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14-24 貴族としての務めかぁ。

子作りも大切なお仕事です。

 何やってんだかなぁ。

 祭りだからって浮かれてていいわけじゃないんだよな。一応、週に二日は休日として男爵としての仕事も商人としての仕事もやらない日というのを作っているけれど、緊急事態が起きればその限りじゃない。

 なので、浮かれ気分で昼まで寝てるって言うのはあまりいただけた行為ではない。

 それはベネットも同じなんだよな。

 彼女は彼女で仕事を抱えている。貴族社会で女性同士のつながりというのも馬鹿にできたものじゃないからだ。男爵夫人としての仕事、女性たちの求めるものを商う仕事、それに母としての務めもある。

 だから、起こさないといけないんだけど。

「今日はもうだめ、頭痛いようぅ。」

 どうしたもんかな。

 ヨハンナにお乳をあげないといけないんだけれど。離乳食を取り始めたとはいえ、まだ乳離れの時期じゃない。一応、粉ミルクと哺乳瓶は買ってあるから、今日はそれで賄うかなぁ。

 それとも乳母を雇うべきだろうか?

「飲みすぎだよ。今日は安静にしておくこと。ヨハンナには俺がお乳を上げるから。」

 そういうと、ベネットはぎょっとした顔をする。

「お乳って言っても、俺が出すわけじゃないからね。」

 冷たく言うと、ベネットは苦笑いを浮かべる。

「そうだよね。牛乳? 山羊のお乳?」

 粉ミルクの主成分ってなんだろう?

 とりあえず、缶を取り出してみてみる。

 

 牛乳なんだな。

 

 もちろん成分は調整されていて、赤ん坊が飲めるように作られているわけだけども。

「まあ、とりあえず赤ん坊が飲んでも安全なものだよ。」

 ベネットが少し思案顔をする。

「それも売ってみるの?」

 悪くはないのかな。栄養状態が悪くて母乳が出ない人とかもいるし。ただ、そういう人が粉ミルクを買う金を用意できるかと聞かれると微妙だけれど。

「そこら辺の事情は、ベネットの方が詳しいでしょ? とりあえず作ってくるよ。

 あぁ、それと何か食べる?」

 そう尋ねると、いらないという返事が返ってきた。

 

 粉ミルクを用意し、ヨハンナをあやしながら哺乳瓶をくわえさせてみる。最初は見覚えのないものだったのでおっかなびっくりだったけれど、お腹が空いていたのか慣れたらすごい音を立てて吸い始めた。

「ごめんなぁ。お腹空いてたのか。」

 応接室の椅子に腰かけ、ヨハンナがミルクを飲み終えるのを待つ。

「お、なかなかの別嬪さんじゃないか。」

 団長が帰り支度を済ませたのか、俺に挨拶にやってきたようだ。

「ありがとうございます。ちょっと俺に似すぎてて不安ですけどね。」

 そういうと団長は笑った。

「赤ん坊だから、ほっぺが膨らんでるのは普通だろう。むしろ、頬がこけてる赤ん坊なんか見たくないぞ?」

 それはそうだけども。

「大きくなれば、自然と整っていくもんさ。もっとも、子供を育てたことがない野郎が言うこっちゃないがな。」

 そういうと団長は少し寂しそうな顔をする。

「領地をいただいたんですから、いずれ結婚されるんですよね?」

 そういうと団長は首を横に振った。

「本家の方には溢れものが多いんだ。俺が子を作らなくたって、継ぐ奴には困らんよ。

 俺みたいなろくでなしが人の親になっちゃいけないと思うしな。」

 こういう時、何と言っていいか分からない。そもそも、俺が子を授かるというのもおかしな話なんだよな。

 でも、生まれてきたヨハンナには関係のない話だ。

 親である俺がろくでなしだろうとなんだろうと、ヨハンナにはヨハンナの人生がある。それを邪魔するようなことだけはしたくないな。

「俺は、親になれますかね?」

 団長も返答に困っているようだ。

「親というのは、なるものじゃない。なっているものだ。あとは、その責任を果たすかどうかだけじゃないかなヒロシ卿。」

 何時から見ていたのか、バーナード卿が声をかけてきた。

「随分と言うじゃねえか子爵様よ。そういえば、お前の所は子だくさんなんだっけか?」

 そういうとバーナード卿は鼻で笑った。

「貴族の務めだ。ジェイス卿の覚悟というものにケチをつけるわけではないが、後裔を残すことも貴族には求められるものだ。

 連なる者に責任を果たすという意味でな。」

 後継者問題というのは、何も王族だけの問題じゃない。貴族という組織にも当然ついて回る問題だ。この国では幸い女性が領地を相続することも、よくあることだ。

 だから、男の子が生まれない限りはヨハンナを男爵の地位に就ければ問題ない。

 とはいえ、兄弟がいないとそれはそれで負担が増える。利権を分散させることにはなるが次男がいることで長男の負担を軽減し、いざという時に肩代わりできるという部分では必要とされる存在ではある。

「まあ、作り過ぎって言うのも問題だがな。結局その子に継がせる財産まで用意しようとなれば半端な稼ぎじゃままならんぞ?」

 団長としては、家を継げない子供の立場が嫌というほどわかるのだろう。

 特に三男以降というのは不安定な存在だ。

 女の子であれば嫁ぎ先を探してあげればいいけれど、男となると家で飼い殺しか修道院へ行くか、家を追い出されて路頭に迷うなんてこともある。

「無論、そこは考えてはいる。無責任なことをするつもりは無い。」

 計画性を重んじる節が見えるバーナード卿のことだから、野放図に子供を増やしているわけではないんだろうな。

 しかし、そうすると俺は何人まで子供を持って平気なんだろうか?家族計画については、ちょっと検討すべき課題だな。

 

 ようやくベネットが回復してきたので団長とバーナード卿の帰りを三人で見送る。

 二人ともうちの自動車を購入してくれているので、移動中の安全は確かだろう。

 領内を移動する最中は衛兵に護衛として随伴してもらうが、馬だとちょっと厳しいかなぁ。

 そのうちバイクでも購入しようか。もしくは、こちらで生産か。

 馬の蹄鉄をマジックアイテムに変更して対応ということもできなくはないけれど、コスト面から言うと割に合わない。

「お祭り、終わりだねぇ。」

 日程としては明日から通常に戻るわけだが、主な催し物は終わっている。出店もまばらになりつつあったので、ちょっと寂しい雰囲気は漂っていた。

「また来年もあるんだから、寂しがる必要はないと思うけどね。」

 そういうとベネットは笑った。

「そうだね。

 できれば、来年はヒロシと一緒に出店回りをしてみたい。」

 時間が取れるだろうか?

 お忍びじゃないと楽しめないだろうしなぁ。

「考えておくよ。ヨハンナのこともあるから、なかなか難しいだろうけどね。」

 ベネットの抱くヨハンナの頬を突く。

「そうだね。

 ヨハンナのことも考えてあげないと。」

 同じほほえみなのだけれど、ベネットのヨハンナを見る顔がとてもやさしく見える。子供に嫉妬心を覚えるようじゃ駄目だとは思うけれど、正直羨ましいなと思ってしまう。

 本当に駄目な大人だなぁ。

 

 祭りでの収支を確認してみたら黒字だった。

 意外だな。

 結構派手にお金を使っていたので赤字なんだろうなぁと思っていたら、出店への材料供給や催し物の会場費、酒税や物品に関わる税金の収入も馬鹿にならない。

 もちろん、出費もそれなりの額が出て言っているので少しでも狂えば赤字転落ということになりかねない。それに、年に一度の特別間で財布が緩んだということもある。

 毎日祭りやろうぜと短絡的には考えてはいけないだろう。

 とはいえ、財政は潤ったのは確かだ。

 陸鮫への対処や山賊狩りなんて言うのも、この収益を当てれば人を動員しやすくなるかもな。

 もちろん、俺がわざわざ言わなくてもすでにそれらの計画について立案書が提出されている。本当何もかもお任せできて有難い。

 遺跡で屯しているスカベンジャーたちも動員が可能だから、被害が出ないことに注力してくれればつつがなく終わってくれると思うんだよな。

 最近だと、マスケットを装備するスカベンジャーも増えている。

 基本的には遺跡の中で使うことを想定しているわけじゃなく、村落から依頼のある魔獣狩りや行商人の護衛なんかで使うそうだ。おかげで、それの売り上げも上々だ。

 そっちは商会での会計になるから、直接俺が手にするわけじゃないけれども。間接的でも、売り上げが上がってくれるのは大いに助かる。

 ただ、どうしても傭兵との軋轢が生じてしまっているようだ。魔獣狩りや行商人の護衛というのは今まで傭兵たちの領分だった。

 そこへ割って入ってきたようなもんだしな。

 スカベンジャーと傭兵の垣根というのが案外低いので今までは問題にならなかったけど、最近だと依頼を受けるなら傭兵団に加入しろという圧力を受けるそうだ。

 暴力沙汰になることも度々発生しているから、遺跡にある宿屋組合から陳情がたびたび着ている。

 とはいえなぁ……

 傭兵は傭兵で必要な人材だ。組織的な戦闘や計画的な兵站管理なんか、スカベンジャーに望んではいけない領分だろう。

 逆に言えば、スカベンジャーはスカベンジャーで得意分野というものが存在する。

 機動的な戦闘、危機的状況への対応能力、そういうものは彼らの方が得意とする分野だ。どっちかを潰して、どっちかを残すという選択肢は取りづらい。

 

 悩ましい問題だなぁ。

 

 まあ、少なくとも依頼を受けるのに傭兵団に加入しなければならないというのは行き過ぎている。強制的な勧誘についてはそれを禁じる方策が必要だろう。

 骨子をまとめて、指示書を作成しておく。

 祭りが終わって三日目ともなると、みんな通常対応に戻っているから、執務室の中は静かだ。来客がないと、ちょっと寂しいなぁ。

 まあ、とっとと領主としての仕事を済ませて外に出よう。真面目に机に向かえば数時間で済む仕事だ。

 そう思った矢先に扉が叩かれる。

「どうぞ。」

 秘書か執事が来るのが定番化しているわけだけど、今日はベネットがヨハンナを抱いてやってきた。

「ん?どうかした?」

 そう尋ねると、ベネットは少しバツの悪そうな顔をする。

「ちょっと、ヨハンナを見ててほしいの。

 メイドさんに頼もうかとも思ったんだけど、後片付けで大変そうだし。」

 別にそれくらいなら構わないけれど。

 抱っこ紐もあるから、ヨハンナを抱えてても仕事に支障はない。

「いいよ。乗馬の訓練?」

 ベネットがオーバーオールを着用しているので尋ねてみた。

「ロイドさんが稽古をつけてくれるって言うから。」

 申し訳なさそうに彼女はヨハンナを俺に託してくる。定番だけれども、子供の成長は早い。大分体重も増えてきて、体も大きくなっている。

 すくすく育ってくれていてうれしい限りだ。

「ごめんね、お仕事中なのに。」

 謝る必要なんかないんだけどな。勿論、面倒を見て当然みたいな態度を取られたら、それはそれで困るけれども。

「平気平気、そろそろ寂しくなってきてたところだったんだ。しばらくしたら外に出るかもだけど、誰かに聞けば居場所は分かると思うよ。」

 そういうとベネットは頷いた。

「じゃあ、行ってくるね。」

 俺は行ってらっしゃいと見送った。

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