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22-24 気を使ってもらってたんだな。

何気にダイジェストで死にかけてます。

 寝室に戻って報告書を探ってみたけれど、それらしい報告書がなかった。

 一体どういう事だろう?

「どうかしたの?」

 ベネットに尋ねられて俺は顔を上げた。

「いや、副支店長の護衛の件って何か聞いてる?」

 そういうと、ベネットは何かを思い出したように目を見開いた後、視線をそらした。

「え? なに?」

 意味が分からず、俺は戸惑ってしまう。

「ごめんね。帰ってきたら言おうと思ってたら忘れちゃってた。これ。」

 そういいながら、報告書の束を俺に渡してくる。中身は、全部が連邦に足を運んでいた間の出来事だ。

 つまり、そういう事か。いや、でも、これルール上はまずいけれど怒ったりできないよなぁ。

「そんなに俺イライラしてたかな?」

 多分、いっぱいいっぱいになっていた俺を気遣って、優先度の低い報告は彼女が止めて独自に決済をしてくれてたという事だろう。

 支店長の愛人たちに対する身元調査までしっかりやってくれていた。処理内容も、文句のつけようもない。問題があるとすれば責任者である俺が知らないということだけだ。

 でも、ここまで調査が進んでいたとするなら、護衛の人にも愛人に対する警戒が伝わってるよなぁ。カイネには無駄なことをさせてしまうかもしれない。

 ちょっと一報入れておこう。

「大変そうではあったかな。ずっとそばに居られたわけじゃないからヒロシがどれだけ苦労していたのかは、ちゃんとわかってあげられてたって聞かれると自信がないけど。」

 これは確実に態度に出てたんだろうな。子供たちにも伝わってなければいいけれど。

「ありがとう。助かったよ。」

 結局、文句を言える立場じゃないな。もう少し余裕というのを身につけないと。

「夫を助けるのが妻の役割ですから。」

 澄ました顔でベネットは胸を張った。

「あー、でも、報告書を渡すタイミング忘れちゃったなぁ。なかなか完璧にはできない。」

 そこまで完璧にフォローされたら、立つ瀬がない。

「そういうところも可愛いと思うよ。」

 そういうと微妙な顔をされてしまった。

「別に、狙ったわけじゃないんだからね。でも、愛人の件は多分杞憂だと思う。報告書にも書いてあるけど、色んなところの商会が絡んでると思うけれど、サキュバスだったりドッペルゲンガーだったりはしなかったし。

 腕に覚えがあるタイプの人はいなかったから、あるとしても間接的かな。」

 俺は、彼女の言っている内容が書かれている報告書を探す。内容は簡潔にまとまっていて、名前の知らない商会については細く補足なんかもされていた。

 連邦で商売している商会がほとんどで、中には犯罪組織のようなところも名前を連ねている。

 だけど、恐らくベネットが”鑑定”した愛人たちのステータスは軒並み低水準だった。とてもではないが、荒事を担当している様子はない。

 あり得るとしたら、背後の組織を誘導して面倒な相手を排除するような行動だろうか?

 いずれにせよ、大騒ぎをしないといけない相手ではなさそうだ。

「そういえば、聞いてなかったけど。お仕事の方はどうだったの?」

 大統領との交渉のことだよな。

「概ねこちらの意向は飲んでもらえたかな。もちろん、代償はかなり差し出したけどね。」

 連邦は、まだまだ発展途上な国だ。それ故に、他国の支援を強く求めるのは自然な事だろう。

 逆に言えば、今の時期から関係を築けておくことは、後々の外交において有利に働くという事でもある。人的にも、資源的にも投資するのには魅力的だ。

 勿論、相手も思惑が存在しているのだから、恩恵を与えれば必ず返ってくるものではない。むしろ、恩を仇で返されることなんてよくある。

 今回の交渉だって思惑次第では反故にされることも想定しないといけないけれど、できればちゃんと履行してもらえるとありがたいな。

「多分、上手くいくよ。」

 そういいながら、ベネットは俺の手をそっと撫でてくれる。彼女の心地よい匂いが俺を包み込んでくれる。

 ここのところずっとざわついていた気持ちがふっと緩んでくれたことが分かった。

 俺は、頷きながら手を握り返した。

 

 

 戦争というのは悲惨なものだ。それがたとえ小国同士の戦いであっても、大勢の人が被害を受けて命を落としていく。

 多大な被害をお互いに負って、なんのために戦うことになったのかさえ分からなくなるほどに争い合い、失ったものの大きさに気が付いたとしても、最早自分でやめる事すら不可能になる。

 憎しみの連鎖に終止符が撃たれるのは、大抵が大きな悲劇に見舞われた後だ。

 まして大国同士ともなれば、その悲劇の深さは計り知れないものになる。そして、争い合う時間の長さも桁違いなものになるものだ。

 サンクフルールの政変は長い期間を伴い、殺戮の嵐を呼び王家の断絶をもって締めくくられる。

 新たな政府は民衆の代表としての産声を上げ産み落とした親を殺しながら這いずり回り、急速に成長していった。

 勿論、それらの成長の裏には我が王国フランドルの策謀もあるし、長くこの大陸を制していた帝国の思惑もある。何も近隣諸国ばかりが黒幕じゃない。

 遠く離れた大陸東部や南部、果ては新大陸南部の勢力も直接、間接を問わず、サンクフルールの動乱へと足を突っ込んでいく。

 幸いなことに俺が交渉に赴いた連邦は我関せずの態度を取り続けてくれたのだが、それが果たして戦乱にいい効果があったのかどうか。

 ともかく、これらの他国の介入がサンクフルールの民衆にとっては我慢のならないことではあったようだ。

 

 本当に、こちらの歴史は俺の知る歴史とよく符合する。

 

 但し登場するのは、ナポレオンじゃなかった。ジョルジュ・グレール、こちらで名乗る名はそれだったかな。ノゾミが殺さないでと言っていた、ヨースケという名の転生者本人だ。

 サンクフルール軍のしがない士官で、動乱直後には姿かたちのなかった。

 王家断絶が決定的になった後に、急速に軍を再編。サンクフルールが共和国を名乗ると同時に元帥へと推挙される。

 当初は独立した地域を横目に見つつ、膝元である王都を鎮圧、国内に残る王党派残党をあっという間に退けていく。その手並みは間違いなく名将のそれだ。

 噂を聞くだけで、俺は戦慄してしまった。仮に、彼がナポレオンと同等の才能の持ち主だとするなら、フランドルは蹂躙されかねないのだから。

 勿論、その間も手をこまねいていたわけじゃない。帝国とフランドルは協調して介入。独立を宣言したサンクフルール西部に成立したランゴバルド大公国を支援し、急速に膨張していく共和国国民軍と対峙して貰うように支援を行った。

 だが、ジョルジュ元帥の勢いは予測を上回るどころではない。たった2年の軍事行動で、サンクフルールの版図は以前のものへとあっという間に塗りつぶされてしまった。

 海では、連合の艦隊を打ち破り、海外領土についてはむしろ拡大したという状況に陥る。

 それで面白くないのが、三大国と言われた我が国と帝国だ。

 なにせ、海上封鎖されかねない勢いだったからな。辛うじて第三国の振りをしていたものの、商船に手を出されては黙って見過ごすわけにもいかなかった。

 帝国にしても王家を断絶された上に、正当な権利者であった大公までも打ち取られてしまったとあってはメンツが立たない。

 当然ながら宣戦布告が行われ、大陸を舞台とした戦争が正式に始まってしまった。

 

 本当、この路線、何とかならなかったのかなぁ。

 まさか、ベルラントが直接襲われるとは思わなかった。誰が何もない蛮地を渡って軍を進める無謀を予測できただろうか?

 勿論のことながら、まったくの無警戒ではなかった。早期警戒網としての気球は役立ってくれたし、国境を越える前の迎撃なども何度も行われた。

 だが力及ばずベルラント西部にサンクフルール軍は侵入し、急遽編成された民兵隊が組織され、国軍が派遣されるまでの持久戦を強いられるとは。

 おかげで、今まで投資したインフラがめちゃくちゃだ。鉛弾を腹にぶち込まれることになるし、本当に散々な目に合わされた。

 帝国にも、サンクフルールの遠征軍は派遣され、さらに激しい戦いが繰り広げられたのだとか。

 ジョルジュが指揮をしていたのはそちらなので、直接矛を交えることが無くて幸いだった。下手をすれば、暗殺すら考えなきゃいけない所だ。

 いや、人の不幸を喜んでいい事じゃないだろう。少なくとも、1度目の遠征で1年は戦乱の渦に飲み込まれた。

 何とか大公国を再建することに成功し遠征軍を引かせることはできたけれども、少なくとも軍事的にはサンクフルールに惨敗したと言って差支えないかもしれない。

 

 遠征軍派遣中にジョルジュはサンクフルール共和国を自身の支配下へと置き、ついには国家元首である大統領の職に就いた。

 皇帝じゃないことに少し驚いたけれど、おおむね歴史の流れは同じか。

 だけど、ここからは違う。残された連合の艦隊とフランドル海軍全軍が海での戦いを制し、急速にサンクフルールを圧迫。厭戦気分に陥りかねなかった帝国を引きずり込み、西端にまで追い込まれた大公国を海路で支援しつつ、徐々に包囲網を広げていった。

 無茶な蛮地越えはサンクフルール軍に負担を強いていた様子で、徐々に形勢はフランドルを中心とした王侯連合軍に傾き始めていく。

 本来ならば、フランドル国内で行われていたであろう決戦もロートベルクを越えた先、サンクフルールの要衝である都市の攻防へと変化し、決着も俺の知る歴史から逸脱する形となる。


 それでも、戦乱が起こってから6年という歳月が過ぎ去っていた。


 色々ありすぎて、本当にびっくりする。

 6年もあったら、1年生の子が小学校を卒業する年月だぞ。あっという間に過ぎ去っていてびっくりしてしまう。

 グスタフも生意気になったし、ヨハンナもすっかり年頃の女の子になっている。

 幸いにも汚物を見るような目で見られることはなかったのは幸いだな。

 いや、もしかしたら内心嫌われてたりするのかな? 普通に考えたら、あからさまに態度に出すような子の方が少ないだろうし。

 まあ、だとしてもそれは当たり前と言えば当たり前だから、仕方がないのだけども。

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