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15-16 初めての魔王。

ようやくのご登場です。

「いや、ほんとびっくりしたよ。」

 ハルトの要件は、女の子を拾ってきたという内容だ。これだけを聞くと誘拐でもしてきたのかと疑いたくなるが、さすがにそういう話ではない。

 金鉱脈の採掘や石油を輸送するパイプラインの維持についてハルトに任せていたわけなのだが、その道中で行き倒れの女の子を拾って来たのだとか。いや、行き倒れなんて特別珍しい話じゃない。

 どこのコミュニティにも属さず、放浪する人間がやたらと多いのでちょっとした天候不順で行き倒れになる人が多い。

 ましてや蛮地ともなれば、その数はさらに増える。

 ただ、大抵の場合死んでしまっている。息があっても、長く持たない感じの人が大半だ。そういう意味で、生きたまま連れ帰ることができたというのはめずかしいのかもな。

「角の生えてる女の子なんて初めて見たわ。」

 サテュロスとかそんな種族なのだろうか? というか、どうせハルトのことだから”鑑定”とかはしてるとは思うんだけど。

「どうせ”鑑定”はしてるんですよね?」

 そう尋ねるとハルトは頷く。

「魔王って種族なんだな。」

 思わず吹き出してしまった。

「は、ハルトさん、魔王ってなんだかわかってますか?」

 とりあえず、今どこにいるんだろう?

 人の世界で暮らすには適していない。早急に遺跡に連れて行かないと。

「え? 悪魔の王様じゃないの?」

 何を能天気に言ってんだ。悪魔の親玉なら、危険だとかそういう思考にならないのが不思議でしょうがない。

 場合によれば、領地丸ごと壊滅しかねないぞ。

 

 俺は、大慌てでハルトの連れてきた魔王を遺跡の第一階層へ移送する。その途中でミリーが知った顔だと言っていたけれど、ともかく人界の中では危ない。

 話を聞くにしても、移送を最優先させてもらった。

「そんなに危険な存在なんですか? すいません。」

 カイネは顔を青ざめさせて頭を下げてくる。

「いや、ハルトが種族について話してないんだから仕方ないですよ。気にしないでください。」

 どうもハルトはカイネに種族については喋ってなかったらしく、普通に介護していたらしい。衰弱している様子で大人しく食事をとっている様子だし、魔王と言っても角が生えているくらいで特別狂暴な見た目でもない。

 油断してしまっていても何らおかしくはない。

「ヒロシ、この人知ってるから拘束しなくても平気だよ。」

 とりあえず鎖でもつなぐかと思っていたらミリーが口を挟んでくる。

「魔王の知り合いって、本当に平気?」

 ベネットはちょっと身構えてしまっている。

「仮に、暴れても何とかできる。そんなに狂暴じゃないから、安心しろ。」

 ハンスが請け負うように言うので、とりあえず鎖はしまっておこう。

「例の気のいい魔王?」

 以前に魔王という存在についてハンスから説明を受けていたので、彼女がどんな存在かは想像がついた。

 確か世話焼きの魔王だったかな。

「何の因果なんだろうな?

 まあ、ともかく目を覚ますまで待ってやってくれ。」

 やれやれといった様子でハンスは頭を搔いた。

 

 魔王の名前はアキといい、テリーとミリーからはアキかーさんと呼ばれているそうだ。見た目は、今のミリーと大して変わらないんだけどな。流石に、石畳に寝っ転がらせるのは可哀そうだなと思ったのでベットを用意して横たわらせた。

 その間、ずっと立ってるわけにもいかないと思い、少し部屋を改装しておく。よくある椅子と机を並べて各々好きなところに腰かけてもらう。

 テーブルにお茶とお菓子を置くとミリーは嬉しそうにそれに手を伸ばす。魔王が横で寝てるって言うのになんか緊張感ないな。

 まあ、ハルトもいるし、カイネにベネット、それにハンスもいる。

 少し気後れしたけれど、一応”鑑定”をしてみて、レベルやら能力値を見れば何とかなると確信できる強さだとは確認していた。

 あくまでも”鑑定”を信用するならという話になるけども。

「そんなに緊張しなくても平気だと思うよ。人里にいると気分が悪いって言うけど、遺跡の中なら平気だよ多分。」

 ミリーは軽い口調で言うけど、初めて接触する魔王という種族がどんな存在か分からない。むしろ、ミリーと似たような感じのハルトの能天気さがうらやましい。

 アキと呼ばれる魔王が身じろぎしただけで、カイネもベネットも身構えてしまっている。これが普通の反応だよな。

「ここはどこだ?」

 意識を取り戻したのなら、第一声としてはそんなものかもな。

「王国の中の遺跡だ、アキ。」

 声につられてハンスの顔を怪訝そうに見た後、一瞬顔をほころばせる。だが、すぐに咳払いをして表情を引き締めた。

「ん! そうか。我が行き倒れていたところをそなたらが助けてくれたのだな。礼を言おう。」

 俺とベネットは顔を見合わせてしまう。どういった態度で臨めばいいのか正直よくわからない。

「助けたのは俺、それと介抱してたのはカイネだよ。」

 ハルトは慣れなられしい口調で語りかけた。

「そうか。名は何という? 礼は弾もう。」

 礼を弾むって言っても、何か持ってる様子はないけどな。あるいは、俺と同じ”収納”持ちなんだろうか?

「えー、まじで何してくれるんだ? なんか持ってるようには見えんけど。」

 考えた事をすぐ口にするのよくないぞ。

「この者の名は、ハルトと言います。そして、ここは我が領地のベルラント。そこにある遺跡の第一階層です。」

 ベルラントという地名で何か感じたのか、アキは少し身構える。

「あの冷血男爵が治めるというベルラント……

 つまりお主がヒロシ=オーサワか。」

 冷血男爵?

 なんだ、そのあだ名。そういえば、麦畑を作ってたキャラバンに世話になってるという話だったか。

 だとするといい印象は持たれてないのも仕方ない。

「左様でございます。冷血と言われるのはいささか心外ですが。出来れば穏便によろしくお願いします。」

 どんなわだかまりがあるかは分からない。警戒しておいて損はないだろう。アキは俺とハンスの間で視線を彷徨わせている。

「アキ、少なくともすぐにお前をどうこうするような男じゃない。信じてやってくれ。」

 ハンスは困ったように頭を掻く。

「ハンスが言うのだから、信じよう。そもそも、この状況で逆らってどうにかなるとも思ってないがな。」

 アキは大きなため息をつく。一触即発みたいな雰囲気ではないな。

「しかし、遺跡の一室だというがベットまで用意してあるとはずいぶんと豪勢だな。」

 そこまで豪勢だろうか?

 いや蛮地での生活を考えれば、そういう感想も特別不思議ではないか。

「一応は男爵ですからね。お客人を無碍にはできません。」

 そういうと、アキは複雑な表情を浮かべる。さっきの冷血男爵って言葉からすれば妥当な反応だなぁ。

「すまぬ。少し噂と違っていて混乱している。いや、あやつらの言う事も怪しかったからな。」

 どんな噂を吹き込まれてたんだ?

 少なくとも、俺はトウモロコシを渡したに過ぎない。特別、なにか陰謀を巡らして圧力をかけるなんてこともしたことは無いしな。

 もちろん、出来れば壊滅して欲しいとは願っていた。そして、願望はかなえられたわけだけども。

 複雑な気分だ。

 冷血と言われて心外だといったけれど、その実、心の中ではどこか納得はしてしまっている。

「すまぬ。余計なことを口にしてしまったようだ。気に病まないでくれ。ローフォンとアジームをけしかけているのがお主だという噂を吹き込まれておった。

 どうやら事情は違いそうだな。」

 俺は言葉に詰まってしまう。多分渋い顔をしてしまってるんだろうな。

「先ほども言ったが気に病むなと言っている。どうせ、お主は少しの悪意、少しのお節介、それだけで望むものを手に入れたのだろう?

 それとも我に、お主は悪くないとでも言ってほしいのか?

 言ってしまうぞ?」

 俺は手を出して、それ以上の発言を止める。さすがにそんなことを言われたら惨めすぎる。

「分かってます。ただ少し心の整理がつかないだけなので、気にしないでください。」

 何とか言葉を絞り出す。

「アキかーさん性格悪い。あんまり、うちのヒロシをいじめないでよ。

 そもそも、ヒロシは貧弱なんだから、ちょっといじめられると泣きべそかいちゃうんだから。」

 ミリーよ、何もそこまで言わんでもよくないか?

「これで性格が悪いと言われたら、世の中悪人ばかりだぞ?

 我ほど優しいものはいない。いろいろあるが責めないでおいてやると言ってるのだから、ありがたく思え。」

 そう言ってもらえれば助かる。いや、本当に弱いなぁ。

「ともかく、あなたの正体は分かりました。

 ハンスやミリーの知り合いだというのは分かったんで、こちらとしてはしばらくの保護を約束しても構いません。

 もちろん、そちらのご意向に沿いますけど。」

 今すぐ、ここを出て復讐のために領地を荒らしまわるなんてことはなさそうなのでこちらとしては敵対する意味はない。

「そこは喜んで歓待いたしますではないのか?

 我、魔王ぞ?」

「行き倒れになる魔王ってカッコ悪くね。」

 ハルトの一言に、アキは言葉を詰まらせる。

「ハルトよ。救ってくれたことには感謝するが、真実ほど人を傷つけるものはないと心得るがいい。」

 涙目でプルプル震えている。

「アキかーさんも何のかんの言って貧弱だよね。」

 ミリーの追撃にかんしゃくを起こしたのか、枕を投げつけてくる。

「うっさいわ!! あー、もう知らん!! 好きにするがいい!!」

 そう言って、布団の中に潜り込んでしまった。

 これは、どう対処したものかなぁ。

 相手は魔王とはいえ、敵意を向けてこない相手に出て行けというのも気が引ける。ハンスやベネットに助けを求めるけど、二人も対処方法は分からない様子で、肩をすくめるばかりだ。

「もし必要なものがあれば言ってください。それと、ここはアキさんの自由に使えるように整えさせてもらいます。

 遺跡の第一階層でも外れの場所にありますんで、出歩かなければスカベンジャーに会うこともないはずですから。

 一応封鎖区画として入らないようにも指示しますが扉の鍵はちゃんと閉めてくださいね?」

 とりあえず、当面はそれでいいだろう。

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