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3-9 大家さんから寝起きドッキリを食らった。

 どんどんとドアを叩く音が響く。

気がつけば、窓から光が差し込んでいる。

いつの間にか寝てたみたいだ。

結構明るく日が差していると言うことは、今日は晴れたんだな。

 しかし、今何時だろう?

 そういえば、パソコンの時計はこの国の標準時に合わさっている。

どういう仕組みなんだかは不明なんだが……

日本時間やら何やらの選択肢の中にフランドル王国標準時(異世界)とかがひょっこり顔を出すのだから意味が分からない。

他にどんな国があるのか気になって調べてみたが、フランドル王国標準時以外にこっちの世界にある国の名前はなかった。

 訳が分からないよ。

 ちなみに、日本との時差は6時間だった。

 とりあえず、起きよう。

 わざわざ時計を見るだけのためにパソコンを立ち上げるのも馬鹿らしいし、訪問者を無視してまで確認する必要もないだろう。

俺は、ふらふらと起き上がりドアへ向かう。

「どちら様ですか?」

「ヒロシさん、起きてらっしゃるのね? ドアを開けて頂戴!!」

 高圧的な言葉遣いに、俺は大家さんの顔を思い浮かべる。

 最初に部屋を借りるときもこんな感じだったな。

名前は確かジョアンナさんだったっけ?

 しかし何の用だ。

「今開けます。」

 鍵を開けてノブを回そうとしたら、ばんっとドアを開け放たれた。

そして、ずかずかと部屋に入ってくると部屋の中をくまなく探し始める。

カーテンで仕切られたトイレまで覗かれるって言うのは気持ちの良いもんじゃないな。

「ヒロシさん。このおトイレ、中身を見せてもらえるかしら?」

「は?」

 何いってんだ、この……

 いや、まあ冷静になろう。

見たいというなら見せてやろうじゃないか。

「匂いますから、気をつけてくださいね。」

 とりあえず、排泄物が納められたビニール袋を開く。

乾燥させてるので、さほど匂いはきつくない。

が、全く匂わないわけでもないんだよな。

「おかしいわね。」

 話の要点が見えない。

「何を、お探しなんですか?」

 俺がそういうと、ジョアンナさんは俺を睨みつけてくる。

「ご近所で強盗があったのよ! きっと、そのゴブリンを使ったのでしょう?」

 あぁ、そういうことか。

「盗品はどこに隠しているの!! きりきり喋りなさい!!」

 おいおい、俺が本当に犯人なら今頃あんた殺されるぞ。

見たところ、護衛の人間もいないし、誰かに伝えてきているんだろうか?

無鉄砲すぎるな。

「いや、潔白です。部屋の中にはそれらしいものはないでしょう?」

 まあ、仮に盗品があったとしても絶対見つけられない場所にしまうことは可能だけどね。

「嘘おっしゃい!! どこに隠したの!!」

 どんっと胸を突かれる。

まさか暴力に訴えられるとは思わなかった。

「いや、本当ですよ。勘弁してください。カールが犯人だという証拠でもあるんですか?」

「まー!! ぬけぬけと!! 証拠ならばそこにいるじゃありませんの? ゴブリンと言うだけで十分な証拠です!!」

 ちょっとかぶせ気味にまくし立てられた。

 俺は深いため息をつく。それは証拠じゃなくて言いがかりだろう。

言ってもしょうがないわけだが、こういう偏見に根拠がないわけじゃないのが、頭が痛い。

 実際、カールは手癖が悪くて、他人と自分の所有物の区別が付いていない節がある。

棚に食べ物が置いてあるから、持ってきたくらいの感覚で、それが売り物って言う感覚もなく露天からものを持ってくる。

 でも、棚の前にいる人間は怖いからこそこそ隠して持ってくるって言うのはどうなんだろうな。

盗まれた側からすれば、盗もうと思って持って行ってるって思うのが普通だろう。

 しかし、参ったな。

カールが明確に盗みを働いていないという証拠がない。

と言うか、この場合に無実を証明するのは凄く難しい。

「さあ、観念して盗んだものを出しなさい!!」

 すごむ大家さんの後ろから奥様ーと、遠くの方から叫び声が聞こえてくる。

この声は、確か大家さんちの執事さんだったかな?

執事と言っても、大分若くて30代前半だったかな?

 その執事さんが部屋に転がり込んでくる。

「奥様!! 強盗の犯人は捕まりました!! ヒロシ殿やゴブリンは犯人ではありません!!」

 執事さんの言葉に大家さんの顔が引き攣る。

「何ですって、ロバート?」

 信じられないといった様子で大家さんは執事さんに尋ねた。

「ですから、犯人は捕まりました。ヒロシ殿は犯人ではありません。」

 息を切らして、執事さんは訴えてくれている。

助かったけど、出来ればその前に止めて欲しかったな。

「そんなわけありません!! きっと、その人は冤罪で……」

 んー、こういう人いるよな。

持論を守るためなら、事実をねじ曲げる人。

「奥様……使った凶器も盗品も、目撃者の確認も取れています。」

 目撃者いたのかよ。

 まあ、これで疑いは晴れたよな。

本当に勘弁して欲しい。

「どんな手を使ったのかは知りませんが、次は見逃しませんわよ!!」

 ふいっと、顔を反らして大家さんは部屋を出て行く。

ここまで敵視されてると、いっそ清々しいな。

「申し訳ありません。事実確認をしている間に不意に出て行かれたもので……」

 執事さんは頭を下げて、謝ってくる。

でも、悪いのは大家さんなんだよなぁ。

「いや、気にしないでください。こちらとしてもやっかいな借り主なのは理解してますから。」

 誰だって、人を襲って食っちゃうような化け物を奴隷にしている怪しげな人物を好ましく感じる人はいないだろう。

まあ難癖を付けられるのは勘弁して欲しいが、疑いの目を向けられるのは仕方がない。

 不意にロバートっと、執事さんを呼ぶ声が響いた。

お互い苦笑いを浮かべて、会釈しあうと申し訳ありません奥様と、執事さんは大家さんの後を追っかけていった。

「ご、ご主人様もう平気?」

 おそるおそると言った様子で、カールが布団の中から顔を覗かせる。

これが、可愛い女の子だったら良かったのになぁ。

「多分な。朝ご飯にしようか?」

 ややげんなりしながら、俺は朝食を準備し始めた。


 朝の騒動を伝えるとグラスコーは笑い転げた。

まじで地面に転がるとは思わなかったが、そんなにおかしいかこのヤロウ。

倉庫番のベンさんも事務員のライナさんも笑いをかみ殺している。

「笑い事じゃないですよ。」

 俺はため息をついて肩を落とす。

「まあ、ゴブリン飼ってるんじゃしょうがねえよ。まあ、追い出されないようにせいぜい気をつけるんだな。」

 いい笑顔で言いやがる。

「しかし、ナバラ家の物件を借りるとはついてないな。あそこの奥様はかんしゃく持ちって有名だぞ?」

 ベンさんは気の毒そうに肩を叩いてくれる。

「最近は落ち目だから、早く追い出して次の入居者入れたいんでしょうね。」

 ライナさんの話からすると、落ち目だから俺を入居させてくれたみたいだな。

前払いの要求がきつかったのは、そういう理由か。

来年は更新せずに別の物件を探すべきだな。

「大家さんの家が落ち目になったのは何か理由があるんですか?」

 少し気になったのでライナさんに尋ねてみる。

「ナバラ家は海運で栄えた家でね。いくつか船を持っていたのよ。

 だけど、当主を乗せた船が沈んじゃってね。

 賠償やら何やらを済ませたら、不動産しか残らなかったらしいわよ?」

「当主って旦那さんですか?」

 確認してみると、ライナさんは頷いた。

 こりゃまた重い話だ。

「今じゃ、使用人も執事だけだし養子に取る予定だった親戚も雲隠れ。細々と家賃収入で生計を立ててるって話よ?」

 元々子供が出来なかったので大家さんは肩身が狭かったらしい。

そう考えると可哀想な人なんだろうな。

 いや、だからって難癖付けられて追い出されたらたまったもんじゃないが。

「まあ、そういうのも時の運さ。上手くいってたときもあるんだから、沈むときだってあるのが必然だ。」

 グラスコーは皮肉げに笑うが、人ごとじゃないんだよなぁ。

一つの失敗で全てを失うって言うのは、あまり良い世の中じゃないだろう。

 まあ、当然保険みたいなのはあるんだろうけど。



 あるよな?



「当然。保険はかけてたんですよね?」

「確か、そのはずだけれど。正直に言えば掛け金の割にいざというときの保証がねぇ。」

 掛け金が高いと言うことは、それだけ船旅が危険と見なされていると言うことなんだろうな。

 ライナさんが、ちらりとグラスコーの方を向いた。

考えてみると蛮地を経由するって言うのも、それと同じくらいリスクがあるんだろうな。

そりゃ従業員としても、うちは平気かって心配になるとは当然か。

「保険なんざ、詐欺だ詐欺。高い金ふんだくる割にいざって時はあーだこーだケチ付けて支払わねえ。」

 憤慨した様子でグラスコーは吐き捨てるように言う。

「でも、それも商売でしょう?」

 そういうと、違いないとグラスコーも納得した様子だ。

「まあ、それよりも仕事の話をしましょう。」

 そういって、俺は昨日作ったリストをグラスコーに渡す。

「ん?おぉ、高く売れそうか?」

 そういいながら、まとめられた内容をチェックしている。

「本当にピンキリだな。こんな高値で買い取るのかいって言うのもあれば、一山いくらの奴まで。」

「1枚目が売却推奨です。2枚目は、とりあえず安いですから、保管しておいた方がいいかもって候補ですね。」

 3枚目を見つけて、グラスコーがこっちを見る。

「この3枚目は?」

 それは、2枚目の中で俺が調理できたりおいしいと思ってる魚のリストだ。

「個人的に譲って貰いたい魚のリストですよ。」

 そういうとグラスコーは若干呆れた様子だ。

「お前、魚なんか食ってんのか?」

 やはり貧民の食べ物の意識が強いのか、グラスコーは魚を食うのに抵抗がある様子がうかがえた。

「俺の故郷じゃ、魚は普通に食ってましたしね。むしろ高級品って扱いの魚も多いんですよ。

 そのリストのは安い奴が多いですけど、1枚目のリストの奴は滅多に食べられないって事で高値が付くんですよ。」

 なるほどなー、とどこか納得がいかない様子でグラスコーは相づちを打った。

「俺も魚は好きですよ? 小骨が多いのが難ですがね。」

 ベンさんは魚をよく食うようだ。

「安いから、どうしてもね。子供には不評なんだけど……」

 同調するようにライナさんも追従した。若干愚痴っぽいけども。

 まあ、分からなくもない。

生臭かったり、骨が多かったり、子供にとってはあまりおいしい食べ物って意識は薄いよな。

子供の頃から魚が好きだったという人もいたけど、ライナさんのお子さんはそうじゃないようだ。

「年をとってくるとさっぱりした魚の方が負担も少なくて助かるんですよ。」

 ベンさんは少し自嘲気味に笑う。

 確かに年を取ると脂っこいものが辛くなるとは聞くな。

俺は、全然平気なんだけどね。

魚でも、脂がのったブリや鮭なんかが大好きだ。

さすがに一匹丸々を捌く自信がないから、安くても3枚目のリストには入らないが……

捌いてくれるなら、買っても良いかもな。

こっそり醤油とわさびを買って、刺身にして貰った奴を食べたい。

生で食べる習慣はなさそうだから、そういう機会はなさそうで残念だ。

それに鮭はアニキサスが怖いか。

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