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3-12 上司の愚痴に付き合うのも仕事だ。仕事。

「ヒロシよぉ……お前、どうするつもりなんだ?……」

 さっきまで怒り狂い飲んだくれてた男が、いきなりどうするとか聞いて来たら、どう対処すべきなんだろう?

まあ、何をって聞くよな普通は……

 いや、でもそれは不正解なんだろうか?

日本では、ちょっとは考えろと怒鳴られた覚えがある。

 おそらく、タオルをどうするか聞きたいんだろうな。

「どうするも何も、準備するしかないじゃないですか。職人なんて紹介できないでしょ?」

「いや、それを準備できるのかって聞いてんだよ? 証書じゃ駄目なんだろ?」

 まだ証書で”売買”できるかは試していない。

 が、別に現物は用意できないことはないんだよな。

しかもあと2週間もすれば、お望みの枚数が丁度届く。

 問題は、その資金はどこから出てきたのかを疑われたくないって事なんだよな。

「もしかしたら、証書で購入できるかもしれませんよ?」

 もしかしたら、サービスの購入で何とかなるかもしれない。

何せこっちの世界でロードサービスやら示談交渉してくれるサービスがあるくらいだ。

証書の買い取りや換金くらい出来ても不思議はない。

 ちょっと真面目に探してみよう。

「マジか? よし、それなら何とか出来るか。問題は、どうやって口出しさせないようにするかだな。」

 勢いに任せて約束を書面にしろって言ってたわけじゃないんだな。

 特許みたいなものを相手に飲ませられれば面倒事は減るのも確かだ。

法律関係に明るい人物がいれば、助かるんだけどな。

弁護士とかいるんだろうか? いないわけはないだろうけど……

 まあ、それも大切だがそれ以上に重要なことがもう一つあった。

「それでヒロシ、作り方についてなんだが……」

 だよね。

そこが分からなかったらしゃれにならない。

「一応調べておきましたよ。技術者の人がいればタオル生地を作れる織機を作れるかもしれません。」

 あくまでも希望的観測だが。

正直、俺は自分で、その機械を作れる気はしない。

大体手がかりレベルだからな。

「かもしれませんか。まあ、どっちにしろすぐ出来るとは思っちゃいないし、むしろ出来ないならそっちの方が良いからな。」

 グラスコーは仕方がないかと、ぐったりとテーブルに突っ伏した。

 最悪はどっかの技術者が現物を見て自作しちゃうことだろうか?

そうなったら、模倣品が出てくるだろう。

そこから、こっちの品物を模倣と訴えて販売を差し止めようと仕掛けてくる。

 可能性がないとは言い切れないところが怖い。

「まあ、それよりも約束の文言の方が重要じゃないですか? 俺は法律とか、まったく知らないんですけど?」

 公証人がどうとか言ってると言うことは、当然それなりの伝手はあるんだよな?

「任せとけ。そこは何とかする。」

 酒をあおり、ぎゅっと何かを噛みしめるように歯を食いしばる。

そんな顔をして飲む酒は旨いのかね。

 そこから後は、支部長に対する罵倒と怨嗟の連続だ。

どこからどこまで本当か判断が付かないが、言ってることが全部本当だとするととんでもない人物になるんだよなぁ。

 でも、あの人が言及したのはタオルについてだけだ。

それがずっと引っかかってる。

 俺は当然、防刃服についても押さえに来るもんだと思っていた。

何せ、グラスコー曰く暁の盾はギルドとずぶずぶの関係だ。

 その構成員が使用していて効果を確認しているなら、当然ギルド側で知っていると考えるのは不自然じゃないだろう。

にもかかわらず、全く存在に気付いている様子がない。

 あるいは知らない素振りをして、隠し球を用意しているのか。

それとも、ずぶずぶの関係って言うのが間違っているのか。

 まあ、ずぶずぶの関係というのが無かったとしても知らないって言うのはな。

情報への感度が低い気がする。

 あるいは俺が勝手に有能な人物なら、それなりの情報網を構築しているはずだと勘違いしている可能性だ。

少ない人付き合いの中で、たいていの人がはったりをかまして生きているのは感じていた。

有能な営業マンが案外無知だったり、技術者が古い知識でしゃべるときだってある。

何でもお見通しだと思っていた上司が小さな事で躓く場面だって目にしたことはあった。

 さすがに、国の経済を握る組織の幹部が無能だとは思えない。

 だが、人間なんだから限界はあるのは当然だろう。

俺がやっている程度のことは小さすぎて目に入ってないと思って行動しても良いかもしれないな。

 そう考えると自意識過剰だったみたいで恥ずかしい。


 飲んだくれたグラスコーを抱え、どうにかこうにか倉庫まで戻ってくることが出来た。

街ではここに寝泊まりしているそうだ。

とても暮らしやすい場所とは思えないが、職場を住居にするのはそれなりに憧れるな。

決して良いものではないと言われてたけど。

 しかし、何というか。

確実に俺の力は強くなっている。

持久力も明らかに増している。

人一人を抱えて歩いても、多少息が上がる程度で済んでいるなんて前の俺ならあり得ないことだ。

 ここは純粋に感謝しておくべきだな。

裏口に回ると、ランタンの灯がともっている。

確かベンさんが常駐しているんだったか。

 俺は、戸を叩く。

少し覗き窓が開かれたあと、ベンさんが戸を開けてくれた。

「おお、ヒロシ。旦那を送ってくれたのか。助かるよ。」

「とりあえず、寝かせましょう。寝室ってどこです?」

 ベンさんの誘導に従って、グラスコーを奴の寝所まで運びベッドに放り込んだ。

何もない殺風景な部屋だ。

 まあ旅をしながら物を売り歩いているわけだし、滞在中の寝床だと考えればこんな物かもしれない。

ベンさんに挨拶をして、倉庫を出たら俺は自分の部屋へと直行した。

 正直、今日は疲れた。

朝は大家さんにたたき起こされ、午後はギルドで支部長との会談。

それが終わったらグラスコーのやけ酒に付き合う。

 普通の社会人なら余裕なのかもしれないが普通の社会人じゃなかったからな。

 明日は魔術師と会う予定だけど、大丈夫だろうか?

聞きたいことは、ちょっとまとめておいたが正直メモに残してても聞き忘れが出るポンコツだからな。

もう一度再確認しておこう。

 それと、忘れそうだから証書についてもちょっと調べておこう。

そんなことを考えていると、どうにか家にたどり着けた。

「お帰りご主人様。」

 カールの顔を見た時点で、夕食の準備が出来ていないことに気付いた。

今から、何かを買いに行く元気はない。

かといって、カールを空きっ腹にさせたまま、寝るのも可哀想だろう。

 仕方がない。

ここは手軽に済ませられる非常食で済ませるとするか。

出来ればあったかい物の方が良いよな。

「とりあえず、飯にするか?」

 カールはうんと言って、頷く。

俺はインベントリの中から、カップ麺を取り出した。

 醤油味の奴にしてみたが、カールの口に合うだろうか?

今度購入するときは塩味にしておこう。

カールは取り出されたカップ麺を不思議そうに見ている。

 確かに、これが食べ物だとは普通思わないか。

 俺は、口を開きカップ麺にお湯を注いでいく。

あぁ、ふんわりと醤油の匂いが漂って食欲を刺激してくる。

毎日食べてると飽きてきて匂いも嗅ぎたくなくなるものだけど、久しぶりのカップ麺は凶悪だな。

「カール、少し待てよ? もどすのにちょっと時間がかかるんだ。」

 カールに箸を渡しても上手く使えなさそうな気もする。

とりあえず、フォークを渡してやるか。

「もう大丈夫だと思うぞ?」

 カールは蓋を開けられたカップ麺を見て固まっている。

食い方が分からないかな?

 俺は、箸で麺を掴んですすり上げた。

その様子を見て、カールも続くようにフォークで麺を持ち上げた後、ずるずると啜る。

 そういえば、啜るのが出来ない人もいるのを思い出す。

カールは問題なかったが、もしカップ麺を人に勧めるときは注意しておこう。

嫌悪感をもたれる可能性もあるしな。

 出来れば、こっちの世界でのテーブルマナーとかも知っておきたいよなぁ。

今のところ見よう見まねで問題はなかったけど。

 醤油については、特に問題ないみたいだな。

もしかしたら、ゴブリンだから平気って可能性もあるが。

ちょっと実験してみたくもある。

 駄目だな。ちょっと油断すると、すぐ非人道的なことを考えてしまう。

元々駄目人間だから、そういうところで歯止めがきかなくなったらおしまいだ。

別のことを考えよう。

 とりあえず、証書の買い取りサービスを探してみよう。

サービスの項目は、継続して利用するのが基本だから月額いくらの契約が多い。

今契約しているのが、インターネット契約と給電サービス、ゴミ処理サービスそれと医療保険だ。

そのうち車両保険や給油サービスなんかも利用したいところだが、それは現在保留中だ。

車を買わなきゃ意味がないしな。

 ガス供給サービスや水道サービスなんて言うのもある。

 至れり尽くせりで、何でも頼ってしまいそうになるが割と値が張る。

 まあ、この世界で利用できることを考えれば当たり前と言えば当たり前だろう。

 しかも、給電サービスはインベントリに納めた物品で充電できるものには何でも充電しておいてくれるし、ゴミ処理サービスもインベントリにゴミ箱が設置されて、パソコンみたいに空にする選択をすればすぐに消えてくれる。

現実よりよほど便利だ。

 あー、ゴミ箱にトイレの汚物を入れるって言うのも……

 いや、さすがに生ゴミやそういう汚物の処理をインベントリ経由にはしたくないな。

何だろう。とても心理的抵抗がある。

そういう意味で言うと鮮魚をインベントリに置いておくのも何となく抵抗があると言えばある。

 そもそも、イノシシをインベントリに納めていたときには何の抵抗感もなかったし、他に匂い移りしたわけでもない。

気にしすぎなんだろうけどね。

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