表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
368/603

14-10 身内だけだけど、隠し事を打ち明ける。

サイバーパンクのガジェットは呪文と重なる部分って結構多そうですね。

 ラウレーネの寝所から、ベルラントに戻るとベネットは浮かない顔をしている。ベッドにヨハンナを寝かせると、無言で俺に抱き着いてきた。

 しばらく、抱き着かれるまま俺はベネットの言葉を待つ。

「お父さんって呼ぶべきなのかな。」

 ベネットは絞り出すようにつぶやく。

 難しいことだよな。

 血のつながりは無いのだから、お父さんとは呼びづらいという気持ちは分からなくもない。

 実感はないけれど。

 そもそも、俺は血のつながりのない父親に育てられた。話すことではないので、誰にもいっていないけれど。

 正直、説明すると複雑な関係だし、その割には心情的にわだかまりがあるわけでもない。生活を共にすることで、自然と父親と息子という関係になった気がする。

 それに比べると、ベネットはお義父さんと過ごす時間が短かったんだろうな。

 でも、本当にそんなことは人それぞれだ。呼びたくないのであれば、別に誰かに強要されるような話じゃないだろう。

「無理に呼んでも意味は無いと思うよ。だから、ベネットの納得がいく呼び方で呼べばいいよ。」

 あの人でも、呼び捨てでもそれがベネットの心情なのだから。誰かに干渉されるべきことじゃない。

 もちろん、時と場合によればお願いしなくちゃいけない時もあるかもしれないけれど。それも、あくまでもお願いどまりだろうなぁ。

「ヒロシは味方でいてくれる?」

「もちろん。」

 間違いなく、ベネットが最優先だ。それだけは揺るがない。

 問題は、その最優先事項を守ったうえで、どれだけを取りこぼさずに上手くやれるかだろう。

 全てを手に入れようとすればすべてを失うとは言われるけれど、欲深な俺にはそこまで割り切った思考はできない。

 そこは苦しむしかないよな。

 自業自得だ。

「……ヒロシ。大好きだよ。」

 泣きそうな顔で言われると不安になる。

「なら、笑顔で言ってよ。そんなに頼りない?」

 少しベネットは天井を見上げたあと、俺の顔を見る。

「ごめん、頼りないなって思っちゃった。」

 それにはさすがにため息をつかざるを得ない。

「もっといい所見せないと駄目なのかな。これでも頑張ってるつもりなんだけどなぁ。」

 少しむすっとした顔をする。

「……本当は怒ってないでしょ?

 ……頑張ってくれてるのは分かってる。だから、頼り切っちゃ駄目だって思うの。

 頼りなくていい。

 そのままのヒロシでいてくれていいんだよ。頑張るのは私もなんだから。」

 その言葉に俺は苦笑いを浮かべるしかない。本当に、ベネットには何でもお見通しなんだろうな。

 俺の無粋な能力とは違って、ちゃんと相手を見て気持ちを汲み取ることができる。つくづく、俺にはもったいないお嫁さんだ。

 だからって言って、譲れと言われても譲る気はないが。

 

 翌日、執務室での決裁と報告書を読むというルーティンを終わらせ、早々に時間を作る。

 というのも、先延ばしにしていた”売買”についての話をしたかったからだ。キャラバンのみんなと限られたメンバーという割と少人数で集まる。

 俺が来訪者であるという噂話は多分、大分広がっていると思う。

 というか、これだけ領内で好き勝手やってるんだから特別こちらから喧伝しなくても知っていても何ら不思議じゃない。

 ただ特別な力を持っていることを知られるのと手の内を知られるのは同じ事とは言えないだろう。

 なので、本当は口の軽いハルトを入れたくはないんだけれど。のけ者にするのも気が引ける。

 それとレイナも一応身内になるので、参加してもらうことにした。流石にジョシュには遠慮をしてもらう。

 というか、話すかどうかはレイナに任せる。

 カイネに関しては、最早ハルトが話すのは分かり切っていることなので、口止めすることを期待して参加してもらった。

 それと、トーラスはすでに深い部分まで関わってもらっている。今更裏切られたらとか考えても後の祭りだ。

 なので、当然参加してもらった。

 流石にヨハンナは小さすぎて話も分からないだろうからメイドさんたちに託しておく。いずれ大きくなったら、全部話さないとなぁ。

 あぁ、ベネットに関しては言わずもがなだ。

 とりあえず、集まってもらった段階で察しのいいキャラバンのみんなはちょっと身構えている。意外と緊張感がないのがレイナだった。

 まあ、慣れているというのもあるのかな。

 ハルトは緊張とは無縁な人間だから言うまでもない。

「えーっと。忙しいところ集まってもらってありがとう。

 仕事を抱えてみんな大変だと思うけれど、時間を作ってもらったことに感謝します。

 それで、早速なんだけれど。」

 まず、俺の知らない世界と取引が可能になったこと。

 そして、余計な技を授けられたことを話した。

 後者は特別言うほどの事じゃないとは思う。使う機会は無いからな。

 ハンスは少し眉をひそめた。

 まあ、ハンスの出会った凶暴な魔王の使った技に似てるから、その反応は分かるけどね。

「うぉ! スゲー!! そのうち俺も使えるようになるかな?」

 半面、ハルトは浮かれ気味だ。

 こいつに持たせたら、ろくでもないことになりそうなんだけど、モーラ様は多分それがお望みだろうなぁ。

「分からないけど、加害範囲を調整できないから使うつもりは無いよ。敵を切ろうとして仲間まで切ったらシャレにならない。」

 仲間がいない前提なら、確かに強いけどなぁ。

「まあ、ヒロシには宝の持ち腐れだよね。私たちがいるんだし。」

 ミリーがコップに入ったレモネードをストローでかき回す。

「血抜きには便利なんじゃない? まあ、それなら《水操作》でいいわけだけど。」

 レイナがくだらない冗談を飛ばす。供物を集める時には役に立つけど、それ意外だったらどう考えても《水操作》の方が便利だしな。

「まあ、そっちは使えるよってだけだから。本題は俺の知らない世界と取引ができるようになったという話の方だよ。」

 これについては、みんなピンと来てない。

 そりゃなぁ。

 何が買えるのか、分からないから、どう反応していいものかという感じだろう。そもそも、俺の理解も中途半端だ。

 量子コンピューターや超伝導体バッテリー、常温核融合炉とか言葉では聞いて、どんなものかは把握できる。

 だけど、フルダイブ通信だとか言われてもね。こっちの世界じゃ、そもそも相手がいない。どう利用すればいいのかもはっきりしない。

 だから、分かり易い例を挙げるべきだろう。

「まあ、簡単なところから行くと。機械の腕をつなげることができるようになる。」

 まあそれが本題なわけだが。

「つまり、腕を4本とか6本にできるの?」

 レイナはせせら笑う。いや、そういう呪文あるしな。

 特別なことじゃないように感じるのだろう。

「まあ、それもできるんだけど。再生させられなくなった腕の代わりにできるかなって。」

 俺は、ロイドの方を見る。

 ちょっと前に腕についての話はしていた。これが言っていた話なのかと繋がったとは思うけど。

 特別ロイドは何か言うわけでもない。

「それは、すごいが。どのくらいの値段で買えるものなんだ?」

 まあ、いろいろと準備しなければいけないわけだが、ざっと計算してみれば10万ダールもあれば問題ない。

「大した値段じゃないよ。ただ、ちょっと面倒な外科手術が必要だったりする。」

 腕を動かすために神経を接続しなければ動かない。もちろん、そのための自動手術台というものが売っている。

 これを使えば、10日ほどで接続するためのハードポイントが使用可能だ。あとはそこに、サイバーアームをつなげればいい。

 自動手術台は他にも難しい手術をこなせるようにできているので、城に一台あって損はないだろう。

 ただなぁ。

 みんなの表情を見る限り微妙だ。

 特にレイナは嫌悪感を示している。無表情なロイドを覗いて、キャラバンのみんなも微妙な感じだ。

「すげぇ、じゃあ俺も両腕を機械にしちゃおうかなぁ。」

「やめてください、ハルト様。わざわざ健康な腕を切り落とすような真似は必要ないと思います。」

 カイネの言い分はもっともだ。

 そもそも、《再生》ポーションを使えば元に戻る可能性がある。

 それが失敗した時に考えればいいのであって、わざわざ普通に使える腕を切り落とす必要はないだろう。

「なんだろう。凄いことだってのは分かるんだけど、本能的にぞわっとしちゃう。」

 レイナは首筋を掻きむしる。そこまで気持ち悪いのか。

「それで、ロイドさんはどうなの?」

 ベネットが尋ねるとロイドはおもむろに口を開いた。

「俺が決めることじゃない。ヒロシが必要だというなら付けるし、そうでないならこのままでいい。」

 まあ、いろいろな事情があるんだろう。それを押しのけてまでやるかどうか。

 ベネットが俺の方を見てくる。

「俺は必要だと思ってる。

 だから付けてくれ。

 それについて議論するつもりはないよ。」

 そういうと、ロイドは頷いた。

「えー、じゃあ、なんでこんな話をしたの?」

 ミリーは訳が分からないといった様子で、レモネードに空気を送り始めた。

「いきなりロイドの腕が生えてて、機械仕掛けだったらみんな驚くだろう? それと、こんなものを使う世界と取引ができるようになったよって言う紹介。」

 そもそも呪文でいろいろできる世界ではあるけれど、その呪文と似たようなことが呪文を使わずに行える。

 実はそれはすごく意味がある事でもある。

 何せ、呪文は才能が無いと使えない。それを魔法には及ばないまでも、似たようなことができるのは強みだろう。

「魔法が使えないような場所でも、姿を隠せたりもするしね。」

 光学迷彩で姿を隠せるコートなんかをみんなに見せる。

「え?まじで?」

 レイナはちょっと驚きを隠せない様子だ。

「それって凄いの?」

 テリーは何がすごいのかよく分からないといった様子だ。

 そりゃな。

 テリーの隠密技術があれば、必要ない代物かもしれないけど。

「まあ、凄い、凄くないは人によって変わるんじゃないかな? だからみんなにも知っておいてほしいなって思ったんだよ。」

 一人で悩んでいても仕方がない。俺一人の考えじゃ使い道が分からないものも多い。

 そういう時は、仲間に相談するのが一番だよな。

感想、ブックマーク、評価お待ちしております。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ