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14-15 決闘ねぇ。

たとえ同じ世界の人であっても考え方は人それぞれ違うものです。

 早速、俺の能力が役に立つ場面が訪れた。

 というか、まあ、裁判に関わる事であれば、相手の考えていることが分かるというのは大きなアドバンテージだろう。殺人や強盗、詐欺の類の犯罪にはもちろんのこと、商取引でのいざこざやちょっとした諍いなんかでも、嘘を見破り真意を知るというのは非常に役に立つ。

 もちろん、それをそのまま証拠にするわけにはいかない。俺の”鑑定”がそう言っているなんて見栄を切ったところで、証明するのが難しいからな。

 とはいえ捜査や尋問の方針にもつながるし、証拠品の確保にだって役に立つ。外堀をできうる限り埋めたうえで、《真実の場》をかけた法廷で追及をすれば、かなりの確率で真相へと至れるわけだから、使わないわけにはいかないよな。

 しかし、本当争いごとが多いこと多いこと。

 一応簡単な事件については俺の手を煩わせないように処理をしてくれているけれど、難しい案件が俺の手元に届くことも多い。

 本当そういう意味では、”鑑定”がレベルアップしてくれて本当に助かった。

 とはいえ酒の場での言った言わないなんかは、さすがに俺の”鑑定”も役には立たない。何せ、みんな酔っぱらっていて、記憶があいまいだ。

 なのにみんな自信満々に相手が悪いと言い張ってくる。

 流石に知らんがな。

「では、決闘による採決という事でよろしいかな?」

 俺に司法官が同意を求めてくる。

「どうぞ、お好きに。日時については、お任せします。場所は城の前庭、という事でよろしいですか?」

 威勢のいい啖呵が双方から飛び出してくる。

 これが街のチンピラ同士なら、俺が関与することじゃないんだけどなぁ。

 街の有力者同士の諍いだ。

 お互いのメンツもあって、引くに引けなくなってるんだろうな。

 しかし、決闘って本人同士でやるのか?

 双方、それなりのお年だ。よぼよぼ同士の決闘なんて見たくもないなぁ。

 

 決闘はどうやら代理人を立て拳銃での決闘になるらしい。

 う、ううん。

 それでいいなら無かったことにして、お互い触れなければいいんじゃなかろうか?代理に立たされる傭兵はたまったもんじゃないだろう。

 いや、まあ、それでお金を貰うわけだから仕事と言えば仕事だけど。

 

 ううん。

 

 防弾チョッキか何かを貸し出そうかなぁ。

 いや、でも勝ちにこだわって先に撃たれたって言うのに反撃する可能性もあるのか。

 防弾チョッキだけでかたずく問題でもないかぁ。

「何かお悩みのご様子だね? なんか面倒ごとでもあった?」

 色々と処理をするのに専門知識が必要な案件が複数あったので、レイナを読んで一緒に書類の処理をしていたけれど、決闘に関する報告書を目を通したときにため息をついてしまった。

 それが気になったのかレイナが尋ねてくる。

 とりあえず、一通りのことを伝えて報告書を見せた。

「はぁ? 酒の席でどっちの方が街に貢献しているかで喧嘩になって決闘? 馬鹿なんじゃないの?」

 そんなこと言われてもな。俺だって馬鹿馬鹿しいとしか思えない。

 一人は土木関連の仕事を束ねる親方で、街の大地主でもある。片やもう一人はベルラントで一番大きな村を仕切る村長だ。

 街にも工房を抱えてビール醸造や製糸業にも手を出していて、紡績機を大量購入してくれたお得意様でもある。

 どっちもベルラントには、居てもらわないとまずい人物といえた。

 とはいえなぁ。

 それで喧嘩をされても、馬鹿なんじゃないかという感想は覆らない。そんなことで決闘をするくらいなら、売り上げや手掛けた事業の多さで競い合ってほしいところではある。

 だけど決闘というのが案外簡単に行われる解決方法ではあるので、俺が止めるというわけにもいかない。文化の違いだから仕方ないかと思っていたけれど、レイナからもそんな感想が出るんだなぁ。

「馬鹿馬鹿しいですよ。

 それで下手をすれば代理人にされた人が死ぬわけだし。

 正直勘弁して欲しいところです。」

 レイナはうーん、と唸る。

「どうせなら、二人とも倒れて引き分けにしたいところだね。

 代理人の申請はあるみたいだし、二人に防弾チョッキ着せて置けば?」

 引き分けか。それなら両者顔が立つかなぁ。

「ちょっとテリーに相談してみます。」

 街でのことならテリーの方が詳しい。代理人にされた傭兵とも接点があるかもしれない。

 それに、穏便に済ませる方法も、あるいは出てきてくれるかもな。

 

 テリーが狩りから帰ってきたので、いつもの作業のついでに決闘について話してみた。

 屠殺場として用意した水道を引いたタイル張りの部屋で野鳥や猪、鹿の血抜きをしている間、テリーは面倒くさそうな顔をしながら椅子に座り頬杖をついている。

「そんなの放っておけばいいじゃん。お金で殺し合いしたいなら、好きにさせておけばいいよ。

 むしろ観客とか入れて、賭けでもやらせれば?」

 言われてしまえば、その通りではあるんだけれども。

「引き分けって言うのは一番締まらないから、勝ち負けは付けさせた方がいいよ。どっちか勝たせたいとかあるの?」

 いや、どっちを勝たせたいとか、そんなことは考えてなかった。

 というか、そういう不正につながりそうな発言はやめてほしいな。

「そう言うのは考えてないよ。どっちが勝っても禍根は残るだろうし、変に肩入れするつもりは無い。

 少なくとも、俺に求められる役割は公平であることだよ。」

 そういうとテリーは肩をすくめる。

「ならなおのこと、引き分けなんて言う中途半端な事させない方がいいよ。

 死人が出るのが嫌なら防弾チョッキは公に着させて、負けた方が負けを認めなかったり勝った方が追撃するのを止める方がましなんじゃない?」

 それは、そうか。

 しかし、防弾チョッキを公開するのはなぁ。

 いや、この際だから特別なものという形で使わせるのはありか。その上で販売は控えよう。

 あるいは、それを見て何かを思いつく人がいるかもしれない。そうなれば、技術の進歩に寄与できるとも考えられるよな。

 ちょっと自己欺瞞な気もするけれど。

「そういえば、防弾チョッキの話なんかしたっけ?」

 テリーには直接見せた覚えがない。誰かから、聞いたのかな?

「お姉ちゃんから聞いた。それとトーラスにも見せてもらったよ。実際に撃たれたところは見てないけど。」

 そりゃそうだ。

 撃たれるような状況にはなってないからな。

「そういう意味で言うと、撃たれても平気なのかどうか確かめられるね。ちょっと噂を流してもいい?」

 テリーはにんまりと笑う。

「構わないけど、売るつもりは無いからな?」

 そういうとテリーは若干不満気だ。

「それくらい平気だよ。防具がよくなって、ひどい事なんか起きる?」

 それが実際に起きるから厄介なんだ。

「騎士が板金鎧で身を固めたら、何をされたか知ってるか?

 鈍器で殴りまわされ、熱で溶けた鉛を流し込まれ、ロープで引きずられて手足を引きちぎられたり。碌なもんじゃない。」

 銃が効かないとなれば、それくらいのことはされかねない。

 勝っているうちはいいけれど、負けた時に悲惨な目に会うこともありうる。それに、売り物にするとなれば、渡したくない相手の手にもわたる可能性を秘めている。

 何とかする方法というのはもちろんあるが、そうなれば鼬ごっこだ。

 そういう意味で防具だからってむやみに広めたいものかと聞かれれば、俺は首を横に振るだろう。

 もちろん、身内は別だし、いざという時に使うのは当然だけれども。できうる限り、秘密にできるのなら秘密にしたい。

「ま、いいけどね。それならそれでやり方を考えるよ。」

 テリーが何をするのか、さっぱりわからなくて俺は少し眉をひそめてしまう。

「大丈夫大丈夫、変なことを起こさせないためだから。それなら撃たれた人間が死なない方がいい。そこら辺も含めて、色々とやるよ。」

 今のところ、テリーが動いて俺に不利益があったためしはない。

 そう考えると、無下にもできないんだよなぁ。

 何をしているかさっぱりなのが怖い。

 

 解体した動物は当然、うちの城の食卓に並ぶし骨や腱は弓や矢に使われたりする。装飾品にも使うから、何かと便利だ。

 ボタンなんかは鹿の骨や猪の骨で作られたりもする。

 プラスチックが一般に普及してしまえば、一定の形で成形できてしまうのでいずれはそれに置き換わるだろうけども。

 今のところは有用な素材だ。マーナたち狼のおもちゃにもなるし、テリーが獲物を狩ってきてくれて本当に助かっている。

「そういえば、森をいくつか開放するんだっけ?」

 食堂に解体した肉を運ぶ最中にテリーに尋ねられた。

「あぁ、マスケットが結構な数、手に入ったからね。軍事教練の一環かなぁ。」

 場合によれば、徴兵する場合もあるだろう。常に兵士として雇用するわけにもいかないから、普段は猟師として腕を磨いてもらうのが合理的じゃないかと思っている。

「んー、あんまり素人を森に入れて欲しくないんだけどなぁ。それに鉄砲だと獲物に鉛が残るからあんまりよろしくないし。」

 テリーからすれば、自分のテリトリーを荒らされるわけだから、嬉しくはないか。

「まあ、解放する森については限定するよ。テリーの縄張りには入らせないようにするから。」

 そういうと、テリーは頷く。

「そうしておいて。狩りについて指導しろとかなら、言ってくれればいいよ。銃に関しては、トーラスが指導するの?」

 そうなるかな。トーラスほどの適任はいないし。

「そこら辺は上手くやってくれればいいよ。テリーの目から見て、トーラスの狩りをする腕前はどうなんだ?」

 首を少し傾げた後、テリーは口を開く。

「下手なわけじゃないけれど、上手くもないかなぁ。少しぼーっとしすぎというか。

 射撃の腕はいいから、ちょっと難しい位置からでも仕留められるけど、そもそも見つけるのが遅いんだよね。」

 なかなか厳しい判定だな。

「多分だけど、狩りを楽しんでるのかもね。わざと難しい目標を狙ってる気がする。そこらへん、僕とは考え方が根本として違うかも。

 でも、それはそれで心強くもあるけどね。」

 食堂に着き、二人で今日とれた肉を厨房に置いていく。

 大きな冷蔵庫もあるし、これくらいの量なら城の人間で分ければすぐになくなってしまうだろう。

 腐らせる心配はいらない。

「そういえば、貰った大砲はどうするの? 倉庫にしまってるみたいだけど。」

 テリーの言葉で、そういえばそんなものもあったなと思い出す。

「使う場面が無いからなぁ。軍事訓練でもしないと使いようもないし、どうしたもんだろう。」

 あとで倉庫に見に行くか。

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