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3-8 家で残業って仕事は初めてだ。

 少し酔っぱらったかもしれない。

一口か二口くらいしか口を付けてないが、ちょっとふらふらする。

コーヒーを飲みながら、トーラスの身の上話やベネットが父親から聞いた昔話なんかを聞いて時間を潰したのにな。

 部屋に戻った頃には、すっかり辺りは闇の中だ。

LEDランタンがないと足下もおぼつかない。

「ただいま……」

 声をかけて、部屋にはいる。

「お帰りご主人様。」

 少し眠たそうにしながらも、カールはテーブルに座って待っていたようだ。

「夕飯は食べたか?」

 そう聞くと、カールは首を横に振った。

「そうか。ビーフシチューを貰ってきたから食べるだろ?」

「食べる食べる。」

 嬉しそうにカールは首を縦に振る。

 木皿を用意して、保温鍋に入れて貰ったビーフシチューをよそう。

結構多めに貰ったので、明日の朝の分もありそうだな。

 しかし、参った。

まだ仕事が残っている。

インベントリを圧迫している魚介類を整理しないといけないのもそうだが、傭兵団でのことも話しておかないとな。

寸法を測るなら、人手もあった方が良いかもしれない。

何人くらいの購入希望者が出てくるかも考えておかないと、そこら辺の人員確保は無駄が出そうだ。

 それにガラスと銃剣の件も話してみようか?

割と提案しないといけない案件が多いな。

プレゼンなんかやったこともないから、パワーポイントの使い方なんか全く分からない。

と言うか、プロジェクタを使ってプレゼンなんかやるつもりはないから、必要ないんだけども……

 いずれは、覚えておいた方が良いかな? どうだろう?

 あー、それよりも連絡手段を考えた方が良いかもしれない。

 当然、携帯電話の通信基地なんか存在しないから携帯電話というわけにはいかない。

やるとすれば、トランシーバーだろうか?

何となく俺は、ネットを開いてトランシーバーの通信距離を調べる。

 うん?

なんか凄く難しいぞ?

デジタル無線局が登録だけで使えるとか書かれてるけど、そもそも登録ってこっちの世界にはない制度だよな?

登録しなかったらどうなるのかと調べてみたら、どうやら電波を発信した場合、それを検出する仕組みがあるらしい。

逆に言うと、発信してもそれを検出する機械なんかこの世界にないから、使っても問題ないって事なのかね。

登録してなければ、機械的に通信できなくなるとかって仕組みはなさそうだけど……

 うーん。

範囲は数十キロに及ぶらしいから使えると便利だよなぁ。

それに関係するサービスとかもあるかな? あれば、利用を考えたいところだ。

 やばい。本末転倒だ。

 色々とやらなきゃいけないことがあって、それを片付ける手段を探して時間を浪費している。

今すぐどうこうできる手段じゃないんだから、目の前のことを片付けよう。

 俺はインベントリのウィンドウを開き、分類わけされた魚介類のリストを表示させた。

 まず、目に付くのがスケトウダラ、これは非常に安い。

同じ鱈でも、真鱈は高かった。特にオスは高い。

この差はいったい何なんだろうな?

 まあ、真鱈は10匹もいないから一樽に1匹いない。その分貴重と言うことなんだろう。

値段も1匹で一樽分を上回る値段だから、これだけで出した分は回収できる。

でも数を多く出せば、当然値段は安くなるんだろうな。

 痛し痒し。

 樽の中身で、他に目立っているのはアサリの類だ。

大振りな貝の方が当然値段は高いけれど、はっきり言って資金回収には向いてないな。

アサリばっかりだったら大赤字だ。

 カニはズワイガニが多い。

値段の高いタラバも数匹いるし、それとよく似たアブラガニもいる。

アブラガニとタラバって確か見た目は似ているけど、値段は雲泥なんだよな。

当然、タラバの方が高い。

 でも、どれも魚に比べるとカニの類は全般に高いな。

よく偽タラバ呼ばわりされるアブラガニでも大きさ次第ではタラバと遜色ない値段になっている。

 他に高い魚はいないかな?

 リストをぼーっと眺めていたら、やたら数が多いのに単価が高い魚があった。

ししゃもだ。

樺太が付いてない、と言うかカペリンじゃない方のししゃも。

小型の魚だけに1匹当たりの値段は安い。

大きさや雄雌の違いで差がある者のおおよそ1.2ダール。

銅貨1枚と端数がつく程度の値段だ。

 ただ、数が数百匹いる。

全部売り払えば金貨4枚弱になると考えるとおいしい。

 あー、でもししゃもなぁ。おいしいんだよなぁ……

カペリンも嫌いじゃないんだけど。

 あー、カペリンはカペリンでリストの中に名前があったな。

 うーん。ここは、本ししゃもは全売りで、カペリンをちょっと分けて貰おうかな。

カペリンは値段安いし。

全部売っても、本ししゃもには及ばない。

 焼けば食えるから、手軽だし売っちゃうのがもったいない気がする。

 さすがに現状は売り物なので手は出さないが、グラスコーと要交渉だな。

 もちろん、ヒラメやウニなんかも高値で売れる。

意外とカレイが安くて残念だ。

これは売らずに取っておこう。

 と言っても、食べ方がちょっと分からないな。

とりあえず、高値のものだけでも売り払えば金貨30枚にはなる。

 マージンは……

 とりあえず、金貨5枚と考えて個々の売値をいじってみるか。

 エクセルで本当の値段をリスト化し、高いものから順に売値を下げていく。

完成したら、それを紙に書き写して表にまとめる。

 プリンターを使えばもっと楽なんだけど、さすがに印刷物を見せるのは気が引ける。

手書きで申し訳ないが、分かればいいだろう。

 ふと気付けば、カールはテーブルに突っ伏して寝ている。

 こいつら夜行性じゃないのか?

 あー、そういえばヨハンナは普通に昼間起きて活動してたか。

夜目が利くなら夜行性だと勝手に思ってたけどそうでもないのかな?

 まあ、考えててもしょうがない。

ベッドを用意して、仕事の続きは寝ながらやるか。


 んー、もうちょっと広い部屋を借りるべきかな。

ベッドを広げるとテーブルに座れないし、荷物も広げられない。

 とはいえ、金貨30枚の出費は痛かった。

他にも色々と無駄遣いしてるからな。

残り資産は150万くらい。

 こう金額を聞くと余裕に聞こえるが、運転資金にもなってない。

防刃服1式が一揃え5万だから30着も揃えばいっぱいいっぱいだ。

10着じゃ、到底傭兵団の発注に応えることは出来ないだろう。

幸い、採寸や縫製に時間がかかるというごまかしをしておいたので、受注生産で対応できるが綱渡りなのに変わりはない。

 でも、さすがに狭すぎだよな。

ベッドを二つ並べているのが悪いのかもしれないが、床に眠らせるのも可哀想だし、かといってゴブリンと同衾するのもなぁ。

さすがに無理だ。

申し訳ないが、カールにはもう少し我慢して貰う。

 俺はベッドに横になり、人の手配が必要なことやガラスの値段を書き留めていく。

鍛冶屋の伝手があるなら、銃剣を作ることを提案しても良いかもしれない。

 そういえば、鉄パイプが重いと思ったので槍の柄をポリカーボネートにしようと思い、購入していたことも思い出した。

グラスコーに鍛冶屋の伝手があるなら、槍の穂先についても相談してみても良いかもしれない。

丁度、購入したポリカーボネートはパイプ状になっているので、石突きや穂先を付ける穴を開ければ丁度良い素材になるはずだ。

 まあ、槍なんて使わないことに越したことはないんだが……

一応、グラスコーには護衛としての役割もちょっとは期待されているだろうからな。

格好だけでも、整えておかないと。

 しかし、鍛錬不足はともかく心構えか。

ジェイス団長に言われた言葉を思い返すと、護衛としては全く以て失格なんだよなぁ。

 まあ、取り乱して前後不覚になった時点で意気地がないのは分かってはいたけど……

 下手に武器なんか持たない方が良いんだろうか?

なんだかベネットとトーラスには期待されてたから、いっぱしの戦術家気取りであれこれやっちゃったし。

思い出すと、恥ずかしくなってきた。

失敗をしないうちに、こういう事からは手を引いた方が身のためのような気がしてくる。

 頭をかきむしりたくなった。

やめよう。そもそも、武装しないって選択肢はない。

素手で誰でも鎮圧できちゃう力があれば話は別だが、さすがに、求めすぎだしな。

 少し頭を冷やそう。

 あー、そうだ。

考えなくちゃいけないのは、そういう戦闘面のことばっかりじゃないな。

今のところ、接点が薄すぎて受付や窓口の職員しか印象に残ってないギルドの事も気がかりだ。

人手を借りるとなったら、当然ギルドを通すんだろうけど。

新しい商品を卸すとなったら、どんな反応になるんだろうな。

 こちらに注意が向いている様子が全然無くて、免許を取るときも職員はいつもの事っていうような応対しか受けてない。

別室に呼ばれて、幹部と会話なんて事もない。

 そもそも、ギルドの入ってる建物自体が傭兵団のエントランスの方がよっぽど立派に見えるほどしょぼかった。

あれでこの国の経済を牛耳る組織の末端なんだからびっくりだ。

カウンターなんかもなくて、適当にテーブルが並べられているだけだから場末の酒場と言われても違和感なかったしな。

職員も男性ばっかりで、華やかさとは縁遠い感じがする。

 さすがに免許取得するときは、ちゃんとしたホールを借りてテーブルや椅子もきちんと並べられてたけど。

あれで組織が回るんだから凄いというかなんというか。

管理できてるんだろうかと、いらぬ心配をしてしまう。

 それだけに、全く顔が見えてこない。

タオルを渡した時も適当に置かれたテーブルで、職員がやる気がない感じの対応だったし。

 さすがに、現物を見たときは食いつき方が違ったし、買い取りの交渉の時は真剣そのものだったけどな。

買い取り価格が決まって、現金が運ばれてきたときも緊張感が漂うわけだから、不抜けた組織ってわけでは決してないんだろう。

 ただ何というか……

俺が偏った知識で見ているせいなのかもしれないが、よほど傭兵団の方が企業然としていた気がする。

駄目だ。ギルドについては考えても今は答えが出てこない。

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