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14-18 一種のお祭りだな。

若干西部劇風になってしまってるのはご愛嬌ということで勘弁してください。

 決闘というのがここまで派手なイベントになるとは思わなかった。

 城の前庭を解放したわけだけど、屋台が並び前座のレスリング競技や弓や銃を使った射撃競技なんかも行われている。

 いや、一応許可を出したのは俺だけど、いつ裁可したんだか思い出せない。ちゃんと仕事をしているつもりだったんだけどなぁ。

 何故こんなことになったのか俺としても困惑を隠せない。

 決闘を行う傭兵は前評判とは違い、どちらも名前も知らない傭兵だった。

 一応事前に意思確認をして防弾チョッキを着用することは了承してもらえている。とはいえ、当たり所が悪ければ死人が出る可能性は否めない。

 両者とも胴を狙うようにと言っているけれど、狙った通りに行くとも限らないよな。

「さて、これより男爵閣下の秘蔵の品!銃弾を防ぐ魔法のベストをご覧に入れましょう!!」

 壇上では、司会役の男性が大きな声で慣習にアピールをしている。

 トルソー型のマネキンに防弾ベストを着せてあり、それがどんなに優れたものなのかを説明している。

 やや過剰な演出ではあるけれど、嘘はついていない。

 お試しにと数発ピストルで打ち抜き、マネキンに穴が開いていないことを見せると観客からどよめきが起こる。

 いや、貫通してないだけでマネキンは大分後ろに下がっているから決して無傷で済むというわけでもないんだけどな。

「では、最後に私に撃っていただきましょう!!」

 おいおい!!

 司会の人が上着を脱ぎ、防弾チョッキを着ているのが分かる。

 だけど、そこを外したら大怪我するぞ。頭にでもあたりでもしたらシャレにならん。

「平気だよ。撃つのはトーラスだし、彼が外すわけないでしょ?」

 慌てて立ちそうになった俺の手を握って、ベネットが耳打ちをしてくる。

 そうか、それなら平気か。彼の腕前なら、外すという事もない。観客が見える貴賓席で俺が慌てふためいたらまずいから、落ち着いて見ていよう。

 壇上に、トーラスが拳銃をもって上がってくる。

 と言っても、手に持ってるのは俺が彼に撃ったオートマチックではなく、最近出回り始めたリボルバーだ。

 さっきまでの単発式のフリントロックの拳銃と比べれば、リボルバーは格段の進化をしている。

 とはいえ、まだ金属薬莢がないので弾込めは楽ではない。そこがあるシリンダーに火薬を詰めて、弾を込め、突き固めないといけない。

 シリンダー事交換する仕組みのものはまだ出てきてないけれど、そのうち出てくるんだろうな。単発のピストルを何丁も持つよりかは遥かに効率的だ。

「では! トーラス殿!! よろしくお願いします!!」

 若干、声が震えている。そりゃ、外れたらって考えると恐ろしいよな。

 トーラスがホルスターにリボルバーをしまいなおし、腰を落とす。

 次の瞬間、いつの間にか銃が抜かれ連続した銃声が鳴り響く。いわゆるファニングというリボルバーでの速射方法だ。一瞬で、シリンダーに詰められた弾を撃ち尽くせるくらい早い射撃で、見事全弾を胴体に命中させていた。

 普通は命中精度が悪くなるので外すことの方が多いはずだけれど、トーラスにとっては適度に散らばって丁度良いという事なのかな。

 ……司会の人は胸を押さえてうずくまってるけど。

 

 そりゃなぁ。

 

 いくら貫通しないとはいえ、結構な衝撃が浸透してきているはずだ。苦しくないわけがない。

「……っすばらしい!なんと全部貫通していません!! ご覧ください!! 私は生きています!!」

 すげぇ……

 本当は痛くてしょうがないはずなのに、笑顔て両手を上げ、チョッキの前をはだけて白いシャツを見せている。

 凄いプロ根性だ。舞台役者という事だったが、ここまでやってくれるとは思わなかった。

 俺は思わず拍手してしまう。

 それが合図になったのか、観客が盛大に歓声を上げ始めた。

「ありがとうございます! ありがとうございます!! トーラス殿に拍手を!! そして、どうぞこの後の決闘をお楽しみください!!

 果たしてどちらが勝つか!! その目で確かめてください!!」

 何もこんなに盛り上げなくてもいいのになぁ。あー、いや盛り上げてくれた方がいいのか。

 これでもし負けを認めずに撃ち返したり、わざと追撃を加えるような真似をすれば観客が黙っていないという雰囲気作りはできたかもしれない。

 執事のフィリップから準備は整ったとの連絡が来る。

 決闘の始まりを告げないといけない。一応ルール説明なんかもしないといけないけれど、言い間違えないように注意しよう。

 俺は立ち上がり、決闘の始まりを告げる。

「これより決闘を行う!! 両名とも、代理として名乗りを上げた勇士だ!

 互いに死力を尽くし、勝利を目指すよう望む!!」

 凄い歓声が沸く。そんな中、ルール説明をするのはいささか面倒だな。

 誰も聞いてないだろ。

「両者ともに背中合わせになり五歩、歩く。のちに鐘を鳴らし合図とする。振り向いて射撃を行う。

 互いに胴体を狙うこと!命中した際には手をあげること。両名とも命中した際には引き分けとする!!

 以上!!」

 最後はもう怒鳴り声に近い。だって、滅茶苦茶うるさいんだもの。

 息を切らせて、俺は席に着く。

「お疲れさま。平気?」

 そういいながら、ベネットがお茶を差し出してくる。思わずがぶ飲みしてしまう。

 野草茶の優しい味が喉をいやしてくれた。

「ありがとう。少し落ち着いたよ。しかし、みんな興奮しすぎで怖い。」

 そういうとベネットも頷く。

「ここまで盛り上がるとは思わなかった。賭けも行われてるんでしょうけど、あまり過熱しすぎないように注意しないとね。

 勝手に決闘しないようにお触れを出しておくべきかも。」

 そうだな。今回は、あくまでも裁判のための手段だ。

 それを娯楽目的で行うようになれば、とんでもないことになるだろう。きつく取り締まるように通達しておこう。

 防弾チョッキもなしにやったら、絶対に死人出るだろうし。今回も出ないとは限らないんだけどな。

 

 代理人の傭兵が壇上に上がると先ほどと打って変わり、静寂が辺りを包む。シーンと水を売ったように静まり返る。

 お互い緊張しているのか、背中合わせになる時はややぎこちなかった。

 まあ、そうだよな。

 静まり返っていると言っても、注目が集まって言うのは鈍感な俺でもわかるくらいだ。ましてや、当事者の二人は痛いほど感じている。

 だが、背中合わせになったところで二人とも覚悟が決まったのだろう。

 力が抜け、すっと5歩、壇上を歩いていく。自然な動きで、まるで散歩でもしているかのようだ。

 もちろん、そこには素人には考えつかないほどの緊張がある。一歩一歩、確かめるように手足を動かしているのが感じ取れた。

 全体と細部で全く異なる感想を抱く。二人とも、間違いなく腕がいいのは確かだ。

 

 ぴたりと二人が立ち止まる。

 

 それを待っていたかのように、澄んだ鐘の音が響いた。次の瞬間、二人は身をひるがえし拳銃を抜く。

 銃声がほぼ同時になる。

 だが、右の方がやや早かった。左の傭兵が腕を上げる。

 確か、右が親方の代理人だったか。

 

 俺は手を挙げ、勝者の名を告げた。

 

 割れんばかりの賞賛と罵倒が混じる声が万雷のように響き渡る。

 賭けに負けた方は敗者に酷いことを言ってるし、勝者は信じていただのよくやっただのと勝手なことを言われる。

 もちろん、賭けに参加してない観客も大勢いて、興奮してわけわかんない叫び声を上げてるのもいた。

 正直、混乱しすぎでは?

 ともかく、これで決着がついた。この後は村長が壇上で親方に謝罪し賠償金を支払い、すべての処理が完了する。

 俺は両者の間に立ち、今後このような騒ぎを起こさないように二人に厳重注意を加えた。

 その上で、このような決闘は勝手に行ってはならないと告げると、観客から盛大にブーイングを受けたが……

 これで引いたら、勝手なことをされかねない。

「もし、この取り決めを破るものがあれば厳罰を持って臨む。決して容赦はしない!!」

 気合を入れて、大声で宣言する。

 それでもブーイングがやむことは無かった。多少はまばらになったけども。

 とはいえ、そこまで言ってもやる奴はやるだろうな。

 あとは有言実行しかない。

 

 観客も立ち去り、お祭り騒ぎもひと段落がついた。晩餐会を開くという名目で、代理人として立たされた二人の傭兵、アズレーとウェリントンを招待した。

 もちろん二人を労うのが主な目的だけれど、迷惑をかけたという事を謝罪したいという気持ちの方が強い。

「お二人ともなかなかの腕前でしたね。今後の活躍に期待します。」

 そういうと二人とも微妙な顔をする。

「私はそもそも敗者なので、おほめいただくほどではありません。どうぞ、アズレーを称えてやってください。」

 それを受けて、アズレーの方は手を振る。

「正直、トーラス殿の後では私もかすんでしまいます。むしろ、胴以外を撃ってしまわないかとひやひやしていました。」

 二人ともなかなか謙虚だなぁ。

 決闘の場に立つだけでも十分胆力が必要だって言うのに、その上であれだけの射撃の腕を披露できたんだ。

 もっと誇ってもいいと思うんだけどな。

 でも言われれば確かにトーラスも凄いわけで、それを否定するわけにもいかないんだよなぁ。

「トーラスは特別です。私もあれほどの銃の腕を持つ人間は知りません。

 とはいえ、いずれお二人も、そこに並び立つことはできるんじゃないかと私は思っていますよ。」

 そういうとアズレーとウェリントンは顔を見合わせる。

「閣下にはお礼の言いようもありません。

 ご期待くださり、安全に配慮されるばかりではなく、敗者も勝者もなく称えていただける。これほどの待遇をいただけるとは思いにも及びませんでした。」

 いや、というか、こっちが迷惑をかけているのだから礼を言われる筋合いは無いのだけれども。

 なんともむず痒い。

 かといって、アズレーの言葉を否定すると失礼だしなぁ。

「閣下に命を救われた身、いずれトーラス殿に並ぶと言われるまで精進してまいります。」

 翻訳のせいか、なんだか武士の口上を聞いている気分になってしまう。

「いやいや、そんなに畏まらないでください。できれば、くつろいでいただければ幸いです。」

 そうはいっても貴族に招かれた晩餐なんて楽しめるわけもないよな。適当にお茶を濁して、賭けで儲けた分を褒賞として渡してしまおう。

 主目的はそれだしな。

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