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14-14 順調なのか、不調なのか……

何でもかんでも順風満帆とはいきませんが、確実に前には進んでいます。

 ベネットを城に送り届けた後、俺は再びモーダルにやってきた。

 今回は、男爵としての俺が必要だ。なので、服装はとても堅苦しい。

 流石にタイツを履かなくちゃいけないわけではないけれど、正直白い絹のシャツは汚さないか不安だ。そそっかしいので、何かの拍子に汚してしまう。買いかえればいいのだからそこまで気にしてもしょうがないんだけども。

 それで今回の仕事だが、依頼されている軍艦の建造についてだ。

 実は大分進捗が進んでいる。

 おおよその設計と部材の確保なんかも終了しているから、これから組立に入ろうかという段階なわけだけれど、そこへもってきて俺が横槍を入れる形になったのだから、そりゃみんな不満な顔をするよな。

「はーい、みなさーん。不満なのはわかるけれど、せっかく男爵様が新素材を持ち込んでくれたんだから喜びましょうね?

 なんとベヒモスの骨と皮、そしてランドワームの油が手に入りました。」

 不満げな作業員に向かって無神経に先生が演説を始めた。実はこの提案は、先生の発案だ。

 最初は手紙でのやり取り、手に入った骨をやり取りして、船に使えるんじゃないかという話があったところまではいい。

 何処で知ったのだか、俺が軍艦の建造に着手していることも嗅ぎ付けて、それに使おうと言ってきたのがつい数日前のことだ。

 それで、今先生の熱弁が始まっている。

 いや、正直、ベヒモスなんておいそれと手に入るものじゃない。それを軍事兵器に転用するのは正直いただけない。

 まず、数を揃えられるのか不安があるというところだ。

「ベヒモスの骨は鋼鉄よりも固く、木材よりもしなやかです。それなのに、羽毛のように軽い。

 これを船に使わないで何を使うというのでしょう。

 しかも、皮は防水性に富み、燃えにくく破れにくい。内張に使用すれば、船の耐久性は格段に上がるはずです。それを接着するのに使うのがランドワームの脂です。

 身に含まれる脂は食用になりますが、外皮と筋肉の間にある脂は食用に適しません。粘度がかなり高いからです。

 高温で熱さなければ液体化せず、超低温にしなければ完全な個体にはなりません。これほど優れた接着剤はなかなかお目にかかれませんよ?」

 先生が熱弁を振るっているけれど、聞いている作業員や技師たちは呆れ気味だ。それでもまくし立てるようにベヒモスの有用性を語り続ける。若干心配になるくらい先生は饒舌になっていた。

「ヒロシ卿、工期は遅れてもよろしいんですね?」

 呆れていた技師がようやく口を開く。こればっかりは、俺にしか決断ができない。かかる費用は俺が支払わなければならないからだ。

 工期が伸びればその分だけ作業員の給料が嵩む。普通なら、勘弁してくれという話ではあるんだけども。

 世話になっている先生の希望を無下に断るのは忍びなかった。

 それに俺も、ファンタジックな素材というものに、少し憧れのようなものを抱いている。強く押されれば、いやとは言えない。

「覚悟の上です。

 申し訳ないですが、よろしくお願いします。」

 俺は、手を挙げて応えた。

 思わず頭を下げてしまいそうになるけれど男爵である以上は言葉はともかく、頭を下げるわけにはいかない。作業員たちや技師から、一斉にため息が漏れる。

 いや、本当にごめんなさい。

 

「いやー、ありがとうヒロシ君!! 私もベヒモスなんかここ百何年も見てなかったんだ。こうして使える素材として手に入るなんて、まさに奇跡だよ!!

 あー、どんなトラブルが起こるだろうね。どんな事故が起こるだろう。何が起こるか分からなくて、楽しくてしょうがないよ!!」

 不穏なことを先生は口走るが、しばらくは造船所に張り付いてくれる約束になっている。

 対処は先生に任せられるのだから俺がとやかく言う事じゃないよな。

「一応、年内完成を目指してくださいね? 搭載砲は完成しているので、乗っけって試射できないと引き渡しのめども立たないので。」

 そういうと先生は嬉しそうに頷く。

「任せてくれたまえ。きっと満足のいくものに仕上げるよ。」

 いや、期限を守ってくれって言ったんだけどな。思わず、付き従っているメイさんに目を向けてしまう。

 彼女は黙って頭を下げる。

 こうなったら諦めろという意味かなぁ。先生はさっそくとばかりに造船所の中へ躍り込んでいってしまった。フットワークが軽いのはいい事なんだろうけども。

 困ったもんだ。

 

 先生の奇行は困ったものだが、電気を秘石に変換する研究が煮詰まっているからだとメイさんから聞いた。秘石乾電池の方が順調に事業化まで進んだわけだけど、そっちはそっちで使える製品がなかなか作り出せていない。

 電球も数分で切れてしまうのでいまいちだし、モーターを使った製品も扇風機以外は洗濯機くらいだ。

 若干パワー不足が否めない。

 これなら魔法で直接攪拌する方が早いとばかりに魔法洗濯機が作られてしまった。

 マジックアイテムなので当然高価なわけだけれどメンテナンスフリーだし、好きな時に好きなだけ回せるというのは大きなアドバンテージだ。

 何かと魔法が行く手を阻む。

 なので、俺が売ったLEDランタンくらいでしか電池は使われない。

 発電機は作られているので徐々に扇風機は出まわり始めているけれど、正直微妙だなぁ。

 蒸気機関の方は、発電に使用されたりエレベーターの稼働に使用されたりと何とか活用のめどが立ちつつある。最初が蒸気船への活用だったので、そちらの方も大型発注が相次いでいる。2番船は軍艦ではなく、商船になりそうだな。

 大型のガレオン船をベースにした注文が多く、海運を商うところが我先にと造船所に注文をかけている。とはいえ、蒸気機関を積んだデザインや設計というのはなかなかに難しい。

 一朝一夕で事が成るわけではないから、どこの造船所も手探りな様子だ。その上で、小型船の発注も重なっている。

 主に河川で使う焼玉船がいたるところで作られて、モーダルは前例のないほどに盛況だ。聞く話によると、人口が俺が来たころの3倍以上に増えているらしい。

 おかげで、農地だった土地も続々と建物が建てられ、工房や住宅に化けていく。それが良い事なのか、悪い事なのかは正直判断しかねるな。

 造船所からカールの家まで車を走らせてもらっているが、そこから見る風景は相変わらずせわしない。

 子供たちも例外なく、物を売ったり荷物を運んだりしていた。

 この世界では当たり前の光景ではあるんだけれど、ちょっと眉を顰めてしまう。

「あまり、お気になさらない方がよろしいかと。」

 横に座っている執事のフィリップが俺に助言のようなものを言ってくる。けど、慣れろと言われても慣れないものは慣れない。

「気にしてもしょうがないことは理解してますよ。」

 ため息をつき、また窓の外を見る。

 子供たちがたむろし、紙芝居や駄菓子を求め、芝居が始まるのを心待ちにしている様子が目に入ってきた。

 そうか。

 少しカールに話して画家の先生たちに声をかけて貰ってはいたけれど、こんなにも早く紙芝居がやられるようになったんだな。展開の速さに若干戸惑いを覚える。

 確かに、概要は説明しリーダーが主導する形で事業展開してくれと書類は書いたけれど。あるいは、類似の事業が動いていたかな?

 もしかしたら、個人かもしれないな。出来れば、車を降りて紙芝居屋に話を聞きたい。

 でも、この恰好じゃなぁ。

 俺は、車から、距離が離れるまでじっと紙芝居屋を見続けてしまった。

「ご満足そうで何よりです。」

 また表情に出てたみたいだ。

 しかし、そんなに分かり易い顔をしてたかな。

 まあ、喜ばしいと言えば喜ばしいのは確かだけれども。

 

「楽しそうだね、ヒロシ。」

 ベネットがヨハンナを抱いて、俺を見てくる。再度お留守番を頼んだのだから、少し不満そうな表情を浮かべている。

 いや、これは揶揄われてるな。

 俺は、駄菓子を取り出して包装を破ってベネットの口元に差し出す。紙芝居をやる際に参考になればと思って買っておいたものだ。

 ぱくっと、ベネットが駄菓子を咥えた。

 サクサク、と良い音を立てて食べるなぁ。

「んー、これがおみやげ?」

「もちろん、他にあるよ。今のはおやつ。」

 別にみやげとしてケーキの類を持ってきている。他にも子供用のおもちゃなんかも買ってきていた。

 モーダルは港町だけにいろんな雑貨や食べ物が入手可能だ。

 市議会やギルドに顔を出せば、それとなくみやげが渡される。そこから商売に結び付くかもしれないという下心があるにせよ、ありがたいものだ。

 試しにもらったおみやげの中からおもちゃを取り出して振ると、ヨハンナが手を伸ばしてくる。

「抱っこしてもいい?」

「もちろん。」

 そう言って、ベネットがヨハンナを俺に渡してくる。

「ヨハンナ、楽しい? そうか、楽しいかぁ。」

 こうやって、笑顔でいてくれる分には”鑑定”なんかしなくても気持ちが分かる。

 なんだか余計なものを手に入れてしまったなぁ。

 使い道がないとは言わない。俺が抱える仕事には、非常に役に立つ能力ではある。

 出来れば、あまり使いたくはないけれど使えるのに使わないという選択肢を取れるほど、俺は律儀な男でもない。

 ただ、親しい相手には使うことは避けよう。

 そのくらいの分別は持たないとな。

 しかし改めて思うけれど、ヨハンナは俺に似すぎではないだろうか?

 福々した頬は可愛らしいけれど、将来が少し心配だ。もちろん、それで疎ましく思うなんてことは無いけれど、容姿で悩むようなことがなければいいなぁ。

 お父さんのせいだとか言われたら、ショックで寝込むぞ。

「ヨハンナ、ヒロシと似ててとってもかわいい。」

 ベネットの言葉に俺は、ちょっと顔を歪めてしまう。

「大丈夫かな?」

「何が?」

 あー、うん。なんか、言いづらいな。

「……ヒロシは自信がないから仕方ないけど、十分魅力的だよ? それに私の子でもあるんだから平気平気。」

 自信満々にベネットは胸を張る。

 確かにベネットは美人だけど。

 それが良い方向に作用してくれたら嬉しいなぁ。

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