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14-21 空を自由に飛びたいな。

熊鷲っていうのはいわゆるジャイアントイーグルの事です。

人が乗れるサイズの鷲だと思ってください。

 晩餐会は思ったよりも盛り上がった。

 何せ、主賓が団長とバーナード卿だ。俺も軍艦の件で軍事に関わっているせいで、国軍の重要な位置にいる二人と話せる内容は多い。

 現在、バーナード卿は海軍設立に奔走しているし、団長は艦載砲についての習熟訓練を繰り返している。

 いずれ野戦砲にも転用されるようにもなるだろうし、今のうちに慣れておきたいという気持ちもあるんだろうな。

「ありゃいい大砲だ。今までは敵に身をさらさなきゃ弾込めが出来なかった。

 待ち伏せで使う分には今までの大砲でもよかったんだがな。

 前線で使うとなると、銃火にさらされながら運用せざるを得なかったわけだし、砲兵の損耗が激しかったんだ。

 あれなら野戦でも掩体に籠って砲撃ができる。

 それに何より、射程が長いのがいいな。もうちょっと口径がでかくてもいいが。」

 団長が饒舌に大砲の話を繰り返す。

「射程を生かすには観測手が欠かせない。《飛行》を使える魔術師をつけないと真価を発揮しないんじゃないか?」

 バーナード卿は運用の話がしたいらしい。

「確かに、観測手は必要ですね。ただ、気になるのはサンクフルールのワイバーン部隊ですよ。」

 下手に魔術師を前線に出すとワイバーンで狩られかねない。

 どうしても肉体的に弱い魔術師は狙われがちだ。

「そうなってくると、王子様が言う戦闘機が必要か?」

 団長の言葉に俺は眉をひそめてしまう。

「作れないことは無いんだろう、ヒロシ卿?」

 バーナード卿も期待を込めた目で見てくる。

「簡単な話じゃないですよ。むしろ、ワイバーンを手懐ける方法を探る方がよほど楽かと。」

 実際、飛行機を作るというのは難事業だ。

 何度も墜落を繰り返して、ようやくおぼろげな手掛かりがつかめるという代物になる。

 俺が多少入れ知恵したからって即座にできるものでもない。

「そうは言いつつ、準備はしているんだろう?」

 団長は試すように言ってくる。

「残念ながら、準備なんかしてないですよ。陛下からご下命があれば話は別ですけど。」

 そういうとバーナード卿は思案顔だ。

「確かに、ヒロシ卿の言うようにワイバーンを手懐ける方が現実的か。いや、むしろもっと手ごろな魔獣を探す方が先決かもしれないな。」

 ワイバーンの燃費の悪さから言えば、確かにその通りだろう。とても数を揃えるのには向いていない。

 気性も荒いし繁殖能力も高いわけでもないことを考えると、別の候補を探したいところだ。

 何かいたかな。

「ベネット、お前の馬、空を飛べるようにはならんか?」

 突然話を振られてベネットは面食らったような顔をする。

「無茶を言わないでください。グラネは馬で、ペガサスじゃないですよ?」

 まあ、そりゃそうだ。羽が生えてるわけじゃないんだから、空を飛べるようになったりはしないだろう。

 多分、おそらく。

 しかし、空を飛ぶ魔獣。しかも人を乗せられるものと言われるとかなり限られるよな。大梟と熊鷲は俺の知っている中ではメジャーな空飛ぶ乗騎だ。

 ただ、これは俺のゲーム知識を前提にした話なので、実際こちらにもそれらが存在しているかは確かめてはいない。

 試しに聞いてみるか。

「人が乗れる鳥とかいないんですかね? 大梟とか、熊鷲というのがいると聞いた事があるんですけど。」

 そういうと、団長とバーナード卿は顔を見合わせる。

「熊鷲は聞いた事あるわ。崖にいる熊より大きな鷲よね?」

 何処で知ったのかは知らないが、ベネットが熊鷲について語りだした。確かゲームでもそんな生態だったか。

「でも、人が乗れるのかしら? 気性が荒くて、とても飼いならせないと聞いた事あるけど。」

 そういうとベネットは、レイナの方を見る。

「大梟は穏やかですよ。熊鷲に関しては、それなりの調教が必要で乗り手を選びます。でも、乗ることは不可能ではないでしょう。」

 レイナの口調がいつもと違って、微妙な気分になる。

「大梟の方は、調教とか必要ないんですか?」

 ベネットの問いに、少し迷った様子を見せる。

「少し、人懐っこすぎて問題があるくらいですね。臆病さがないので乗り回しやすいですが、食用にもできるせいで数を減らし続けていますよ。」

 あぁ、そういう。

「家畜化されてないってことは、繁殖が難しいという事ですかね?」

 そう尋ねると、レイナは静かに頷いた。

「じゃあ、集めて保護しないと。」

 ベネットの反応は、分からないでもない反応だ。だけど自然繁殖が難しい動物を、隔離して上手く繁殖できるとは限らない。そこら辺の悲劇はまだ経験がないんだろうな。

 あるいはすでに起こって入るけれど、知られていない可能性もある。

「人が飼って繁殖できるもんなんですかね?」

 そう尋ねるとレイナは難しい顔をする。

「繁殖したという例がないわけじゃないですが、いずれにせよ寿命は短くなります。それに、個体数が減りすぎてつがいで確保するのも難しい位ですよ。」

 これは……

 とても軍事兵器として転用しようという気持ちにはならないな。

「なるほどな。とりあえず、やるなら熊鷲か……グリフォンあたりか?……」

 大梟をそっとしておきたいという気持ちは団長も同じ気持ちのようだ。

「手懐けやすいという話では、馬とグリフォンの合の子、ヒポグリフというのが便利だとは聞いた事があるが……

 そもそもの個体数がどの程度なのか。まずは、そこからでしょうね。」

 バーナード卿はため息をつく。

「南の山脈を探せば数がいるんじゃないか?

 うちの実家がそっちにあるんだが、よく鳥に攫われる子供の話は聞くし。」

 うへぇ。

 鳥についばまれるとか、勘弁して欲しい。想像したら、気分が悪くなってきた。

「それは、ロックですね。熊鷲は人を襲いませんよ。」

 レイナが冷静に言うけれど、熊鷲だろうとロックだろうと餌にされるのは勘弁願いたい。

 大梟からすれば、人間に対してそう思ってるだろうけど。

「いずれにせよロートベルクにレイオット様が太守として赴く以上、サンクフルールのワイバーン部隊は注意すべき対象なのは間違いないか。」

 バーナード卿の言葉を聞いて、俺はまた眉をひそめてしまった。ロートベルクとはサンクフルール、帝国、フランドルをつなぐ蛮地の切れ目だ。

 そこを巡り、戦乱が繰り返されてきた土地でもある。

 地形的には東は山脈へとつながり、西側には蛮地が広がっている。北の方にも小高い山が連なっているのでやや緩やかになったロートベルクを避けるとなるとかなりの迂回が必要になる。

 そうなれば蛮地を渡り続けなければならないので、かなり厳しい。

 だが逆にロートベルクを抜けると、大きな湖があり、フランドルを縦横に巡る川にアクセスすることが可能になってしまう。

 そうなれば、敵国に良いように蹂躙される未来が待っている。

 まさしく要衝と言っていい土地だ。

 

 そこの太守……

 

 太守ってどんな役職だったかなぁ。確か、先生の授業で習った気がするんだが、はっきり思い出せない。

「名目上は、王子様の一存で軍を動かせるようになるってことか。勘弁して欲しいねぇ。」

 団長の言葉に俺はフランドルにおける太守の役割を思い出す。言ってみれば、その地方を守備する軍司令の役職だ。軍事基地である関所を統括するのが役割で、以前は各貴族から兵を集めさせ軍を編成する権限を与えられてたんだったか。

 今は国軍があるため、国境警備を行う以上の意味は持たない役職にはなっているけれど。

「大丈夫なんですかね?」

 そう聞くと、バーナード卿は首を横に振る。

「私にも分からない。以前よりはレイオット様も落ち着きを見せられておいでだが、周りが騒がしい。果たして抑え込めるかどうか。」

 何を考えて、陛下はあの王子様を太守に任じられたのか。

「まあ、抑えに失敗するにせよ失うわけにはいかない土地だ。備えておくに越したことは無い。」

 バーナード卿の言葉に団長は肩をすくめる。

「まあ、王子様がへまをしたところでバウモントの爺さんの領地だ。みすみす明け渡すなんてヘマはしないだろうさ。」

 そういえばロートベルク自体は、バウモント伯が治めているんだったな。国軍の総大将でもあるから軍事という面では心配ないのかなぁ。

「陸軍の本拠でもあるとはいえ、油断はできないな。いずれにせよ、サンクフルールだけが敵とも限らないしな。」

 帝国の動きはかなりきな臭い。

 アリティウス家が力を盛り返したことにより内部分裂していた状況から脱し、国内世論がまとまりつつある。ラベール家に悪事をすべて押し付け、アリティウス家の発言力は増していた。

 現状では、粛清の嵐が巻き起こって入るものの、いずれそれが落ち着けば外征へと考えは変わってくるかもしれない。

 何せ、財政がボロボロだ。

 そこに金を貸し付けているのがサンクフルールであり、フランドルでもある。

 どっちかの言いなりになって借金を棒引きにしてもらい、もう片方をせめて借金を賠償金で相殺したいと考えていてもおかしくはない。

 まあ、そううまくいくものでもないが。いずれにせよ、国民の不満は外に向けさせたいだろう。

 出来れば、こっちに来てほしくはないなぁ。

「まあ、盛大に失敗する分にはいいんだがな。」

 団長はワインを飲み干し、ため息をつく。

「そうだな。下手な成功を収めるのが何より不味い。後々に禍根を残す可能性も高いしな。」

 バーナード卿も同意のようだ。言わんとすることは分かる。軍事行動が成功し占領地が増えたとすれば、それを守るための戦力が必要になってしまう。

 そして、その軍事力強化がサンクフルールだけではなく帝国も刺激しかねない。

 もっともよろしいのは守りやすい要地、ロートベルクを死守することなわけだけれど。果たしてあの王子様が耐えられるかどうか。

 正直、何とも言えないなぁ。

 まあ、所詮木っ端の男爵がどうのこうのいえる問題じゃない。

 せいぜい商売に専念しよう。

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