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14-12 久しぶりに蛮族のお相手。

後ろ指刺されるムーブしてるんだから、当然悪評は立ちますよね。

「相変わらずけちくせえな!! グラスコーの真似してんのか? まあいいけどよ。」

 一応適正な値段で取引はしてるつもりなんだけどな。とはいえ、文句をつけつつもローフォンの機嫌は悪くなさそうだ。

「まあ、馬も買えるのはありがたかったがな。ロイドが育てた馬なら間違いはないだろう。」

 アジームは取引に満足している様子だ。

「どうせなら、車でも買いませんか? 何かと便利ですよ?」

 そういうと、二人は首を横に振った。

「いざっていう時食えねえじゃねえか。それに何人かまとまってたら、一網打尽にされちまう。」

 アジームの心配は分からなくもない。それなら、バイクという手もないことは無いかな。

「それに俺たちは馬で慣れてる。わざわざ乗り換えるほどの魅力を感じんな。」

 アジームは少し自嘲気味に笑った。

 いや、でも慣れって言うのは大切だろう。そこに無理やりに勧めるのも悪いか。

「そういえば、例のキャラバンの様子はどうです?」

 そう尋ねるとアジームはにんまりと笑う。

「火薬と交換だな。」

 どれくらいの量が必要なんだろうか? まあ、とりあえず一樽取り出しておこう。

「気前がいいじゃねえか。そんなに気になるか?」

 気になったから聞いてるんじゃないか。

「そりゃ気になるだろう。下手すりゃ、軍隊作って襲い掛かってくるかもしれねえって思うもんな。」

 ローフォンは少し嫌らしい笑みを浮かべる。

「こいつは、そんなに甘い男じゃねえよ。

 ともかく狙い通りだよ。あいつら定住することで、奪う側から奪われる側に転落さ。

 無理やり畑で働かされてる奴隷は逃げるし、俺らみたいなのに実ったトウモロコシは狙われる。時々、グラスコーの旦那が水を売りつけてるが、それでも足りてるのかどうか。

 実が入ってないトウモロコシも増えてきた気がするな。」

 アジームの言葉にローフォンは笑みを深める。

「なんだ狙ってたのかよ。あいつらには恨みがあったからな。ならもっと派手にやってやろうか?」

 俺は何のことやらと肩をすくめた。

「まあ、持ってあと2,3年ってところだろうな。それ以上は、逃げ出す奴が増えてどうにもならなくなるんじゃないか?」

 アジームの言葉に俺は頷いて、火薬をもう一樽取り出して渡した。

「お?なんだよ、気前がいいじゃねえか。」

 ローフォンは不気味さを感じたのか、若干身を引いている。

「いやいや、今後のことも期待してのことですよ。これでもフランドルの貴族ですからね。」

 安全保障上、蛮地は荒れていてくれた方が助かる。

 もちろん、それが国境を越えてフランドルにまで及ぶなら話は別だけれど。誰にも立ち入れない土地という評判は是非とも維持しておいてもらいたいものだ。

「おっかねえなぁ。」

 虐殺王とか呼ばれてる人間に言われたくはない。

 

 むろん、蛮地の人間に捕まったら、そりゃ酒宴に巻き込まれるのは仕方がない。今度は嫁を連れて来いだの、いざという時は助太刀してやるだのいらんことを言われた。

 流石にそれを真に受けるほど、俺もお人よしじゃない。

 どうせ助太刀なんて見返りを求めてくるんだろうと言えば当たり前だと返されたけど、まあ当然だよな。

 ベネットを連れてくるかどうかについては、横取りされるから嫌だと答えておいた。二人して馬鹿笑いしていたが、油断はできないんだよな。

 もちろん、今すぐに襲い掛かられるなんてことは無いだろうけれど、弱っていればそれに付け入られる可能性は十分にある。疑りすぎとも思われるかもしれないが、少なくとも蛮地で暮らすならそれくらいじゃないとやっていけないだろう。

 なので、酒宴が終わった段階で門をくぐって関所の中に戻る。

 冷たくなっただの柔になっただの言われたけれど、そもそもそんなに付き合いが長いわけでもない。勢いで言われてるだけだから、聞くだけ馬鹿らしい。

 とりあえず、解散するところまでは見届けないといけないだろうから、今晩は宿を借りて翌日出立するのを確認するまではこちらに留まらないとな。

 帰った途端、何かやられたらシャレにならない。

 

「世話になったな、ヒロシ。また何か手に入ったら顔を出すぜ。」

 ローフォンは朗らかに笑うが、勘弁して欲しい。

「出来れば、次からは先触れを寄こしてください。こっちにもいろいろと準備はあるんですから。」

 ついでに、売りたいものや買いたいもののリストを準備してくれれば、わざわざ俺が出向かなくてもよくなるだろうし。

「冷たいこと言うなよ。何だったら、俺んところの娘を一人やろうか?そうすりゃ、俺たちは親戚だぞ?」

 ローフォンの所の娘って、どんな人だったかな?

 まあ、どんなに美人でもお断りだが。

「うちには、ちゃんとした嫁がいるんで要りません。」

 そういうとアジームが笑う。

「確かにいい女だが、もう一人嫁貰ったんだろ? どうせなら、うちの所のも世話してくれよ。」

 見境なく嫁を増やして言ったらがんじがらめになって碌でもないことになるだろうが。アジームもどこまで本気なのかは分からないけれど、いずれにせよ受け入れられない。

「蛮地で暮らしていけないってなったら、生き残りは引き受けますよ。逆にこっちがやばくなったら世話になりますんでよろしく。」

 そういうと、二人は豪快に笑う。

「分かった分かった。そん時はよろしくな!!」

 そういいながら、ローフォンは馬にまたがって、手を振って立ち去って行った。

 アジームもそれに倣うように、馬に乗る。

「真面目にやばくなったら、うちに来いよ。精々こき使ってやるからよ。」

 アジームの言葉に俺は苦笑いを浮かべてしまう。客としてのうのうと暮らせるとは思ってはいないが、そういう目に会わないようにせいぜい気を付けよう。

 頭目を追うように他の男衆も手を振って蛮地の奥へと消えていった。とりあえず、これでひと段落だな。

 儲けも出たし、蛮族の侵入を防ぐという目的も果たしている。領主としては及第点だろう。

 さっさと城に戻りたい。

「ヒロシ、結構な量のマスケットだけど。あれは全部売り払うのかい?」

 トーラスがアジームたちの持ってきた代物に興味を示していた。確かに、割と新しいマスケットが手に入っている。

「そうですね。うちで使えそうなら、回しても問題ないですけど。」

 トーラスには、衛兵の他にも若い連中に軍事教練を施してもらっている。彼が銃に興味を示したという事は、領民に銃を扱わせたいのかもしれないな。

「あれだけの数があれば、それなりの戦力を確保できるかもね。それと狩猟にも使えるから、貸与という形で渡してみるのもありかもしれない。」

 猟師を増やすというのもありか。森をいくつか開放しないといけないけれど、若い人間に仕事の口を用意することにもなるし自然と射撃の腕も磨ける。凶器をばらまくことになるのが少し気がかりではあるけれど、武装を完全に解けとは言いずらいのが現実だ。

 それなら、むしろ貸し出して所在をつかめたほうがいいかもしれない。

「任せます。役人たちと協議の上でどうするのか、報告してください。」

 そういうとトーラスは頷いた。門をくぐると関所を管理する騎士が出迎えてくれた。

 ずっと、門に張り付いていたんだろうな。

「ご苦労様。今後も、あの二人が尋ねてくるかもしれません。先触れを寄こすように伝えたので、何かあれば知らせてください。」

 俺の言葉に騎士は眉を顰める。

「畏まりました。此度はご尽力いただき感謝の極みです閣下。」

 思うところはあるだろうけれど、文句は言えない立場だもんね。そういう慇懃な言い回しになるか。

「それと、これは彼らの持ってきたワインとチーズだ。皆で分けてくれ。」

 そう言って、今回の取引で手に入れたワインやチーズを引き渡す。

 元々予定していたので籠に納めてテリーとロイドに持ってもらっていたわけだけど、中身を見せると少し騎士の顔が緩む。これくらいの役得は必要だよな。

「ご配慮を賜り恐悦至極です。閣下のご威光はどこまでも広がりましょう。」

 背中がむずむずする。

「では、失礼する。」

 世辞を言われるのには慣れない。下手に接待とかされる前に、さっさと帰ろう。

 

「とりあえず耳に入れておくけどさ。あの騎士、ヒロシのこと散々馬鹿にしてたからね?」

 帰る道すがら、車内でテリーが口を開く。でしょうねとしか言いようがない。

「仕方ないさ。どこの馬の骨かもわからないような人間なんだから蛮族と仲良くしてたら、そういう感想にもなるよ。」

 擁護するつもりはないけれど、自然な話だ。

「ヒロシならそういうと思ってた。だけど、もう一つ耳に入れておかないといけないことがあるよ。」

 テリーがこうして話してくるという事は何か意味があるんだろうな。

「ヒロシが夜な夜な町の娘を攫って生贄に捧げてるって噂が立ってる。」

 そっちは由々しき問題だな。

「前の領主の残党を切ったせいで、冷酷だとか残忍だとかって噂は前からちょこちょこ出てたんだ。まあ、スカッとしたって話も多かったけどね。」

 おおむね理屈としては理解できる。特別領民を大切にしてたつもりは無いから、ある程度は覚悟してたけど。

 しかし、娘を攫って生贄にって……

 やっぱり祭壇を作った影響かなぁ。

「まあ、そっちも仕方ないね。何か慰撫する手段があればいいけれど、秋祭りで振舞うくらいしかできないなぁ。」

 そういうとテリーは笑う。

「必要ないよ。むしろ、ヒロシはその噂の通りに振舞えばいいんじゃないかな。

 施しをするなら、ベネットにやってもらえばいいんじゃない?」

 そりゃまたなんでだ?

 テリーは何か企んでいる顔をしている。

「ヒロシが狂気に冒されていて、ベネットはそれを必死になだめているって言う話が流れてる。それに乗っかればいいと思うよ。」

 なるほど。

 いや、何がなるほどだ。悪役にされても別に構わないけれど、そんな話が出回ってたんだな。

 自分の支配している街なのに何も知らなかった。

「噂通りって言っても、まさか本当に生贄捧げろってわけじゃないんだろ?

 とりあえず、秋の収穫祭にはベネットに出てもらうとして、俺は普段通りで構わないんだよな?」

 そういうとテリーは頷いた。

 何を企んでるんだか分からないけれど、俺は俺で多少自分の立ち位置を探っておくべきかもな。

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