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3-5 お風呂入って、おしゃれなところで食事をして秘密の遊び場へ……二人っきりだったらな。

 俺が予想していたお風呂とは違った。

普通に湯船があって、洗い場、そして脱衣場があるタイプで、おなじみのお風呂だ。

キャラバンの時に聞いていた、サウナではない。

石けんも備え付けられていて、自由に使って良いみたいだ。

 ただ、どろどろに溶けてて油臭いのが難点か。

しかし、これはありがたい。

ちゃんと体を洗うのはいつくらいぶりだろう。

何となく購入していた固形石けんやシャンプーが使えるチャンスだ。

ナイロンタオルもきっちり買ってある。

 俺は思いっきり体を洗い、温かいお湯を楽しんだ。

ちょっと、水が濁っていたので呪文で少し綺麗にしておいたのは秘密にしておこう。

やっぱりこういうタイプのお風呂が一番落ち着く。

 そういえば、温泉はあるんだからこういうタイプのお風呂があっても全然不思議じゃないよな。

銭湯とかあれば良いんだけど……

 さすがに、それは無理かな。

 しかし、傭兵団の宿舎にはお風呂があるって言うのは不自然……

ではないか。

 結構汗をかいたり汚れたりする職業だ。

旅先ならともかく、定住する場所には衛生に気を使うのは理にかなっている。

水を生み出す呪文があるんだから、元の世界よりもお風呂が普及しててもおかしくはないか。

 先客も居らず、俺はゆったりとした湯船に身を沈め、お湯を楽しんだ。

若い頃はそんなにお風呂好きではなかったはずなのに、若返った今でもお風呂好きなのがちょっと不思議だった。

でも、まあお風呂気持ちいい。

今度、カールも風呂に入れてやろうかな。


 結構長風呂だったけど、ベネットを待たせなくて済んだ。

というか、俺が出てからベネットが出てくるまで10分くらいはあったかな?

これは、ベネットが長風呂なのか、女性は男性よりやることが多いからなのかは分からない。

 と言うか、そういう事情には疎いからよく分からん。

「ごめんなさい。待たせちゃった?」

「いや、そんなことはないですよ。むしろ急かしたようですいません。」

 なんか、お風呂上がりの女性にどきどきするって言うのは若返っている証拠なんだろうか?

 いや、それとも普遍的な欲求なのか……

いや、考えるのはよそう。

「気にしなくて良いわ。ヒロシには色々お世話になっているもの……

 それより、トーラスを探しましょう。彼なら色々と知っているはずだから。」

 そういうときびすを返して俺を先導してくれる。

 先ほどまでの鎧下みたいな服装じゃなく長いワンピースを身につけている。

なんと言えば良いんだろう。

ドイツの伝統的な衣装みたいなワンピースだ。

詳しくないんで、本当にそれが伝統衣装だったのかとかは分からないけれども。

肌が露出しているわけじゃないんだが、なんかこういう姿を見ると女性らしさを強く感じてしまう。

 なんだかなぁ。

 視線を外して周りを見ると、さっき気になっていたからなのか女性が目につき始めた。

年齢層は色々だけれど、雑事を任されている人や事務を請け負って居るであろう人の中にちらほら女性が見受けられた。

 だが、どう見てもそれらにふさわしくないような服装の女性もちらほら。

いや、まあ根源的欲求だからね。仕方ないね。

少数だけれど、ベネットとご同業らしい女性も見受けられる。

 うん、その……うん……

ベネットはやっぱり美人だな。

 エントランスまで戻ると、ようやくトーラスを見つけ出すことが出来た。

「お、ヒロシじゃないか? 何だいベネットを口説きに来たのかな?」

 その言葉にざわりと周りがどよめいた。

「違いますよ。単に用事があってきただけです。」

 一応軽く否定しておく。

「ははは、冗談だよ。それで俺に何か用かい?」

 仕事帰りなのか、トーラスは銃を携え少しくたびれた様子だ。

「少し相談に乗って欲しいことがあるの。少し時間をもらえる?」

 ベネットが切り出してくれたおかげでしゃべりやすい。

「夕飯がまだなら、おごりますよ?」

 俺の言葉にトーラスはありがたいと良いながら頷く。

「これから風呂に入って侘びしい食堂で食事は嫌だったからね。店は僕が選んでも?」

「構いませんよ。ただ高いところは勘弁してくださいね。」

 冗談が通じたのか、トーラスは仕方ないなぁと笑う。


 トーラスの選んだ店は落ち着いた雰囲気の飲み屋だった。

 時刻としてはまだ夕方と言っていい時刻だけれど、天気が悪くすでに薄暗い。

照明の呪文は使わず、ランプだけで灯された店内はおしゃれな感じがする。

 おすすめはビーフシチューとガレットに似た焼き物だ。

そば粉を使っているが、キャベツが加えられていて、一見するとお好み焼きみたいに見える。

これにビーフシチューをのせて食べるらしい。

 買い置きのパンはそれなりに置いてきてはいるが、カールのためにビーフシチューは後で持ち帰りに買っていこうかな。

「で、相談ってなんなんだい?」

 酒を口にしながら気楽な感じでトーラスは切り出してきた。

「ちょっと射撃場を貸して貰いたかったんですが……」

 なるべく周囲の喧噪に紛れるように小声でしゃべる。

「んー、俺がいつも遊んでいるところなら都合がいいかもね。」

 察してくれているようで、直接的な表現は避けてくれたようだ。

「秘密の遊び場?」

 ベネットの言葉はおそらく、人の目に付かないところかと確認している。

のだと思う、多分。

「内緒だよ?」

 しーっと、唇の前に指を立てる。

「まあ、良ければこの後行ってみるかい? 気に入ればいいけどね。」

 何かと世事に疎い俺にはありがたい知り合いが出来たもんだ。

最初は頼りなさそうとか思ってたんだけどな……

「そういえば、トーラスさんは今日も仕事だったんですか?」

 ビーフシチューを楽しみながら、俺は世話話を始める。

煮込まれた肉が口のほろほろと崩れた。

 そういえば牛肉なんて、こっちでは初めて口にしたな。

農耕で使用する牛なんて食えたもんじゃないと言うことは聞いたことがあるんだけど、普通に食べるのか?

「世知辛いからね。お金はいくらあっても足らないよ。」

 渋い顔をしながら酒をあおる。

そんなに嫌な仕事だったんだろうか?

「聞いてくれるかい?」

 相当嫌な仕事だったようでトーラスは語り出す。

「今日は、税を滞納した村に押しかける仕事さ。相手方も武装して対峙してくるし、役人は払えの一点張り。

 いつ攻撃されるかも分からない中、装填もさせてもらえず突っ立ってなきゃいけなかったんだ。気が気じゃなかったよ。」:

 割と悪質な村で、かなりの収穫があったにもかかわらず誤魔化して逆に救援物資をだまし取っていたらしい。

督促に来た徴税人を人質にさらなる物資を寄越せとか、はっきり言って悪党だな。

しかも相手方は潤っているから、暁の盾とは別の傭兵団から助っ人を呼んで居る。

たまったもんじゃないな。

 傭兵同士は、こんな馬鹿げた戦いはしたくないので威嚇で終わっているらしい。

 だけど、いつ役人や村人が暴発するかと傭兵達は戦々恐々としていたんだとか。

そりゃ、愚痴りたくもなるか。

 それが飯の種だから仕方ないんだけどねとトーラスは力なく笑っている。

 他にも破産して逃げ出した商人を捕まえたり、逃げた牛を捕まえてくれとか……

やりたくない仕事の話でベネットとトーラスは盛り上がる。

「やっぱり一番実入りが良いのは戦争なんだけどね。」

 やれやれといった様子でトーラスはため息をつく。

「化け物退治とか、探検隊の護衛なんかもそれなりじゃない?」

 ただ、ベネットの上げた仕事は運が良ければという但し書きが付くようだが。

どっちにしろ、戦闘が絡むから運は重要な要素だよな。

「大商人に用心棒として雇われる方が安全だし安定してるんじゃないか? なあ、ヒロシ、俺たちを雇ってみないかい?」

 トーラスの冗談に俺は苦笑を浮かべることしかできない。

「大商人になったら考えますよ。」

 下手な口約束は出来ない。

俺もまだ、海のものとも山のものともつかない身分だ。

「よし、就職先は見つかったね。後は死なないようにせいぜい励むよ。」

 トーラスが笑いながら言う言葉に、俺は思わずベネットを見てしまう。

 視線に気付いたのか、ベネットが真顔になってこっちを見てくる。

「もし、色々片が付いて、生きてたら私もお世話してね。」

 言葉と一緒に可愛らしい笑顔を浮かべてくれたけれど、色々な思いが詰まってるんだろうな。

「もちろん。」

 だけど、ここは笑顔で返しておくべきだ。

何となくだけれど俺はそう思い、ぎこちないが笑みを浮かべる。


 ほどほどの時間を潰して俺はトーラスに秘密の遊び場へと案内して貰うことになった。

千鳥足で進むトーラスは、どう見ても酔っぱらいにしか見えない。

次の店を物色している一団に見えるだろうな。

 進んでいる道もやや寂れているが、酔客相手の店が建ち並んでいる。

トーラスがようやく足を止めた場所も、一見すればただのパブに見えた。

 ただ、ノックの仕方が特徴的だ。

そもそも、酔っぱらい相手の店ならノックなんか必要ない。

 さっと開いた扉に吸い込まれるように俺たちは足を踏み入れた。

「酔ってるのか? あまりおすすめせんぞ?」

 目つきの悪いおっさんがトーラスの様子を見とがめる。

「今日は俺じゃないんで、心配しないでください。親父さん。」

 そういうとトーラスは親指を立て、俺を指し示した。

「人を入れないでもらえますかね?」

 トーラスの言葉におっさんは指を2本立てた。

「高いよ、親父さん。」

 高いと言うことは金貨かな?

そりゃ確かに高い。

まあ、でも払えない額じゃないな。

「嫌なら出てけ。」

 凄い簡潔だ。

 まあ、人に知られず利用しようと言うんだから、それなりに支払うべきだな。

俺は金貨を2枚取り出して、手を差し出す。

親父さんも手を出したので、その手のひらに金貨を渡す。

 確認もせずに、親父さんは顎をしゃくった。

やれやれといった様子でトーラスは肩をすくめ、奥の扉へと向かう。

俺とベネットもその後に続いた。

 扉の奥には地下へと続く階段がある。

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