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15-4 思わず知っていることを漏らしちゃうこともあるよね。

ポロっと漏らしちゃうこともありますよね。

 年が明けて、最初のお出かけが造船所だった。カールの専用インベントリ経由しベネットを伴って、依頼されている軍艦の建造状況を確認するためにやってきたわけだけどなかなかに壮観だ。

 外観はほぼ完成している。

 蒸気機関はすでに搭載されていて、今は予備のマストが取り付けられているところだ。流石にマスト無しで蒸気機関だけを頼りにするには、まだ信頼性が乏しい。

 それに石炭や水なども積まないといけない。常時、蒸気機関で航行するよりも帆走も併用した方が航続距離は伸びる。

 他にも内装や大砲の艤装なども進んでいる様子だ。

「いやー、参ったね。思った以上に厄介だよ。」

 先生が船を見上げながら愚痴をこぼしている。

「先生が始めたんですから、責任は取ってくださいよ。ベヒモスを素材にしたんですから、出来は期待していいんですよね?」

 これで、普通の船よりも劣ってるとか言われたらシャレにならない。

「勿論だよ。ただ、加工が思うようにうまくいかなくてね。最終的には呪文で何とかした。まさか、呪文の掛け過ぎで気絶するとは思わなかったよ。」

 そこまで苦労したのか。残っているベヒモスの素材、なんに使ったものかなぁ。

 使用用途に困る。

「でも、綺麗な船ですね。こんなに大きいのに、綺麗な曲線を描いてる。」

 ベネットが見上げながらうっとりとした表情を浮かべている。こういうデザイン好きなんだ。

 なるほどなぁ。

「この曲線は加工の都合なんだよね。

 これより緩いと弾けてしまうし、これよりきついと折れてしまう。

 本当ぎりぎりなんだ。」

 つまりデザインとしてこんな優美な形をしているわけではないってことか。

 まあ、軍艦だしデザイン性は求めてはいない。最初の設計図から大きく外れているけど、設計士の人は苦労したんだろうなぁ。

 その分、俺の懐にもダイレクトアタックしてきたけども。

「とりあえず、あと1週間待ってね? 予定から過ぎたけど勘弁してよ。」

 完成予定は去年の末だったはずなので確かに期限を過ぎているけど、この出来ならバーナード卿も納得してくれるだろう。

 予算を大分オーバーしているけども。

「奥様がなだめてくれてるから大丈夫だと思うよ?」

 俺の心配していることに気づいたのか、ベネットがバーナード卿の機嫌の話をしてくる。彼女が大丈夫というのなら、平気なんだろうな。

「ご苦労かけます。ちなみに、何か要求された?」

 そういうとベネットは少し考えるように口元に指をあてる。

「大したものは要求されなかったかなぁ。アレストラさんの工房で手に入る白磁とか、髪飾りを贈ったくらい。

 あー、後は化粧品かな。」

 それくらいで済むなら安いものだな。

 一応工作費としてお金を預けているけれど、その金額と比べれば大した額じゃないだろう。

「あーでも、奥様経由でトーラスが使ってるライフルが欲しいって伝えろってしつこく言われてたらしいよ?」

 本人には無理ですと伝えてたんだけどな。そんなに欲しいのか。

 いや、実はアレストラばあさんに後装式のライフルについて、開発をお願いしてはいた。

 最初はミニエー銃のように前装式のライフルからとも思っていたけれど、つまらないものを作らせるなと怒られたんだよな。それで、より高度な作りの後装銃の設計図を渡した。

 雷管が無いからと思ってたら、そっちの方はどうやらばあさんが独自に開発していたらしい。

 つまり、すでに後装式の構想は彼女の頭の中には存在してたという事だろう。なんか余計なことをした気がする。

「近々、こちらの技術で作ったものが手に入りそうだから、それを渡すよ。ベネットも一丁いる?」

 そういうとベネットはうーん、と唸なった。

「正直、ヒロシのそばにいるとこっちの銃は不便さを感じて、あまりほしいとは思わないかなぁ。

 サブマシンガンとかは欲しいけど。」

 ポロリとベネットが物騒なことを口にする。

「はい?」

 何処でそんな言葉を覚えた。

「なんだいサブマシンガンって?」

 先生が知らない言葉に反応してきた。

「あー、いえ、何でもないです。少し、ヒロシにおねだりしただけなので……」

 誤魔化し方が下手過ぎる。

 先生は訝しんでいるけれど、どうしたもんだろう。話すわけにもいかないし、とりあえず顔を反らしておこう。

「まあ、いいけどね。秘密にしていても、いずれ分かる事だろうし。」

 そうなんだよなぁ。先生は長命なエルフだ。

 今ここで誤魔化したところで、いずれはあの時の言葉はこれの事かって感じで秘密は露見するんだけども。

「すいません、今は明かせないということで。」

 俺は先生に頭を下げた。

 

「ごめんね、迂闊だった。」

 カールの家に戻ってきたところで、ベネットが俺に平謝りしてきた。いや、別に謝られることじゃないんだけども。

「いずれ発明されるものではあるから気にしなくてもいいよ。でも、どこで知ったの?」

 そういうと、ベネットはタブレットを取り出してきた。面白おかしく武器の歴史を解説している動画だ。

 個人的に好きなので、俺もよく見てる。

「なるほどねぇ。漫画経由で知ったのかと思った。」

 レイナもそうだけど、ベネットも意外とアクションものの漫画を見ていたりする。そこからかなと思ったら、動画なのか。

「最初は、漫画かなぁ。見たことのない武器とかもあって、どんな武器なのかなと思ったの。」

 そう考えると自然な話だな。

 しかし、サブマシンガンね。一時考えてた、フルアーマーベネット構想が頭をよぎる。

 なんて俺は幼稚なんだろう。

「まあ、馬に乗ってたら銃身の短い銃の方が便利ではあるよね。少し考えておくよ。」

 俺も持たせたいとか考えていたんだから、あまり強く否定はできない。

 でも、さすがに連射できる銃はなぁ。

「無理に欲しいって言う話じゃないんだよ?ただ、何となくかっこいいなって思っちゃって。」

 そうなのか。ベネットの好みの銃ってどんなのだろう?

 ちょっと気になる。

「ほら、こんな感じの……」

 ベネットがタブレットをいじって、銃を撃つ少女が出てくる漫画のページを開く。

 あぁ、スコーピオンか。

 また、何とも渋い趣味というか。逆に渋いところを狙ってます感が出てくるかなぁ。

 いや、ベネットにそういう意識はないだろう。そもそも東側とか西側とか、そういう事情は多分知らないはずだ。

 あるいは、歴史関係も動画を見てたりするのかな?

「大分古い銃だから、手に入るかな。ところで、他にも動画見てたりする?」

 そういうとベネットは頷く。

「戦争の歴史とか、格闘技の動画とか、そういうのも見るよ? ちょっと何を言ってるのか分からないものも多いけど。」

 大丈夫だろうか?

 最初の頃は可愛い動物の動画とかを見てた記憶があるんだけど、ずいぶんと殺伐とした動画ばっかり見てるな。なんか変な動画に影響受けてなければいいけど。

「心配してるかもしれないけれど、あくまでも備えだから。別に好んで見ているわけじゃないよ。」

 少し拗ねたようにベネットがうつむく。そんなに顔に出てたかなぁ。

「ごめん。別にそういう動画を見るなって言う事じゃないから。言うとおり、もしもの時には必要になる知識なのは確かだからね。」

 ただ、動画が必ずしも正確ではない。正確で緻密な情報というのは、大抵つまらなくじっと聞いているのは難しい。

 だから、正確性よりも面白さを優先することもある。

 それが駄目だというわけではない。興味を持つきっかけとしては間違いなく貢献しているのだから。そこから先は受け手の問題なんだよな。

「ちなみに、そういうことに関わる書籍もあったりするけど読む?」

 流石に専門的すぎて、能力値ブーストを貰ってる癖に俺は死蔵してしまっている。読み進めていても理解しているのかしていないのか、あやふやになってしまう。

「読めるかなぁ。でも、必要だったら読んでみるけど。」

 うーん。

 必要か否か、少し判断に迷う。結局、本格的に調べるとなると大分負担が重い。

 だから、聞きかじる程度でいいような気もするんだよな。

「用意はしておくけど、片手間でいいよ? 正直、俺は読んでると眠くなる。」

 そういうと、ベネットも頷いて苦笑いを浮かべる。

「難しい本を読んでいると、頭に入ってこないよね。料理の本とか、お裁縫の本は平気なんだけど。」

 そういえば、最近、厨房でベネットがいろんな料理を試してくれている。煮物やだし巻き卵みたいな和食から、スパニッシュオムレツやハニーマスタードチキンなんていう料理も挑戦していた。カレーが出てきた時には驚きを越えて、少し恐怖を覚えるほどだ。

 何処からスパイスをと考えたけど、そりゃ当然俺の”売買”で買ったんだろうな。

 ここまで大胆に活用されるとビビる。

 あくまでも俺やキャラバンのみんなみたいに事情を知っている相手にしか出してはいないけれど、カレーなんかは臭いが残るからな。しばらく、使用人や役人の人たちが首をかしげていたのを覚えている。

 あまり嗅ぎ慣れない匂いだろうしな。

 でも、いろんな料理を出してくれるのはとても嬉しい。雇っている料理人も腕は悪くないしレパートリーをハロルドから習っていたりもするので不満はないけれど、やはりカレーや焼きそばとか食べなれたものが出てくると嬉しいのも事実だ。

 多分、俺の気持ちを考えてなのかなぁ。

 なんだかとても嬉しい気持ちになってしまう。

「ありがとう。わざわざ奥様の手を煩わせないといけないのが申し訳ないけどね。」

 そういうとベネットは小首をかしげる。

「あ、あぁ……あれは、その……

 私が食べてみたいなって思ってただけだから。それに、カイネちゃんやミリーちゃんも作ってたりするんだよ?」

 ほほう。

 カイネが料理をするのは、ハルトの為だと思ったけどミリーもなのか。あいつの場合は、本当に食べたいだけだろうけどな。

「もっと鶏飼おうか? 卵とかたくさん使うよね?」

 意外と卵は手に入りにくい。基本的に、家畜として飼っていないと定期的には手に入れにくい代物だ。

 もっとも”売買”で購入してしまえば、何の問題もないんだけれど。

「食材はやっぱりこっちの世界のものを使った方がいいのかな?」

 そこも悩ましい問題だよな。いろんな国からの輸入品を手に入れやすいモーダルだとしても、手に入らない代物は多い。

 もちろん代用すれば何とかなるものもあるが、それらで自作しろというのもな。醤油や味噌なんか、侯爵家であるレイナの実家でも製造するとなるとかなりの時間を要したとか言っていた。

 手に入らないものは素直に買うという方向性でいい気もするんだよな。

「なるべくならね。基本的には問題ないのだろうけど、やっぱり気になる部分はあるし。」

 今のところは何の支障もないが、能力で手に入れたものに疑念が全く無いかと言われると微妙だしな。

 特に食べ物はなぁ。本当に平気なんだろうかと心配になることも多い。

 最初の頃は浮かれていて全然そんな配慮ができていなかったけれど、改めて考えるとかなり危ないことをしてたような気がする。流石に食べてすぐに血反吐を吐くようなことは無かったけれど、そういう可能性だってないとは言い切れなかったわけだし。

 いや、”鑑定”で見る限りは危険なものは何一つないし、もしそれで危険があるなら能力としてかなりの欠陥になってしまう。それを警告なしで渡すって可能性は、モーラ様だと無いこともない神様だからなぁ。

 もうみんなに散々食べさせてしまってるんだから、今更なんだけど。

「とりあえず、帰ろうか? いつまでも邪魔してたら悪いし。」

 そうだね、というベネットの手を取って、俺はインベントリの中へと誘う。

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