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14-26 アンデッド談義。

大分前にこっそりと生物も購入できると書いてましたが、覚えている方いらっしゃいますでしょうか?

 しばらく図書室に籠り、ジョシュと一緒に勉強をする。彼の視点はなかなかに新鮮で、こちらも非常に学ばせてもらった。

 年下に教えてもらうことに抵抗がないのかとか、そういうプライドはこっちに来る前から散々へし折られているので今更気にならない。

 

 もちろん、嫉妬心は湧く。

 

 若いのに俺なんかよりも数段上の実力を見せられると、俺はなんて無様なんだとのたうち回りたくなる。流石にこの場ではできないけれど、未だにベッドで横になると身もだえることが多い。

 とりあえず、彼が目指す不死者の研究については倫理的な抵抗感が強くて俺は学ぶことを避けていたような気がする。でも生命というものに向き合うという事、それ自体が誤りではないのだなと感じさせてくれた。

 その最中だったが、念願だった研究によるレベルアップが発生する。

 ようやくかという気分にもなりつつも、これで必ずしも戦闘を経なくても俺もレベルアップができると証明できた。そんなものがなぜ必要なのか、と考えれば少し杞憂な気もする。

 もし元の世界に戻されたとして、こちらに戻ろうとするなら魔術以外に方法はないという懸念だ。元の世界でそもそも魔術が使えるかどうか不明だけれど、少なくとも”売買”でマジックアイテムに値段がつく。

 何らかの制約があるにせよ、魔術は使える可能性は高い。

 全てを失ったとしても、あるいは魔術を習得すればこちらに戻ってこれる可能性も無いとは言い切れない。

 もちろん、何も持ってなかった人間だ。あるいは魔法を扱う適正すらも無くなってしまうかもしれない。その時は、今やっていることは全くの無駄になってしまうが、仮にもしそうだとしても自力で帰った先達が存在している。

 

 大崎叶だ。

 

 彼女を探すという方法も模索するべきだろうな。往生際が悪いと言われるかもしれない。

 それでも、ベネットと別れ別れになってしまうのは耐えがたい。ヨハンナやキャラバンのみんなだって、会えなくなってしまうと考えると泣きそうになってしまう。

 元の世界には、あんなに未練がなかったのに、やっぱり俺はおかしいんだろうな。

「どうかしたんですか、ヒロシさん?」

 ジョシュがいる前で、変な想像をして表情に出てしまったかな。

「いや、大したことじゃないんだけどね。幸せな時ほど、将来への不安ってあるよね。」

 そいう言うとジョシュは神妙な顔になった。

「そうですね。」

 ジョシュも、レイナとずっと一緒に居たいと思って研究を続けているんだろうな。なんだか変な仲間意識を持ってしまう。

 とはいえ、不死者か。

 死ねないというのは、それはそれで辛いものがあるよな。能天気に手放しで喜ぶことはできない。

 と、もっともらしいことを言っているけれど、実際自分が不死者になったわけでもないし、知り合いにそういう存在がいるわけでもない。あくまでもフィクションで語られる不死への憧れと、隠されたリスクについて、妄想を捗らせているに過ぎない。

 そういう意味で、彼が俺の知る初めての不死者になるのかもしれない。期待感と不安感、それがないまぜになって自分でもどう接すればいいのか分からない。

 いずれにせよ、彼の選ぶ道だ。俺が妨げていいことは無いよな。

「そういえば、ヒロシさん。アンデッドに会ったことはありますか?」

「あー、モーダルの家を掃除にした時に会ったことはあったかなぁ。」

 経験としてはそんなものだ。

「あれって、2種類いますよね?」

 んー、どういう分類だろう?

「実体を持つものと、持たないものかな?」

 そういうとジョシュはちょっと意外そうな顔をした。予測した答えとは違ったようだ。

「それも、一つの分類かもしれないんですけど。意志を持つか否かで違うと思うんです。」

 どうやら俺は的外れなことを言ったみたいだ。

「ごめん、なんだかくだらないことを言っちゃったかも。」

 そういうと、ジョシュは首を横に振った。

「いえ、意外と重要な分類かもしれません。実体を持つもたないで、意志の強弱がある様な気もするので。

 ただ、実体があっても吸血鬼のようにはっきりとした意志を持つ者もいますし、実体が無くても囁くもののように意志を感じられないものも多いですよね。」

 言われてみれば、そういう傾向もあるかもしれない。ジョシュが上げたように例外事例も結構多い気もするけども。

「少し思ったのは、スケルトンやゾンビってゴーレムと何が違うんでしょう?」

 確かに、ボーンゴーレムとスケルトンの違いは何かと問われると悩む。命令通りに行動するという点において、両者に違いはほぼ存在しない。

 だけど、命令を実行する術式が複雑なのはゴーレムの方だ。スケルトンは細かな命令を与えなくてもある程度柔軟な対応を見せるのに対して、ゴーレムは割と事細かに命令をくわえておかないとかなり頓珍漢な行動をしてしまう。

 もちろん、そういう知識は蓄積されているので自分でゴーレムを作成するときにはほぼ意識することは無い。

 既に組み上げられた命令を書き写すだけだ。

 とはいえ一つ一つの命令を分解すると、それぞれに意味が存在している。

 それに対して、スケルトンに特別な命令は必要ない。

 ここに入ってくる人間に攻撃しろと命令した際に、何も言わなければゴーレムは製作者には攻撃を加え、エルフには襲い掛からないということが起こり得るのに対して、スケルトンは主人に対しては攻撃をくわえず、エルフもきっちり攻撃対象にするというくらいに違いが存在している。

 じゃあ、スケルトンに自由意志があるかと聞かれると疑問符がつく。

 少なくとも、彼らに欲求は存在していない。言われたことを淡々とこなすし、同じ繰り返しでも苦痛を訴えることもない。

 その点で言えば、ゴーレムとの違いは存在しないんだよなぁ。

「何かが違うのは分かるけれど、何が違うと断言できないね。」

 そういうとジョシュは頷いた。

「その何かが分からないと、少し怖いんです。不死者になった僕は、果たして僕なんだろうかって……」

 返答に窮してしまう。

 ジョシュは真剣なのだから、適当なことは言えない。かといって、それに正面から返答できる見識を俺は持ち合わせていなかった。

「すいません。本当は自分の中で答えを探さないといけないことですよね。

 それなのに、ヒロシさんに余計なことを言ってしまったみたいです。」

 ジョシュに謝られてしまったが、本来は先達として真っ当なことを言えればよかったんだけどな。

「こっちこそごめんね。俺は不真面目だから、ちゃんとした答えを持ってなかった。

 もし、何か手掛かりになる様なものがあれば手を貸すよ。それで埋め合わせできるとも限らないけれど。」

 なんか非常に申し訳ない気分になる。

「いえ、今も十分助けられてます。こうやって、本に囲まれているだけでも十分幸せなことだと思ってますから。

 むしろ、間男なのに追い出されないだけでも……」

 それについては、むしろこっちがお邪魔虫なんだよなぁ。あくまでも、オーサワ家とビシャバール家の橋渡しとしての役割をお願いしているに過ぎない。

 正直なところ名目上とはいえ、未だに妻と言われても正直違和感しかない。

「冗談でも間男だなんて思ったことないよ。

 そもそもレイナさんが好きなのは君なのだし、俺もレイナさんを女性としてみているわけでもないからね。

 あー、誤解しないようにね?

 女性として魅力がないとか言ってるわけじゃないから。」

 そういうとジョシュは苦笑いを浮かべる。

「ここだけの話、師匠は女性として駄目だと思いますよ。

 そこが好きなんですけど。」

 人の趣味に口出しはしないつもりだけど、ジョシュは少し特殊だよな。少なくとも普通の男がレイナと付き合いきれるかと聞かれると、難しいと答えざるを得ない。

 ましてや、それに付き合って不死者を目指すというのだから、到底俺にはまねができないだろう。

 相手がレイナではなくて、ベネットだったとして……

 いや、それでもやっぱり難しいかなぁ。そこまでの根性が俺にあるとは思えない。

 正直、羨ましいなぁ。

「誰が女性として失格だってぇ……」

 いつの間にはい寄ってきたのか、レイナがジョシュの後ろに立っていた。思わずびびって跳ね上がってしまう。

「し、師匠? いえ、それはその、失格じゃなくて、駄目って言ったんです。」

「同じでしょう? まったく、こいつ!!」

 こめかみを拳でグリグリしながら、レイナはジョシュを虐待している。

「いつもローブ姿でだらしなく歩いている姿は駄目って言われても仕方ないと思いますよ。」

 とりあえず、俺の口からも言っておいてやろう。

「うるさいなぁ!! じゃあ、四六時中おしゃれしてろって言うの? ベネちゃんだって、オーバーオールで泥んこだよ?

 私だって、必要な時はちゃんとした服着るもん!!」

 そういう事じゃないんだよなぁ。

 しかし泥んこって、どんだけ激しい稽古なんだろうか?

「恥じらいの問題ですよ。俺がベネットの様子を見てたら、少なくともその姿のままでいいやって思ったりしませんよ。

 まあ、そういう油断をしている姿が可愛いと思うことはあるかもしれないですけどね。」

 レイナはむすっとした顔をしているが、ジョシュの方は我が意えたりといった様子で頷いている。

「何、頷いてんの? ジョシュにはお仕置きが必要だよね。」

 そう言いながら、レイナはジョシュを自室へと引っ張って行ってしまった。

 なんとも仲のよろしいご様子で……

 しかし、油断している姿が可愛いと思うのは分かる気はするな。

 

 そういえば大梟が森にすみ着いたという話だったけど、最初は防空部隊の乗騎の候補だったんだよな。

 熊鷲とかヒポグリフなんかも候補に挙がっているけれど、どれを利用するかについてはまだ国軍内でもまとまっていないらしい。

 考えてみれば、生物の”売買”ができるのだから適切な費用を支払ってもらえば用意するのは簡単だ。

 とはいえ現在はまだ検討段階だし見つける役割を負った人たちも別にいるはずなので、こちらから数揃えられますよと話を持っていくのはなぁ。選定段階が終わり、数を揃える段階になってから話をしてもいいんじゃないだろうか?

 こういうのはタイミングというのが大切だと思うし。

 様子見しすぎてチャンスを失うこともあるから、状況を見極めるのは大切だとは思うけれど時機を逸したとしてもそれほどの痛手というわけでもない。

 ともかく、状況を探るためにもバーナード卿と連絡は密に取っておくべきだろうな。こういう時、ご婦人同士の関係性も重要になってくるから、ベネットとも話しておくべきかもしれない。

 大梟の話も含めて、あとで話しておこう。

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