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22-23 期限は切らせてもらう。

相も変わらず鈍感ですね。

 クレープは甘い奴だった。バナナを砂糖で煮詰めたものを包んだもので、生地も甘い。産地が陸続きで手に入れやすいからなのか、贅沢に砂糖が使われている。

「おいしい?」

 そう尋ねると、子供たちと一緒にベネットまで美味しいと返してくる。

 ちょっと副支店長を見ると、戸惑った様子を見せていた。

「フランドルだと、甘いクレープなんてないですからね。自分もおいしいと思いますよ。」

 そこでようやく納得がいったのか、副支店長は頷いた。

「自分は、小さいころからよく食べてたので当たり前すぎて。」

 そういうと、店の人が笑いだす。

「おいおい、当たり前って言われるほど食ってもらった覚えはねえなぁ。小さい頃は母ちゃんにバナナのクレープをねだってた記憶はあるけどよ。」

 店のおじさんは副支店長と顔見知りなのか、親しげに話しかけてくる。

「そう……だったかな……でも、子供の頃の話でしょう?……」

 そういうとおじさんは肩を竦める。

「まあな。甘いクレープなんざ、女子供の食い物って言われるのはしょっちゅうさ。でも、サンクフルールにもない食い方なんだから、もっとありがたがってもらいたいもんだね。」

 そういえば、クレープはフランスの食べ物だったか。だとすると、こちらではサンクフルールが発祥と言うのはしっくりくる。

「フランドルでもクレープ屋台はありますけど、あっちでは蕎麦が原料ですね。確かに甘いのは珍しい。」

 そういうとおじさんは満足そうに笑う。

「だろう。お客さんはフランドルの人か。あっちは大分きな臭いみたいだし、こっちに引っ越してきちゃどうだい?」

 こちらでも、サンクフルールが内乱中ということは把握済みみたいだな。それが飛び火しそうなことまで伝わっている。

「そうしたいのはやまやまなんですがねぇ。商売の関係上、そう簡単にも行かなくて。」

 何せ領地を貰っているのだから、逃げ出すわけにもいかない。

「あー、いやだいやだ。なんで大陸の人たちは戦争が好きかね。出来れば、うちを巻き込まないでほしいよ。」

 ややこしくなるので、ぜひそうして欲しい。

「大統領は賢明な方のみたいですし、平気じゃないですか? フランドルじゃ王様は選べませんからね。」

 そういうとベネットが口を挟んでくる。

「うちの王様だって素敵な方よ?」

 そういうと、副支店長が噴き出す。

「す、すいません。確かに、うちの商会もフランドルの恩恵を受けてますからね。素敵な方じゃないと困ります。」

 なんでそんなしどろもどろになるんだろう。軽い冗談なのに。

「そうかいそうかい。いい王様ならあやかっておかないとな。お嬢ちゃんと坊ちゃんには、おまけにいちごジャムのクレープをおまけに付けてやろうかね。」

 そういうと、ヨハンナは嬉しそうにありがとうと答えるが、グスタフはちょっと嫌そうな顔をする。

「甘いのもいいけど、しょっぱいのがいい。」

 ワガママだなぁ。

「じゃあ、イチゴジャムのはお母さんにあげよう。すいません、何かしょっぱい奴はありますか?」

 見た感じそうお高いものじゃない。適当に追加注文しよう。

「そうかい。じゃあ、チーズのクレープなんてどうだい? 坊ちゃんの口に合うかは分からんがねぇ。

 ベンジャミン、甘いのじゃなきゃ食うだろう?」

 そう尋ねられて、副支店長は思案した顔をした後、首を横に振った。

「久しぶりに、バナナのクレープが欲しいかな。頼めるかい、おじさん。」

 そういうと、おじさんは嬉しそうに笑い、任せておきなと答えた。

 

 クレープ屋を後にして、自動車で街の案内を色々としてもらった。帰るころになると、子供たちは疲れたのかすやすや寝息を立て始めている。

 助手席からバックミラーで見ると、二人を膝にのせているベネットもちょっと眠たそうにうつらうつらしている。

「色々と勉強をさせていただきました。」

 突然、副支店長から言われて俺は少し戸惑う。なにか学びにつながるようなことがあっただろうか?

 いや、何かがあったのなら、それはそれでいいのだけど。

「そんなに畏まらなくてもいいですよ。副支店長は真面目な人ですね。」

 そんなことを言っても、難しいと言われそうだな。

「支店長ほど機転が利きませんので。自分の至らなさを痛感しました。」

 そんなのじゃ、潰れてしまう気がするんだよな。

 でも、いい機会だから支店長の不正についての話もしておくか。

「あの人の場合は、不真面目すぎですけどね。ここからは、ちょっと厳しい話になるので真面目に受け止めるか聞き流すかはお任せします。」

 突然だと困るとは思うけども、一応認識はさせておいた方がいいだろう。

「愛人の件ですか?」

 なんだ、知ってたのか。

「それと、資金の私的流用ですね。他にも、従業員に対する不当な扱いもいくつか確認しました。不当な扱いについては、副支店長も把握済みですよね?」

 日誌を見る限りでは、相談相手は彼だ。知らないということはないだろう。

「お願いします。しばらくは、様子を見ていただけませんか?」

 そりゃそうだよな。じゃなければ、とっくに告発なりなんなりがあったはずだ。

 もし、野心のある人間だったら、あからさまな不正をしているのが分かった時点で支店長の失脚を狙うはずだ。例え小心者であっても、より上位の人間に不正を把握していると告白されてしばらく様子見してくれとは言わないだろう。

「あなたたちの間に信頼関係があるのかどうかは知りません。ただ、様子見はしますよ。

 理由は分かりますか?」

 そういうと、副支店長は泣きそうな顔になる。

「分かっているようなので、これ以上は言いませんよ。

 ただ、忘れないでください。

 いつまでもは待てません。特にうちの信用にかかわるような事態になれば、いつでも手を下します。

 それが可能であるというのは、賢明なあなたならわかるはずだ。」

 期限を決めないのであれば、それこそ無責任になるな。

「三ヶ月をめどにしましょう。それまでには、こちらでも答えを出します。」

 こっちでは大分短い期限設定だ。

 おそらく、何らかの意思決定をして動き出したとしてもぎりぎりと言う感じになる。自分の感覚としては大分悠長に感じてしまうけれど、それはチートがあるからこその感覚だ。

 なので相手側からすれば短いけれど理不尽と言うほどでもなく、俺からしても待てるぎりぎりと言う感じでちょうどいい期限だと思う。

 もっとも支店の人事に、わざわざ配慮をする必要があるのかという考え方もあるけれども。

「ありがとうございます。」

 ありがとうって言われても困る。別に見逃すよって話をしているわけじゃないからなぁ。

 しかし、この件はちゃんとブレンやイレーネにも知らせておかないと。

 

 自分の領地であるベルラントに戻った段階でハルトを呼び出した。

 一応ではあるけれど連邦支店の話については商会内で意識共有してみたが、現場の状況を確認してみないことにはどうするのかというのが決められないという答えになっている。

 つまり、改めてブレンが連邦支店に顔を出すか他の幹部なりが視察してからにしようということだ。

 その前に、おそらくもっともあちらの状況に明るいであろうハルトに話を聞こうということになったわけだけれど、手紙ではあまりはっきりとしたことが分からなかった。

 正直、ハルトを疑うわけじゃないがカイネにも同席願って話を聞こう。一人だけの視点だと見落としとかありそうだしな。

「なあ、ヒロシ。俺も準備があるから忙しいんだけど?」

 応接室に入ってくるなり、不満顔だ。いや、忙しいのは分かるんだが、もうちょい何とかならんか。

「緊急の話なので、申し訳ないですがお時間下さい。それで、手紙の方は読んでもらったんですよね?」

 生返事を返されて俺としては不安が搔き立てられる。

「すいません、ヒロシさん。ハルトも私も、特にこれと言ったことは気づいてなくて。」

 そんなものなんだろうか?

「横領だとか、愛人だとか、別にこっちじゃ普通じゃねえの? むしろ、無茶なお願いばっかりしてたから迷惑かけてたかなって思うくらいだし。」

 そうか、ハルトとしては世話になった相手と言う感じなんだな。

「確かに、どっちもよくある話ではあるんですよ。ただ、それはバレないようにしてた場合です。

 あそこまで大っぴらにやられるとこちらとしても咎めないわけにはいきません。パワハラも結構やってたみたいですしね。」

 そういうと、ハルトは何かを思い出したように頷く。

「確かに、副支店長だとか男の従業員にはやたら厳しかったかも。でも、女の人には凄く気を使ってた気が……」

 愛人には愛想が良かったのか。

「ちなみに、女性の従業員っていないんですよ。あれ、全員が愛人です。」

 ハルトの顔が引きつる。

「いや、まじ? いや、確かに若い子ばっかりだなとは思ってたけど、あれ全員愛人なの?」

 信じられない気持ちも分からなくもない。二桁の人数が全員愛人って、どういう感覚なんだろう?

 顔覚えてられるのかな?

「半数が支店の幹部ですけど、実働は従業員任せでしたよ。実質支店長の独断で支店が動いてました。」

 それで黒字が出せるのだから、文句はないだろうという理屈も成り立たなくもないが、その分だけ従業員にしわ寄せが言っていたという事でもある。

 決して褒められた話じゃない。

「ちょっと待ってくれ。まさかベンジャミンさんまでグルじゃないよな?」

 ここで名前が出てくるということは、どうやら副支店長にすべてのことを丸投げしてたな。

「グルとまでは言いませんけど、見逃していたのは事実でしょうね。愛人の件は把握していたし、パワハラの件もなんとか彼一人で解決しようとしてたみたいですし。」

 すると、みるみるハルトの顔が曇っていく。

「いや、凄く仲がいいんだなと思ってたんだよ。常に何かあるとベンジャミンさんに相談みたいなことしてたし。

 えぇ……

 相談してくれればよかったのに。」

 なんだか、ハルトは相当ショックを受けてるみたいだな。でも、ハルトはともかくカイネも気付かなかったのかな?

「少なくとも、数年前までは仲良くやっていたと思うんですけど。女性が増え始めたのも丁度その辺りだったような。」

 なんだか嫌な予感がするな。そういえば、愛人全員を検分してただろうか?

「なあ、ヒロシ。ベンジャミンさん大丈夫か?」

 ハルトはちょっと腰を浮かしている。

「あぁ、えっと。叔母様の所に、トーラスさんから護衛任務を受け取ってますよ。暗殺が得意って言うことはそういう事でもありますから。」

 カイネの言葉を聞いてハルトは俺の方を見てくる。思わず、俺は顔の前で手を左右に振った。

「思いついても無いですよ。なんかこういうことがあると、つくづく自分が無能だなって気づかされます。」

 なんだかため息をつきたくなる。

「ヒロシさんも忙しいでしょうから、気付かないのは仕方ないと思います。でも愛人が原因だとするなら、それを警告しておかないと。」

 インベントリ経由では、店長に警戒されていれば握りつぶされるかもな。

「安心してください。私にも連絡手段がありますから。ヒロシさんよりは遅れるかもしれませんが、ちゃんと伝えておきます。」

 そういえば、カイネは自然にまつわる呪文を得意とする呪術師でもあったな。そこら辺はむしろ、俺よりも得意なのかもしれない。

 下手に俺が瞬間移動したりだとか、インベントリ経由であっちに行くよりも安全だろう。

 しかし、トーラスが依頼を出していたって言うなら、当然俺も知らなきゃおかしいんだよなぁ。報告忘れなんて、トーラスがするはずがない。

 きっと俺が報告されてたの忘れてたんだろうな。後で、報告書を再確認しよう。

 

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