なら頭を下げればいいさと気持ちを切り替える。

そうじゃなきゃ潰れるか、大きなへまをするかどっちかだろう。

 まずは、ギルドの要求にこたえること。

これは最初からクリアしてるわけだし、焦る必要なんかない。

後のやり取りの方が重要だろう。それについてはグラスコーが手筈をつけているらしく黙ってみとけとは言われているけど、何をしているのか把握できるくらいはしておかないとな。

ただぼんやりと眺めて終わりにしてしまいそうだ。割と難しいことって言うのははたから眺めているだけだと大したことがない、何気ないやり取りだったりもするしな。

後で解説してもらってそんなことやってたんだって気付かされることは結構多かった記憶がある。

 とはいえ解説を聞いても実践できるとは到底思えないことばっかりだったけども。

 つくづく俺は無能だなぁ。

上手くやっていけるか不安だわ。

 ともかく後は、無事モーダルまでたどり着けることを祈ろう。

ブックマーク、評価、感想お待ちしております。

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