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14-27 いいお嫁さんだと思うんだよなぁ。

若ければ全部自分のおかげって思えたりするんですかねぇ?

 寝室に戻るとベネットがお風呂から上がってきたところだった。

「ありがとうヒロシ、ヨハンナはぐずってなかった?」

 そう言いながら、ベネットはヨハンナを迎えるように両手を広げる。

「大丈夫、途中で何度かおむつ変えたけどね。」

 ヨハンナを抱きとめていた抱っこひもを緩めてヨハンナをベネットに渡す。

「ヒロシって、そういうの慣れてるよね。兄弟とか面倒を見てたの?」

 いや、そういう経験はない。たんに紙おむつが便利なつくりになってるから、慣れてなくても交換くらいは楽にできるだけだ。

「交換しやすい作りだから、不器用な俺でも簡単に換えられるだけだよ。」

 そういうとベネットは納得したような感じで頷いた。

「ああいうのは、やっぱり簡単には作れないのかな?

 おしめっていろいろ面倒だって話は奥様方の話では聞くから、あったら便利なのかなぁって思うんだけど。」

 なるほど、マタニティ関連の商品は売れるかもな。

「吸収性のある素材とか接着剤だとか、工夫は必要だろうね。ところで、大分激しいお稽古だったって聞いたけど平気?」

 今は、オーバーオールじゃなくてディアンドルに着替えている。激しいお稽古の後とは思えないくらい落ち着いた雰囲気だ。

「え? 誰かに見られてたの? ちょっと悔しくて、むきになっちゃってたから気付かなかった。」

 ベネットは少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。涼やかな美貌の持ち主だけに、むきになる姿なんか想像がつかない人も多いかもしれない。

 でも、そういうむきになっている場面は何度も見ているし、そういう表情も俺は好きだ。今の恥ずかしそうな仕草も似合わないと思う人もいるかもしれないけれど、可愛いと思ってしまうんだよな。

「ジョシュ君と図書館で勉強してたんだよ。そしたら、レイナさんがやってきてね。」

 その時の話をしたらベネットは噴き出した。

「あぁ、それで私も同じじゃないかって?」

 俺が頷くと、ベネットは恥ずかしそうに笑う。

「確かに、ご婦人らしくないかもしれないね。本当ならもっとお淑やかにしてないと駄目なんだろうけど。」

 別に彼女の強さをあてにしなければならない状況ではない。

 だから、無理に訓練や稽古を積んでもらわないといけないわけではない。

「弱くなりそうで怖い?」

 そう聞くと、ベネットは頷いた。

「ずっと、ヒロシに守ってもらっているのに、何を言ってるんだって思われそうだけど。

 少し不安かな。」

 守ってもらってるけど、守れてるかなぁ。俺はずっとベネットには頼りっぱなしだ。

「ヒロシは、強さを腕っぷしだけだと思ってるわけじゃないでしょ? 経済的にも、立場的にも私はヒロシに守ってもらってるよ。」

 まだ何も言ってないんだけどな。

「よしんばそうだとしても、ベネットには何度も助けられてるからね。お返しできているとはまだまだ言い難い気はするけれど、少しは役に立ってるなら幸いだよ。」

 謙遜しすぎかな。

 いや、でもなぁ。正直、自信満々ではいられない。

「私は、ヒロシの力を借りて商売をしているけれど、その稼ぎなんてヒロシの百分の一にも過ぎないよ。

 もちろん、ヒロシが手を出しにくいところで稼いでいるけれど、ヒロシが手を出せるならきっと私なんかより稼ぐ事ができるんじゃないかなぁ。」

 どうだろう。

 結局、それは個人で動いているから、その金額にとどまっているだけじゃないかな。俺はグラスコー商会とハロルドの店、そしてカールの描く絵画で儲けさせてもらっている。

 そのどれもに人が介在している。

 だから……

「人を使うって言うのも才能だよ。ヒロシはそこら辺が結構大胆だよね。」

 大胆かなぁ。

「たまたま、運がよかっただけなんじゃないかな。いい人たちに囲まれてる。」

 そういうとベネットは苦笑いを浮かべた。

「そんなこともないでしょ? 結構、持ち逃げをされてる投資も多いし。」

 そうそう、それは俺の人を見る目がないという証拠でもある。

「ほら、そこは駄目な部分じゃない?」

 そういうとベネットは首を横に振った。

「普通は、それに凝りて人を信用できなくなるものだよ。それに逃げられた時の立て直しもできない人も多いもの。」

 褒め殺しされてる気分だ。俺は思わず渋い顔をしてしまう。

「褒められるのになれてないんだ。多分、駄目な部分はまだまだいっぱいあると思うよ。」

 そういうとベネットは笑う。

「そうだね。ヒロシは、完璧な人じゃないと思う。意外と怒りっぽいし、わがままだし、こだわりが強いし。

 駄目な部分はいっぱいあると思うよ?」

 なんだか、その言葉にほっとしてしまう。本当なら胸を張って褒められるのを喜ばないとなんだろうけど。

「それでいいんだよ。もし完璧な人だったら、私が壊れちゃう。

 不完全な私がそばにいていいのかなって、そんな私でも受け入れてもらえるのかなって……

 本当に駄目な女だよね。」

 思わずそんなことは無いと言いそうになったけれど、そういう事じゃないんだろうな。

「でも、私も意地っ張りだから駄目な部分を見せたくないんだよね。こういうのはヒロシだから言ってるって忘れないでよね?」

 ベネットは恥ずかしそうに笑う。なんだか、その言葉が嬉しいって感じるのはおかしいんだろうか?

 なんとも形容しがたい気持ちになる。

「あー、うん。わかった。えっと、それで……」

 なんで俺はしどろもどろになってしまうんだろうか。本当こういうところが情けない。

「そういえば、ジョシュ君が言ってたんだけれど、森で大梟が見つかったらしいんだ。」

 話題のつなげ方が相変わらず下手だ。スムーズに枕を用意することができない。

「え? あぁ、あの人懐っこいって話題に出てた梟?」

 ベネットも急な話題転換に戸惑った様子を見せる。

「なんでもトロールたちは幸運を運んでくる鳥だと思ってるらしいから、保護しようと思ってるんだ。」

 禁猟区の設定や大梟を狩ること自体を禁止する予定ではある。

「様子を見るのもまずいのかなぁ。」

 どうやらベネットとしては、姿を見たい様子だ。

「そこら辺は、カイネちゃんにも聞いてみる予定だよ。」

 場合によれば、先生やミリーにも相談した方がいいかもしれない。特にミリーは亡くなったゴブリンのヨハンナの日記を託されていた。

 彼女の人生経験が記されたものだ。何かいい知恵があるかもしれない。

 しかし、娘の名前をヨハンナと名付けてしまったので今後は混乱をきたすかもしれないな。こういう時は大とか小とかつけるとか、そういう風習ってあるのかな?

 あとでみんなに聞いておこう。

「んー、でも偶然じゃないよね。できれば、大梟を戦争に使うのは避けたい気持ちになるのはやっぱり傲慢な考え方なのかなぁ。」

 ベネットもちらりとモーラ様の影を感じている様子だ。

「人懐っこいと聞くとどうしたってそういう気持ちにはなるよ。俺も無理だから保護する方向性で考えてる。

 とはいえ、バーナード卿には話をするつもりでいるよ。」

 そういうとベネットは悩まし気に眉を寄せた。

「熊鷲とかが見つかってくれるといいんだけれど。あぁ、なんかそれはそれで……」

 代わりに差し出しているみたいで、罪悪感を覚えるんだろうなぁ。気持ちは分かる。

「まあ、見つかんなくても買うことはできるんだけどね。」

 そういうと、ベネットは思い出したかのように頷く。

「そういえば、動物も”売買”できるんだったよね。んー、でもそれもどこからか連れてこられるわけだし。」

 何処で割り切るべきなのか、ベネットも考えあぐねている様子だ。

「そこも含めて、バーナード卿の考えというのは重要になると思うんだ。すぐに売り込みしようとかじゃないから、じっくりと時間をかけようとも考えてる。」

 そういうと、ベネットは察した様子で顔を上げる。

「わかった。バーナード卿の奥様とも、お話が聞けるように動いてみるね。できれば、波風の立たないように、だよね?」

 今更、彼女にいろいろ気持ちを読まれても不快な気持ちにはならないけれど、本当に手玉に取られてるよな。

「よろしくお願いします。奥様。」

 そういうとベネットは任せて、と胸を張る。

「でも、不思議な気分。領地に来たばかりの頃は緊張しっぱなしで何をどうすればいいのかもわからなかったし、ヨハンナを生んだ後もあっという間に時間が過ぎていく。

 ちょっとは上手くやれてるのかな?」

 ベネットはヨハンナをあやしながらソファに腰かける。

「上手くやれてるかどうかはこれからかな。できるだけのことはやったけど、それが実を結んでくれるかどうかは分からないしね。

 冬が来て春になって、ようやく初めての評価になるだろうし。」

 春播きの麦には一応、トラクターを使用できたとは言え本格的に使うのは今年の冬からだ。住人が大幅に増えたこともあって、戸籍の管理や土地の管理なんかもこれからが本番だ。

 運河や治水の成果が表れるのはそれよりももっと時間がかかるだろう。

 ゲームみたいに数値管理出来れば楽なんだ……けどねぇ……

 不意になった電子音に思わずため息が漏れてしまった。

「また、何かレベルアップしたの?」

 ベネットには色々伝えてあるから、俺の仕草で色々と勘づかれてしまう。

「あー、うん。レベルアップはお昼の時にしたんだ。

 ジョシュ君と勉強中にね。

 それはいいとして、今度は”鑑定”のレベルがアップした。」

 俺はベネットと向かいのソファに身を預ける。

「んー、街の詳細な情報が数字になって見れるようになったとか?」

 そこまで推測できるもんなのかな?

 ベネットの言うとおり、住人の数や耕作面積なんて言うデータが鑑定することできるようになってしまった。

 もちろん、初めての土地では無理だし、それなりに歩き回らなければならないとはいえ、それだけで住人の数を把握できるというのは破格の能力だろう。ハルトもこれができるようになるのかな?

 頭が痛い。

「領主としては、ありがたい能力だけどね。」

 こうやって下駄を履かされると将来が気がかりだ。出来れば、跡継ぎにもこの能力を継承できればいいんだけども。

 ふと外に目をやると、どんより曇った空から雪がちらついてきた。

 先行き不安だなぁ。

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