22-20 チートを貰っても面倒ごとは無くならないなぁ。
葬儀の後は新大陸に外遊という、なんとも政治家らしいムーブ。
少し、アルノー村の状況を確認させてもらった。耕作面積は以前の10倍以上に広がり人口も倍くらいに増えたそうだ。革製品や服飾関連の工場も建設されていて、標準的な農村からは完全に逸脱している。
村全体の所得も増えて、村長家以外にも有力な資産家が増えてきているそうだ。
それだけに、郷士の地位が失われたことは痛手だとブラームは頭を抱えていた。
「閣下にお力添えしていただけるなら、こんなに心強いことはありません。どうぞ、よろしくお願いします。」
こっちから出した話だし、お世話になったお礼といえない。自分の利益のためでもあるしな。
頭を下げられるのが申し訳なくなってしまう。
「アルノー村からは様々な恩恵を受けているのでお気になさらず。むしろ、お節介かもしれないのに受け入れていただいてありがとうございます。」
こういうと謙遜をしていると受け取ってもらえるんだろうな。
いや、それが目的ではないと言い切ることはできない。期待はしているんだから。
ブラームの申し訳なさそうな顔や奥さんのミレンの笑顔を見ていると、罪悪感がこみあげてくる。それを素直に顔に出してしまうと色々と問題があるから俺は無理やりにでも笑顔を作って見せた。
「最近は国軍から兵士用の服も依頼されているようで、アレンも大忙しですよ。ちなみに、戦争が近いというのは本当でしょうか?」
モーダルでもその話題が出てきているのだから、近郊のアルノー村でも話題になるのは当然だ。
馬具や軍服なんかも取り扱っているのだから、当然ながら敏感にならざるを得ない。
「場合にもよりますが、戦火がフランドルに及ぶ可能性もあります。今のところはお隣の中で納まっているようですけれどね。」
最悪を想定するなら蛮地を踏み越えてサンクフルール軍が襲い掛かってくる可能性も、ゼロではない。
勿論、軍を編成し何もない荒れ地を踏破するのはかなり困難ではあるものの、自動車の普及やワイバーンからなる空軍を有するサンクフルールの軍事力ならば、絶対に不可能と言い切れるものではないからだ。
当然、こんな事を言えばブラームは眉を顰めるよな。あまり想像をしたくないことでもあるし。
「ロートベルクが再び抜かれるという事なんでしょうか?」
勿論、その可能性も十分にあり得る。ともかく、軍が動いてみないことにはわからないことも多いしな。
「海側から来る可能性もあります。モーダルは特に海軍の拠点になりつつありますし。」
現在のモーダルは最新の装甲艦が何隻も建造されていた。貿易港であると同時に、海軍工廠という軍事拠点でもある。
とはいえ、サンクフルール海軍が直接モーダルまで到達するには連合の艦隊を抜く事が必要だ。戦力的には、よほどのことが起きない限りは安全とみてもいいかもしれない。
勿論、連合がフランドルとの同盟を軽視していないという但し書きが付くけども。
特に連合は議会の権限が強い。いくら女王陛下と個人的なつながりがある俺でも、連合の意思決定を完全に把握できるはずも無いわけだから、油断はできないよな。
「もし戦火がこの村を襲ったら、どうすれば……」
そんなの逃げるしかないだろう。
「安心してください。もしそんな事態になりそうなら事前にお伝えしますよ。荷物をまとめて逃げる時間くらいは稼げると思います。」
村長夫妻は目を丸くしてしまっている。見かねたベネットが口を出してくれた。
「国土を守るのは、国軍の役目です。土地を守るために槍を取るよりも、軍が去った後に再び土地を耕す鍬を動かしてください。」
あぁ、そう言わなければ伝わらないのか。彼女の言葉に納得したのか、ブラームは頷いた。
本当は敵軍にとらえられたりしたらむやみに逆らって抵抗する必要は無いとも言いたかったけれど、民間人には手出しをしてはいけないという常識はまだない。
その事を踏まえると抵抗するなって言うのは酷な話だ。
勿論、むやみやたらに非武装の人間を攻撃することのデメリットと言うのは軍上層部などでは把握しつつあるようではあるけれど、それを兵士単位で徹底させるのはかなり難しい。
あっちの世界でも民間人だから攻撃しないという常識はあっても、現場ではゲリラと民間人を区別できないというジレンマのせいで度々不幸に見舞われる。
ましてや、略奪しないと兵站を維持するのが難しい現状で民間人を穏当に扱えるのかと聞かれれば無理だって答えになるだろうしな。
とはいえ、抵抗するのと大人しく従う場合で、どっちか生き延びられる確率が高いかと聞かれると、悩ましい。
「まあ、何より戦火が及ばないのが一番いいんですけどね。そうなるように頑張りますよ。」
思うように事が進められるとは限らないけれど、できうる限りの努力をしよう。
国家がいつ生まれるのかと言われるとなかなかに難しい。それはそもそも国家とは何かという話になるからだ。一般的な定義を考えれば居住可能な領域と住民、そして主権と言うあやふやな要素の3つから成り立っている。
前者二つは人と土地なのだから簡単だけれども、主権となってくるとかなり難しい。字義を考え辞書を引いてみても他の意志に左右されない絶対性なんて事が書かれていて、果たして本当にそんなものは存在するのかと疑問が浮かぶ。
解説を読み込む限りは、統一された政府による支配であると読み解けるわけだけれども、じゃあ政府とは何ぞやという話になってしまう。
俺が所属しているフランドルは貴族たちによって土地が治められていてそれぞれに主権を持っている状態とも言える。
しかしながら、諸外国に対する外交権の行使や軍事力の投入については国王に一任されるものと了解されていた。
これは、つまり一部の主権を国王に委ねているということに他ならない。
実際のところ、支配する貴族が違っても法律に共通性もあり行政のやり方と言うのにも多くの部分で同じやり方を踏襲している。主権があるからって、独自性に拘る貴族と言うのは少ない。
さらに言うのであれば、近年の改革によって貴族の主権と言うものは縮小していっている実情だ。
恐らく、フランドルはこの時代に近代化したと歴史書には記されることになるんだろうな。
じゃあ、そんなにはっきりとした区切りがあるのかと尋ねられると困ってしまう。その時代を生きている人間にとって明確な境目が分かるわけなどないのだから。
とはいえ、議会の開設と宰相を長とした行政府の発足は明確な区切りになるだろうな。
俺が最もかかわりのある大使たちや使節たちを束ねる外務省は先んじて開設されていて、付随する組織も続々と産声を上げている。
役職もだいぶ整理されていて大臣の下には旧大陸担当、新大陸担当、東方担当、南方担当という地理的な分担がなされていた。俺は旧大陸担当のベレスティア連合対応と瑞穂国連絡対応の部長を兼任しているという形になっていた。
なのに何故だか担当違いのメアリー連邦に渡航する羽目になってしまった。なんでだ?
いや、別に行ったことのない国に行くことが嫌だという話じゃない。旅行なら大いに楽しませてもらいたいところなんだが。
当然ながら、役職として訪問する以上は仕事がともなう。旅費やら日程調整やらもやって貰えてるんだから、それは文句はない。子供たちも連れていっていいとか言われてるし待遇に文句はない。
だけど、メアリー連邦の大統領と面談っていうのは、ちょっとおかしくないかなぁ。
おかしく……
いや、おかしくはないのかぁ。
現在緊張状態にある旧大陸に下手なちょっかいを掛けてもらいたくないという思惑もあるし、そこへ見返りを用意できる人間が他にいるのかと尋ねられたなら、他に居ませんという答えしか返しようがないしな。
商会経由とはいえ以前から連邦内で取引を行っている実績に、フランドル随一の工房であるアレストラ工房の出資者の一人でもある。
技術面、資金面での引き出しの多さなら間違いなく他の貴族よりも俺にお鉢が回ってくるのは当然だろう。
ただ、懸念事項としては連邦と連合の仲は良好とは言えず、その上で俺が連合と懇意にしていることに対して、余計な勘繰りをされかねないという部分がある。
下手をすると連邦を罠にはめる陰謀を仕掛けてきてるのではないかなんて疑われてしまっても、文句は言えないんだよなぁ。
勘弁してほしい。
下手な勘繰りを受けないように、なるべく慎重に行動すべきだな。
しかし、改めて思うけれど言葉の心配どころか、移動の心配もしなくていいっていうのは本当に助かる。連邦内にグラスコー商会の支店があるおかげで、インベントリ間移動を駆使すれば予定されている長い船旅も省略することが可能だ。
そういった利点を最大限に生かして、なるべく穏当に目的を果たせるように頑張らないとな。
インベントリ間移動は以前と変わらず、俺以外の人間では取り出してもらう必要がある。なので支店長にはインベントリの存在が明かされていて引き出しをする権限が与えられていた。
権限があれば、荷物や人物が到着した旨を知らせるようにもなっているからよほどのことがない限りは取り出されずに放置されるなんてことはない。
勿論、管理者次第ではあるんだけれど。
ハルトの話によると、支店長は大分アバウトな人らしく、予告しないと放置されてしまうことも多かったらしい。なので、移動するときはもっぱら魔法を利用していたそうだ。こっちなら、人の手を煩わせずに済むしな。
それに俺の場合はインベントリ間移動でも自発的に外に出れるから問題はないんだけども。
一応念のために事前通告しておいた。もちろん、自力で出れることも念のために申し添えてある。
インベントリ内から外の様子も確認できるのだけれども、通達した時間には誰も来ていない様子だ。大丈夫だろうか?
まあいい、外に出よう。
俺は、子供たちの手をつないで新大陸の地を初めて踏みしめた。
「新しい所に来た感動っていうのがないよねぇ。」
船の上から移動してきたから確実に感覚は違うのだけれど、ヨハンナの反対の手を握っていたベネットの言葉に俺は頷いてしまった。
「建物の様式は、連合の建物っぽいしねぇ。」
荷物が届けられるインベントリだけに、設置されているのは倉庫の奥だ。雑然と荷物が置かれていてなんだか懐かしい気分になるな。
しかし、人の気配が全くないのは困ってしまう。泥棒に間違われたりしないよな。
念のために事前にトーラスに来てもらっているはずだけれど、彼の姿も見えない。
どうしたもんだろう。
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