1-5 先生、お金が欲しいです。orz
「おい、ヒロシ。大丈夫か?」
ハンスが俺の肩を揺さぶっている。
心配なのは分かるけど、ちょっと怖い。
「だ、大丈夫。大丈夫ですハンスさん。」
俺はあまりの衝撃にまともに返事ができない。
いや、”鑑定”の時点でやばいって言うのに、”売買”ってなんだ?
チートオブチート過ぎて、理解が追いつかない。
やる気になれば、この世界をしっちゃかめっちゃかにできるんじゃないか?
いやいや、待て。
いくら何でも制限はかかってるだろう。
とりあえず、考え事すると怖いコメントが出てきそうだからウィンドウを閉じる。
あ、これも無意識に覚えた使い方だな。
便利すぎる。
そこではたと気づく。
俺、金持ってない。
塩を買って販売とか、胡椒買って販売とか、今の状況じゃ不可能だ。
元手がない。
ほっとする反面、これじゃ宝の持ち腐れだよなと落胆もしている。
いや、でも……
思わず、俺はハンス達を見た。
「どうしたヒロシ、思い詰めた顔をして。」
「あ、いや、ハンスさん達って、お金持ってたりしますか?」
思わず、言葉にしてしまった。
罪悪感がないと言えば嘘だろう。
世話になっておいてさらに現金持ってますかって失礼にも程がある。
「あー、いやここらじゃ物々交換が基本だな。」
ですよねぇ……
落胆二回目だ。
基本的に彼らは遊牧をしながら生活をしている。
貨幣で取引をするよりかは、必要のある物と余裕のある物を即交換しないとやっていけない。
金銭を持っていても食えないし役に立たない。
もちろん、余裕があるならば別だろうが、どう見てもハンス達のキャラバンは弱小だ。
そんなところに胡椒なんぞ出してもなんの役に立つだろうか?
いや、そもそも胡椒は高いんだろうか?
ちょっと気持ちが高揚しすぎて安易に考えすぎたな。
「と、とりあえず、僕は呪文が使えるらしいです。」
とりあえず、当たり障りのない特殊能力から教えよう。
多分隠しているのは、さっきのやり取りでバレバレだろうけど突っ込んできたりはしないと思う。
多分。
「そ、そうか、そいつは凄いな。」
ハンスもちょっと引き気味だ。
話題の反らし方が強引すぎるんだから、ハンスのせいでは決してない。
申し訳ないなと思いながら話を続ける。
「水を出す呪文と温度を操る呪文、それに動物をなつかせる呪文を覚えているみたいなんですけど………」
なんだろう、このピンポイントで役に立つ呪文群は……
滅茶苦茶派手なわけではないけれど、ハンス達にとっては有益な呪文だよね。
「便利な呪文だな。いや、まあその……」
言いたいことは分かるよ。
やっぱり、魔法と言ったら治癒呪文とか攻撃呪文だよね。
いや、それでも魔法能力自体は充分凄い能力なんだよな。
後からいくらでも呪文は覚えられるんだから。
ただ、やっぱり問題はあるんだけど。
「ははは、いや、まあ最初の呪文がそれだけだから後から覚えることも可能らしいですよ。」
ただし、教えてくれる人がいればの話なんだよなぁ。
「ちなみに、魔法を教えてくれる人とかって………」
ハンスの表情が曇る。
あー、やっぱりそんなに多くはないんだろうなぁ。
「ヨハンナに習うことはできるのか?」
一縷の望みを託していってみたんだろうけど、残念ながらヨハンナが使うまじない師の呪文とは系統が違うらしい。
俺は力なく首を横に振るしかなかった。
「いやなに、呪文が使えるってだけでも充分凄いんだ。誇ってもいいと思うぞ、ヒロシ。」
慰めるようにハンスは言ってくれているが、実際便利な呪文だろう。
恩を返すには十分だ。
借り物で返すって言うのが、少し心苦しいが。
「そうですね。キャラバンの役に立てそうですし、期待していてください。」
なるべく明るく笑ったつもりだ。
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