14-19 競技大会の提案と運河の視察。
船遊びとか優雅な感じがしていいですよね。仕事なんですけど。
司会の人にも、劇団への個人的な後援を約束して治療を受けてもらった。その上で、トーラスにも礼を兼ねて話をしているんだけど。
「別に特別なことはしてないよ。とりあえず、リボルバーを貰えれば満足かなぁ。」
そんなことを言われてはぐらかされてしまった。
「そんなことより、門の上に大砲を設置してどうするんだい? ここら辺には大した魔獣も出てこないし、不必要だと思うんだけど。」
応接室で話していたわけだけど、窓から大砲を門の上に据え付ける工事が進んでいる様子が見て取れる。
「あぁ、ちょっとした余興に使おうと思ってるんですよ。この間の決闘の時も射撃競技をやってたじゃないですか?
あれを大砲でもやってみようかなって思ってるんです。」
そういうとトーラスは苦笑いを浮かべる。
「軍事教練の一環としてならいいけれど、余興になるかなぁ。砲術は射撃と違って大分面倒だよ?」
とりあえず、競技方法についてまとめた資料をトーラスに渡す。
「なかなか本格的だね。弾には染料を詰めたものを使うとか、レギュレーションもしっかりしてるし。
でも、今年は模擬戦がせいぜいだねぇ。司会の彼にまた盛り上げてもらうかい?」
それについては俺にも考えがある。
「もちろん、司会の彼には参加してもらうけど、解説役をトーラスに頼みたいんだ。」
そういうと、彼は自分を指さして驚いた顔をする。
いや、他に適任者はいないだろう。
「出来れば、街全体に映し出したいから拡声器やスクリーンを用意するつもりだよ。
なので、どこを見るべきか、注目点をまとめてうまく解説してくれると助かるんだけれど。」
トーラスは俺の言葉に顔をしかめる。
「素人に説明してすぐわかる事なんかないよ? それを面白おかしく聞かせるって無茶にもほどがある。」
俺は肩をすくめる。
「分からせる必要なんかないんだ。あくまでも娯楽なんだから、誇張や言い換えはあっていい。
多少は大袈裟でもいいんだけど。」
とはいえ、じゃあ、それをどうするのかと考えるとなかなかに難しい。
「好き勝手に言うなぁ。
方向性は何となくつかめたけれど、面白くするならベネットもつけてくれないかな?
司会の人も含めて、娯楽として楽しめる内容にできるように努めるよ。」
嫌だとは言わないんだなぁ。
こっちからお願いしてるんだから、そんなことを口にしてはいけないけど。
いや、でも本当にありがたい。
「分かった。ベネットからは俺から伝えておくから。」
開設する人間が増えることは悪い事じゃないだろう。
「ところで、模擬戦は誰がやるんだい?」
最初の試合になるので、外部から人を呼ぶしかない。
「一応、ジェイス団長が来てくれることは確定しているよ。」
「なっ!!」
トーラスが絶句する。そんなにびっくりするものかな?
「伝手を頼るとどうしても、団長にはいきついちゃうよね。二つ返事で参加してくれることになったよ。」
そこらへん、打診したらすぐに返答が来た。他にもう一組、バーナード卿宛てに手紙を書いているけど、こっちはまだ返事がない。
「ヒロシ、少しは考えてくれ。僕とベネットが団長の砲術の腕をあれこれ言うって、ちょっと厳しいよ。」
なぜそんなに嫌がるのか分からない。
「腕が悪いってわけじゃないんだよね?」
そういうとトーラスは首を横に振る。
「腕はぴか一だよ。ケチのつけようがない。だから困るんじゃないか。」
あー、そう言う事か。
「そこは真面目に解説するってことで。基準点として紹介するって形にすればいいんじゃないかな?」
そういうとトーラスは口をへの字に曲げる。
「そこら辺の微妙な違いを素人に理解させるのがどれだけ難しいか分かってないよね?
多分、団長のチームと他の素人の砲術、違いを誰にでもわかるように表現しろって言われても不可能だよ。
結果は大きく違うだろうけどね。」
言わんとすることは何となくわかる。
「最大限努力はするけれど、鳴かず飛ばずでも勘弁してよ? お祭りの余興だとするなら、そんなに頻繁にやるものでもないだろうけどね。」
確かに年がら年中やられてたらうるさくて仕方ないだろう。
「評判がよくても、よくて年2回くらいじゃないかな。ともかく、よろしく。」
そういうとトーラスはあきらめたように頷きつつ手を挙げた。
翌日、いつもの仕事を終えた後にベネットを伴い船に乗って運河の視察を行った。元々ある河川を拡張し、連結をさせていくので一朝一夕で終わる事業ではない。
水量の計算や護岸工事も行わなければならないから、今着工しているのは城から街を抜け河川に沿って拡張を順次行っている状況だ。
川の行き着く先にはベルラント領で一番大きな村までつながり北上し、海へと向かっていく。
途中で別の川へとつなげるための掘削工事も始まっているので、そこがつながればラウゴール卿の管理する水運路とも繋がる。
当然、その川は別の男爵の領地にある川なので相手側の了承を得なければならないわけだが、その折衝はすでに済んでいた。
もちろん、それなりの出費もあったし、相手側の領内に作られる船着き場についても出資も求められた。
お金は何につけ、ついて回る。
出費を嫌って、工事を魔法で何とかするという手段も無いことは無い。だからと言って、じゃあ安く上がったぜラッキーというのもいただけない。
そもそも、土木工事を行っているギルドが存在しているし、それを生業にしている人たちが暮らしているんだ。それを無視して、金をけちってもいい事なんて何一つない。
争いの種にしかならないだろう。
それに、自分たちの手で切り開くことで土地に対する愛着もわくはずだ。そうなってくれれば、人は増えるし税収も増える。
俺にとっても、将来への投資と考えれば悪い事ではない。
それに運河を整備するというのは護岸してつなげれば、それで終了というわけではない。
氾濫が起これば堤防を作らなければならないし、それらの整備も定期的に必要だ。護岸だって、ずっと変わらず保てるわけでもない。
その時に誰も経験していないとなれば、相当な苦労をするはずだ。新しい技術だって次々に生まれるだろう。
今は石を積んでセメントで固めている護岸も、セメントの量に余裕ができれば全面コンクリ張りにすることになるだろうし、事前にブロック化したコンクリタイルを敷き詰める形にもなるかもしれない。
その時、その時で必要とされる技術だって変わっていくはずだ。俺一人では、とても真似できない技術がある。
なら俺は、黙って金を出すべきだろう。
もちろん、無駄に浪費されたら俺が干上がるので、限度というものはあるわけだけども。
「川の水が綺麗だね。まだ生活排水が流れ込んで無いからかな?」
船縁で川を覗き込みながらベネットが語りかけてきた。
「一応下水は流れ込まないようにしているけどね。
そうはいっても、不法投棄はされるんだろうけど。」
そうなったらすぐに川は汚れる。
一応こっそり水質改善ブロックを沈めているけれど、気休め程度だよな。出来れば綺麗なまま利用してもらえればいいんだけど。
「仕方ないよ。街はどうしても汚れるからね。定期的にお掃除するしかないと思う。」
当然、そういう費用も当然掛かるよな。水運で使う以上、多少汚れるにせよ川底を浚うのは定期的に行わないとまずい。
維持費ってバカにならないよなぁ。
もちろん、そこら辺の計算も雇っている役人たちの手で計算はされているけれど、不測の事態が起これば計算が狂うこともあるだろう。出来るだけ余裕が持てるように、水運が栄えてくれることを願うばかりだ。
「川を下るときはエンジンを使わないんだね。燃料の節約?」
まあ、無駄に燃料を消費しても仕方ないしな。それにフィルターが不完全だから煤煙がひどいというのもある。
「煙いし汚れも付くからね。
魔法で煙を出なくすることもできるけど、そうしたら高価になってしまうし。それなら、帆船に魔法で風を送った方がいいってなっちゃうよね。」
ベネットは納得できたのか、なるほど、と頷いた。
「そういう船も、あったらいいかもね。お金持ちなら、そっちの方が自慢できそうだし。」
確かに、一理ある。あくまでも趣味の範囲になるだろうけど。
いっそ、陛下のための御座船をそれで作ってみるというのもありかもしれない。献上品として、考えておくか。
「ありがとう、参考になったよ。」
そう言うとベネットはぎょっとした顔になる。
「え?私そんなにすごいこと言った?」
凄いか凄くないかで言えば、凄くはないかもしれない。だけど、普通の意見というのも大切なものだ。
「特別なことじゃなくたって、構わないんだよ。少なくとも、俺には思いつかなかった。世の中そんなことがいっぱいあるんじゃないかな?」
ベネットは何とも言えない顔をする。
「あまり大真面目に受け止めないでよね。素人の絵空事なんだから。」
もちろん、あくまでも参考にするだけだ。責任を負わせるわけにもいかないし。
「もちろん、出来ないことはできないって言うよ。むしろ俺じゃできないことの方が多いんだから。」
そういうと、ベネットは笑う。
「もうちょっと強がってもいいのに。でも、そっちの方がヒロシらしいかな。」
俺らしいか。
確かにベネットに対して虚勢を張っても仕方ない。
しかし、今はいろいろと貰って、人にも恵まれている。それらが全てなくなったら、俺はいったい何が出来るんだろう。
ふっと、空を見上げてしまう。
夏もそろそろ終わりかな。
収穫祭がそろそろ近づいている。
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