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3-21 アルバイト応募じゃなくて募集してみるかってお話。

 しかし、まさか客寄せ目的で作ったクラムチャウダーが1つめの村で看板とは……

寒い時期だからそれなりに売れるだろうと思ったが人口以上の数がさばけるとは予測してなかった。

 もっとも、ああいう露店を開くのは固定の商店や競合する商人が居ないところに限る。

だから、客寄せをやる必要性はそんなに高くはない。

商店や競合相手がいる場合は、それらを相手に商材の交換をすればいいのであって小売りには乗り出さない。

そういうグラスコーの方針は、従業員を雇う余裕のない行商人にとっては常識的な判断なのだそうだ。

 実際、今回の露店での会計は滅茶苦茶だ。

手元にある商品と現金と出納を記している帳簿の間に差異がある。

マイナスでもプラスでも、こう言うのは問題だ。

今回のマイナス分は特別損失として記しておくことで勘弁して貰っているが、こういう事が続くと帳簿の意味が無くなる。

 しかし、それならいっそ会計係と接客要員をアルバイトで雇ったらどうだろうか?

馬車に揺られながら、その思いつきをグラスコーに話してみたくなる。

 お隣のベーゼックが気になるが、トランシーバー使うかな。

「ベーゼックさん、ちょっとグラスコーさんとこいつを使って話しますんで、すいませんが周りの警戒よろしくお願いします。」

「なんだいそりゃ? 君たちはよく魔法の道具を持っているね。」

 若干呆れ気味に見られたが、同意はしてもらえたらしい。

俺は、曖昧に笑ってベーゼックの疑問をうやむやにする。

「グラスコーさん、ちょっと良いですか?」

『おう。何だ?』

 デジタル式だからか、グラスコーの声は鮮明に聞こえてくる。

 しかし、アルバイトって通じるだろうか?

 まあ、翻訳能力を信用しよう。

「今回みたいに露店を開くときは、アルバイトを雇いませんか?」

『あー、そうだなぁ。さすがに今回みたいな忙しさは勘弁して欲しいが……』

 少し悩んだ様子でグラスコーは言葉を濁す。

「何か問題でもありますか?」

『そりゃ、お前、アルバイトとはいえ人を連れ歩くのはな。』

 どうやら、グラスコーと俺とでアルバイトに対する認識が違ったようだ。

「いや、露店を開く場所で日当を払う形式で良いんじゃないですか?」

『お前、そりゃ無茶だ。そこらの農民に計算や接客を任せるのか?』

 まあ金勘定を任せるのは怖いか。

とはいえ真面目な話、人を連れ歩くのは現実的じゃない。

「そこら辺は、もう人を信じるしかないですよね。」

 今回のように飽和状態になるのが良いか、人を雇ってくすねられるリスクを取るか。

『それが出来れば苦労はしねえよ。つっても、まあ小売りだしな。』

 どうやら、今回みたいな飽和状態は勘弁して欲しいらしい。

だったら、アルバイトを雇うのが一番だよな。

 ただ、そういう臨時雇いに関するノウハウは俺にはない。

「じゃあ、アルバイトは雇うという方向で行くとして、募集の方法とか、雇用に関する法律とかってどうなってます?」

『まあ、大抵は領主や村長に話を通しておけば問題ないと思うがな。』

 どうやら統一された明文法は存在しないらしい。

あくまでも、通例で最低賃金や暴力の禁止なんて言う当たり前のことは守ることにはなっているが……

長時間労働に関する規制やら、残業代の規定なんかがまとめられている労働基準法のような法規は存在しない。

 と言うか労働者の権利という概念が、そもそも薄い。

奴隷がいる世界だもんな。賃金の支払いすらも曖昧なのがちょっと気にはなるが……

そこは個々の契約に委ねられているって事になるのか。

 なんか世知辛い。

言っても、おかしな契約を結ばなきゃ良いだけの話なんだから気にしても仕方ない。

「大体分かりました。とりあえず、買取と販売は分けましょう。煩雑になって仕方ないですし。

 で、買取に関しては引換券発行というのはどうです?」

『引換券?』

 その場限りの紙幣という発想なんだが、上手く伝えられるだろうか?

要は買取の際にすぐに現金化するのではなく、それぞれの貨幣に応じた引換券と交換する。

で、販売の方では、その引換券を現金と同じように扱い、おつりなんかも引換券を渡す。

最終的に、手元に残った引換券は俺、もしくはグラスコーが責任を持って換金するという方法だ。

利点としては、現金じゃないのでアルバイトがくすねても現金化するのが難しい。

余計な硬貨を用意する手間が減る。

 ただし、デメリットとして偽造される可能性があるし、ちゃんと換金すると信用してもらえるかって事も考えないといけない。

当然その日限りにしないと、後日偽造された引換券を持ち込まれる可能性もある。

『うーん、ちょっと難しくないか? そもそも、引換券は何で作るよ?』

「ちょっとしたアイディアはあります。」

 腹案としては紙に金額と日付を入れて印刷し、ラミネートした物を考えている。

なので、やるとしたらラミネーターが必要だ。

使い回しを考えると日付部分は書き換え可能にした方が良いだろうか?

 そう考えるといささか計画がずさんかもしれない。

『まあ、割り符を使うとか色々あるだろうけどな。』

 なるほど、それも一つの手だな。

「とりあえず、次に露店を開くまでにはまとめておきます。」

 了解の応答を受けて俺は通信を終えた。

ふと横を見やるとベーゼックが森の奥を見つめている。

「なにかいましたか?」

 確認をしながら、俺もベーゼックが視線を向けていた方向を見る。

「狼だね。小さい群れみたいだけど……」

 確かに視線の先には黒い影がいくつか付いてきているのが見えた。

「どうしようか?蹴散らすなら早いほうが良いよ?」

 神父の癖に好戦的だな。

確かに、”鑑定”で見たときのステータスからすれば、それなりに鍛えているようにも見える。

レベルは低いが俺のやってたゲームでのクレリックは白兵戦もこなせる職業だ。

おそらくは、こっちの世界でも同様なんじゃないかとも思う。

 んー……

でも、今は足を止めるより走らせる方が良いだろう。

「とりあえず、牽制だけで充分でしょう。」

 俺は、”鑑定”で目星を付けた群れのリーダーに向けて《魔弾》を放つ。

レベルが低いので、魔力を凝縮した矢は2本しか出てないし、1つ1つはバットで殴られる程度の威力しかない。

だが、完全に壁にでも隠れない限り体のどこかには命中するほど誘導性が高い《魔弾》は駆け出しの術者にとっては間違いなく心強い味方であり、ベテランにとっても基本中の基本といえる呪文だ。

弾速は遅いものの、魔力の塊であるが故に物理的な方法で妨げることが出来ない。

誘導性もかなりしつこく、身のこなしだけでやり過ごすことも難しい。

故に、相手の魔術に対する備えを推し量る事の出来る手段でもあったりする。

 当然、普通の狼に防ぐ手段などは有りはしない。

身を翻し、まばゆく輝く魔力の矢を避けようとするが当然避けることは叶わない。

 ばしんっと結構大きな音を立てて、狼の体は大きくはじかれた。

 でも、当然致命傷に至るほどの威力ではない。

当たり所が悪ければ死んでしまう可能性もなくはないが、五体満足でぴんぴんしている相手にはさすがに無理がある。

だが、痛いものは痛い。

 これで戦意をそがれてくれればありがたいんだけどね。

しばらく、狼の群れの動向に目を向けていたが、リーダーは早々に追跡を断念してくれた。

未練がましく追ってきた狼もいたが群れの動きは徐々に鈍り、馬車と大分離れると最後の狼もきびすを返す。

 何とかなったみたいだな。

ほっと胸をなで下ろすと、ベーゼックがこっちを不思議そうに見ていることに気付く。

「何ですか?」

「いや、ヒロシ君は魔術師だったんだねぇ。」

 なんか薄笑いを浮かべられると、悪意をもたれてるような気がするのは被害妄想なんだろうか?

「槍も。それなりには使いますよ?」

 どこにもないじゃないかという表情をされたので、インベントリから槍を取り出す。

カーボンナノチューブの柄に無理矢理穂先をかぶせた作りだから不格好なのがちょっと恥ずかしい。

「へぇ、魔法でしまっておいてるのか。しかし、魔術に槍とかって、結構ヒロシ君って強い?」

「強くはないですけど、はったりは効くでしょう?」

 そういいながら、槍をインベントリにもどす。

「確かにね。でも、強くないか……試しに手合わせ願いたいかなぁ……」

 そんなに戦闘に自信があるんだろうか?

練習相手になってもらえるなら、こっちとしてはありがたいけれど。

「お手柔らかに。まあ、失望させないように頑張りますよ。」

 ステータスだけなら負ける要素はないはずなんだけどな。

 だけど、正直言えば人と闘って勝てる気がしない。俺が単にヘタレなだけかも知れないが……

そういうことを言い出すとキリがない。

「でも、どうして狼にとどめを刺さなかったんだい?」

 どうしてと聞かれると困るな。

「可哀想だからですよ。」

 不思議そうな顔をされても、それが答えだ。

それ以上でも、それ以下でもない。

可哀想だって感じたから、追撃しなかった。

 もし、それでも追跡をやめられなかったら、狼と馬車の速度差や体力差から殺さなくちゃいけなかっただろうけど。

追い払うだけですむなら、それに越したことはない。

相手が、言って分かる相手だったら攻撃だってしたくはない。

 もちろん、時と場合だってある。

明らかにこっちが攻撃されている緊迫状態や戦闘する気満々ならそんな悠長なことを言ってられるほど肝が据わってるわけがない。

心の余裕があるから可哀想とか言えるわけだ。

 なので、問い詰められてもそれ以上の言葉はないと思うんだよな。

「なるほどねぇ。狼が可哀想って言うのは、よく分からない感覚だ。」

「まあ、普通の感覚と外れているとは理解しましたよ。」

 それ以上、何も言えん。

「あぁ、ごめんごめん。それが悪いって言う話じゃないんだよ。だけど、私が狼を無慈悲に殺しても怒らないでくれよ?」

 言いたいことは分かるけどどう答えたもんか。

「内心の自由はあると思うので、怒らないと約束は出来ませんよ。」

 実際、感情なんて急に降って湧いてくるものだ。制御できるとしても、その感情から来る行動だけだろう。

「おや、難しいことを言うね。」

 何だろう、からかわれてるんだろうか?

「まあ、怒るとも限りませんけどね。」

 なんかイライラしていたので、付け加えてしまった。

余計な一言だったよな。

「君は複雑な人間だな。実に興味深いよ。」

 俺は思わず顔をしかめてしまう。

実際、自分自身は凄い単純な人間だと思うしな。

「まあ、とりあえず怒ったからっていきなり危害を加えようとしたりはしませんよ。」

 さすがに怒ったからってすぐに手を出すのは心の病を心配するべきだ。

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