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22-19 立場が立場だからなぁ。

果たして、選んでいるのか選ばされているのか。

「わざわざこちらまで足を運んでこられたということは、何か私に御用でしょうか?」

 晩餐の終わり際に、会場の端にいる俺のところまで来たんだから、これくらいは意識してもいいよな。

 彼女が着席するのを待ちながら一応周囲を確認する。そこそこ監視されてるなぁ。

「勿論でございます。我が主の言伝は大半こなしておきましたが、閣下には別のお話がありますので。」

 言伝とは恐らく帝国側の外交的、そして軍事的な協力要請や提案が主な内容だろう。それ以外の特別な話か。十中八九、サンクフルールの国王についてだろうな。

 聞かないという態度を取ることもできるけれど、その場合は情報なしで立ちまわる必要が出てくる。そういうのは得意じゃないんだよな。

 かといって心の内を聞きだそうにも、それなりに対処はしてきているだろう。

 もし、何の対処もしてきていないのだとしたら、それは話を聞くのと変わりがないことになるはずだ。

「お互いに、利益のあるお話だといいんですがね。」

 少し悩んだが、話すことを促した。そもそも俺には腹芸なんて向いてないのは確かだからな。

「閣下とお話をするときはいつも緊張してしまいますわ。話してはいけない事も話してしまいそう。」

 妖しく微笑まれると、むしろこっちが緊張するんだけどな。ますますベネットの視線もきつくなってきてるし。

 視線だけで人が殺せそうだ。

「おそらく、閣下のお考えの通りですわ。ただ、道は三つございます。

 一つ目は、手紙の通り全てを受け入れる道。

 二つ目は全てを拒否し、静観を決め込む道。

 そして三つめは……」

 ヘスティアは、ここであえて話すことをやめた。

「受け入れるふりをして、消してしまえと?」

 わざわざ三つ目と言ったことを考えれば、そういう事だろう。

 利点としては、革命派に国王殺しの汚名を擦り付けられる。そして、正当な支配者として帝国が名乗りを上げれば矢面を任せつつ、大義を掲げて軍事侵攻が可能になる。

 もっとも、これはバレなければという但し書きが付くのは忘れちゃいけない。疑惑を避けるために、革命派の中でも強硬な人物に引き渡すというのも手だ。

 わざわざ事前に選択肢を示すということは、恐らく帝国側とフランドル側で話はついているのかもしれないな。

 それでも俺に選ばせるということは陛下にも迷いはある、と言う事なんだろうか?

「ちなみに、あなたはどう考えているんですか?」

 聞いても仕方ないかもしれない。

「我が主は、当然ながら三つ目を選ぶべきだと……」

 思わずため息が漏れてしまう。それは、そうなんだろうけどさ。

「失礼ですけれど、私の主人が尋ねたのはヘスティア様個人の考えなのですが?」

 不機嫌そうにベネットは尋ねた。それに対して、彼女は微かに眉を動かし、押し黙ってしまった。予測もしない反応に、俺も戸惑う。

「私には、何の思い入れもございません。どのような道を選ばれても、ああそうなのだなと思うだけですわ。

 でも、奥様はずいぶんと残酷な方ですね。あまり、いじめないでください。」

 貼り付けたような笑みを浮かべ、ヘスティアは足を組んだ。あえて、そうすることで自身の殺意を抑え込んだようにも見えた。

 いや、俺の思い過ごしかもしれないけれど。

「あなたが選ばない人なのか選べない人なのか、よく分かりました。失せなさい。」

 ベネットは、不機嫌さを隠すことなく全身で表現した。これは相当腹に据えかねてるんだな。

「言葉が過ぎるよ。とはいえ決めるのが私だというのであれば、その時に決めましょう。これで返答になりますか?」

 俺の言葉に、ヘスティアは頷いた。

「奥様には嫌われてしまいましたわね。どうぞお許しを。それでは、失礼します。」

 そういうと彼女は席を立って、晩餐の場から姿を消していった。

「人に押し付けんじゃないわよ! まったく。」

 ヘスティアの姿が見えなくなってから、ベネットはテーブルに肘をついて悪態をつきながら足を組んだ。

 しかし、耳が痛いなぁ。

 結局のところ俺も状況に流されて、何かを選んでるとは言えない状態だしな。

「ヒロシは違うよ?」

 頬杖を突いたまま、ベネットは急にそんなことを言う。

「そうかな? なにも違わないと思うけれど。」

 状況に流されて、こんな立場になってしまったような気がする。

「もしかしたら選ばされてるのかもしれないけれど、私は少なくともヒロシと一緒に居ることを選んでるつもりだよ。

 あー、でも、あの人には言いすぎちゃったのかな。」

 さっきのヘスティアに対する言葉の事だろうか?

「きっと、選びたくても選べなかったんだろうなって……

 だから、ヒロシの言うように言葉が過ぎたのかもしれないね。」

 少しむくれた様子で、ベネットはため息をつく。

「別にあの人のことをそんなに嫌ってるわけじゃないの。選べない人に選んだ責任を押し付けている人が嫌い。」

 彼女の嫌悪感がなんであるのかはよく分かった。共感はするけれど、じゃあ俺はそんなことをしていないと胸を張って言えるかな。

「選んだ以上は、責任を果たさないとって事か。なかなかに難しいよね。」

 俺の言葉に、そうだねと言って彼女は頷いた。

「私だって、ちゃんと出来てるって胸は張れない。だけど、やっぱりそんな自分になるのは嫌だよ。」

 頬杖をついていた手を下ろし、彼女は俺の手を取る。

「俺もだよ。」

 そう言って、重ねている手を返して彼女の手を握った。

 

 色々と立て込んでいる中で、アルノー村に行く用事が出来てしまった。

 村長であるドレンさんが亡くなったためだ。年齢を考えれば大往生ではあるのだけれど、記憶の中では元気だった人が急に亡くなるとなかなか受け入れがたい。

 ブラームが村長として引き継いでいたので、アルノー村としては何も変わりはないけれど、ドレンさんに送られていた郷士の地位は失われる。

 税の免除であるだとか、森や川の所有であるだとか、その辺がいったん白紙に戻るのだから不便と言えば不便か。地位が引き継がれないというのは結構厳しいな。

 勿論、代々続く騎士の家なんかだと事前に根回しをして跡継ぎが同じ地位になるケースも多い。建前としては、あくまで個人の才覚で同じ地位を得ているという建前にはなっているけれど実質相続だよな。

 郷士の場合は騎士とは違い最近できた地位だ。伝統が違う。

 だから建前を無視するわけにもいかず、一旦地位を返上する他にはないというのが現状だ。代々郷士って言う家が増えていけばそれも形骸化していくんだろうけどな。

 勿論、それがいい事ばかりでもない。地位にふさわしくない人物が跡を継いでしまえば結果として周囲に悪影響を及ぼす可能性もあるし、地位を持たないもののチャンスを奪う場合だってある。

 貴族制の是非については、判断を付けにくい。

 もっとも放っておけば勝手に身分制度は作られるものだし、不都合が生じていくわけだから為政者側は定期的にリセットをかけないといけないのも事実なんだよな。

 いや、自分はどっちかと言うとリセットされる側の立場になってしまっているんだから、こんな事を考えてちゃいけないんだろうけども。

 ともかく、ドレンさんが亡くなったことはアルノー村全体にとってそれなりの損失を齎してしまう。

 話によれば農業収益よりもブラームの革細工やアレンの服飾関連の収入の方がはるかに大きいそうなのだが、村全体としては依然として農業に従事している人の方が多いことを考えると郷士として得ていた川の水利権については本当にきついという嘆きがあちこちから上がっている。

 葬儀の場でそんな話をするなと言われても、死活問題だからなぁ。致し方ない。

「この度はご愁傷さまです。」

 ちゃんと翻訳してくれてるかなぁ。

「閣下。わざわざ足を運んでいただき感謝の念に堪えません。父もきっと喜んでいることでしょう。

 葬儀で立て込んでいて大したおもてなしもできず申し訳ありません。」

 やっぱり名代を立てて、手紙や花を託すべきだったかな。香典だとか通夜だとかがないのは事前に知ってはいたけれど、なんだか妙にしっくりこない。

 墓場まで棺を運び、それが納められるまでを見届ける。なんだか、妙にあっさりしているなと感じてしまった。

「よろしければ、ささやかながらおもてなしさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 ブラームからの誘いにどうしたものかと迷う。こういう場合、誘いを受けるのは問題ないんだろうか?

 フィリップの方を見ると静かに頷いてくれたので、どうやら足を運んでもいいみたいだな。

「ありがとうございます。そういえば、お邪魔するのは久方ぶりですね。」

 考えてみると色々とありすぎて、世話になったこの村から随分と足が遠のいてしまったなぁ。畑仕事をさせてもらっていたころが懐かしい。

「ジョシュとアレン、ともどもお世話になったおかげで大分うちも広くなりました。お引き立ていただき感謝の念の堪えません。」

 引き立てたというか、むしろこっちが世話になってる。大きくなった村長宅もブラームの革細工やアレンのブランドが大きな収益を齎しているからだ。初期投資はいろいろとさせてもらったが、それらを上回る利益が十分に回収できている。

 こっちが感謝することはあれど、感謝されるのは何とも言えない気分だ。

「むしろこちらこそ、お世話になりっぱなしで……

 何のお返しもできずに申し訳なく思っております。」

 一緒に葬儀に参列してくれていたベネットが俺の気持ちを代弁してくれた。直接こういうことを俺が言いにくいと分かってくれて本当に助かる。

「とんでもございません。父も奥様や閣下をお招きして一緒に収穫をしていたことなどを自慢しておりました。

 きっと、あちらでも自慢していることでしょう。」

 そう思ってもらえてたのなら、幸いだけども。

 いずれにせよ、今後のことを考えないとな。アレンとの関係もあって今後とも付き合いは継続していくことになるわけだし、アライアス伯に少し働きかけてみるべきかもしれない。

 とはいえ、他領の事なのだから出来ることはそんなに多くは無いんだけども。

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