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22-25 約束だからな。

色々と警戒したうえでの単独行動です。

王国どころか、他国の人間にも知られては面倒な事態になるわけですが

約束ですからね。

「ねえ、ヒロシ。お腹平気?」

 風穴を開けられてから、何故かベネットは頻繁に俺のお腹を撫でてくるようになった。そんなに心配だったんだろうか?

「平気だよ。それよりそろそろ到着するから、準備して。」

 サンクフルール国内は、王侯連合軍の支配下にある。だけれども、抵抗勢力が皆無ということもない。共和国軍が降伏したとは言っても、壊滅させたわけじゃないからな。

 車列は注意深く、郊外にあるというダンジョンへと進んでいく。

「でも、平気かな。講和会議を抜け出してくるなんて。」

 概ね、講和内容は決まっていた。共和国としても、体面を保てるギリギリではあっただろうけれど、こちらとしても損失を補うというにはほど遠いくらいの譲歩をしている。

 何より、どの国も疲弊している。これ以上の血は流したくないというのが本音だろう。

「ベネットは、相変わらず心配性ね。」

 こまっしゃくれたお子様がさも当然というようにふんぞり返っている。

「お母様でしょう。モーラはもう少しお行儀よくできないの?」

 そういいながら、ベネットはモーラの頬をつねる。

「痛い!! 酷くない? ヨハンナお姉さまには、まったく手を上げないのに!! こんなの虐待よ!!」

 まあ、確かにあんまり体罰は推奨したくはないかな。

「調子に乗らないの。 一応、これでも加減はしてるのよ? でも、神様だったころのままじゃ駄目なんだからね。」

 ベネットはモーラを膝にのせて、頬を撫でまわす。

「分かってますぅ。なんて人間の体は脆いの。ちゃんと鍛え直さないと。」

 別に人間として過ごしている間は、普通の女の子として生きていけばいいのにな。

 いや普通というにはモーラは成長速度が速いかもしれないな。生まれて3年で、体格はともかく身のこなしや思考速度は、大人と遜色がなかった。

 もしかしたら、転生者もこんな感じなんだろうか?

「ところで、こんなところに何があるの? 会議よりも重要な事なの?」

 ある意味では重要かもな。ベネットには話しておくべきだったかもしれない。

「そりゃ、初代大統領がこんなとこにいるとは思わないよね。」

 ダンジョン内にいることを突き止めたのは、モーラだ。たとえ落ちぶれたとはいえ、力を与えた神であることには間違いがない。たとえどんなに上手く隠れたとしても、彼女を欺くのは相当に難しいだろう。

 言われた内容を把握して、ベネットはモーラを見た後にうんざりしたような、そして納得したような顔をする。

「なるほど、それは大切な事よね。約束の件もあるんだし。」

 ノゾミとの約束は殺さないでなのだから、俺が手を下さないなら約束を違えたことにはならないとは思うのだけども。

 少なくとも、放置して他人が手を下すのを待つのは、何か違う気がしていた。

「最終的には、彼がどうしたいか次第だけどね。」

 一時とはいえ、一国を手中に収めたのだから再起を図りたいと思っていても不思議じゃない。

 どちらにせよ、ゆっくりとお話をする必要はあるよな。

 

 ダンジョン探索は思いのほか難航した。本来備わっていた罠や生息しているモンスターも厄介だが、当然ながらヨースケたちも仕掛けを施して侵入を阻もうとしてくる。

 逆にこちら側は、相手が相手だけにやたらと人を使ってしまうと目立って問題が出てしまう。

 なので、メンバーは俺と使い魔のマーナ、ベネット、そしてトーラスだけというごく少数で探索に臨まないといけない。ちなみに、モーラはカウント外だ。

 思考や身のこなしがいかに優れているとはいえ、まだ魔法も扱うことすらできない。何より、体格が思いのほか小さいからな。

「ねえ、ヒロシ。私のことを役立たずだと思ってない?」

 子供に何かを期待したりできないだろう。

「今の状態じゃ仕方ないですよ、モーラ様。それと、一応父親なので、それなりの呼び方してください。」

 自分で産んだ子ではないので、ベネットのように呼び捨てにはしにくい。もちろん、普段は呼び捨てにしたりしているけども。

「分かりましたわ、お父様。でも、だったらなんで私まで付き合わないといけないの?」

 いたずらを考えるような笑みを浮かべながら、モーラは尋ねてきた。

「色々と事情を説明する必要がありますからね。事情は、モーラ様が一番把握していますよね。」

 腹を割って話すなら、隠し事はない方がいいしな。

「ふぅん。どうするつもりかは分からないけれど、期待通りになるとは限らないよ?」

 勿論、ヨースケの思惑と俺の考えがかみ合うとは限らない。それでも、まずは話を聞いてみないことにはどうすれば良いかすらも分からないしな。

 ゆっくり歩みを進めて、薄暗い通路を進んでいく。気楽におしゃべりをしながら、歩いてられるほど気軽な道のりじゃない。

 罠だけ、モンスターだけなら後れを取ることはないけれど、状況的に罠を気にかけながらモンスターを相手にしなければならない場合もあるし、逆に罠を避ける最中にお襲われることもある。

 そんなときに悠長におしゃべりはできないよな。

 緊張感で少し喉が渇く。何度かの危機的状況を乗り越えて、ようやく一息付けそうな部屋の前までたどり着けた。

 もっとも、中にはヨースケを守る人間もいるから、まずは戦闘を避けられるように交渉をしないといけないな。

 すっと、横合いからベネットが飲み物を差し出してきてくれた。

 交渉事の前なのだから、自分で気づいて飲み物を飲んでおくべきだったな。

 でも、誰から気にかけてもらえるというのが、ありがたいことだ。なんだか、少し頬が緩んでしまう。

 一息ついて喉を潤した後、気を引き締めて扉を叩く。

 

 数度の誰何の後、ようやく扉が開かれて俺とヨースケの対面が叶った。別に待ち望んでいたわけでもないし、むしろ面倒だなと感じてはいる。

 典型的な日本人顔ではあるけれど、明らかに顔がいい。思わずモーラの方を見てしまった。

 もしかして、俺だけ特典がもらえてないんじゃないかと言う邪推が頭をもたげる。

 ただ、モーラは何を自分の方を見ているんだという顔をされたので、単純に俺の被害妄想なんだろうな。でも、なんか悔しい。

「話があったんじゃないのか?」

 やややつれた頬に無精ひげではあるが、元々の顔の造詣がいいのだからアクセントにしかなっていない。

「あー、いや失礼。あまりの美男子ぶりに嫉妬したんですよ。」

 俺の言葉に、その場の全員が呆れた様子を見せる。

 うん、まあ。そうだよな。美醜に拘るのは俺の悪い癖だ。

「冗談として流してください。

 それで、田所洋介さん。

 あなたに提案があって、こちらまで来ました。お話をさせていただいてもよろしいですか?」

 側仕えの人々は、ヨースケの本名を知らなかった様子で、戸惑いの表情を浮かべる。

「俺が転生者だと知っているのは、ノゾミさん位なもんです。出来れば、ジョルジュと呼んでくれませんか?」

 そうご要望であれば、その名前で呼ぶけれども。

 本名を呼んだのは、そういう世間のしがらみを抜きで話したいという意図であると伝わってない感じだろうか?

 まあ、いいや。

「では、そうお呼びしましょうジョルジュ閣下。とりあえず、私にとってはどうでもよい事ですから。」

 しかし、改めてみると酷い状態だ。どれくらいの間、ここに潜伏をしているのか分からないが皆飢えているのが手に取るように分かる。

「まず、食事でもとりながら提案を聞いていただきたい。毒があるかないかなんて、あなたなら理解できるはずですよね?」

 そういいながら、手軽に口に運べる包みピザのような軽食をインベントリから取り出した。

 もちろん、直接地面になんかには置かない。テーブルクロス付きの机も出して、その上にのせておく。

 ヨースケは軽食を一瞥したのち、側仕えの人間に食事をする許可を出した。

「それで、提案と言うのは?」

 胡乱気な視線を投げかけてはいるが、話の先を促される。

「新大陸への移住はいかがですか? もちろん、道中の安全も保障いたしましょう。」

 俺の一言に、眉の皺が寄るのが分かった。正直に言えば、予測の範疇ではある。

「まず、この状況でそれが可能かどうかは尋ねるだけ無駄だからよそう。それを行うメリットがベルラント伯にあるとは思えないんだが?」

 メリットなぁ。

「無いですよそんなもの。強いてあげるのなら、ノゾミさんとの約束です。」

 本来であれば今この場でヨースケを拘束して、講和会議の議場に連れて行った方がよほど俺には利益がある。同郷のよしみで助けるというのはいささか度が過ぎた行為だろう。

 信用できないと言われれば、確かにその通りだ。

「新大陸に亡命したのなら、俺が再び舞い戻ってくるとは思わないのか?」

 可能性はあるだろう。

「勘弁願いたいですね。出来れば、新大陸で大人しくしていて欲しいです。なので、それなりの家と畑を用意しましょう。

 いかがですか?」

 側仕えの人たちが明らかな怒りの表情を浮かべ始めた。この状況で怒れるだけの気力が残っているのに驚く。

 ただ、ヨースケだけは思案するそぶりを見せた。この冷静さは、やはり人の上に立つだけのことはある。

「つまり、すべての責任を投げうって新たな人生を歩めという提案か。」

 もはや責任も何も無いとは思うけどなぁ。

「あなたの言う責任というものがどんなものかは分かりません。ただ、この状況を脱するには大統領としてのジョルジュは障害にしかならないのは事実でしょう。」

 仮に、新大陸に渡ってから自身がサンクフルールの大統領だったという経歴を喧伝すれば連邦は彼を共和国側へと引き渡すだろう。

 そして、共和国にとって彼は居てもらっては困る人物となっている。

 少なくとも彼自身は、これをわざわざ言わなければ分からないわけもないだろう。

 問題は、周りの人間だ。

 明らかに提案をしている俺に殺意を向けてきている。

 こんな窮地に陥っている状況で傍に控えているのだから、彼らは初代大統領であるジョルジュに忠誠を誓っているはずだ。そのジョルジュに身分を捨てて隠遁しろと言えば怒らないはずがない。

 今襲い掛かってこないのは、ジョルジュが態度を示していないからだ。

 だけど、彼があっさりと大統領の地位を捨てるという決断をした場合でも、彼らは武器を構える可能性はある。

 どっちにしろ、すぐには態度を決めかねるだろうな。

「いくつか質問させてもらってもいいか?」

 重々しく、ヨースケは口を開いた。

「どうぞ。」

 勿論、こちらとしてはいくらでも質問に答えるつもりだ。そうしなければ、彼も彼の周りの人間も納得はしないだろうからな。

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