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15-2 のんびり執務室に籠りたい。

籠りたいのか籠りたくないのか、どっちなんだい?

 森にわざわざ足を運んだのは、何も大梟に会いに行くのが主目的ではない。それじゃ単なる観光ツアーになってしまう。

 禁猟区を設定するための地図作りが目的であって、大梟に会ったのはついでだ。ついでに利用できる資源の調査と、それを運び出す道づくりもおこなっている。

 地図についてはまとめて、報告書を仕上げていた。

 やはり森の奥に進むにつれて危険度が増していく。猟師志願者を森に行かせるにしても、どの程度の深さまでなら安全かということは把握しておいた方が賢明だろう。

 その上で、大梟の活動範囲を除外しないといけない。

 幸いなことに昼間は殆ど活動していないので昼間の禁猟区はさほど広く取らなくてもよさそうだ。

 しかし、別に俺が行く必要があったのかと聞かれると微妙だな。ちょっとした気分転換も兼ねていたという部分も大きい。

 執務室にこもりっきりだと窮屈さを感じてしまっていて苦痛だった。もちろん、常時執務室に張り付けというわけでもない。

 モーダルに顔を出して、カールと打ち合わせしたりギルド長の代行を任されたアノーのサポートに入ったり、王都の商店を任されたロドリゴと相談したりと何かと忙しい。

 アレストラばーさんからは新製品の売り込みもされるし、水運ギルドの件でラウゴール男爵とも会食をしなくちゃいけない。それ以外にも職能ギルドの会合やら近隣貴族同士の会合というのもあれこれと呼ばれる。

 

 正直、執務室にいる方が平和かも。

 

 スケジュール調整は当然秘書のエメリッヒがやってくれているし、家内のことはベネットも執事のフィリップが取り仕切ってくれている。最近は、テオが代官として執務をこなしてくれるようになってきているので、大変助かった。

 だから俺一人が忙しいわけじゃないけれど。だとしても息抜きしたかった。

 というかベネットと一緒にお出かけしたかったのだ。おかげでいくつかの会合に顔を出さなかったわけだけど……

 正直、社交的なことは面倒以外の何物でもない。やれ流行りの服だの流行りの歌だの、新作の歌劇がどうとか。

 いや、もちろん、流行を全く追わないと商人としては駄目なのはわかる。分かるけど、貴族の間でしか流行ってないものなんか正直どうでもいい。

 目移りが激しすぎるし実利も乏しいし、流行遅れになると全て無駄になる。そんなものに付き合ってる暇があるなら、街の様子を見て回った方がよほど有意義だろう。

 何が足りなくて、何を欲しているのか、少ない駄賃を握りしめる子供の方がよほど商売のタネになる。

 とはいえ、貴族としての体面というのもある。俺自身が街をほっつき歩いていたら暇なのかと訝しがられるだろう。

 なので、テリーやミリーが持ち込んでくれるみやげ話はとてもありがたい。ただ、変なゴシップに詳しくなるのは困りものだが。

「浮気なんかしてない。」

 目の前のハルトがふてくされて椅子の背もたれに突っ伏す。

「知ってますよ。変なのに絡まれましたね。」

 ミリーが近所のおばちゃんのうわさ話として、ハルトがいろんな女の子をひっかけて浮気して回っているというものを持ってきてくれている。実際には親切心から手伝いをしたり、面倒なので自分で仕事を片付けたりした何気ない行動ばかりなのだが、それが誤解されているようだ。

 まあ、俺と違って見た目はいいもんな。身分もしっかりとした美男子が自分のために何かをしてくれたとなれば、そりゃ嬉しくなって特別な存在になれたと思っても仕方がないだろう。

「知ってるなら、カイネになんか言ってやってくれよ。明らかに拗ねてるのに、拗ねてないとか何をどうすればいいのか分かんねえよ。」

 知らんがな。そんなときの対処法なんか、俺に求める方がおかしい。

「俺が女性あしらい上手いように見えますか?」

 恨めしそうに俺を見るが、ハルトはため息をついて諦めたようだ。

 いや、分かるけどむかつくな。

「とりあえず、カイネちゃんをどうこうより、言い寄ってくる女性に誠実な態度をとるべきだと思いますよ。自分には妻がいますのでやめてください。それが一番の解決法だと思います。」

 そういうとハルトは眉を顰めた。

「いや、だって可哀そうじゃん。」

 瞬間的に、そんなだから駄目なんだと思ったけれど、じゃあ俺がハルトの立場だとすればと考えれば気持ちは分からなくもない。あわよくばって下心も、分からないと言えば嘘だろう。

「可哀そうだって言葉は便利ですよね。実際には、下心でしょ?」

 ハルトはむっとした顔をしたが、少し考えるように視線を彷徨わせる。

「確かにそうかもしれないけどさ。何もそんなにストレートに言うことないじゃん。」

 少し不貞腐れた様子だけど、どこか納得した部分があるんだろうな。

 最近、ハルトの扱いに慣れてきたような気がする。割ときついことを言っても、自分の落ち度には向き合えるだけの度量は持っている。

 じゃあ、変に取り繕うよりストレートに言った方がいいだろう。

「言っても聞いてくれない人もいるかもしれないし、刺されるかもしれないから防刃服は着ておいた方がいいですよ。」

 貴族同士の付き合いで起きた事件やら、街でも庶民同士でそういう刃傷沙汰に陥るというケースは聞いている。男爵家に仕える人間と庶民との間であれば刃物を向けられた時点で反撃してもお咎めはないけれど、ハルトの性格を考えるとまず反撃はできないだろうな。

「本当、勘弁してほしいよな。なんですぐ刃物とか出してくるんだろう? おっかないよ。」

 口ぶりからすると、すでに何度か経験済みか?

「自力救済が常識の世界ですしね。もう少し平和にならないことにはどうにもならないんじゃないですか?」

 そのためには、経済力を上げていくしかない。出来れば世界的に、最低でも国家レベルでの成長は不可欠だ。

 自力救済の脱却には治安維持が不可欠で、その治安維持のためにはお金が不可欠になる。

「森の中の魔獣とかがいるから不可能じゃね? あー、でもエルフがいれば森も平和になるんだっけか?」

 カイネ経由の知識なのかな? 確かにエルフがいれば森を人界化することが可能だ。

 その上で、人を襲わない魔獣の存在も許容できるようになる。どういう理屈なのかは不明だが、エルフが管理する森の中なら魔獣たちの寿命が縮まるという現象は起きないし活動低下も起きない。

 だが、そう言った森を人を襲う魔獣は嫌う。

 これもまた理由が分からないんだが……

 やっぱり属性って言うのがあるのかなぁ。正直、善悪の二元論でものを見るのは嫌だし、”鑑定”で見てもそれらしい項目はない。

 ただ、どうにもゲーム的な善悪という属性に則った存在がいて、それらに則した現象も発生していると見た方が理解しやすいことも多い。《悪徳者からの防御》という呪文も存在しているし、実際盗賊相手には効果を発揮したりもしている。

 逆にラウレーネに突き刺された槍には《邪悪》という善なるものを害する能力が付与されていた。

 少なくともおまじないのようなものじゃない。実際に効果は出る。でなければ、ただの銛でラウレーネの鱗を貫けるはずがないからだ。

 とはいえ普段の行動が属性と紐づいているかどうかは、確証がない。

 おそらく、ベネットも善属性ではあるとは思う。だからと言って人間味が全くない聖人かと言われればそんなこともない。

 どの程度の影響があるのかは定かじゃないのは、気になるところだ。確かめる術がないのではっきりしないのが、なんとも言えない気持ち悪さがある。

 

 でも気にしても仕方ないか。

 

 結局相手が善だろうと悪だろうと交渉の余地があるなら交渉するし、無理なら逃げればいい。

 だから、できうる限りの逃げる場所と逃げる時間を稼げる戦力を揃えよう。

「なんか、またよからぬこと考えてる?」

 失礼だな。別に変なことは考えてない。

「何もおかしなことは考えてないですよ。精々身の安全を図りたいなくらいに考えてるだけです。

 それでノックバーン枢機卿と会う予定ですけど、ハルトさんも顔を出してもらうってことでいいですよね?」

 そういうとハルトは眉を顰めた。

「俺、あのおじさん苦手なんだよな。なんか枢機卿って言うのがこう、悪人ぽいって言うか。」

 どんなイメージだ。単に教会の中枢メンバーだというだけに過ぎない。もちろん、振るえる権限や手に入れられる財貨は司教よりも格段に増える。

 枢機卿というだけで、王族からも一定の配慮を受けられるくらいの権威もあるはずだ。

 だからと言って、権力者だから悪人と思うのは短絡的思考だろう。しがらみも多ければ、責任も重くなる。好き勝手には動けなくもなる。

 だから、ノックバーン枢機卿自身は足枷をつけられたと忌々しげに言ってたんだよなぁ。

「とりあえず創作物の見過ぎですよ。ノックバーン枢機卿に限って言えば、そんな俗物じゃないと思いますよ。」

 そういうとハルトはますます顔をしかめた。

「俗物なら、むしろありがたいよ。状況によっては問答無用で消しにかかられるかもしれないじゃん。」

 確かに一理あると言えばあるのか。

 でも、少なくとも今の関係で問答無用ということは無いと思う。

「むしろ便利使いされる可能性もありますけどね。お金の無心程度だったらいいんですけど。」

 いきなり魔王を討伐してくれと無茶振りされたら。そんなことを考えたけれど、それはそれで少し面白そうだなと思っている自分もいる。

 少しは余裕ができたってことなのかな。

 でも、そんな依頼をされても俺じゃ直接戦えないだろう。戦力確保のために武器を集めて人を集めるのがせいぜいだ。

 今、そんな依頼を受けるとしたなら誰に任せるだろうか?

 多分、最大の戦力はハンスだ。キャラバンのみんながいれば、魔王でもなんとかできるんじゃないだろうか?

 次に手慣れているという点において、スカベンジャー組が出てくるかもしれない。ジョンを筆頭にみんな強くなっている。

 話によると、悪魔に攫われたお姫様を救いに魔界へと足を踏み入れて無事救出してきたとかいう噂も聞いていた。噂には尾ひれがつくものだけれど、ジョンたちならやれるかもしれない。

 今度直接聞いてみよう。

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