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3-14 おしゃべりな人と話すと本題忘れがちだよね。

 先生とグラスコーの相性は良いらしく、旅の話は尽きることなく続いていた。

俺も、時折話に混ざり、カナエというのが大崎叶だと言うことを確認させて貰う。

そこからは、彼女の思い出話も混ざり結構な時間が経つ。

 先生は話し上手で楽しく聞かせて貰ったんだが、途中でメイドさんが入ってきて昼食をどうするかと聞かれた。

 不味い、全然本題に入れてない。

なんか話のペースが掴めない。グラスコーが微妙な反応だったのはこういう事だったんだろうか?

 昼食に出されたサンドイッチを頬張りながら、おしゃべりは楽しく続く。

 でも、このままだと雑談だけで終わってしまいそうだ。

「あ、あの……先生、話の腰を折ってすいませんが……」

「ん?なんだい?」

 先生には全く悪気はないんだろう。

話を差し込んでも特に気を悪くした様子もない。

「実はですね。水を出す呪文について何ですが……」

「あー、あれね。あれは叶ちゃんが簡単に呪文を覚える方法を……」

 やばい、またペースを奪われそうだ。

「実は、あれで純水を作ることが出来るんですよ。」

 とりあえず割って入って、結論を伝える。

「え?」

 ちょっとびっくりした顔をしている。

いや、まあ、意味不明だったかもしれない。

「実は、超純水も作れますし、血液を操作することも出来ました。」

 そういいながら、まとめていたメモを取り出す。

それぞれの操作に適した動作と呪文を書いてある。

 先生は黙り込んで、俺のメモを読み始めた。

そして、紙を取り出すと色々と計算を始め、唸ったり驚いたりしている。

 何だろう?

何か間違ったところでもあっただろうか?

 先生はため息をつく。

「私はつくづく馬鹿だな。」

 え? どういうこと?

「こんなに単純なことに何で気付かないんだ!

 いや、違うな。科学技術を知ってなければ駄目だ。でも、それなら何で私は気付かない!

 まったく情けない。しかし、これは凄いよヒロシ君。」

 目をきらきらさせながら、先生は俺の手を握ってくる。

「えっと……その……」

「あー、すまない。ちょっと興奮してしまって。いや、本当に凄いよ。

 液体限定とはいえ、これで精製技術が一気に進む。それどころか、水溶液を作れるなら分離だって可能だよ。」

 嬉しそうに笑いながら、先生はあれが出来るこれが出来ると色々と妄想を膨らませているようだ。

話している内容はちんぷんかんぷんだけど、嬉しそうなのは伝わってくる。

 そんなところに無粋な話をするのは申し訳ないんだが、聞いておかなくちゃいけないことがある。

そう、金の話だ。

「すいません先生。この術式をお金に換えるならどうすればいいでしょう?」

 先生の顔が硬直する。

笑顔を貼り付けたままで固まられると怖いな。

見た目美男子なだけに余計だ。

「あ、うん、そうだよね。君は商人だもの……

 それにお金は大切だよね。あれが欲しいとかこれが欲しいとかを魔力を使わずに何とかするにはお金は大切。

 うん、分かってる……分かってるんだよ……」

 何だろう……

先生はお金にトラウマでもあるのだろうか。

さめざめと泣き始めてしまったので、俺はグラスコーを思わず見てしまった。

「めそめそすんなよ先生。単に売れないか聞いただけじゃねえか。」

 うんざりしたという様子でグラスコーは肩をすくめる。

「いや、分かってるんだよ。でもどうしても割り切れなくてねぇ……」

 泣きやんだ先生は考え込むようにうつむく。

どうやら考えてはくれるみたいだな。

「一つの方法は、国に献上することだろうね。学術院に論文としてまとめて提出すれば、報奨金が手にはいるよ。

 論文に関しては私名義で発表する方が良いかもしれない。」

 そういえば、そんな組織があるんだったな。

「先生は学術院に所属されてるんですか?」

 なんだか組織に縛られるってイメージが持てなくて、純粋に疑問に思ってしまい口を突いてでてしまった。

失礼な質問だっただろうか?

「いや、そういうわけじゃないよ。

 あそこは魔術師が所属する組織ではなくて、魔術師を監視する組織と言うべき所だからね。」

 どうやら俺は根本的に学術院を誤解していたようだ。

あくまでも、学術院は官僚組織の一部であって魔術の規制に関わる役所のようだ。

魔術の心得があるに越したことはないようだが、必須と言うことではなく知識を有していれば問題ないと言うことらしい。

 魔術師が医師だとすれば、学術院は厚生労働省のようなものだと言えば分かりやすいだろうか?

所属する役人には当然知識は求められるし中枢を担う人材はそれなりに優秀な魔術師が多いのも事実らしい。

 でも、先生に言わせれば魔術師としては、つまらない連中ばかりなんだとか……

まあ、そこら辺も日本の官公庁と規制を受ける業界の関係に似ている気もする。

「頭の固い連中でね。一定の形式に則らない論文は内容を理解することもせずにうち捨てることも多いんだ。

 私もいくつか論文を提出しているから、慣れているとはいえあまり嬉しい作業ではないかな。

 でも、ヒロシ君にそういうのを任せたら君にはもっと辛い負担になりかねない。

 なので、学術院に提出するなら私が代行するよ。」

 正直、その申し出はありがたい。

例え執筆料が、かなりかかったとしても頭を下げて頼みたいくらいだ。

まともな論文の書き方なんかは全く分からないし、知らない形式だって要求されるだろう。

それに、訳の分からない人間が提出する論文よりも経験者が提出した物の方が通りも良い気もする。

「まあ、結果として禁忌とされてしまう可能性もゼロではないから何でもかんでも学術院というのはおすすめしないよ?

 変な監視が付くのも嫌だろう?」

 しれっと怖いことを言う、

 やはり、闇から闇へ魔術師を葬る部隊とかもあったりするんだろうか?

「まあ、監視と言っても実力行使できる人がいる所じゃないから、派手にしなければ気を使わなくてもいい気はするけどね。

 禁忌を犯して事件が起きれば真っ先に容疑者候補にされる程度だし……

 それに今回のケースなら禁忌になることはまず無いでしょ。彼らは派手な物に目を奪われがちだしね。」

 可能性という意味で言えば、よっぽど重要度は高いはずなのにねと先生は怖い笑みを浮かべる。

何だろう。

相談するべきじゃなかったかな。

「まあ、もう一つお金に換える手段としては、内輪で独占するかだね。

 ただ、こう言うのは秘密結社を立ち上げなくちゃだし、あまりおすすめは出来ないかな。」

 なんか秘密結社という言葉に幼稚さを感じてしまうのは、日本人の悪い癖かもしれない。

要は秘密裏に組まれるカルテルのようなものだ。

現在でも企業秘密にされている技術というのは結構多い。

特許を出すよりも、社内のみで共有し利益を独占するというのは当たり前の事だったりする。

大規模な企業が存在しないこの世界では利益を最大化するにはどうしたって他者の協力が必要だろう。

そのために秘密を共有するカルテルはどうしても必要になってくる。

 でも、それは結構面倒だ。

秘密に対する態度も、利益を得る考え方もそれぞれ違ってくる。

そうなれば、秘密結社内での主導権争いが行われるのは自然の摂理だ。

おすすめしないというのも頷ける話じゃ無かろうか?

「まあ面倒であれば忘れてしまうと言うのも手段の一つだよ?」

 それはそれでもったいないという気持ちの方が強い。

もちろん、お金がえられないからという意味もあるけれど、それ以上に出来ることを隠すのは間違っている気がする。

いっそのこと……

「無償で公開したらどうなりますかね?」

 先生とグラスコー、二人とも驚いたように目を見開く。

ただ、その後の反応が違った。

「ばか! 知識をただでくれてやる商人がどこにいる!!」

「いや、実に面白い発想だ!私としてはそれをおすすめしたいね。」

 グラスコーは怒りをあらわにして、先生は喜びを表している。

対照的な反応なせいで再び互いに驚いた、二人して相手の顔を見た。

「先生、滅多な事言うもんじゃないぜ。何が面白いって言うんだよ。」

 まあ、グラスコーの反応が普通だよな。

「あーもちろん、商人としてはどうかと言われると……うーん……一概にダメというわけでもないのか……」

 先生もうーんと唸りつつ、考えをまとめている様子だ。

「どこが駄目じゃないってんだ?」

 グラスコーも冷静さを取り戻した様子で先生の考えがまとまるのを待っているようだ。

こう言うところ、大人らしい対応なんだな。

「まずそもそも、技術院に論文を提出したとしよう。

 この場合、禁忌にならない限りは報奨金がえられて、それに見合う論文の閲覧料が徴収される。」

 まあ、妥当な処置だと思う。

「この閲覧で手に入れた情報は基本的に制限はかけられていない。

 だから、閲覧を認められない外国人でも仲介を頼めば自由に知ることが出来る。

 一見すれば無償公開よりも報奨金がもらえる。

 だからそっちの方が良いと思えるよね?」

 グラスコーは当然頷く。

「でも、お金を払って得た知識を他人に教えるかな?」

「そりゃ、相応の対価を払ってもらえりゃな。」

 今度は先生が頷いた。

思わず俺も頷いてしまった。

「何だ、この空気! 俺だけが分かってねえみてえだろうが!!」

 先生は困ったような顔をしている。

そりゃそうだ。まさしく図星なわけだがあからさまには指摘しにくい。

「要は、情報拡散の難易度の話ですよ、グラスコーさん。」

 こういう役割は先生ではないな。

俺はここぞとばかりにしたり顔で言ってやる。

「訳の分からんこと言ってんじゃねえよ。拡散しやすくして何がしたいんだ?」

「知って貰って利用して貰いたいんですよ。」

 グラスコーの眉がぴくりと動く。

「なるほど……こいつは相場の話と一緒と言うことか……」

 納得した様子だけど、今度はこっちが分からない。

相場の話と一緒って何だろう?

「要は、高値になった商品がより高値になれば儲けが増える。だから高騰するって話は金なんか取らない。

 逆に安値になるって言う情報だって、場合によれば安く買いたたくためにこっちから言うこともある。

 そういう話だ。」

 俺の困惑した様子を察したのか逆にしたり顔で語られてしまった。

むかつくなぁ……

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