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14-17 お義父さんの気持ちもわかる。

いきなり離婚するとか言われたら慌てますよね。

 お義父さんの説得のため、日を改めて荘園にある邸宅にお邪魔した。

 ベネットとヨハンナを伴ってきたから、なんだか嫁の実家に里帰りするような感じだ。

 お義母さんがお茶を用意してしばらく待たせてもらう。

 待っている間、じーっとベネットの妹であるマリーが俺を見てくる。

 なんだろうか?

「ヒロシさんって、どう見てもデブだよね。」

 あ、はい。

 いきなり、デブ言われた。

「なかなか痩せなくてね。運動してないわけじゃないんだけど。」

 苦笑いを浮かべるしかない。

「お話だととってもかっこよくて、すらっとした感じで書かれてるのに、実物がこれじゃがっかりだよ。」

 物語に合わせてやる必要なんかないわけだけど、女の子にそう言われるとなんか傷つくなぁ。

「人の旦那様にがっかりとか言わないの。失礼しちゃう。

 それにちゃんと見なさいよ。ヨハンナと一緒で可愛い顔してるでしょ?」

 そう言ってベネットがヨハンナと俺の顔を寄せて、見比べさせる。

「うーん。

 ヨハンナは可愛いけど、ヒロシさんは大人の男なんだから可愛くちゃ駄目だと思う。」

 確かに、マリーのいう事の方が正しい気はするなぁ。でも、ヨハンナは可愛いという認識なら俺も一安心だ。

 しばらくすると、扉が開かれ、お義父さんがやってくる。

 話自体は何度もしているけれど、こうやって相手の邸宅を訪れるのは初めてだ。

 邸宅自体はアルノー村のドレン村長が持っている家屋よりもこじんまりとはしているけど、十分立派な家だと思う。

 マリーの服を見ていても、特に困窮している様子がなくて一安心だ。

「話があるそうだな。」

 お義父さんは少し不機嫌そうだ。

「お父様。

 今日は、娘としてではなく男爵夫人として話をさせていただきます。よろしいですね?」

 俺は思わず、びっくりしてベネットを見てしまう。

 彼女が自らお義父さんをちゃんと父として扱うこともそうだし、男爵夫人として話をするという表明にも驚いた。

 お義父さんの方も驚いたのか、目を見開いている。

「あ、いや……あー、その……」

 怒りの表情と喜びの表情、それに怯えも含まれたような顔でお父さんはしどろもどろになる。

「裁判沙汰にまでなった決闘に介入するとなれば、私としても見過ごすことはできません。お父様、出来れば手を引いてください。でなければ、私はヒロシと離縁します。」

 今度は俺が慌ててしまう。

 何がどうなってそうなるんだ!! 冗談じゃない!!

「え?いや、聞いてないけど?」

 多分、俺はかなり間抜けな顔してるんだろうな。

「言ってないもの。」

 話がいきなりすぎる。

「言ってないものじゃないよ。理屈は分かるけど、少しは相談してよ。」

 なんでこんなに思いっきりがいいんだ。いや、まあ、そういう性格なのは知っているけども。

「わ、分かった。何もせん。だから、いきなり親を困らせるようなことを口にするんじゃない。」

 お義父さんも、いきなり離縁と言われて肝を冷やしたようだ。こうなってしまえば、要求を飲むしかないだろう。

「親として、子のわがままを聞くのはそんなに嫌ですか?」

 ベネットの言葉にお父さんは口をへの字に曲げる。

「お前は、最初からわがままばっかりじゃないか。ベネット、お前は俺の事を父親の兄、伯父だと思ってるのかもしれん。

 でもな。

 たとえそうであっても、お前は俺の娘なんだ。娘の幸せを願わない親なんかいない。」

 そりゃそうだろうな。

 ベネットにとってみれば、気に食わないことも言われたかもしれない。

 ただ、そうであっても、あくまでこの世界の常識に則った発言だ。そうすることが娘の幸せにつながると信じていたんだろう。

 だから、そこには嘘なんかないはずだ。

「お父様、そう言うのであれば私の夫を認めてください。少なくとも、今の私は幸せです。」

 こういう時俺はどういう顔をすればいいのか分からない。

 照れというのもあるし不安もあるし、それを表に出す恥ずかしさもある。多分、今のお義父さんと同じ顔をしてるんだろうな。

「認めてないわけじゃない。そもそも、男爵様だぞ? 俺がケチをつけられるもんか。」

 少し寂しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか?ヨハンナが結婚したら、俺も同じように思うのかなぁ。

「話済みました?」

 お義母さんがひょっこりと顔を出す。

「あぁ、俺は畑に戻る。あとはよろしくやってくれ。」

 そういうとお父さんは立ち上がり、そそくさと部屋を後にしてしまった。これでいいんだろうか?

「ごめんねヒロシ。いきなりあんなこと言っちゃって。」

 離縁の事か。

「まったくだよ。俺が君を手放すとでも?」

 そういうとマリーが噴き出した。

「言う事は、本の通りなのね?」

 くすくすと笑われると少し恥ずかしい。確かにキザなセリフだな。

「マリー、そのうち羨ましくなるわよ。こんなこと言ってくれる人、そうそう居ないんだから。」

 なんでベネットは自慢げなんだろうか?

 言った本人としては、取り消したいところなんだけどなぁ。もう言ってしまったから、取り返し着かないけど。

「えー、あんなセリフみんなの前で言われたくなーい。お姉ちゃんの趣味って分からないよ。」

 そういうと、お義母さんがマリーの頭を撫でる。

「大人になればわかるわよ。」

 お義母さんの言っている意味がよく分からない。

 俺、顔赤くなってないかな。

 

 帰る道すがら、街の様子を知りたいという事で、俺は自動車を降り少し変装をして通りに出た。

 ベネットとヨハンナには先に帰ってもらっている。流石に二人を連れてだと正体を見抜かれる可能性もあるしな。

 モーダルは何度も歩いてはいるけれど、ベルラントの街を歩くのは何度目だろう。

 数えるくらいしかない気がする。大抵が自動車の窓越しにしか見ていない。城からも俯瞰して眺めてはいたけれど、やはり感じ方が違う。

 最初の頃は古ぼけた建物が大半を占めていて、畑も手入れがされていないところが多かった。

 今は、それなりに畑も手を入れられて新しい建物もあちこちでできている。

 町工場のようなところがいくつもできていて、それをあてにしているのか屋台が数件立ち並ぶ。ホットドック屋が多いな。

 やっぱりソーセージが名物なだけに、パンにそれを挟むだけというシンプルさ、片手で食べられるお手軽さもあって、定番化している様子だ。中にはチーズをかけている所やトマトソースをかけている所もある。

 他にもドーナツを揚げている店なんかもあるな。

 そのわきには、ゴシップをまとめた新聞のようなものを売っていたりもする。荷運びの仕事で疲れたのか、路地に座り、ホットドックを片手に新聞を読む子供たちも多い。

 文字が読めない子に読み聞かせをしている子もいてなかなか面白い。俺も一部買って読んでみる。

 どこの店に行けば水で薄められてないビールが飲めるかとか、どこの傭兵団が一番強いとか。真偽不明な森にいる化け物の生態についてだとか、男爵が犠牲にした娘の数だとか。

 おいおい。

 根も葉もないうわさ話とはいえ、俺が吸血鬼みたいに扱われてるのには苦笑いしか浮かばない。他にも、割のいい仕事話がちらほらと見かけられる。

 主に土木工事に関する求人が多い。

 1日で100ダールとか書かれているが、どんな作業をするかは書かれてないんだな。拘束時間も描かれてないし。

 ここら辺、ちょっと取り締まった方がいいかなぁ。

 それと、決闘の話が紙面をにぎわせている。

 村長側は青の旅団から人を呼ぶだとか、親方側はカレル戦士団の団長が来るだとか書かれている。

 そういえば、カレルにはしばらく会ってないな。手合わせして欲しいという話をされてから、ずっとあってない。

 噂では、モーダルでも青の旅団と競うくらいに勢力を拡大しているという事らしいんだが、どうにも想像がつかない。

 うちの商会だと確かに護衛任務をたびたび頼んでいるし、ベネットとトーラスの軍事教練のおかげか団員の質も上がっていた気はする。

 でもだからって、老舗の青の旅団とためを張れるかと言われると疑問が残るんだよなぁ。

 具体的に言うと、人数差がある。

 青の旅団が1000人規模の傭兵団なのに対して、カレル戦士団は1/4にも満たない。だから請け負える仕事の量も必然的に少ないはずだ。

 それでも、こんな片田舎の新聞に載るという事を考えると、少し大げさな尾ひれがついているような気もするなぁ。

 とはいえ青の旅団が団員なのに対して、団長であるカレルの名前が挙がっていることを考えれば規模感というのは反映されてるのかもな。

 新聞を読み終わり、俺は街歩きを再開する。

 徐々に猥雑な通りに歩みを進めていくと、徐々に飲み屋が増えて言っているのが分かる。

 いやいや、こういう場所はよろしくないな。

 早々に引き返そう。

 そう思って踵を返すと白いエルフさん、いや、フローラの顔が目に飛び込んでくる。

 相手も俺に気づいたらしく、手を振ってきた。

「珍しい。お忍び?」

 俺は頭を下げる。

「そんなところです。たまには直接見ておくべきかなって思いまして。」

 とりあえず、適当に話を合わせて帰ろう。

「もしかして、すぐ帰っちゃう?」

 フローラの言葉に俺は頷く。

「浮気を疑われたらかないませんし。」

 そういうとフローラはにんまり笑う。

「そうだよね。奥様いるから、こんなところにいちゃ駄目だよ。」

 そういいながら、俺の胸を突いてくる。

「あ、そうそう。テリー君にお礼を言っておいて。それと、奥様にもよろしく。」

 そう言って、踵を返してフローラは雑踏へと消えていった。

 しかし、テリーに礼ね。何となく、街で何かをしているのは知っていたけどフローラとも関係してたのか。

 なんにせよ、上手くやってくれているようで何よりだ。

 ベネットとは治療や避妊具の類でつながっているんだろうな。

 前にも思っていたけれど、俺が知らない所で俺の知り合い同士がつながっていることがなんとなく嬉しい。

 もっと関係が広がって言ってくれるといいなぁ。

 あぁ、そんなことを思いふけってる場合じゃなかった。さっさと離れよう。

 変なことに巻き込まれたらたまったもんじゃない。

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