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2-27 正直、自分でもひく。

 俺は必死に弁明して、勘違いを正そうとした。

こう言うとき大抵上手くいかないのが世の常だ。

何故か3人とも、俺が凄い戦術家か何かと勘違いしているらしい。

誤解を解こうとしている間に貴重な時間が失われていく。

荷物をまとめて退散しようとしても、おそらく次の襲撃までには間に合わない。

俺は焦るばかりだ。

「だから、あれは偶々上手くいっただけで……」

「いや偶々であんなに綺麗にはまるわけがないよ。それに第2,第3の手も考えていたんだろう?」

 トーラスが熱っぽく言うが、オーガ撃退がそれだけ印象深かったんだろうな。

 俺からすれば、本当にぶっつけ本番だったんだが……

「退路を断つために、騎乗した私を後方に配置してたでしょ?

 それに今回のゴブリンだって、捕虜に取ったのは意味があるんじゃない?」

 んなもんは無い。

確かに、逃げられるとやっかいだと感じて、足の速い騎兵を後方に置くっていうのは考えていたけども。

今回のゴブリンに関しちゃ、完全に偶然だ。

偶々、殺せなかっただけに過ぎない。

「分かってるのか? こんな事をしている間にも襲撃されるかもしれないんだぞ?」

 俺の言葉は届いていないらしい。

なら作戦をと言った期待の籠もった視線が辛い。

そんなもん、あるもんか。

「確かにゴブリンは力が弱いのはさっき聞いたけど、暗視持ちなんだろ?」

 俺の言葉にベネットは頷く。

 いや、それが危険だって分かってるよね?

「お前、大体の襲撃タイミングは掴んでるんじゃないか?」

 グラスコーまで、この始末だ。

 んなもんが分かったら苦労しないっての!!

 ゴブリンがどのくらい先行して偵察していたのかも分からなければ人間の人数も把握できてない。

地形的に、おそらく西側から来るだろうとは想像できる。

 西?

 西ねぇ………

 相手からしてみれば、荷物をまとめる寸前が好ましい。

そして夜間に荷造りをして退散しようとするなら、どのタイミングが一番望ましく考えるかな。

 俺は、木に繋いだゴブリンを見る。

 定番通りなら何とかなる可能性もあるか?

 いや、さすがに馬鹿正直には来ないよな。

 ……どうだろう。

 ともかく、俺はゴブリンを木から離してたき火跡に連れてくる。

「お前達はここらへんの地形に詳しいか?」

 俺は、ゴブリンの目を見て尋ねる。

嘘つかれたからって、それで分かる訳じゃない。

それでも少しでも役に立つ情報があるならと思って表情を伺ってしまう。

何せ命がかかってるからな。

「ここらの森は俺たちの縄張りみたいなもんだから。」

 ゴブリンは自信なさげにそう呟いた。

「それは人間も同じか?」

 その言葉にゴブリンは首を横に振った。

 いけるか?

 いや、どうだろう。

「弓矢を持ってるか?」

 ゴブリンは首を横に振る。

他にも鎧の有無や武器の類についても尋ねてみる。

だが途端に反応が悪くなってきた。

情報を漏らすことに躊躇いを覚えてきたんだろうな。

 まあ仲間を殺す手助けをさせているようなもんだ。

口ごもるのも分かる。

 ただ、感触としてはおそらく傭兵崩れの連中がゴブリンを力で従わせている盗賊なんだろうとは推測できた。

 一応確認のためにベネットとトーラスに確認を取ってみる。

「うーん。何とも言えないけれど、若い跳ねっ返りみたいだね。」

 見た目が派手な鎧や外見の若さ、強引な命令、その割に体力がなさそうな所からトーラスは推察したらしい。

「街の近くで盗賊働きって所も無謀さを表してるかもしれない。

 でも、ゴブリンを使う当たり臆病かもしれないわね。」

 ベネットの判断もそう大きく変わらなさそうだ。

 ただ、臆病という推測が加わると、ちょっと難しくなるな。

その臆病さが慎重さに繋がってくれると逆に助かるんだけどなぁ。

 こんなところで、盗賊働きし始めちゃう当たりから察すると期待できない。

「で、分かったのか?」

 グラスコーは俺の答えが知りたいらしい。

「そんなに簡単に分かれば苦労しませんよ。ただ、襲撃してくるのは確実でしょうね。」

 そんなことは分かってるって顔をされたところで答えは変わらないんだけどな。

 おそらく、本人達は無謀なことをしている感覚はない連中だ。

 それでも、知恵が回らないわけでもない。

逆に言えば、常識に囚われる可能性は高い。

 だとするなら、払暁攻撃を狙ってくるんじゃないだろうか?

いわゆる朝駆けという奴だ。

見張りの気の緩む日の出前、太陽は昇り始めたが最も闇が深い時間帯だ。

夜目の利くゴブリンを使い捨てにして、状況が混乱したところで追撃を加える。

 だったらいいなという希望が含まれてるからこんな妄想で作戦を立てていいもんかどうか。

 俺は思わず頭をかきむしる。

 本当に払暁攻撃してくるだろうか?

 そうじゃなかったとしたらどんな作戦でくる?

 火を放つとか、落とし穴とか色々考えられるよなぁ。

 まあ、火なら水を呼び出して消せば良いだけだからむしろ好都合だけど……

 落とし穴だけは注意しないとな。

 特徴はある程度把握できたので、だまし討ちにも対応できるはずだ。

 うーん。

 じゃあ、とりあえず払暁攻撃があるって事で、作戦を考えてみるか。

 外れたら、時間が稼げるからまたその時考えよう。


 作戦としては単純だ。

いわゆる空城の計というやつだ。

とりあえず、あわてて逃げたように見せかけるためにロバたちを茂みの中へと移す。

頼むから嘶いてくれるなよ。

 そして、運びきれなかった荷物が置かれているように見せかける偽装をした。

ベネットには、相手が逃走するであろう経路に潜んで貰う。

そして、俺とトーラスは東側に潜む。

非戦闘員のグラスコーは俺たちよりさらに後方だ。

LEDライトのおかげで潜むのはそんなに大変ではないが、痕跡が上手く消せてるかには自信がないな。

 それと、枝に少々細工を施す。

 ちなみに細工の内容はグラスコーに伝えておくが、タイミングが合うかどうか分からない。

合ってくれたら幸いだな。

 俺たちはじっと息を潜め、襲撃に備える。


 どれくらいの時間が経っただろう。

 2時間くらいか?

 とりあえずじっとしているのが苦痛なくらいには時間が経った。

ぶるぶると音を消した受信機の振動が伝わってくる。

ランプの明かりを確認する。方向は西だ。

 こんな事なら、暗視ゴーグルでも買っておくんだったな。

 まあ、後悔してもしょうがない。

 闇にじっと目をこらす。

 小さな人影が、残された荷物を物色している様子が見える。

「あれ? 居ないぞ?」

「逃げたかな?」

「お頭ー!! 誰もいませんよー!!」

 最後の言葉は、人間がしゃべる言葉だ。

「ちっ。逃げられちまったのかよ。おめえらがさっさと伝えねえから!!」

 覆い付きのランタンだろうか?

 やや薄暗い光を放つ物体を持つ男がゴブリンに近づくと、いらだち紛れにゴブリンを蹴り上げた。

俺は一瞬眉をしかめたと思うが、作戦通りLEDランタンを明るさ最大にして投げ込んだ。

これくらいでは壊れない頑丈な奴なので、荷物を置かれた場所は明るく照らされる。

 目の眩んだ男4人が闇の中に浮かび上がる。

 ゴブリンは5匹、もしかして自分を入れて10人だったのか?

 それとも他に伏兵がいる?

 トーラスの放った銃弾が、一番派手な鎧を着た男の腹部に吸い込まれるのを見ながら、俺は不安を覚えた。

 次弾が装填される前に俺は、槍を掴み男達へと突っ込んでいく。

相手の混乱を誘発させるため、それと恐怖心をねじ伏せるために俺は大声で叫んで槍を突き出す。

 俺の鍛錬不足だからなのか相手がそれなりに訓練を受けているからなのか、槍は思い通りには突き刺さらない。

逆に相手の剣は俺の体を何度も掠めた。

防刃服のおかげで切り裂かれることはないが、的確に足や腕を狙ってくる。

 恐怖心が増して、動きが鈍る。

「このへっぽこが!!よくもやりやがったな!!」

 8対1の戦いになるが、注意は完全に俺に向かっている。

ゴブリンを蹴倒し、踏みつけながら俺は何とか囲まれないように立ち回る。

次弾の装填が済んだのかトーラスの銃弾が再び放たれた。

狙いは過たず、俺に襲いかかろうとしていた男に命中した。

穴の開いた顔に驚きの表情を浮かべて俺を見てくる。

 一瞬動きを止めてしまった。

それを見逃さず、別の男が斬りかかってくる。

何度も斬りつけられ、危うく首筋に切っ先を差し込まれそうになる。

 だが何かまぶしいものでも見たように男が目を細めて動きを止めた。

 どうやらグラスコーに頼んでいた仕掛けが上手く働いてくれたらしい。

枝だが邪魔をしていた朝日の光が男の目を潰したようだ。

ゴブリン達も暗視持ち故か男以上に激しく反応し、眩しさに動きを止めた。

 俺は、男を突き放すように体当たりする。

そして俺は、倒れたそいつに容赦なく槍を突き立てた。

耳障りな悲鳴が聞こえる。


 覚えていられたのは、そこまでだった。

半狂乱になった俺は、何度も男に槍を突き立て、逃げるゴブリンを蹴倒して何匹かを殺したらしい。

 逃げた残りの男をベネットが仕留め辺りに動く物が無くなったところで、俺はへたり込み呆然としていたそうだ。

オーガの時は、そんなことはなかったのにな。

「ヒロシ、大丈夫?」

 そういいながら、心配そうに見てきたベネットの顔を見たところで意識がはっきりしたのは覚えている。

 しばらく状況が飲み込めず、説明を受けて自分がやったことを把握した。

 なんか俺は危ない奴だな。

若干手が震えてることは良いのか悪いのか。

「いや、派手にやったな。」

 グラスコーが眉を潜めるのも分かる。

自分でやったとは言え、グロテスクすぎて直視できない。

槍の使い方が滅茶苦茶で、突くんじゃなくて振り回していたんだとか。

 おかげで、見るも無惨な結果に……

 俺は大きなため息を漏らす。

「初めのうちはみんなこんなものさ。ヒロシは戦えてたから、むしろ良い方じゃないか?」

 トーラスの慰めは慰めになってるんだろうか。

 ともかく、遺体を片付けよう。

 なんか、泣きたくなってきた。

 いや殺された方からすれば、泣きたいのはこっちだよって言いたいだろうけど……

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