14-23 治安の維持もかなり苦労してるなぁ。
回りが優秀なら余計な口を出さない方がいい場合もありますね。
翌日、砲術大会が開かれる。砲撃のたびに結構な音が響き渡るが、そのたびに大きな歓声が起こる。
俺は、それを城から眺めながら、ヨハンナをあやしていた。
遠くからトーラスやベネットが四苦八苦しながら解説をしているのが聞こえてくる。
「お母さん頑張ってるねぇ。」
ヨハンナは大砲の音がどん!どん!と響き渡る度にきゃっきゃっと喜びの声を上げる。
「変わってる子だね。大砲の音ってわかってるのかな?」
テリーがヨハンナの頬を突く。
その指をぱくっとヨハンナがくわえた。
「うわ、結構すごい力で吸う。」
テリーは眉を寄せて気持ち悪がる。
「そうだね。ベネットも最近痛くなってきたとか言ってたよ。」
そういうとテリーは苦笑いを浮かべる。
「お母さんも大変だな。」
確かに変わってあげられることもあるけれど、替えがきかない部分だってある。
それを考えると全ての負担を肩代わりはできないんだよな。
「あー、そうそう。
騒ぎを起こしそうなやつはあらかた捕まえておいたから、あとはよろしくね?」
よろしくねじゃない。
テリーが何人捕まえてきたかは知らないが、刑吏から苦情が来るくらいには地下牢が満杯になっている。
「やりすぎだよ。手加減してくれていたのは分かるけど、一度にあれだけ連れてこられたら手に余る。」
俺が渋い顔をするとテリーは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、その場で始末しておいた方がよかった?」
俺は首を横に振る。
「一掃しないで、放置してくれてても構わなかったんだけどな。」
どうせ、大半は鞭打ちの後で領地追放するのが関の山だ。そういう連中はどうせ戻ってくる。
「どうせだったら、労役を科すべきだと思うけどね。真面目に働くように監視が必要なのが面倒?」
テリーの言うとおり、監視するコストがかかりすぎる。
「働く喜びに目覚めてくれるというなら構わないけれど、そんなに真面目なら最初から悪さなんかしないだろうしね。」
面倒なのは、蛮地に追い払ってしまうのが一番楽だ。
いや、ついこの間までテリーがいた場所をそんな風に思うのは気が引けるけど。
「むしろ働く喜びに目覚めたら手に負えないよ。目覚めた勤労意欲をろくでもないことに使いだすに決まってる。」
そういう厄介な輩もいるのか。面倒だな。
「罪状については、ちゃんと証拠掴んでる?」
そう尋ねると、テリーは頷いた。
「苦労したけどね。でも、本当に厄介なのは、そういう証拠をつかませない連中だよ。
捕まえられないから、結局今も監視中。」
まあ、そういうものだろうな。結局、グレーな部分をうろちょろして他人をそそのかす奴が一番厄介だろう。
「とりあえず、印刷所を使わせるのには、注意した方がいいかもね。」
そう言って、テリーは俺に新聞のような紙束を俺に際出してきた。
いや、赤ん坊を抱いてるんだから、開けないだろう。
あー、いや、インベントリにしまえばいいのか。
というか、インベントリに送ってくれ。
「なんか、よからぬことでも書かれてる?」
とりあえず、紙束に触れてインベントリにしまう。
「あることない事というか、なかなか面白いよ。」
うわ、見たくないなぁ。
とりあえず、文面をウィンドウに写す。
「俺はいつから、オーガになったんだ?」
書かれている文面は、暗殺者に襲われていたところなんだけど。
銃で撃たれても平然としていて、なおかつ暗殺者の腕を嚙み千切っているとか。どれだけ俺を化け物扱いするんだってくらいに残虐に描かれている。
当然、ベネットがそれをなだめる役割なわけだけれど、身を挺して暗殺者を守るって……
なんか、そもそも話として破綻してる気もするんだよなぁ。ここまでくると怪奇小説と言われた方がしっくりくる。
言論統制をしたくなくて検閲はしてなかったけど、こんなことを書かれるとなると少し気持ちが揺らぐ。
「何の罪にも問えないから、放置しているけど……」
テリーは言外にいつでも始末できると言いたげだな。
「これくらいなら、楽しい読み物だから放置でいいよ。
紛らわしい事や詐欺に発展しそうな内容なら、報告して。その場合は、ちょっとお話させてもらうから。」
そういうと、テリーは嬉しそうに笑う。なんでだよ。
別に楽しい事なんかこれぽっちもないぞ?
しかしあれだな。
すっかり、テリーは治安担当みたいになってしまっている。別にお願いしたわけじゃないけれど、何かと事件が起これば彼から情報がもらえるので頼りきりだ。
事件ではなく隣人トラブルや係争なんかはミリーが口を出してくるし、詳しいのだけど。
本当にこんなのでいいのかなぁ。
二人がいなくなったら雇っている衛兵とか役人がちゃんと仕事してくれるか不安になる。
「とりあえず、僕からは以上かな。
他のことは、ロイドやお姉ちゃんから聞いてるでしょ?」
山賊の根城とか、陸鮫の群れが近づいているだとかの話は聞いている。フィールドワークはロイドとミリーの仕事ってことかなぁ。
いや、そこまでやってもらうと本当に立つ瀬がない。
俺、本当にお飾り領主だなぁ。
砲術大会は、団長の勝利で終わった。流石に一日の長があったというところだろう。
標的のうち、地上目標は8割、空中目標は6割という結果だ。
対して、バーナード卿は地上目標7割、空中目標3割となかなかの結果だろう。解説を片手間に聞いていたけれど、両陣営とも観測手の腕前よりも装填手と射手の腕がよかったらしい。
「いやー、さすがに凧を打ち落とすのは難しいぞ。
風を読むって言っても、ある一定の高さまで行くと流れが乱れるからな。」
観測手だった団長はそれでも嬉しそうに笑っている。難しい課題を出されると燃えるんだろうな。
「時限式の信管は扱いが難しいな。
思ったよりも爆発するまでに時間を要するみたいだ。」
安全装置の兼ね合いもあるのでどうしてもタイムラグが生じやすい。そこら辺は今後の課題かもしれないな。
「間でやられるとこっちとしても説明がしにくいんでやめてください。」
そう言いながら、ベネットが団長のグラスにワインを注ぐ。
「悪かった悪かった。
でも、きっちり目盛り通りにやってたら、全然当たらんぞ?
そこら辺は臨機応変にだな。」
ベネットはうんざりとした表情を浮かべた。
「来年からは、団長が解説してください。じゃないと、私が嘘言ったみたいになりますから。」
距離や角度、砲弾の飛ぶ速度などからおおよその起爆時間を解説していたところで、それよりも大幅に短い時間をセットされて慌ててたのは聞いていた。
それは開発された砲弾の精度の問題だからなぁ。
悪いのは団長じゃなくて俺なわけだけども。
「まあ、せっかくの酒宴の席だし、来年のことは来年決めよう?」
そう言いながら、俺はベネットのグラスにワインを注ぐ。
「まあ、いいけど。ヒロシもグラスを空けて。」
お返しという形で、ベネットがワインの瓶を持つ。
赤でちょっと渋みはあるものの甘くて口当たりがいい。だから俺でも無理なく飲めるわけだけど。
あまり飲みすぎるのもな。
でも、水に変えるのももったいない。とりあえず、ワインを飲み干す。
「おいしい?」
そう言いながらベネットはワインを俺のグラスに注いでいく。
結構多いな。
もしかして怒ってる?
「おいしいけど、そんなに飲めないよ。」
そういうとベネットは少し目を丸くする。
「ごめん、入れすぎた。」
まあ、わざとではないのなら、ちびちび飲むか。
「なんだ、夫婦喧嘩か?」
団長がにやにや聞いてくる。
「違います。ちょっと手元が狂っただけで……
酔ってるのかな。」
そういうと団長が笑う。
「体質でも変わったか? 前は、蒸留酒ひと瓶空けても平気だったのにな。」
そう言われるとベネットも首をかしげている。
「あまり飲まない方がいいのかなぁ。お乳に影響があると怖いし。」
まあ、確かにアルコールの飲み過ぎはよくないな。
俺の方でも気を付けておこう。
「赤ん坊がべろんべろんに酔っぱらったりするかもな。」
団長の言葉に俺は苦笑いを浮かべてしまう。流石にそんなことは起こらないだろう。だけど飲みすぎていいことは無いからほどほどにしてほしいけどな。
酔っぱらって前後不覚になってたのは覚えてる。というか、俺酔いが回るのは早いけれど、意識を失うってことはあまりない。
なので、団長やバーナード卿に挨拶をして、ベネットと一緒に寝室に戻って来たというのも当然覚えている。
だから、彼女に押し倒されて馬乗りにされているというのも別に覚えてないわけじゃない。
ただ、抵抗できなかったんだよな。
「ベネット、なんで俺の手を縛るの?」
よくある展開としては、ここから裏切られるとかそういう展開だけれど、彼女の様子からするとそんなんじゃないのは分かる。
「怯えてる? 縛られるのは、あんまり好みじゃない?」
そう言いながら、お酒臭い息を吐きかけながら彼女が俺の口をふさぐ。
正直、嬉しくない。
絵で見たりそういうシュチュエーションを妄想するのは好きだけど、受け手が俺じゃ全く楽しめない。
「こういうの一度やってみたかったの……」
なんだ、レイナの漫画家なんかの影響か?
そう言うのがお好みなら、付き合っても構わないけど。正直、酔いすぎてあんまり頑張れない気もするんだよな。
「任せて、ヒロシは受け身でいいから。」
酔っぱらいすぎてて、ベネットも思考が支離滅裂になってるんだろうな。
「良いよ、任せる。」
なんだか億劫になってしまったので、受け身になるのもそんなに嫌じゃなくなってきた。
まあ、お祭りだし、たまには羽目を外すのも悪くないかもしれない。
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