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2-12 一応有意義だったのかな?

 ヘルメスが、力の源であることは確認できた。

 まだ、起きるまでの猶予は与えられている様子なので、次の質問をしよう。

「ご助言の程承り、恐悦至極です。とりあえず、くだんの神に仕える信徒には努々気を配っておきます。

 立て続けに質問をして申し訳ありませんが、少し能力値について教えていただいても良いでしょうか?」

 なんだか、口にすると恥ずかしいな。

能力値ってなんだよって気分に陥るんだけど、俺の知識が基礎となる以上は他に言いようがない。

「ん? 基本的に君の知識が元になるわけだから、意味が分からないことはないでしょ?」

 もっともな意見ではある。

だけど、どうにも俺の知っているゲームがそのまま適用されているとは考えにくい。

「これは私の推測なのですが、たとえば筋力などは筋肉量ではなく、何か別の力が働いている気がします。

 実際、私はそれほど屈強な男ではないはずです。

 にもかかわらず、常人ならざる力を発揮できているように見受けられ、理解が及びません。」

 ベネットにしてもそうだ。

どう見ても、多少引き締まっているとはいえあり得ない力を持っている。

 まあ、組み付いたときなんかは華奢だなと思ったけれど、どうやら俺の力が想像以上に強いようだ。

「あぁ、まあ君の世界の物理法則は必ずしも全ての場合で有効とは限らないからね。

 この世界では、魔術や奇跡が物理法則をねじ曲げていると思ってくれて良いよ。」

 つまりこの能力値の高さは、神の加護によって与えられていると考えるべきなのだろうか?

 じゃあ、努力する意味ってなんだって事になってしまう。

「まあ、神からの加護って言うのもあるけれど、当然鍛練を積めば上乗せされるだろうね。

 人間には限界があるから、神の加護がなければそれは超えられないのも事実。

 だけど、努力したら、した分だけ上乗せになるし加護を失った時に努力した分は君の力になってくれるはずだよ。

 それに必ずしも加護ばかりが力の源とは限らない。色々やってみれば良いんじゃないかな?」

 なんか、励まされてる気分になって複雑だな。

「何せ私たちの加護はあやふやだからね。君のそばにいる聖戦士なんか、良い例だよ。

 君と取っ組み合ったときなんか、ウルズは加護を一時とはいえ剥奪しちゃうんだから。」

 なるほど、それで合点がいった。

なんであれほど力に差があるのか不思議だったが、一時的に能力が低下していたなら納得がいく。

 しかし、そんなに簡単に上下するのか……

「基礎を鍛えるのは大切ですね。」

 ロキが源だと考えると、致命的なところで力を剥奪されそうだ。

面白そうだからとか、そんな理由でやられたらたまったもんじゃない。

「まあ、神の加護がないとどうしても限界はあるけれどね。

 オーガみたいに最初から規格外の力を持っているのもいるけど、どうしても物理法則に縛られがちになっちゃう。

 特に人間は、その傾向が強いから信仰は大切だよ?」

 つまり、この世界では神様とも仲良くしないといけないって事か。

いや実益があるわけだから、信仰しない理由がないな。

何とも浅ましい話で申し訳ないが、煩悩まみれの俺がストイックに神など拝まないなんて格好付けられるわけがない。

 情けないなぁ……

「何もロキ様だけを敬う必要はないよ? トール様だろうが、オーディン様だろうが、好きな神様を拝むと良いよ。

 ロキ様は、他の神を信仰しているからって力を貸さないような心の狭い神様じゃない。それはもちろん、私も同じだよ?」

 モーラは、何ともいやらしい笑みを浮かべる。

本心では憎んでいるのだろうけど、さすがに敬称を省くのは憚られたんだろう。

 それでも、力を貸すというのは、あくまでも俺が世界を滅茶苦茶にするというモーラの思惑から外れなければなんだろうな。

「ちなみにモーラ様の信徒の方はどのくらいおられるのでしょう?」

 俺の何気ない質問にモーラが固まる。

あ、やばい、地雷踏んじゃったかな?

「き、君たちは私がこちらに呼んできたんだから、異世界人のうち何割かは私の信徒って言って良いんじゃないかな?」

 いたくプライドが傷つけられた様子ではあるけど、我を忘れるほどではなかったみたいだ。

 いや、まあ、信徒いないのって突っ込めば、きっと怒るだろうな。

 しかし、勝手に信徒認定されても困る。

「それは、私も捧げ物などをしないといけないと言うことでしょうか?」

 もし、生娘の生き血を捧げろと言われても当てはない。

それどころかろくに金も稼げてないんだから高価な物を要求されても応じることはできないだろう。

「そりゃ、もちろん敬意を示すために捧げ物をしてくれたら嬉しいよ。

 でも、今は無理をしなくても良いよ。十分に力をため込んでおいて。」

 まあ、すぐに要求されるよりは良いけど、後が怖いな。

 でも、少し気になることがある。

「ちなみに、モーラ様がお呼びになった以外にも異世界人は多いのですか?」

 モーラは俺の言葉にもちろんと頷く。

「他の神々も異世界人を呼び込んで色々と画策しているわ。

 中には旨い酒を造らせるために酒職人を呼び込んでる神もいるらしいけど、あれは何をしたいのか意味不明ね。

 他にも画家とか、踊り子とか……

 一流は呼び込むのが難しいのに、わざわざ死にかけの人間を呼び込んで寿命や若さまで与えている。

 その癖に、ろくに介入もしないで、呼び込んだ人間の趣味に没頭させるのは何でなのかしらね?

 権能を誇示したいなら自身の名を広めさせなきゃ意味がないのにね。」

 まあ、純粋に芸術や酒を愛してるんじゃないかな?

 そういう神様は素敵だと思うけどね。

 とはいえ、神も徐々に力を失っているとは聞いている。

「そういった神々は、いずれ消えてしまわれるんでしょうか?」

 もし、権能を誇示することが力を取り戻す行為だとするなら、いずれはそういった神様も消えてしまうんだろうか?

 それは何とも寂しい話だな。

「そうね。いくら大神とはいえ自らの権能を誇示もせず、人に力ばかりを与えていけば消えてしまうでしょうね。」

 力を人に与え、それを誇示することで信仰を集めなければ消えてしまうと言うことなのかな?

 しかし、大神ってなんだろう? 神様にも階級があるのだろうか?

 そういえば、モーラは使徒と言っていたけれど、これも階級なんだろうか?

「つかぬ事をお聞きしますが、大神というのは何を意味しているのでしょう?

 無学なものでそういった言葉に明るくないのですが……」

 モーラはなんだか嬉しそうに笑う。

人に物を教えるってなんだか嬉しいのは分かるけど、そこまであからさまに態度に出すのはどうかと思う。

「まあ、言ってみれば階級ね。色々と言い回しはあるけど、大神というのは名の知れた神であり、従属神を持つ神を指すの。

 ロキ様やオーディン様、トール様は大神としても有名だね。」

 おそらく、俺が知っている神様の大半は大神なんだろうな。

「んで、私のようにロキ様に仕える使徒でありながら、神の座に着いたもの。

 その中でも物理的な制約から解き放たれた者を小神というの。

 従属神であるから権能は従う神の一部や関連する権能を持つ。

 中には新たな権能を作り出して独立する場合もあるけれど、その場合は新たな大神になると考えて良いんじゃないかな。」

 モーラが属するのはこの階級なんだろうな。

 しかし、権能の一部ね。

 あるいは、俺の知っている神でも小神に含まれる神様もいたりするんだろうか?

「ちなみに、神の座についても物理的制約に縛られる存在は亜神と呼ばれている。

 大神や小神が依り代や顕現をしないと物質界に介入できないのに対して、亜神は肉体を持っている。

 それは物理的制約を受けていることを意味しているけれど、それ故に物質界に介入しやすいと言うことも意味しているね。」

 つまり俺が物理的に接触する可能性が高いのは、この亜神という存在なんだろうな。

 人数は多かったりするんだろうか?

「君たち異世界人が亜神になる事もあるから頑張ってちょうだい。」

 期待の籠もった笑みを浮かべられ、俺は少し困惑した。

 そうか、俺が神になることもあり得るのか……

 いや、無理だろう。

どう考えても、俺が神とか似合わないにも程がある。

「さて、そろそろ時間ね。君とのおしゃべりはそれなりに楽しめたよ。

 せいぜい生き延びて、ロキ様のために世界を引っかき回して欲しい。

 また会えることを楽しみにしているよ。」

 モーラがそういい残すと、世界は白さを増して視界を塗りつぶしていく。


「ヒロシ……ヒロシ?………」

 誰かに揺すぶられて俺の意識は再び覚醒していく。

心地よい声が耳の中で響き心が和む。

うっすらと目を開けると、少し不安げなベネットの顔が俺をのぞき込んでいる。

 まだ、薄暗く夜は明けていないのは分かるが、おそらく見張りを交代する時間が来たんだろう。

 でも、なんでそんなに不安げなのだろうか?

「お……おはようございます。ベネットさん……」

 俺が寝ぼけた声で名前を呼ぶと、どこかほっとした様子がうかがえる。

 と言っても、細かい表情が伺えるほど照明は明るくはないわけだけども……

「何かありましたか?」

 もしかしたら、俺がモーラと夢で会っていたことを察知していたんだろうか?

 彼女もウルズに選ばれた聖戦士なのだから、そういった可能性があっても不思議はない。

「少し、ウルズ様が声をかけてくださった気がして……ちょっと胸騒ぎがしたの……」

 うーん、ウルズはモーラと敵対しているのかな。

少し気にはなるけれど、ちょっとベネットに尋ねるのには気が引けるな。

 ともかく、起きてベネットと見張りを交代しよう。

「ご心配おかけしたようですけど、大丈夫ですよ。ありがとうございます。」

 そう声をかけてテントを出て見ると、たき火がたかれていた。

ぱちぱちと薪がはぜる音がする。

暗い中、これを準備するのは大変だっただろう。

 俺はたき火に当たるように傍らに腰を落ち着ける。

 松明は事前に付けてあるから、火を熾すのはそんなに大変ではないだろう。

後は薪を組んで、すぐに消えないようにすれば良いだけだけれど、それを暗い照明の中でやるのは予想するより難しい。

おそらく食事が終わってから準備をしたんだろうから大変だったんじゃないかな。

せめてたき火の準備くらいしてから休むべきだった。

トーラスには悪いことをしたな。

 ふと気がつくと、ベネットがたき火の向こうに座っている。

「あの、ベネットさん、交代しますんで休んでくださいね?」

 何か、引き継ぎをしないといけないようなことでもあったんだろうか?

 今までは素っ気なく寝床に潜り込んでいるはずなのに……

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