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2-23 上手いこと商売できるって楽しい。

 翌朝、寒さで目が覚めた。

窓の外を見ると、うっすらと雪が積もり、ちらちらと舞い散っている様子もうかがえる。

 村長の話だと、昼くらいにはやむらしいが……

 寒い。

これは、きついな。

水袋の中にお湯を満たして、湯たんぽ代わりに布団にくるまり直す。

やっぱり藁だと寒気が貫通してくるな。

 布団、買うかなぁ………

 ともかく、いつまでもこんな事はしてられないので布団から出よう。

防寒着代わりに断ち切られた皮を羽織りつつ、俺は部屋を出た。

「うー、寒い……」

 部屋の中からグラスコーのうめき声が聞こえる。

あいつも起きたんだな。

暖かさを求めるようにさまようと、食堂の方はマシなことに気づいた。

ふらふらと、食堂にはいると暖炉に火がともされ、村長一家がすでに集まっている。

「おはようございます。」

 寝癖を整えながら、俺は頭を下げる。

「おぉ、お早いですな。まだ朝食の準備は整ってないので、暖を取ってください。」

 村長に勧められ、俺は暖炉に近づいた。

暖かさが身にしみる。

 そういえば、皮を羽織ってると不味いかなぁ……

 蛮族っぽいから、あまり羽織らない方が良いかもしれない。

仕立屋があったらコートか何かにして貰おうかな。

 まあ、仕立屋なんて村にはないだろうけど……

「良い皮ですね。」

 不意に声をかけられ、俺はびっくりした。

婿さんのブラームさんが、まじまじと俺の羽織ってる皮を見ている。

「あぁ、もらい物なんですが……結構温かくて重宝してます。……」

 俺は愛想笑いを浮かべてる。

「山羊ですか? ちょっと仕立てないのはもったいない。良ければ、コートにさせてもらえませんか?」

 意外な申し出に俺は戸惑う。

「すいません。こいつは革職人の息子だったんですよ。」

 やれやれといった様子で、村長がため息をついている。

 いや、でも仕立ててくれるならありがたいな。

 問題は、どれくらいかかるかなんだが……

「えっと、お願いしちゃって良い物なんですかね?」

 村長と婿さんの間で視線をさまよわせてしまう。

「できるのか、ブラーム。」

「任せてください、お父さん。一週間で仕上げますよ。」

 自信満々に応えてるけど、一週間でできる物なのかな?

 村長の顔を見ると渋い顔だ。

「あの、そんなに急ぎはしませんから……」

 どうせ、グラスコーの本拠地はここから近い。

なら、これから顔を出すことも多いだろう。

「すいません。とりあえず、責任を持って作らせますんで。」

 村長は申し訳なさそうに頭を下げてくるけど……

 うーん。

まあ、顔を出す良いきっかけになったと思うべきだよな。

「いや、そんなにかしこまらないでください。それより仕立ての費用を……」

 どれくらい出せば良いんだろうか?

手付けになるから、5万円くらいか?

 ちょっと想像付かないんだけど……

「どれくらい必要ですか?」

 まずは言い値を聞いてみよう。

「そうですね……まず手付けに銀貨10枚ほど……」

 そんなもんで良いのかな?

 ちょっと、帳簿を覗いてみる。

うーん。

トータルでいくらになるか分からないが、手付けとしては破格かもしれない。

 と言っても、コートの仕立て代なんて直接的な取引なんかないしなぁ……

 まあ、これも勉強だ。

「とりあえず、20枚用意させて貰います。不足があったら言って下さい。」

 とりあえず、20枚の銀貨を取り出して、ブラームさんに渡す。

 無駄遣いかなぁ………

 いや、でもこれちゃんと仕立てて欲しいしな。

ちゃんと自分用の帳簿付けよう。

 とりあえず、そんなやり取りをしているうちにグラスコー達も食堂へやってきて食卓を囲むことになる。

 と言っても簡単な物だ。

パンにくず野菜の入ったスープ。

不味くはないけど、特別おいしい物でもない。

でも、こういう朝食嫌いじゃない。

「とりあえず、馬小屋の軒先を借りるぜ、じいさん。」

 グラスコーはどうやら商売の算段を始めた様子だ。

雪は降っているが、商売に差し支えるレベルじゃないと判断したんだろうな。

 そうだ。

グラスコーには、まだタオルの件を伝えてなかったな。

後で、ちょっと見て貰おう。

「ねえねえ、おじいちゃん。僕おじさんの手伝いしても良いよね?」

 アレンが寒いのも意に介さず元気よく叫ぶ。

それに対してグラスコーは少し迷惑そうな顔をしていた。

まあ、小さい子に任せられるような仕事なんてそんなに多くはないだろうし、むしろ子守を押しつけられるようなものか。

村長の娘さん、アレンのお母さんでもあるミレンさんは嬉しそうだ。

「アレン、旦那さんに迷惑をかけるんじゃないぞ?」

「おいおい、子守を押しつける気かよ。」

 村長は孫には甘いのか、アレンの言葉を追認しているのを見て、グラスコーはため息をついている。

「すいません。申し訳ありませんがお願いできませんかね?」

 さすがにお世話になってる手前、無碍にはできないよな。

「まあ、昼飯を用意してくれるなら預かってやるよ。余計な事したらひっぱたくからな?」

 そういうと、グラスコーはアレンの頭をなで回した。

まあ、何のかんの言って付き合い良いよな。

「よろしくね、アレン君。」

「うん、ヒロシもよろしく!!」

 呼び捨てか……

 いや、まあ所詮アレンから見れば、敬愛するおじさんの従業員だしな。

俺は苦笑いを浮かべるしかない。

 朝食のひとときが過ぎれば、やはり農家は忙しいらしい。

話がまとまると、村長一家はアレンを残してそれぞれの仕事へ散ってしまう。

ジョシュも仕事を割り当てられるのを見ると、世知辛いなぁと思う。

でも日本でだって農家の子はそんなものだって聞いた覚えもあるので、どこでも一緒と言えば一緒なのかもしれない。

まあ、機械化されてる分、日本の方がマシかな?

俺とグラスコーも、馬小屋へ向かい商売の算段を始める。

「グラスコーさん、ちょっと見て欲しい物があるんですが?」

早速、ベネットが絶賛していたタオルを取り出す。

「おう、お前の使ってる手ぬぐいか。」

しげしげと、グラスコーはタオルを品定めし始める。

時に撫でたり、引っぱったり、捻ったりを繰り返す。

「使った奴あるか?」

「ありますけど……」

要求されたとおり、俺が普段使いしているタオルを渡す。

おそらく、拭き心地を試したいんだろうな。

荷台に少し水を垂らす。

「ふむ。こりゃ凄いな。」

その水を拭いた後を見て、グラスコーは唸る。

「こりゃ、どうやって作るんだ?」

 作り方か………

 知らないよそんなの。

「すいません、作り方についてはちょっと……」

 俺の言葉にグラスコーは渋い顔をする。

「物は良いが、こっちで作れなきゃお前が拘束されることになるぞ?」

 言いたいことは分かる。

俺としても、タオルをひたすら売買する人生って言うのも嫌だしな。

「まあ、作り方は何とか調べてみますよ。」

 タオルの作り方なんてピンポイントな書籍があってくれれば楽なんだけどなぁ……

「とりあえず、どれくらいある?」

「このサイズと、この大きなサイズの奴が10枚ずつです。」

 フェイスタオルとバスタオルを取り出して大きさを確認させる。

「卸値はいくらになる?」

「そうですね。小さいので銀貨5枚、大きいのが銀貨15枚です。」

 ちょっと吹っかけておこう。

「そんな安いのか? じゃあ、銀貨10枚と銀貨30枚で出しておこう。」

 お、おう。

こっちもかなりぼったくってるけど、グラスコーの値段も強気だな。

 本当に売れるのか?

「できれば、この防刃パーカーも仕入れておいて欲しいんだがな。そっちは卸値が金貨10枚だったか?」

 あー、うん、そういえばそっちもあったな。

「それくらいの値段になるとさすがに10着20着は難しいな。

 証書でよけりゃ、助かるんだが……」

 いや、試すように見られてもなぁ……

 さすがに難しいんじゃないだろうか?

 決済が必要でなおかつ額面どおりに受け取れるとは限らない代物だ。

 さらに言っちゃうと、手数料もかかるんだろう?

 それが現金と同じ扱いにはならないだろう。

 試してみてないけど……

「試してみます?」

 俺はおそるおそる尋ねてみた。

仮に、現金として使えるとして取り立ては誰が来るのだろうか。

ちょっと確かめてみたい気もするが、不安な気持ちもある。

グラスコーも、やっぱり同じ気持ちなのか、興味を抱きつつも不安そうでもある。

「ねえねえ、おじさん!!そうじおわったよ!!」

 アレンの言葉に二人してはっとした表情をしてしまった。

「お、おう。とりあえず、商品並べるか。

 とりあえず、証書の件は保留だな。」

「分かりました。」

 グラスコーの言葉に俺は、頷いて安堵してしまう。

やっぱり、ちょっと不安の方が強いな。


 露店を開くのは今回が初めてなわけだが、結構小さい村なのににぎわった。

と言うか、楽しみが少ないからなのか冷やかしのお客さんが結構いる。

 マジックアイテムは買えないけど、見てみたい触ってみたいという欲求は分からないでもない。

でも900万円もする給水器なんて凄いのは分かるけど手なんかでないよね。

 そんなわけで、基本的にはジャガイモの買い取りとか、野菜の買い取りが主なお仕事になった。

 護衛の二人は暇かというと、そうでもなかった。

銃を扱えるトーラスは猟師に教えを請われているし、怪我を治せるベネットは治療に引っ張りだこだ。

 こちらはと言うと、試しに出してみたタオルが完売してしまった。

最初は疑わしげに見ていたりもしたんだが、使い古しのタオルでやった水の拭き取りなんかの実演にはみんな食いついてくれた。

俺のたどたどしいセールスは苦笑ものだが、意外と受けは悪くない。

 そうこうしているうちにお昼も近くなった頃にタオル購入が重なり在庫一掃と相成ったわけである。

 まあ、なにげに村長さんの所のミレンさんがお客第一号って所はちょっと談合っぽい気もするんだが……

 まあ、それはそれ。

別に違法なことは何もしてない。

「たまんねえな。」

 ほくほく顔でグラスコーは銀貨を数えている。

そりゃそうだろう。

小さい村だから10枚でも需要は満たせたわけだが、これがもっと大きい町なら大きな商いが期待できる。

「とりあえず、こっちは卸の代金だ。それと追加で100枚ずつ購入してくれ。なるべく早くな?」

 と言うわけで、銀貨200枚が俺の懐に入り、さらに購入代金として金貨が200枚手渡される。

 同じ数の金貨と銀貨……

 ちょっと手が震える。

実際に俺が買い付ける値段はフェイスタオル500円、バスタオル5000円だ。

つまり、俺の懐には4500円と1万円が手元に残る計算になる。

 早速、同じ商品を100枚単位で購入しても145万円が手元に………

 やべえ、震えてきた。

165万円と、その前に防刃パーカーを売った金額、その他諸々の購入代金を差し引いた金額で37万くらい残っている。

つまり、俺の純資産はざっと計算しただけでも200万を超えた。

ちょっと真面目に帳簿付けよう。

 不意に、人工音が響く。

 そして、ウィンドウに


”売買” 1→2


 と表示された。

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