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3-7 親切の押し売りかもしれないけど。

「ベネットさんも、撃ってみませんか?」

 まあ、怖がらせたいわけじゃないので、これ以上言うつもりはないけど。

どうだろう?

 ごくりと唾を飲み込み、ベネットは黙って頷く。

 そんなに悲愴な顔をされると辛いなぁ……

「大丈夫ですよ。俺も付いてますから。」

 そういいながら、彼女をシューティングレンジに立たせる。

「5メートルでいいかい?」

 そういいながら、トーラスが標的の準備をしてくれる。

察しが良くてありがたい。

「お願いします。」

 もう3マガジンも撃っているので、整備が必要かもな。

 とりあえず、ベネットに見せるように分解清掃を始める。

銃を手に入れてから、分解清掃と照準の練習ばっかりやってたから割と清掃には自信がある。

丁寧に布や綿棒で汚れを落とし、部品に損傷はないかを確かめ再度組み立てた。

「考えてみるとあれだけ撃って掃除いらずで煙も漂ってないってのは凄いね。」

 後ろからトーラスに声をかけら、改めて違いを再確認する。

確かに凄いと言えば凄いな。

 普通、フリントロックは一発撃てば、再装填の前に清掃をしている。

その手間が省けるだけでもかなりの楽だろう。

その上、煙が吹き出して視界を塞いだりしないというのは射撃する側にとって都合が良いはずだ。

 清掃を終えてマガジンを入れ、コッキングする。

そして、セーフティーをかけて銃把をベネットに向けて差し出す。

もちろん、銃口は人のいない方向に向くように気を付ける。

「さあ、握ってみてください。ここのレバーを下げなければ引き金は引けないんで発射しませんよ。」

 彼女はおそるおそる銃把を握る。

俺は、ちゃんと握ったのを確認してそっとイヤーマフを彼女にかぶせた後、自分もかぶる。

そして、そっと覆い被さるように後ろに回り、彼女の手に自分の手を重ねる。

 嫌がられたら困ったけど、そういう素振りはないようで安心した。

 彼女の指をセーフティレバーの所に誘導して、セーフティを外してもらう。

やや体がこわばっているのが分かる。

緊張するのは分かる。俺もさっき撃ったときはがちがちだった。

 じっと彼女が引き金を引くのを待つ。

躊躇いがちだが、しっかりと彼女は引き金を引いた。

 普通の人よりも、力が強いから体がぶれたり、震えたりと言ったことはなかった。

とはいえ、サイトを見ていないせいか銃弾は下にそれてしまう。

 少し、彼女の腕を動かして照門が目にはいるように位置調整する。

意図を察したようで、彼女は照門と照星が合うように自分で腕を動かす。

 そして、その姿勢を維持できるように努力をしながら引き金を引いた。

 次の銃弾は命中してくれた。

そこからゆっくり、全て撃ち尽くすまで確かめるように彼女は引き金を引き続ける。

 さすがに剣の腕とは違い銃の才能まではなかったようだけど、何発か外したものの初めてならば充分な結果は得られた。

 彼女はしばらく固まっていたが、やがて長いため息をついて力を抜く。

結構な緊張だったのか、俺に体重を預けてくる。

 なんかときめくな。

 セーフティをかけさせ、銃をテーブルに置かせる。

そして、イヤーマフを外してあげた。

「ごめんなさい。なんか寄りかかっちゃって。」

 俺がイヤーマフを外したところで、彼女はそそくさと体を離した。

うん、不埒なことを考えていたので残念な気持ち半分、嫌われてないか不安な気持ちが半分と言ったところだ。

「いや、別に問題ないよ。」

 問題はこっちにあるからな。

 とりあえず、マガジンを外し、銃弾が入っていないことを確認した上でインベントリに拳銃を戻した。

本当は、時間経過しないのでマガジンに弾を込めて指しっぱなしでも問題ないんだけど、なんか正しい保管方法でしまってしまう。

 しかし、映画とかでインストラクターがやってたな、くらいの発想で後ろに立って抱きついたけど……

あれは問題ない行動なのかな?

 誰にとがめられるわけでもないだろうけど、危険を招くようなら注意しないと不味いな。

ネットで調べておこう。


 一段落したので散らばった薬莢を回収してインベントリに納めておく。

後で火薬を充填して再利用しようとは考えていないが、放置しておくのも不味い気がする。

 特に見られたからすぐに真似をされるわけじゃないが、一応念のため。

銃弾も回収しておきたかったけど、面倒な気がしたのでそっちは断念しておいた。

なんか中途半端だなとも思うけど、さすがに小さい銃弾を拾い集めるのはなぁ。

清掃なんかもほとんどされてないそうだから、散らばる鉛玉の中から銃弾だけを探すのは手間だ。

 ベネットもトーラスも手伝ってくれたので、薬莢の回収はすぐに終わる。

 さて、これからが問題だな。

 階段を上り、地階のパブ部分へと戻る。

客は誰もいない。

一人、トーラスが親父さんと言った男がグラスを磨いているだけだ。

銃声は、頑丈な扉に吸収されて聞こえてはいないと思う。

「親父さん、軽めのを3杯よろしく。」

 そういいながら、トーラスはカウンター席に腰掛けた。

それに倣って、ベネットと俺も腰掛ける。

「で、あれは譲ってくれるのかいヒロシ?」

 早速トーラスは商談に入りたい様子だ。

「結構高いものですからね。ただというわけにはいきませんよ。」

 俺の言葉を聞きながらトーラスがベネットを見る。

「でも、ベネットには持たせたいんだろう?」

 勘が良いのも善し悪しだな。

まあ事実だから話が早いし、いいんだけどね。

「俺としては、いざというときのお守りくらいのつもりで居るんですけどね。」

 実際戦場で拳銃が使われることは滅多にない。

と言う話を聞いたことがあるだけだから、受け売りなんだけども……

とりあえず最後に身を守るもの、命を繋ぐ武器だと考えている。

 最悪片手さえ動けば使えて、懐にしまっておける武器なんてそうそう無い。

 親父さんが蒸留酒のソーダ割りをテーブルに置いていく。

俺は一口だけ手を付けた。

 酒は苦手なんだよな。さすがにソーダで割って貰ってるから全く飲めないわけじゃないけども。

ベネットとトーラスは慣れたものなのかぐいぐい半分くらい飲んでしまう。

 ふぅと二人して合わせたようにため息をつく。

「とりあえず、貸し出すというのでどうです?」

 俺の言葉に揃って反応して、こっちを見てくる。

「いざという時のメンテナンスを含めて、月に金貨1枚。もちろん、取扱説明書や使用方法にかんする資料もおつけします。」

 どうです安いでしょうという安っぽい売り込みをしてみた。

「ヒロシは商売に向いてないんじゃない?」

 むすっとした顔でベネットが酷いことを言う。

「そうかな?」

 まあ、儲けを考えたらあり得ない話ではある。

「そもそも、契約書を結ぶわけでもないんだから、踏み倒されても文句は言えないのよ?」

 ベネットの言っていることは至極ごもっともだ。

俺は頷くしかできない。

「それに……」

 ベネットは言いにくそうにうつむいてしまった。

「死んだらどう回収するつもりだい?」

 ベネットが言いよどんだことを、トーラスがあっさり口にした。

まあ、その……ナイスアシスト……

「死ななきゃ良いじゃないですか? せっかくのお守りなんだから活かしてくださいよ。」

 にやにや笑う男二人を、ベネットは恨みがましい顔で見る。

「なら断る理由はないね。」

 そういいながら、トーラスは金貨を一枚取り出した。

「毎度あり。」

 ケースとホルスターを付けて、拳銃をトーラスに渡す。

 そして、またベネットを見て二人でにやにや笑う。

「二人していやらしい笑い浮かべないでよ。その、練習はここで?」

 あぁ、忘れてた。

そうだな。

あまり知られたくない。

「出来る限り、こう言うところでお願いします。」

 他にも、こういう射撃場があるのかは知らないけれど。

「なら、時々は練習に付き合ってちょうだい。」

 そういって、ベネットも金貨を差し出してきた。

「もちろん、光栄ですともお嬢様。」

 そういいながら、ベネットにもトーラスと同じものを手渡す。

 しかし、蒸留酒のソーダ割りはきつい。

苦いというか、こう喉が焼けるというか。

コーヒーの苦さは、小さい頃から好きだったしピーマンの苦みも年を取ってから好むようになった。

そう考えると味覚は変わってないんだな。

 しかし、二人ともつまみも無しによく飲めるものだ。

「無理して飲むものじゃないよ。」

 そういいながら、親父さんは温かいコーヒーを出してくれた。

そういえば、チョコレートもあったからコーヒーがあっても不思議ではないな。

 でも、高級品なんじゃないだろうか?

当然、このコーヒーは支払い別だよなぁ。

 うーん。

ちょっと散財しすぎかな?

 まあ、手を付けなくても支払いはしなくちゃ行けないんだからありがたく頂こう。

「ありがとうございます。」

 そういいながら、コーヒーを頂く。

結構砂糖が入ってるのか、凄く甘い。ミルクが入ってないのが残念だ。

「ヒロシはお酒弱いねぇ。」

 トーラスは嘆かわしいと首を横に振った。

「珍しいですかね?」

「まあ、ここらへんの人たちはみんなお酒強いよ。ドワーフには負けるけどね。」

 まあ、飲みっぷりからするとトーラスの言葉には嘘偽りはないだろう。

「そうはいってもお酒飲めない人も結構いるわよ? この街は船乗りが多いから別の国の人で、お酒を一切飲まない人もいるし。」

 それは宗教上の理由じゃないですかね、ベネットさん。

 まあ、人種的に弱い場合もあるか。

「そういえば、ここらへんはお風呂あるんですね。」

 傭兵団でお風呂を貸して貰ったことを思い出したので言ってみる。

そういうのも異文化なんだろうか?

「ここよりずっと南の帝国では、お風呂が普通だったらしいよ?

 とはいえ、こっちでも温泉があるところは、入浴するのが普通だね。」

 温泉か。温泉いいよなぁ。

「でも、俺の故郷は蒸し風呂が一般的だったからちょっと違和感あるね。

 あっつい蒸気を浴びて火照ったところを水浴びするのが最高だったんだよ。」

 むしろお湯にはいると苦しくなるんだとトーラスは愚痴をこぼす。

習慣によって、体質も変わるもんだな。

「私は、温めのお湯につかるのが好きかな。こっちに来て初めて湯船につかったけれど、悪くないと思う。」

 確かに温めのお湯に長時間つかってるのも良いな。

「銭湯とかあると助かるんですけどね。」

 ん?銭湯で通じるかな?

「お風呂屋さんなら、いくつかあるけど。その……」

 ベネットが赤い顔をさらに赤くする。

「まあ、そういうサービスが付いてないところもあると言えばあるよ?」

 あぁ、そういう。

 トーラスの言うサービスをしてくれるところも興味がないわけじゃないが、女性の前でする話じゃないな。

「出来れば、そういうのは無しで。」

 そういうと、ベネットとトーラスはいくつかの候補を教えてくれた。

今度、カールを連れて行ってみよう。

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