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1-7 早くも逃げ出したくなった。

オオカミの肉ってどんな味なんでしょうね?

基本聞きかじりの情報で書いてるので、実際は違うという方は是非ご一報下さい。

 日が暮れて、ようやく小さい水場が見えてきた。

 その頃になると狩りに出ていたテリーが戻ってくる。

ミリーの双子の弟なのだから年齢はさほど変わらないだろう。

詳しくは聞いていないけれど、10代前半と言ったところかもしれない。

 それでも、彼はキャラバンの中で一番の弓使いだ。

遊牧民のやっかいな敵は、肉食獣の類で、狼や野犬がここら辺では徘徊しているらしい。

それらの厄介者を追い払うのがテリーの仕事だ。

 基本は群れなので、矢を射かけるにしても狩り尽くすのは難しいそうだ。

 それでも1匹、2匹は必ず狩ってくるのだから凄い。

 当然それが食卓に並ぶわけだが、俺はこれが苦手だ。

 よく言われるように肉食獣の肉は酸っぱい。

体内でタンパク質を分解する際、どうしてもアンモニアが出るのだそうだ。

聞きかじりだから正確な情報かは分からないが、とにかく酸っぱい気がするし、臭い気がする。

美味しくいただけないので、遠慮させて貰うのが申し訳ない。

 ミリーなんかは、自分の取り分が増えると喜んでいるが、テリーも実は狼や犬の肉は苦手みたいだ。

慣れてはいるので食えないと言うことではないらしいのだが、俺が遠慮して割り当てが増えると恨みがましい視線が飛んでくる。

 無言でお前も食えよと言っているような気がする。

気のせいじゃないだろうな。

 水が生み出せたり、それを温められたりという便利な呪文使いじゃなければ、テリーに追い出されてたかもしれん。

 誰がくれた能力だか知らないが本当にありがとう。

 できれば悪魔じゃないといいなぁ。

 しかし……

俺もよくこんな生活に耐えられるものだ。

正直朝は早いし、夜だって交替で見張り番をしている。

歩く距離も半端じゃない。

馬の練習だって毎日している。

 もし、これが元の世界ならとっくに逃げ出している。

 他に選択肢がないのが一番の理由だろうな。

 おかげで大分体重が落ちている。

 といっても、デブが多少やせてもデブなわけだが。

そこは都合よくやせて超かっこよくなりましたとかのご都合展開はない。

相変わらずデブだし、ぬぼーっとした顔は変わらなかった。

 と言うか、ひげがウザイ。

お風呂に入って、ひげが剃りたい。

せめて風呂だけでも……

 ちゃんとした水場についたら風呂を湧かそう。

確か、前に見た水場には大昔に滅んだって言う帝国が作った浴槽らしき物が据え置かれてたはずだ。

洗濯場だったりするかもしれんが、そんなこと知ったことか!

 俺は、風呂を立てる。そう固く心に誓った。

 しかしそういう水場に着けるのはどのくらいだろうか?

 ハンスがキャラバンの移動先を決め、ロイドが馬で偵察、それを元にハンスとテリーが危険を排除。

ヨハンナと俺、ミリーが家畜たちの世話をしながら動いているわけだが、時には伝令として3人のうち誰かが馬に乗ったりもする。

こういう役割分担なんだから水場にいつ着くかを聞くならやっぱりハンスだよな。

「ハンス、ちょっといい?」

 2週間も経てばさすがに敬語は出てこない。

結局俺の敬語は恐怖から来る物だから、慣れればため口になってしまう。

「おう、ヒロシどうした?」

 ハンスは山羊の皮をなめしながら、顔を上げてくれた。

器用だよなぁ。

「えっと、ちゃんとした水場っていつくらいに立ち寄るのか聞きたかったんだ。」

 よく考えてみれば目標物もろくに無い荒野でよく間違えずに歩き回れるものだ。

もしかしたら、間違っていたりもするのかもしれないが俺には分からない。

 ただ、少なくとも水場や草が生えている場所にハンスが行くと言ったときは間違いなくたどり着けている。

何らかの方法で方角を把握してるんだろうな。

「そうだな。お前のおかげで水場にさほど立ち寄らなくて済んでたんだが、そろそろ立ち寄るか。」

 ハンスが空を見上げた。

 なるほど、星の位置かと納得する。

元の世界でも星の位置、星座で方角を割り出していたという話を聞いたことがある。

 じゃあ、俺ができるかと言われると疑問だが……

そもそも俺が見上げても星が散らばってるなぁくらいしかわからない。

「そうだな。明日の夜には設備の整った水場に着くんじゃ無かろうか?」

 そう答えながら、ハンスは少し眉をひそめた。

「まあ、そのことはいいんだが……ヒロシ……」

 ハンスはいったん言葉を切り俺を見てきた。

「お前は、俺たちと一緒にいていいのか?」

 真剣な言葉に俺はたじろぐ。

何か不味いことでもしたんだろうか?

「何か不味かった?」

 おどおどする俺を見てため息をつきながらハンスは首を横に振る。

「いや、俺たちに不都合はないさ。むしろ頼ってばかりでな……」

 あぁ……

ハンスの言いたいことは分かった。

俺が隠し事をしていることに対する不安もあるだろうし、借り物とはいえ、彼らにとって俺は都合の良い存在だ。

 そう、よすぎるんだ。

あくまでも俺が一時的に彼らを利用しているとすれば……

俺はいずれ彼らの元から離れていく。

そのときに、俺を失ったキャラバンはどうなるだろう?

 きっと不和が起こる。

馴染めば馴染むほど、その痛手は大きくなるだろう。

今までたった5人で、やってこれたのだ。

なのに、俺という贅沢があればそれに慣れてしまう。

その贅沢がずっと享受できるなら、それはありがたいことだろうが、その贅沢の元が何を考えているのか分からないのだ。

なら、むしろ傷が浅い今のうちに排除したいと思うかもしれない。

 そこまで考えてみて、俺は嫌な気持ちになった。

ハンスに対してじゃない。

勝手にそこまで考えている俺が嫌だ。

そもそもの原因は隠し事をしている俺が悪い。

いつまでも彼らと一緒にいると決断できていない自分が悪い。

 なのに、ハンスの気持ちを勝手に心の中で代弁し、おそらく彼の考えてはいないかもしれないことまで想定している。

 このキャラバンは、みんないい奴だ。

 単に俺がクズだから馴染めてない。

 それだけの話だ。

「いや、頼ってばかりって大したことはしてないさ。俺がいなくてもみんな上手くやるだろ?」

「ヒロシ……」

「それに、頃合いが来たら俺は街に行こうと思うんだ。それまで世話になっててもいいだろ?」

 俺は一方的にまくし立てた。

ずっとこの生活をしていたいとは思わない。

金を手に入れ、俺は自分の幸せを手に入れたい。

 いい奴ばっかりの、このキャラバンに俺みたいなクズは似合わない。

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