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2-18 すっきりした目覚めって貴重だ。

数日板の間で寝た後布団にはいると寝心地にびっくりしませんか?

 綿のベッドは予想以上に心地よかった。

すっきりと目が覚めるのは、どれくらいぶりだろう。

日本でもなかなかすっきり起きると言うことはなかったので新鮮な気分だ。

 でも、ちょっと寝たのが早すぎたかもしれない。

日が昇って間もないのか、まだ薄暗い。

朝靄が関所を覆い、森に漂っている。

質の悪いガラスとはいえ、宿屋の窓にはしっかり板ガラスが嵌められている。

 だから、その朝靄が部屋に入ってくるわけではない。

 それでも気温も大分低くて、室内なのに息が白い。

 せっかく早めに起きたのだから、散歩でもするか……

 ネットでもあったら、掲示板に入り浸ってるところなんだけどな。

 それか動画を見ているか……

 やることが無くて、手持ちぶさたになるとは思っても見なかった。

 そっと扉を開けて、部屋を出てみる。

まだ早いから人っ子一人いない。

一応、受付には宿屋の従業員がいるが、見とがめられることもなかった。

会釈をすると相手も返してくれているから、宿泊客であることは把握されてるんだろう。

 俺は玄関を出て、辺りを見回した。

 石造りの胸壁が遠くに見え、道沿いにいくつか木造の建物が見える。

露店でにぎわっていた昨日とは打って変わり、寂しい感じがした。

 少し歩けば、道の両脇は森になっている。

いくつか踏み固められた脇道があるので、俺はそれをたどってみた。

井戸や水車小屋、柵で囲われた広場などがあり、広場では鎧を身にまとった兵士が走っていたりする。

広場にはかかしのようなものがあって、それに槍や剣をふるっている様子もあった。

 そういえば、槍に使うために鉄パイプを買ったんだったな。

 ここで振るいだすわけにも行かないし、ちょっと森の奥の方へ行こう。

踏み固められてはいないが獣道のようになったところもあるので、そこをたどってみる。

 ちょっと開けた場所にたどり着くと、さっきまでの広場とは視線が通らなかった。

 まあ、そこまで鬱そうとはしていないから、戻るのにそんなに苦労はしないだろう。

 多分……

 俺は、インベントリから鉄パイプと滑り止め用に買ったテープを取り出す。

くるくるとパイプにテープを巻き付けて、感触を確かめた。

 意外と重いな。

 木製の柄で作られた槍とは違い、手に持っただけでも重く感じる。

穂先をまだ付けていないのに、これだとちょっとふるうのに苦労するかもしれない。

 試しに教えて貰った型を繰り返してみた。

一振り一振りの負荷は、さほど変わらないような気もしたけれど、100回くらい繰り返すと違いが分かってくる。

 ちょっときついな。

素振りだけでも、500回も繰り返したら筋肉痛になりそうだ。

それでも槍の才能を得たからか、以前よりは疲労は少ない。

槍を振るう姿勢も安定しているのか、以前のように的外れな動きは少なくなった気もする。

 だけど、鉄パイプはないな。

これは訓練には向いているだろうけれど、実戦で鉄パイプを振り回すのは現実的じゃない。

木に打ち当てると、もろに衝撃が腕に伝わる。

打ち払われたときも、これが伝わるなら取り落とす確率は上がるかもしれない。

 そんなことを考えながら、俺は槍の練習を繰り返した。

 まあ、ものの1時間もすればへたばってしまうあたり俺らしいと言うか……

 本当に耐久力が常人以上になっているのか不安になる。

 優遇して貰っても、根性なしなのは変わらないなと乾いた笑いが漏れてしまった。

 まあ、そんなことをしていてもしょうがないのでさっさと宿屋に戻ろう。

俺は来た道をたどり、森の中を抜けていった。


 宿屋に戻ると、トーラスやベネットと鉢合わせる。

「ヒロシも訓練してたのかい?」

 トーラスは驚いたように目を見開いている。

二人とも汗だくだ。

「お二人もですか?」

 俺も、汗だくだ。

できればお風呂はいりたい。

残念ながら、この宿屋にも入浴設備はない。

一応は洗面する場所もあるので、体を拭くくらいはできるんだけどね。

「まあ、軽く走り込み程度だけどね……」

 さすがに銃を撃てる環境は限られる。

銃を主武器として扱うトーラスとしては、射撃訓練が出来ない環境は不満かもね。

 まあ、銃弾や火薬は結構な値段になるから、おいそれとは射撃訓練できないだろうけど……

「あの……ヒロシ……よければ、今度手合わせをして欲しい……」

 ベネットはちょっと疲れてるのか、途切れ途切れに言ってくる。

 いや、俺なんか素人だから手合わせの相手になるかな。

 まあ、能力値のおかげで、ずぶの素人よりはマシなのかな?

「ベネットさんがよければ、お願いします。素人同然なのでお手柔らかに……」

 そういいながら、共同で使われる洗面所に連れ立って向かった。

俺は、顔洗いと髭剃り用にお湯を出した。

「お湯を分けて貰っても良いかな?しかし、変わった髭剃りだね。」

 トーラスがいつも使うカミソリは、折りたたみ式のナイフみたいな奴だ。

石けんも使ってないみたいだから、肌が荒れそうだよな。

「良いですよ。それとシェービングフォームも使ってみます?」

 そういいながら、桶にお湯を出してシェービングフォームも進めてみた。

「石けんが泡になった状態で出てくるのは便利そうだよね。試させて貰うよ。」

 にこにこ笑いながら、トーラスは顔を洗うとシェービングフォームを塗りたくった。

いや、そんなに塗らんでも平気なんだけどね。

「ヒロシ?……私も、お湯を分けて欲しいんだけど……」

 ベネットは顔を赤くしながら、桶を持ってくる。

 そこまで恥ずかしがることなんだろうか?

 しかし、体を拭くのに布って言うのはどうなんだろう?

 確か未使用のタオルがまだ残ってたはずだ。

「足らなかったら言ってください。それとタオルも差し上げますんで、使ってみてください。」

 桶にお湯を満たして、ついでにタオルも付けて渡す。

 まあ、試供品みたいなもんだし、使い心地は後で聞いておこう。

上手くすれば、良い商品になるかもしれん。

「ありがとう。」

 うーん、迷惑だったか?

 なんか、ベネットの表情はいまいち読み取れない。

 喜色もあるような気もするけど、戸惑いの方が強いって言う感じだろうか?

 男女のしきりもあるんでベネットがタオルにどんな感想を抱いているかは分からないけど、喜んでくれればいいな。

「ヒロシ!! 凄いね、この石けん!! 凄いさっぱりするよ!!」

 トーラスはシェービングフォームに満足してくれているみたいだな。

俺も早々に髭を剃ってしまおう。

「何そんなに騒いでるんだお前ら。他の客に迷惑だぞ?」

 不機嫌そうな顔でグラスコーが洗面所にやってくる。

 どうやら昨晩の酒が残ってるんじゃないだろうか?

 まあ、二日酔いは自業自得だ。

「いや!! ヒロシの持ってる石けんが凄くて!! これなら、肌を切るなんて事ないんじゃないかな?」

 髭を剃り終わったトーラスが嬉しそうに自分の頬を撫でている。

 考えてみると、化学成分たっぷりのシェービングフォームを使わせて平気だったんだろうか?

 肌が後で荒れたりしないか心配になるな。

 うーん……ちょっと失敗したかな……

 まあ、トーラスは貴い犠牲になって貰おう。

 すまんな、トーラス。

「ほー、そんなに使い勝手が良いのか? 俺にも使わせろよ、ヒロシ。」

 そして、お前は貴い犠牲2号だ、グラスコー。

俺はにやにやしながら、シェービングフォームを渡した。

「こりゃ、どういう構造なんだ? 押すだけで泡が出てくるぞ?」

 楽しそうにグラスコーは泡を手に取り、肌に塗りたくった。

いや、だからそこまで塗らなくて良いんだけどな。

 追加で、頼んでおこう。ついでにバスタオルとフェイスタオルも買い増しておくか……

 歯も磨き終わったので、俺は洗面所を出た。

「ひ、ヒロシ………ちょっとこれ……」

 出た途端にベネットに手を引かれ、廊下の隅に連れて行かれる。

 なんだ? いったいどうしたんだ?

「これ、どこで手に入れたの?」

 タオルを突きつけられたが、どこから買ったかなんて聞かれてもな。

 そういえば昔は糸を紡ぐのも手作業だから、布の類は高いって聞いた覚えがある。

 でもなぁ……それ安物なんだよな……

「仕入れ先は言えないけれど、決して高価な物じゃないよ?」

 ベネットは大きく目を見開く。

「金貨1枚くらい?」

 おい! 1万円もするわけ無いだろ!

 今度は俺が驚いて目を見開いちゃったよ。

「冗談でしょう? それよりも安く手にはいるの?」

 おそるおそると言った様子で俺に尋ねてくる。

 いや、むしろこっちが冗談だろうと言いたくなってきた。

 でも、非常識なのはこっちだよな。

製糸について全く知識がないんだから、相場なんか分かりっこない。

 しかし、昨日聞いた限りだと布が専売品とは言ってなかったな。

 だとすると、これは結構儲けられるんじゃないか?

「まあ、それを渡したのに特別な意味がないって思って欲しいくらいの値段ですよ。」

 とりあえず、今のところは具体的な値段は伏せておこう。

混乱を招いていい事なんて一つもない。

「それなら、おいそれと人に渡さない方が良いわ。絶対変な意味があると思われる。

 さっきも言ったけど、最低でも金貨1枚はするわ。

 この丁寧な織りをみると、金貨5枚を取られても納得するレベルよ。」

 おいおい、いくら何でも大げさなんじゃ……

 とは思ってみたものの、ベネットの様子からすると冗談ではなさそうだな。

 まあ、でも気に入って貰ってるようで何よりだ。

「まあ、本当に変な意味はないんで受け取っておいてください。

 それに常識を知らない俺にとっては、そういう知識はとても貴重なものです。

 また何か知らないことがあったら教えてください。」

 そういうとベネットは嬉しそうにタオルに顔を埋めて、改めてありがとうと言ってくれた。

 いや、なんか複雑な気分だ。

こう、安物で純粋な子を騙している気分と言えばいいのか。

嬉しい反面、後ろめたい気分になる。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほいほい日本製品を扱ったり自分の能力を話さなければ読みごたえありそうだなと感じました 神様の関係に詳しいとそんなに詳しい奴いるかよ気持ち悪いなと勝手に思ってしまう…なんにでも詳しい人は存在…
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