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22-22 国家規模の話からすれば、些細な事ではあるけれども。

何気にサポートされてますね。

「お時間を頂き感謝致しますケネス大統領。陛下よりベルラントの地を預かっております、ヒロシ・オーサワと申します。こちらは妻のベネット。

 どうぞ、お見知りおきのほどを。」

 俺がそう挨拶をすると、メアリー連邦の大統領であるケネス・パクストンはぽかんとした表情を浮かべた。

 ちょっと待て。俺の挨拶は何にも問題ないはずだぞ?

 なんだこの空気。

「あ、いや失礼。御高名なベルラント伯にお会いできて光栄です。

 大統領とはいえ、民衆から選ばれた身です。民会の意見を尊重せねば、何もできない立場。

 所詮は村長に毛が生えた程度と思われる方も多いので、意外なご挨拶に戸惑ってしまいました。」

 今度はこっちが笑顔を引きつらせる番になってしまった。今目の前にいるのは、連合の猛攻を凌いだメアリー連邦随一の名将だ。

 また、大統領になってからの手腕も見事の一言に尽きる。内政はもちろんのこと、不安定な外交においても影響力を行使する傑出した人物と言っていい。

 そんな相手に、うちの国の外交官は何をやらかしたんだろうか?

「ご謙遜を。こちらにも大統領の偉業は伝わっていますよ。

 おそらく、親しみやすくお声がけくださったことで、こちらのものが勘違いをしていたのかもしれませんね。

 何か、ご無礼でもありませんでしたか?」

 そういうと、大統領は曖昧な笑みを浮かべた。

 やばいな。こういうタイプの人が一番交渉が難しい。ストレートに不満や要求をしてくれる人の方がはるかに気が楽だ。

「私自身は大した人間ではありませんよ。竜殺しを成した閣下と比べれば非力で矮小な存在です。

 でも、そんな取るに足らぬ人間でも、集まれば大きなことを成せる。あの強大な連合であっても振り向かせることも可能だ。

 決して、我々は無力ではありませんよ。」

 俺は大統領の言葉に圧倒されて息を飲んでしまう。女王陛下の時にも感じていたが、やはり一国を担う人物と言うのは雰囲気からして違うな。

「肝に銘じておきましょう。私は少なくともあなたを侮るつもりはありません。」

 そういうと手を差し出された。握手を求められたということに少し戸惑ったが、交渉しに来てるんだ。

 その手を取るのにためらいを覚えちゃいけない。しっかりと握手をしよう。

 しかし、連邦担当の連中はこんな大役を気軽に回してきて何を考えてるんだろう? 後で恨み言の一つでもぶつけてやりたい。

 

 メアリー連邦の現状は、はっきり言ってしまえば厳しい。広大な土地はあるものの、手つかずの自然はかなりの脅威だしオークたちの部族がかなりの脅威だ。

 農業生産も綿花などに限られて、奴隷たちが居なければ成り立たない農場も多い。そもそもが連合の植民地であったためにインフラ投資が歪であったことも災いして決して豊かな土地とは言い難い。

 地下資源に関してもまだまだ手つかずであって、どこに何があるのかさえ把握されていないのだから、どこから手をつければよいのかと途方に暮れるだろう。

 だけど、それこそがこの国の強みだ。無限の可能性がある。

 様々な利権やしがらみにがんじがらめになっていて過度な開発で行き詰ってしまっている旧大陸と比べてしまえば、まさしくこれからの国と言えるだろう。

 フランドルから夢を抱いてこちらにやってきている人間も増え始めている。

 恐らく、初期のアメリカもこんな雰囲気だったんだろうな。

 ケネス大統領との交渉で要求される内容はまさしくこれから必要になるであろう、人や技術についてだった。

 採掘機や農地を開くための耕作機械、新たな農薬や土地に合った種子、それらを扱うに足る研究者や技師、辛い環境にへこたれない開拓者。

 熱心に、そしてどん欲に大統領はこちらの懐を探るように言葉に出してくる。

 勿論、こちらも善意だけで交渉しに来たわけではない。要求されたならば、当然見返りを要求する必要がある。

 正直に言えば、出したもの以上のものを手にしなければ外交官としては失格だ。それは、商品を高値で売って儲けを最大にするための商売を心がけるのと似ている。

 勿論、単純にお金という物差しだけで測れるものばかりじゃない。状況や発言、それらを天秤にかけてフランドルの有利に働くように行動してもらう。

 それこそ、1日の差で価値が激変するような事柄も多い。

 駆け引きという面において、それなりに自信を身に着けてきたつもりだ。それでも、全力を振り絞っても中々厳しいと感じてしまった。

 本当に素人同然だなぁ。

 ただ、少なくとも損はしていないはずだ。

 1週間に及ぶ交渉の末に何とか、大臣に提出できる内容にまとめ上げられたので、覚書を送付することができるだろう。

 ただ、本当に連邦担当は一体何を考えて俺に交渉を任せたのだろう?

 何度か、大使と話をする機会を設けていたけれど、全部お任せしますとしか言ってこないとか無責任にもほどがある。閣下であれば、間違いがありませんからとか何をどう見ていたらそんな言葉が吐けるのだろうか?

 大使自身もそれなりに経験を積んでいるはずだけれど、交渉の場に同席することはあっても自ら発言することなんかめったになかったしな。

 こっちが失敗するのを狙ってるんだろうか?

 本当に勘弁してほしい。切羽詰まった状況なんだからせめて国の中で争うような真似はしてほしくないんだけども。

 とはいえ、あからさまに足を引っ張られたわけでもないからケチをつけるわけにもいかないし、こっちから争いを仕掛けるような真似はできない。

 なんだか、本当にムカついてくるな。

「イライラしてる?」

 そういいながら、ベネットがお茶を差し出してくれた。机に向かってイライラしながら書類を書いていたから、気分が落ち着く野草茶は助かるな。

「大分ね。押し付けられた気分だったから。」

 そう言って、熱めのお茶を口にすると溜まっていたものが全部流れ出すような気分を味わえた。

 ほっと溜息をつく。

「そっか。ヒロシも追い詰められてたんだね。もしかして、足を引っ張られて意地悪されてるとか思ってたり?」

 改めてそう言われると、俺が考えていたことに間違いがあったんじゃないかと疑問がわいてくる。

「目を逸らさなくてもいいのに。ヒロシと同じ立場なら、私もそう思っちゃうし。

 でも、多分だけれど大使も他の職員さんも悪気があってじゃなかったんじゃないかなぁ。本気で頼ってたんだと思うよ。」

 何を根拠にと思ったりもしたけれど、彼女の方がよほど俺より人を見る目がある。何かしら俺の知らないことも知ってるんだろうし、頭ごなしに疑うのはよくないよな。

「そうであってくれたなら、良いんだけどね。付け焼刃とはいえ上手くやれたんだし、役に立ったのなら幸いかな。」

 そういうと、ベネットは笑う。

「そうだね。でも、嫌味に聞こえちゃうと思うから、ちょっと注意ね。」

 確かに聞きようによっては嫌味に聞こえるか。本当に注意しよう。

「そういえば、副支店長さんとお話しした?」

 面談は何度か行っているけれど、彼は彼でなかなかに癖が強い人物だった。

「あー、うん。自信がない所は俺と似てるかも。」

 だから、足を引っ張られてるんじゃないかと被害妄想に陥ったりするんだよな。

「確かに。もう少し、支店長さんと仲良くやってくれていればいいんだけど。仲良くはできないよねぇ。」

 支店長がそもそも副支店長を認めていない。能力的に劣っているから、世話をしてやっているという感覚があるんだろう。

 かといって、支店長が抜けた穴を副支店長で埋められるかと言われると微妙だ。どちらかと言うと、人に率いられてこそ輝ける才能の持ち主な気がするからな。

 あるいは、守りたいものができれば何か変わったりするかなぁ。

「そんなに人は簡単に変われないよ。同じことを繰り返して何度も失敗して、それでようやく何かがつかめるかもって思える程度だもの。

 あんまり、期待しすぎちゃ駄目だよ。」

 相も変わらず、考えていることが筒抜けだ。確かに、家庭を持てば変わるかなとかって、ベネットを見たりもしたけれど、そこまで的確に把握されて注意を受けるとは思わなかった。

「一旦帰ってからだね。もしかしたら、ハルトさんが何かを掴んでるかもしれないし。」

 一度背筋を伸ばして、再度書類に取り掛かる。

「程々にね。疲れてたら、無理はしない方がいいよ。」

 そう言われて背筋を撫でられてしまった。うーん、そんなに疲れてはいないんだけど。

 

 フランドルに戻る前に、再度副支店長と話す機会を設けた。

 名目としては、支店のある街を視察するって言うことで依頼をかけたわけだけれど、当然今日も支店長は出てこない。街のことは副支店長の方が詳しいからだとか。

「閣下。フランドルに比べればこんな街なんて見るべき場所はないと思われますが。」

 自信なさげに、副支店長は伏し目がちに笑う。

「あー、えっとあなたの出身はこっちじゃなかったでしたっけ?」

 フランドルからの移民だったりするんだろうか?

「はい、そうですが。」

 じゃあ、なんでフランドルのことを知ってるんだろう?

「あっちで働いてたりとか?」

 そういうと首を横に振られた。

「じゃあ何故、フランドルの方が見るべき場所が多いと思ったんですか?」

 言葉に窮してしまったのか、副支店長は目を逸らして押し黙ってしまった。いや、何かしらの意見が欲しかったんだけどなぁ。

 言葉がきつかっただろうか?

「問い詰めるようなことを言ってしまったみたいで、すいません。ただ、何かしらの判断でそういったのであれば興味があっただけで、問いただしたいだとか、怒っているだとかじゃないんですよ。」

 なるべく、語気が強くならないように言ってみても、目も合わせてくれない。

「ベンジャミンさん。あそこにあるお店なんですか?」

 ベネットが急に話に割り込んできて、町の一角を指さす。ベンジャミンっていうのは、確か副支店長の名前だったっけかな。

「あぁ、どこにでもあるクレープ屋ですよ。」

 どこにでもあるか。

「おいしいですか?」

 目をキラキラさせて尋ねられると、俺が食べに行こうと言いたくなってしまう。

 いや、そうじゃない。副支店長から、何かを引き出そうとしてるからこういう尋ね方をしていることくらい、いくら鈍感でもわかる。

「え……えぇ、ま、まぁ……バナナのクレープがおすすめですよ……」

 バナナかぁ。やっぱり土地柄があるな。フランドルでは、まだバナナは高級品だ。

 果たして、クレープは甘いのかしょっぱいのか、どっちなのかに興味があるな。

「ちょっと寄って行きましょう。どんな味か、楽しみだねグスタフ、ヨハンナ。」

 そういうと、二人とも楽しみと元気よく返してくれた。

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