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3-19 お呼ばれされたけど断った。

 連れて行かれた子供部屋は男の子の部屋らしく、乱雑に者が散らかっていた。

 うん、まあそうだよな。

 兄弟で一つの部屋を共有しているらしく、それぞれの持ち物がごっちゃになっている。

それでも、ジョシュの方がお兄ちゃんなだけに整理は付いている方かな。

「ヒロシさん。実はお師匠様に、ヒロシさんのことを話したんです。」

 ほう。

いや別に構わないけれど、それ絡みの話なのかな?

「それで、一度ヒロシさんに会ってみたいって……」

 それは、何か粗相でもしたって事なのかな?

 まあ、勝手に課題の本を読んだわけだからご立腹されてても仕方ないかもしれない。

でも、一応確認しておこう。

「それって、お師匠様は怒ってるのかな?」

「いえ、そういうわけじゃないと思うんですけど……」

 どこか自信なさげだな。

「正直お師匠様は何を考えてるのか、僕も分からないんです。

 気難しい方なのは確かなんですけど、それを表に出さないというか。」

 うーん、やっかいそうだなぁ。

「ちなみにお師匠様って言うのはどこに住んでるのかな?」

 場所が分からないんじゃ訪ねようもない。

「村の近くにある森の奥なんですけど、案内も無しだとたどり着けないかも。」

 じゃあすぐに行って挨拶だけでもってわけにはいかないのかもな。

一応、時間が全くないわけじゃないんだけれど、今回の旅にカールは連れてきてない。

ベンさんに面倒を見てもらえるようにお願いはしてあるが、ちょっと心配なんだよな。

旅程を伸ばしてでも会いに行くべきかどうか。

「もちろん、ヒロシさんの都合が付けば、いつでも構わないとおっしゃっていたんで……

 もしヒロシさんの都合が悪ければ、後日でも……」

 どうしたもんだろう。

カールは大人しいし、ベンさんとの顔合わせでも相性が悪かったわけでもない。

だから、同行させなかったわけだし、旅程が一日二日遅れたところで問題はないだろう。

 そうは言いつつ、何となく不安なんだよな。

特に俺は大家さんから目の敵にされている。

行商人である以上、家を空けている期間が長くなるのはしょうがないと思うんだが、それはつまり部屋が開いているのと同義だ。

その上で管理責任のある奴隷、しかも手癖が悪いゴブリンを置いてどこかに行っているというのは印象が悪いだろう。

 かと言って、体力のあまりなさそうなカールを雪の中連れ回す気は起こらなかった。

ましてや、教会関係者も同行している。

ベーゼックなら平気だったかもしれないが、ゴブリンやオークへの教会の態度は、どちらかと言えば敵対的だ。

余計なトラブルを抱える可能性もあった。

 面倒だと全てを投げ出したくもなるが、さすがにそこまで薄情にはなれない。

 そもそも、カールには嫌な思いをさせられたことはないしな。

申し訳ないが、後日に改めさせて貰おう。

「申し訳ないけれど、お師匠様に会うのは、またの機会にさせて貰えないかな?

 春くらいにさせて貰えると助かるんだけれど……」

 ジョシュは納得したように頷いてくれた。

「分かりました。お師匠様には、そういう風にお伝えしておきますね?」

「よろしくね。」

 そういえば、ジョシュにはお土産が一つあるんだった。

「あ、そうそう、そういえばこういう物を作ってきたんだ。」

 インベントリから、現地の文字とひらがな・カタカナの対応表を取り出す。

購入したプリンターのテストや外字機能の勉強のために作成した物で、紙自体はこっちの世界の物を利用している。

いきなり師匠から日本語の本を渡されたジョシュにしてみれば、日本語を読めるようになるのは悪い事じゃないだろう。

まずは手始めにひらがなカタカナを覚えていくのはセオリーじゃないかと思ったのだ。

 それにもし、俺が言語理解の能力を失ったときに、一人でも日本語を知っている人がいてくれたら安心できる。

 意思疎通が出来ないのは、恐ろしい。

 まあ、そういう利己的な思惑もあるので、純粋なプレゼントでもないんだけど……

「ありがとうございます! あの本に書かれてる文字の読み方ですね?」

 嬉しそうに頬を緩ませている姿に、ちょっと罪悪感を覚える。

「日本語には、文字そのものにいくつも読み方がある表意文字と読み方の変化しない表音文字があるんだ。

 それは、読み方の変化しない表音文字の対応表になるよ。」

 早速、ジョシュはひらがなを指さしながら、発音していたりする。

「でも何で二種類あるんですか?」

「あー、何でだったかな。理由は分からないけど、あの本での使い方は外来語の固有名詞を表すときはこっちを使うんだよ。」

 そういいながら、カタカナを指さす。

「母国語の固有名詞なんかは、さっき言った読み方の変化する表意文字を利用する。

 それ以外は、こっちの文字を利用してるんだ。

 表意文字を集めた辞典というのもあるんだけれど、それには読み方が分かるように表音文字が一緒に書かれている。」

「なんだか凄く難しいんですね。」

 それには頷かざるを得ない。

漢字書き取りとか、子供の頃は大嫌いだったからな。

「俺も、難しいと思うよ。何せ、母国語なのに知らない字がいっぱいあるんだ。

 読めなくて、恥をかいたこともしょっちゅうだよ。」

「え? ヒロシさんがですか?」

 そんなに驚くような事じゃないんだけどな。

「まあ、表音文字の方は数も少ないし、すぐ覚えられるよ。俺でも全部覚えてる。」

 俺は笑いながら、ジョシュの健闘を祈る。


 旅程は、アルノー村に一泊した後に関所を抜けて、南下し別の関所を目指す。

そこから王国内にあるという工房を巡って、最後は北上しながらモーダルと言うことになっている。

一応、翌日は商売をするわけだが、それでも午後には村を出発の予定だ。

 なので、今日はゆっくり寝床で寝ることが出来る。

ちょっと試してみたい物もあるので楽しみだ。

 それともう一つ、村長宅に泊めて貰うお礼として、奥さんであるファーマさんにある物を渡している。

おそらく夕飯にも出てくるだろうから、そっちの反応にも期待だ。

 ジョシュとの魔法談義や途中で乱入してきた、ジョシュの弟アレンとじゃれ合っていたらあっという間に日が暮れていた。

夕飯を告げる声に、それはそわそわしながら子供部屋から食堂へと向かう。

入り口の時点で良い匂いが漂ってきた。

ジョシュやアレンも匂いに気がついたのか、顔を見合わせている。

口にあってくれると良いな。


 食堂では、すでにご家族全員にグラスコーとベーゼックも揃っていた。

俺たちが席に着くと、ベーゼックによる食事前の説法が始まる。

お定まりの内容なので、おもしろみはないがしゃべり方も流暢で聞きやすい。

なかなかどうして、宣教師としての能力は高いのかもなぁ。

「では、皆さん神の恵みを頂きましょう。」

 そういうと皆祈りを捧げた後食事に手を付け始めた。

全員が、俺が差し入れたクラムチャウダーから口に運ぶとは思わなかったので、ちょっと笑ってしまった。

 当然俺が作った物ではない。

モーダルで贔屓にし始めた料理人のハロルドにお願いして調理して貰った。

ミートローフみたいな料理を俺に勧めてきてくれた人だ。

 あの後も、あの人が店を出す度に料理を買い求めていたので縁が出来た。

最初は、たわいない話からだったけれど、その上身の上話をしたりで仲良くなれたのだ。

 まあ、仲良くって言ってもあくまで店と客の関係だけれども。

とはいえ仕事で使う商材を依頼できるくらいにはなれたんだから、充分緊密な関係だとは思う。

 そう、このクラムチャウダーは商材だ。

村長ご一家に試食して貰い、反応が良ければ明日、露店を開くときに売り出す予定になっている。

グラスコーには事前に話を通してあるが、現物を見せたのも味わわせたのも今回が初めてだ。

 反応は上々で、おいしそうに食べてくれている。

「ヒロシさん、このシチューって作り方を教えてもらえないかしら?」

 ブラームさんの奥さんであり、村長の娘さんであるミレンさんが意外な申し出をしてきた。

「いや、すいません。これ、俺が作った物じゃないんですよ。」

 それに、新鮮な貝がないと作れない。

港町であるモーダルとの距離は1日程度しかないとはいえ、なかなか難しい相談だろう。

 あー、でも冬のうちは雪で冷やしておけば魚介類も大丈夫かもしれない。

「もしよろしければ、料理人にレシピを聞いてきますよ。貝を使いますんで、鮮度には注意ですけどね。」

「ありがとう。次は私が作ったシチューをごちそうするわ。」

 ミレンさんが嬉しそうに手を叩いて喜んでくれて良かった。

そうか、レシピって言うのも需要があるかもしれないなぁ。

「意外と酒にも合うな。」

 グラスコーも唸りながら、酒のアテにしている。

例によって例のごとく、酒精の強い蒸留酒をドレンさんとブラームさんに勧めながら、楽しく酒盛りだ。

ベーゼックは大人しいなと思っていたが、しれっと同じ蒸留酒を確保しながら、すまし顔で飲んでる。

 凄いな。

普通に酒を飲んでいても、酔った素振りは全く見せてない。

と言うか、みんな飲んでることにすら気付いてないんじゃないか?

 ともかくクラムチャウダーはおおむね好評のようだ。

 ただ、アレンにはあまり受けてないみたいに見える。

貝の味が慣れてないと、独特で駄目なのかな?

貝を避けて食べている。

 ジョシュの方は好みに合っているのか、おいしそうに食べてくれてるんだけどな。

「お兄ちゃん、これ食べる?」

 貝をよそって、ジョシュの皿に貝を移し始めた。

「いいの? おいしいのに……」

 嬉しそうにジョシュは貝を口に運んでいる。

「僕、このくにくにしたの嫌い。変な味するんだもん。」

「こら! アレン! 好き嫌いしない!!」

 ミレンさんがアレンにげんこつを落とす。躾なんだとは思うけれど可哀想だな。

「いやミレンさん、独特な味なのは確かですから、あまりアレン君を叱らないであげてください。」

 余計なことをしちゃったかな。

思わず、口を挟んでしまった。

「アレン君、次は絶対おいしいって言わせてみせるよ。」

「本当?」

 ちょっと涙目で頭を押さえていたのに、次の瞬間には満面の笑みだ。

調子が良い子だな。

「すいません、ヒロシさん。せっかくおいしい物を頂いたのに……」

「喜んでいただけて幸いですけど、正直な意見もありがたいですよ。お口に合わないようでしたら遠慮無く言ってください。」

 実際、おいしいという感想は嬉しい。

当然やる気にも繋がるし、次も頑張ろうという気にもなる。

 だけど、これが足りないとかあれを足して欲しいという不満も同じくらい大切な意見だ。

 もちろん、内容を具体的に捉えないといけない分、不満というのは気を使う事でもある。

味なんかは、個人の感性が問題になるので具体化しにくい。

今回は、貝だけが苦手らしくスープの部分に不満がないのはアレンの食べ方から理解できる。

それなら、別の具材を使ったシチューを用意してみるのも有りだろう。

 毎回、こういう風に答えが見つけられればいいけどな。

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よろしくお願いします。

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