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1-3 病気が治るってのも充分チートだよね。

現実の方も直らないものか……

 食事を終えて俺はほっとした。

突然の異世界転移に驚いていたし、見た目が怖いオークに助けられるという珍事もあわてるなと言うのが無理がある。

キャラバンまで裸足で歩いていたので、痛いし疲れた。

 そこでようやく、俺は俺の体の異変に気づく。

普段俺は眼鏡を掛けているのだが、その眼鏡がない。

糖尿病のせいで視力はかなり悪くなっていたはずだから、眼鏡無しじゃろくに目が見えないはずだ。

それが今ははっきり見える。

それに幾分からだが細くなっていた。

丁度二十歳くらいのころの体型だろうか?

一瞬若返ったかとも考えたが、眼鏡は小さいころからの付き合いだ。

こんなに物がはっきり見えるのは、人生の中で初めてじゃないだろうか?

 そこでふと不安になる。

 薬だ。

 俺は、糖尿病で投薬治療を受けていた。

薬を飲まなくても平気なんだろうか?

何となく、体の調子がいいので平気じゃないかとも思うんだが、そもそも薬を飲まないことで即座に何か症状が出たりしないのが糖尿病だ。

都合よく直ったりしていてくれれば嬉しいが、少し不安だ。

 睡眠薬もない。

俺は寝られるだろうか?

現状を知るために医者に見て貰いたいが、果たしてこんな何もないところに医者なんているだろうか?

不安が積み重なる。

「どうしたヒロシ?何か困ってるのか?」

 ハンスがそんな俺に声を掛けてくれた。

「あ、いや、僕は……その病気なんだけど、医者って近くにいたりするんでしょうか?……」

「医者か。うーん、街に行けばいるとは思うが……病気ならヨハンナに見て貰えばどうだ?……」

 少し面を食らう。

ヨハンナは医者なのだろうか?

「ヨハンナばあさんは医者じゃないが、まじない師だ。魔法で病気を診てくれて直してくれるぞ?」

 まじない師と聞いて俺は思わず胡散臭さを感じてしまう。

 だが、考えても見ればこの世界には魔法がある。

もしかしたら効果も不確かな迷信ではないかもしれない。

「ヨハンナばあさん、ヒロシを見てもらえるか?」

 ハンスの言葉にヨハンナは頷いてくれた。

「医者と違って病気の仕組みやら何やらは分からないけど、それでもいいね?」

 分からないのかと少し不安に思ったが、仕方ないだろう。

そういう物だと受け入れよう。

「構わないですよ。診てもらえますか?」

 そういうと、ヨハンナは近寄ってきて俺のおでこに触れる。

しわくちゃで、少しごつごつしていた。

でも、爪は摩耗していて、肌に食い込むことはない。

 不意に何か暖かい物が流れ込んできた気がする。

「ふむ。体はずいぶんと丈夫そうだねぇ。だけど、少し心に傷があるみたいだ。」

 少しずつ何かを探るようにヨハンナは呟いている。

そして、やがてヨハンナは手を俺のおでこから離した。

「とりあえず、体の病はないから、薬は必要ないだろうよ。だけど、少し眠りづらいみたいだね。」

 ヨハンナの診断が正しいとするなら、どうやら糖尿病ではなくなっているみたいだ。

少し安心する。

 もしかしたら、こちらに来るときに体がリセットでもされたのだろうか?

 ともかく、嬉しかった。

「まあ、眠れないのは煎じ薬があるからそれを飲むといいよ。」

 ヨハンナは微笑んでくれたが、ちょっと怖い。

でも、凄く嬉しい。

 まだ、ネット小説のような派手な出来事はないが、俺にとってはものすごいチートだ。

明らかにズルだろう。

何せ現代医学では完治ができない病気が治り、今まで得たこともないような鮮明な視界を得られているのだ。

しかも今のところ目に見えるデメリットもない。

これをずると言わずしてなんというのだろう。

 しかし、急激に喜びが薄れていく。

考えてみれば、不気味だ。

なんの説明もなしに異世界に立ち、都合のいい現象がいくつも起こっている。

 これが夢ならばまだマシだろう。

目が覚めてがっかりして終わりだ。

夢が覚めるまで長くかかるなら落胆は大きくなるだろうが、所詮は夢なのだから仕方がない。

 だが、もしこれが夢ではないとしたら……

俺はこれからどんな対価を求められるだろう。

 胃が痛い。

 しかも、ここまでハンスとヨハンナには世話になりっぱなしだ。

お荷物にしかなってない。

そりゃ健康な体を得ているのだから、キャラバンの手伝いくらいならできるだろうが、俺は基本的に怠け者だ。

恩を返す前にへたばりそうで怖い。

「気にするな。俺がお前を連れてきたのだし、世話を見れる間は見てやるよ。」

 ハンスは安心させるように声を掛けてくれる。

 でもそれでいいんだろうか?

 不意に会社時代を思い出す。

怒鳴られ、無視され、役立たずだと罵られる光景がフラッシュバックする。

「大丈夫かい?落ち着きな。」

 労しげにヨハンナが俺の背中をなでてくれる。

何か暖かいものが、体の中に染みこんできた気がする。

もしかしたら、魔法かもしれない。

 あぁ、でも……

それでも不安はぬぐいきれない。

考えるのをやめよう。

他のことを考えよう。

そうしないと保たない。

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