14-11 思い切って買ってみた。
蛮族と交流のある地方領主って悪役っぽいですよね。
色々と相談し合って、自動手術台と遺伝子組替装置、そしてロイドのためのサイバーアームを購入した。例によって、お金を払っても即座には手に入らない。それなりに時間を要してはいる。
とはいえ、手に入るものがすごいんだからそれくらいは我慢我慢。
自動手術台とサイバーアームは元々予定していた買い物だけど、遺伝子組替についてはミリーの強い要望で購入を決めた。まあ遺伝子組替といっても、無から作り出せるわけでもない。
病気に強い個体、乳量や毛量の多い個体から遺伝子を読み取り、それを掛け合わせて作られた種で繁殖させるという形になる。
人工授精のためのキットも付属しているし、家畜にも遺伝子組み換えができるのは便利だ。
もちろん植物にも適用が可能で、こちらは特別なキットがなくても種を植えれば品種改良が可能になる。
ただ、ミリーにしろお義父さんにしても、今までまったく品種改良をやっていなかったわけでもない。
作業が幾分簡略化されるという程度の差でしかないから、便利になったんだろうかとちょっと首を捻ってしまう。
「ヒロシは、大したことないと思ってるだろうけど、画期的だからね?
残したい能力を残して、消したい欠点を消せるってだけでもすごいし、それを引き継がせていけるって言うのはなかなか難しいんだよ?
増やしていくと、自然となくなっちゃう特性とかもあるしね。
それに、特性が消えた時にやり直しがきくって言うのは大きいよ。」
ミリーはしたり顔で語る。
もちろん、俺よりは経験は豊富だろうけど、いくらなんでも今の若さでそこまでの知見が得られるとは思えない。
「どうせ、誰かの受け売りだろ?」
俺の言葉にミリーはバレたかというような表情をする。
「でも、役に立ててくれるならそれに越したことは無いよ。
ベネットもお義父さんにこのことを伝えてくれるかな?
まあ、魔法でそういうことができるようになったって言えば問題ないと思う。」
ベネットは俺の言葉に戸惑った様子を見せる。
「私が伝えないと駄目?」
いや、別にベネットじゃなくちゃ駄目なんてことは無いけれど。
「テオ君経由でもいいよ? 別に急ぎというわけでもないし。」
そういうとベネットは分かった、と頷く。
ちなみに、自動手術台は既に使用済みだ。手術そのものは物の数分で終わったけれど、外科手術だ。
通常はちゃんと傷が塞がるまでは安静にしなければならないけれど。《治癒》のポーションのおかげで手術後すぐに傷は塞げて、使用可能を示す緑色のランプが灯った。
それで、今は牧場でロイドにサイバーアームを渡して使い勝手を見てもらっているところだ。最初はぎこちない感じで物を掴んだり離したり、棒を振ってみたり、物を投げてみたり。
そのうち慣れてきて、ジャグリングみたいなことを始めた。一通りの動作に納得したのか、今度は馬の背にまたがる。
「さすがだよね。普通、あんなふうに自然に馬になんか乗れないよ?」
ベネットが感嘆の声を上げる。
「腕を失ってから、それを取り戻す感覚なんてさっぱりだけれど機械の腕がすごいのか、ロイドさんがすごいのか。
あんなに手足みたいに馬を操るなんて、五体満足でも難しいと思うんだよね。」
俺も乗馬をこちらに来てから学んだけれど、確かにあんな華麗には操れない。
サイバーアーム自体は構造からして人間の限界を超えない作りにはなっているけれど、それでもやはり人と遜色ない動きを見せているのは驚きだ。
もちろん、使っているロイドの動き自体が研ぎ澄まされているというのも確かではある。
だから、凄いのは両方だろうな。
ロイドが馬をこちらに寄せてくる。すっと、馬から下りてロイドは跪いた。
「使い勝手はどう?」
多分、ロイドとしては忠誠を示すとかそういう意味合いの込めていたと思う。だけど俺は気後れして、それを見なかったかのように応対してしまった。
「悪くない。少し振り回される感じはあるが、そのうち慣れる。」
そういいながら、ロイドは立ち上がった。そうか、悪くないか。なんだか嬉しくなって俺は笑ってしまった。
「旦那様!! 関所から使者が参っております!! 執務室に至急お戻りください!!」
執事のフィリップが慌てた様子で、こちらに駆け寄ってくる。
部屋に戻りつつ、使者の要件をフィリップに軽く確認する。関所に蛮地から俺を尋ねてきた集団がいるという事だった。何でも取引をしたいという事で、数十人が押し掛けてきたという。
心当たりがないわけでもない。
略奪王として恐れられてるアジームか虐殺王として恐れられているローフォン、どっちかだろう。
あるいは両方だろうか?
普通はこちらから顔を出して取引するのが通例になっていただけに、突然の来訪はちょっと面食らう。
「いかがいたしましょう?」
いかがも何も、俺が顔を出さないわけにもいかないだろうな。先方の要求も領主を呼べという事だったし。
それと国境の警備は王国の管轄だ。
俺と顔見知りだとは言っても、そんな事情は関所の衛兵には関係がない。指揮系統が違うからな。
なので、早急に向かう必要があるだろう。
「すぐ行って、話を聞いてきます。いつまでも、大人しくしてくれてるとも限らないですからね。」
では、早急に護衛の準備を、というフィリップを制止する。
「護衛は必要ないです。ロイドとトーラス、それにテリーを連れて行くので、何かあればベネットに伝えてください。」
同行していたベネットがぎょっとした顔をする。
「ねえ、またお留守番?」
俺の脇を突いてベネットが耳打ちをしてくる。
「ごめん、穴埋めはするから。」
執務室に入り、俺は使者をねぎらう。事務的なやり取りの後、今回の対応について伝えた。
移動には車を使う。
1日あれば俺を尋ねてきた集団のいる関所まで到達できるだろう。
夕方に城を出発し、一晩をコンテナハウスで過ごした後、翌朝すぐに出発すると昼には関所に到着できた。使者は馬で尋ねてきたので3日くらい待たせているだろうか?
ともかく、相手を確かめないとな。
地形的には、崖が蛮地との境目になっている。
その落差が緩くなっている部分に胸壁を立てて関所の門があるわけだけど、今は固く閉じられている。蛮族が来襲してきたとなればこういう対応になるのは仕方ないのかもしれない。
ベルラントの旗を掲げているので関所にたむろしている旅人たちは道を開けてくれるし、衛兵は敬礼で出迎えてくれた。
俺が車から降りると関所を束ねる騎士が俺を出迎えてくれた。
「お待ちしておりました、閣下。」
むずむずとするけれど、そういう立場だ。鷹揚に頷こう。
「来客の知らせご苦労。先方はどなたかご存じか?」
騎士の表情が険しい。
「悪名高い蛮族どもです。しかも、悪逆の限りを尽くす略奪王アジームと虐殺王ローフォン。両名とも今は大人しく陣を張っておりますが……」
見れば、胸壁の上では銃を担いだ兵士が立っていた。
「言うほど見境が無いわけではありませんよ。昔、世話になりました。」
そういうと騎士は眉を顰めた。
「もちろん、警戒を解けとは言いませんよ。ただ、車は通してください。
よろしいか?」
そう尋ねると、騎士は頷いた。いずれにせよ、俺が会わなければ埒が明かないだろうしな。
衛兵たちが門の脇を固め始めた。
俺はため息をついて車に乗りなおす。
「おーずいぶんと出世したじゃねえか、ヒロシ。」
俺が車から降りて、アジームとローフォンが張っている陣に顔を出すと面白くなさそうにローフォンが口を開いた。
「いろいろ頑張ったんですよ。
それより何ですか? こんな物々しい集団で押しかけてきて。」
俺がため息をつくとローフォンとアジームは笑いだす。
「何用って、お前、取引以外に何があるってんだよ。奪ってきたトウモロコシが山のようにあるんだ。
こいつを運んでくるのには、苦労したぜ。」
何処から奪ってきたんだそんなもん。
いや、まあ、心当たりは一つしかない。
「どれくらいの量もってきたんですか?
それと、取引って言われても用意するのにそれなりに手間とかあるんですよ?」
一応、俺のインベントリは事務所にも通じている。そこから倉庫にある荷物は運びだせるし、アノーやロドリゴに融通してもらうことも可能だ。
でも、便利に使われても困る。
多少は渋っておいた方がいいよな。
「おい、ヒロシ。一つ聞いてもいいか?」
ローフォンが首をかしげる。
「なんですか?」
ローフォンが見る目線の先はロイドの腕に注がれている。一応、服で隠されてはいるけれどちゃんと腕があるようには見えるだろう。
「俺の目が確かなら隻腕のロイドに腕が生えているように見えるんだがな?」
俺はローフォンの言葉に頷く。
「機械の腕を買ったので、付けてもらってますよ。腕や足を失ったら、それなりのお値段で売りますけど、いかがですか?」
聞いてきたローフォンも、隣のアジームも首をすくめた。
「勘弁してくれ。わけのわからんもの生やすくらいなら、普通に《再生》ポーションを買う。」
アジームは心底嫌そうな顔をした。
なるほど、これがこの世界では普通の感覚なんだろうな。
「まあ、そんなことより商売だ。
欲しいものは女どもに書かせてきたから、頭から交換できるものは交換してくれ。トウモロコシだけじゃねえ。宝石や武器の類も持ってきた。
最近は、奪い甲斐のあるやつが増えてきたからな。」
ローフォンが俺に紙を渡してきた。しかし、奪い甲斐があるって言うのは何だ?
「アジームさんの方も同様ですか?」
そういうと、アジームもリストを渡してくる。
「おおよそ似たようなもんさ。銃を扱う連中も増えてきたが、陣形も碌に組めねえのが何人群れようと獲物でしかねえな。
荒れ地でもトウモロコシなら育つってんで、わざわざ川から水を引いてきて蛮地に来ようとかする馬鹿が増えてきてくれたおかげだな。
蛮地をタダの荒れ地だと勘違いしてるから、俺らが手を下すまでもねえって感じだったりもするがな。」
聞いてもいないのにアジームは得意げに語る。多分、俺が聞きたがっているのが分かったんだろうな。
しかしそういう事情か。
ただでさえ、化け物がうろついているのに、そこで暮らしているローフォンやアジームみたいな連中がカモにしてくるんだ。
とてもじゃないけれど、蛮地には定住したくないな。やるなら、相当の準備が必要だろう。
まあ、いい。
とりあえず持ってきた略奪品を査定して、用意できるものを用意しよう。
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