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3-16 世に悩みは尽きまじ。

 凍えながら、ようやく家にたどり着く。

結構寒かったので、階段を上るのさえ億劫だった。

「ただいま……」

「お帰りご主人様」

 返事をするカールの声を震えている。

部屋の中まで寒いとは……

これはしょうがないよな。

 俺は、インベントリを開き、局所的に温めるタイプの暖房器具を取り出す。

本当は電気を無駄に使いたくなかったが、凍える状態じゃ仕方がない。

「カール飯にしよう。暖かい物を用意するから待っていてくれ。」

 がちがち震えながら、インベントリを再び開いてカップスープの素を引き出す。

カップに素を入れて、呪文で作ったお湯を注いでいく。

それをカールに渡し俺もスープを口に運んだ。

生き返るとはこのことだ。

温かいスープのおかげで、寒さが緩んだ気がする。

気がつけば、一杯飲み干していた。

 駄目だなぁ……

結局チートに頼りっきりだ。

もういっぱいスープを入れて、飲みながらしみじみと自分の駄目さ加減に気が滅入る。

 それでも本能には逆らえない。

温かい物を飲んだせいで胃が活性化したのか、空腹を訴え腹の虫が鳴った。

買ってきたミートローフのような物を取り出して、カールと自分の分に切り分ける。

木皿にのせた途端カールは一心不乱に食らいつき始めた。

こいつもお腹すいてたんだな。

 俺も、箸で切り分けながら料理を口に運ぶ。

ぷるぷるとした食感は煮こごりみたいにゼラチン状の物で固めてあるんだろうか?

こりこりとした食感の他にもふわふわと舌に残る部分もあって面白い。

味は文句なしだ。

塩加減も丁度良く、濃すぎずさっぱりしている。

 でも、もしかしたら……

俺は買い置きのパンを持ってきて、上にミートローフみたいな料理を上にのせた。

そして一緒に口に運ぶ。

 うん、合うな。

ご飯だったら熱に溶けて、もっと合うんじゃないかな?

 あー、ご飯なぁ……

まあ、炊こうと思えば普通に炊けるけど、なんか違う気がする。

なんと言えばいいか、変なこだわりみたいなのは持たない方が良いんだろうけど、どうしても揶揄していた自分が頭を掠める。

 日本人だからって何でも味噌醤油米を準備しに回るのは……

俺自身が特段言いつのっていたわけでもないけど、そういう話を見て微妙な気分になった作品も多かった。

それと同じ真似をするのもなぁ……

 困ったことに用意しようと思えば出来てしまう自分が居る。

そうなると、節操も無くやるのはなんだか恥ずかしい。

いや、気にしすぎなのは分かるんだけども……

 そんなことを考えている家にミートローフみたいな料理は食べきってしまっていた。

なんか、せっかくおいしい料理を食べていたのに変なことを考えていて、ちゃんと味わえなかった気がする。

凄く負けた気分だ。

明日も店を開いててくれるかな?

「カール、どうだった今日の料理?」

「おいしかった!」

 そうかそうか。

カールにも受けは良いみたいだし、贔屓にしても問題ないな。

「とりあえず、今日はさっさと寝よう。暖まったから、冷めないうちに布団に入りたいしな。」

 そういいながら、食器をかたして寝床の準備をし始めた。


 布団の中で今後のことを少し考える。

カールはすでに寝息を立ててるが、大人が寝るには早い時間だしな。

 とりあえず、懸案事項は色々と存在している。

魔法については、まず間違いなく関わらなくちゃいけない存在だ。

こちらに有益な影響ももちろんあるだろうが、危険を及ぼしてくる可能性だってある。

紹介して貰っておいて何だが、先生を信用しきって良いものか悪いものか……

 もちろん、個人的には全く悪い人には思えなかった。

でも所詮、人生経験が浅い俺の感想だからな。

 もちろん、悪意がなかったとしても結果として利害が対立することだってないわけじゃない。

 ただ、全く話の通じない人ではない気はする。

なので、信用できる出来ないは脇に置いておくとして……

 俺が身につけられる魔法と、俺が気をつけなくちゃいけない魔法については考えておくべきだな。

そういう意味で、先生の授業を受けるのは選択肢に含めて悪いことはないだろう。

 もっとも、仕事の合間にと言う形になるだろうから、そんなにしっかりと授業を受けられるとも思えないが……

とはいえいい加減にして良い物でもないからな。

時間は作ってちゃんと受けよう。

 後はギルドの件が気になるところだ。

タオルの件や防刃服に関しては、それはそれで問題はある。でも解決できない問題じゃない。

 むしろ不気味なのはギルドそのものだ。

ギルド長が若手のホープと見なされているのは聞いたし、この市の影響範囲は結構大きいのも聞いた。

そういう意味で言えば、ギルド長の人となりがこの地域での組織の性格だと見なして良い。

 だけど、そのギルド長の性格が掴みづらい。

もうちょっと商売っ気が強いかと思えば淡泊なのに、値切りの仕方は強引だった。

諜報にはどうにも長けてるとは思えない。

 でも金融を担っているなら、そんなはずはないと思うんだよな。

融資をしなければ、銀行は潰れる。

金そのものが商品と言っていいのが金融業だ。

で、あるが故に金を貸し付けるにふさわしい相手を見極めるための情報が無いんじゃ話にならない。

単に韜晦していて、泳がされてるだけなら良いんだけど……

 いや、良くないか。

そうだとしたら、手玉に取られてるんだもんな。

順調なときは良いけど、落ち目になったらとんでもないことになりそう。

 でも、逆に本当に情報に疎かったらそれはそれで困りもんだ。

金融不安が起これば、経済はがたがたになる。

変な不良融資とか抱えていて、優良な融資先から資金を回収して回ってたらしゃれにならない。

そうなったら、ギルドは完全な敵だ。

 グラスコーの懐具合から言っても、無理な資金回収なんかされたら破産するだろうな。

いつそういうことが起こるかと言われれば、政治不安が起こるときだ。

 そういう意味で、政治関係の話は知っておきたいんだけど……

なかなかそういう話に詳しい人ってのには会わないなぁ。

 まあ、政治が上層部にお任せな体制である以上、情報が漏れてこないのも仕方がない。

こう言うとき、ジャーナリズムの大切さを痛感させられるな。

 とはいえプロパガンダにも利用できるんだから、上層部がジャーナリズムを規制するのは当たり前なんだけどね。

ゴシップ以外の印刷物は厳しく規制されていて、モーダル市でも政治を匂わせる刊行物は違法だ。

特定の領主が居ないモーダルでこれなら、領主の居る街はブラックボックスだろうな。

 あるいは違法な物なら手に入るんだろうか?

それはそれで危険だから、おいそれとは手を出しにくいけど……

 とりあえず市側が刊行している官報と噂話を拾っていくのが、無難と言ったところかもな。

官報は官報で有益な情報は多い。

施行される法律についての解説が書いてあったり刑の執行についてだったり、専売品の価格改定なども含めて、ありとあらゆる行政関連の諸々が事細かに記されている。

公的な捜査をしている事件についても記載がされているから警戒すべき地域というのも把握できる。

 その上、それに関係している人物についても、名前だけとはいえ把握できるんだからありがたい。

 まあ、有料だったのには面を食らったけど、紙の値段を考えれば当然と言えば当然だよな。

それに購入制限がないだけでも、充分この市は先進的なんだろう。

法の布告も布告官が内容を読み上げて終了なんて領地もあったりするらしい。

それじゃ法を守ることがそもそも難しそうだが、そもそも施行する側があやふやだったりもする。

そんな地域じゃ何が罪で、どんな罰があるかも分からない。

当然ながら領内は荒れるのは必定だ。

 だけど、これが不思議なところで、そんな市や町が結構あるんだとか。

そんなもんだから、そんな地域の人たちが法がちゃんと整備された領内にはいると窮屈に感じるんだとか。

いわんや、蛮地から来る人間をば。

 そもそも、法を解していないと警戒されるのも当然で、約束の概念すら怪しいと言われても致し方ないんだそうな。

 とはいえ、さすがに約束の概念がないは言い過ぎだと思うんだよな。

自己救済が基本にあるとはいえ、さすがに約束も出来ないとか……

いや、あー……

そういう人間はどこにだって居ると言うべきだな。

 もっと言うなら、時と場合による。

損得勘定なんか、人によって違うし、約束事は方便だって言う人もいれば、絶対の契約とでも言うように必ず守る人もいる。

ある約束は容易く破るのに一つのことは破らない人とか、逆にある特定の約束を破る人だっている。

どうしても約束を違えないといけない場合もあるだろうし、巡り合わせで破ってしまうことだってあるだろう。

法って言うのは社会全体との契約という強制力があるからこそ成り立つんだよな。

そういう意味で、やっぱりあやふやな運用はお世辞にも褒められた事じゃないのは確かだ。

 とはいえ、法を作る側じゃなく従う側だから、当然長いものには巻かれるんだけどね。

作る側に回れるなら、それに越したことはないけど現実味無いしなぁ。

 神様関係はギルドや政治以上に困る案件だけれど、もうこれはどうしようもない。

精々、現金を引き出しておいて別に保管するくらいしかできてない。

それこそ買い物できない、インベントリが開けない、魔法も使えない、能力値が軒並み下がる。

そんな事態になったら、どれもこれも致命傷だ。

能力値は、地道に自力を上げていく方向で頑張るにしろ、一朝一夕には行かないだろうし……

魔法も理屈が分からない以上、そもそも失わないように何とかする方法があるかどうかも分からない。

インベントリの中の物が取り出せないだけならまだマシで、全部飛び出したり逆に失われたりしたら最悪だ。

 とはいえ、依存せざるを得ないんだよなぁ。

買い物やサービス維持の喪失だって致命的だ。

そこら辺の仕組みは人によって違うらしいから取り戻す方法も、そもそも取り上げられないようにする方法もあるものなのか。

 しかも、魔法なら先生に相談できるが、こっちはおいそれとは相談しにくいし。

ずーっと棚上げしてたけど、真面目に考えれば考えるほど訳が分からなくなってくる。

 駄目だ。

本当、俺の頭じゃ限界です。

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