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14-7  凄い出世だと思うんだけどなぁ。

実は自分は昇進したことってないんで出世ってよくわかってません。

 ギルドの建物に案内されダーネン支部長を待つ間、手持ち無沙汰になりグラスコーが声をかけてくる。

「そういや、お前、竜の友とやらはまだ続けてるのか?」

 でも、出す話題がそれってどうなんだろうな。

「もちろん、続けてるけど? というか、仲たがいする理由がないしな。」

 王国西部を守護する赤銅の竜、ラウレーネとの付き合いは良好だ。最低でも月に一度は、顔を出して世話話をしている。ベネットの出産の際にはお祝いの品もいただいたし、ヨハンナの顔を見に人間の姿になって訪問もしてくれていた。

「なるほどなぁ。とりあえず、仲良くしておくには越したことは無いか。サンクフルールじゃ最近、空を飛ぶ軍隊を組織し始めてるみたいだからな。

 場合によっちゃ、奇襲かけられるかもしれん。」

 それを聞いて俺は、来訪者の影を感じる。そもそも、この国には3人の来訪者が存在していた。

 第三王子のレイオットに俺の所にいるハルト、それに俺だ。

 過去には大賢者と呼ばれた大崎叶という存在もいる。なら、他国に来訪者がいてもおかしくはない。

 でも、いきなり空軍かぁ。

 非常に厄介だ。

 歴史にはない話だから、どう対処すべきなのかさっぱりだ。

「それって、ワイバーンを使った軍隊?」

 以前に、国軍の参謀であるバーナード卿に聞いてはいた。その数は大したことは無いという風には聞いていたが、直接サンクフルールに行っていたグラスコーは何を見たんだろうか?

「おう、ワイバーンの他にもヒポグリフなんかも飼いならしていたな。全員双眼鏡を抱えて、群れで飛ぶ訓練なんかしてたぞ?」

 俺は思わず渋い顔をしてしまった。

「まあ、そんなのよりもドラゴンの方がよっぽど強いから、平気だろ。」

 グラスコーはあっけらかんと言うが、全然平気じゃない。

「そもそも、ドラゴンは人間の争いには不干渉だ。だから、ラウレーネたちに期待することはできないよ。」

 しかも、航空戦力の何たるかを理解している素振りが見える。空軍の最も重要な任務は偵察だ。

 敵地に深くまで侵入し、軍事設備の位置や軍隊の配備状況、生産設備の把握による打撃地点の選定、それらすべての起点が空軍と言っていい。

 こちらでは騎兵を使いいち早く情報を集める斥候の役目ではあるが、それを空から安全に行えるという強み、そして俯瞰的に状況を把握できるという画期性。

 どれをとっても軍事的に数世代は進んだ発想だ。

 今では偵察衛星に役割を移している部分もあるけれど、それでも重要な任務であることには変わりない。それをさせないための空軍でもある。

 相手の来訪者の目的は何なのかは知らないが、こちらとしても手をこまねくわけにもいかないな。

 ともかく、これについてはバーナード卿に知らせておくべきだろう。単なる爆撃機とか空から奇襲できるとかでとどめてくれてたら、わざわざ介入する気はなかったんだけどなぁ。

「いやー、お待たせ。

 ……何か浮かない顔をしているが、大丈夫かね?」

 支部長が上機嫌で入ってきたけど、俺が眉を顰めているのを見て、ちょっと慌ててる。

「いえ、何でもありません。

 それよりも、副総裁就任おめでとうございます。」

 俺は切り替えて笑顔を作る。

「まあ、商売にかかわりがない事であれば詮索はしないよ。それに話しておかなければならないことは山ほどあるからね。」

 支部長としての引継ぎの件もある。

 他にも、新設する工場や製品の備蓄設備、運河をつなげる大規模な公共工事の話なんかもあった。確かに話すべきことは山ほどある。

 当然仲の悪い二人だ。

 俺が仲裁に入らなければ、話が進まないことも多い。出来れば、こんなことせずとも協力的にやってくれると助かるんだけどなぁ。

 

 結局、支部長とのやり取りは夕方まで続いてしまった。仕方が無いこととはいえ、久しぶりに領地の外で長く過ごしてしまったな。

 事務所につくと、早々に戻りたいとグラスコーが言い始めた。

「支部長就任までにやらなくちゃいけないことが山ほどあるんだから、適当に切り上げろよな?」

 そういうと、グラスコーは渋い顔をする。

「アノーにこっちのことは任せるわ。んで、王都の件はロドリゴな。

 なんかあれば、手紙寄こせばいいだろ。」

 無茶言うなよ。

 アノーだって、仕事を抱えているし、ロドリゴもそうだ。それをいきなり任せたじゃ、話にならないぞ。

「分かったから、そこら辺を含めて今度話し合おう。俺の城で会合ってことでいいか?」

 そういうとグラスコーは頷いた。

「なんでもいい。だから、さっさと戻してくれ。移してくれりゃ、甥っ子が取り出してくれるしな。」

 確か旅の共にグラスコーの甥っ子が同行してるんだっけか。彼も災難だな。

 他国の外れまで連れまわされるとか。

「分かったから、さっさと入れよ。」

 そういうや否や、さっさとグラスコーは事務所のインベントリに潜り込んだ。別に触れなくても、事務所のインベントリにはアクセスできるので、あとはグラスコーとその甥っ子に紐づけた専用インベントリに移すだけで終わる。

 何ともお手軽だなぁ。

 数百キロの旅路をショートカットできるんだから、とんでもない能力だ。

 もちろん、事前にそこに到達している人物がいないといけないわけだけど十分すぎる。商売をする上では、とてつもないアドバンテージだよな。

 さて、俺も戻ろうか。

 あー、いや。

 ちょっとライナさんやベンさんと話しておこう。大きな組織になったせいで、把握できていないことも増えてきた。

 事務所で取り仕切りをしているのがライナさんだし、倉庫の管理はベンさんがやっている。二人に話を聞くことで、思わぬ落とし穴を回避できることが多かった。

 今回は供連れもいないのだから、早めにベルラントに帰らないといけないけれど、事務所や倉庫で話をする分には問題ないだろう。

 

 事務所で声をかけたら、ライナさんもベンさんも治安の悪化に顔を曇らせていた。

「そんなに状況不味いんですか?」

 事務所のソファでお茶をしながらと思っていたら、なんか暗い顔をされてびっくりした。

「麻薬をやってる子供たちが増えてねぇ。」

 ライナさんはため息をついた。

「どっから流れてきたんだか、帝国語も話せないような連中も増えたんだ。」

 ベンさんも首を振る。

 発展した街なら、大抵ついて回る問題だ。

「困ったもんですね。できれば、教会にできた学校に行ってもらいたいもんですけど。」

 そういうと、ベンさんは首を横に振る。

「宗教が違うから、教会に寄り付かん。何なら、こっちに講師の人を呼んだ方がいいのかもなぁ。」

 こっちというのは、うちの商会にってことだろうか?

「場所とか平気ですか? 青空教室ならいいでしょうけど。」

 そういうと、ベンさんは頷いた。

「場所についてはなんとかできると思う。問題は、来てもらうために金が要るってことだな。」

 あー、客寄せに給食とかしてたもんな。それについては、こちらから農作物を渡してもいい。

「まあ、うちにも余裕があるので何とか工面しますよ。それで麻薬でしたっけ?」

 今度はライナさんが頷いた。

「仕事が辛いだとか、楽しみがないだとか気持ちは分かるのよ。でも、麻薬に手を出すようになったらお終いよ?」

 それについてはもっともだ。

 何か別の娯楽を作るしかないかなぁ。

 娯楽。

 娯楽ねぇ。

「紙芝居でもやるしかないですかねぇ。」

 まるっきり子供だましだなぁ。そんなことで、麻薬が撲滅できるなら苦労はしない。

「カミシバイって言うのは何?」

 あー、適切な翻訳がされなかったのか。

「絵本の絵を大きくして、読み聞かせみたいなことをやるんですよ。で、話の合間に飴やお菓子を売るって言う商売なんですけど。」

 ライナさんは苦笑いを浮かべる。

「それで気が紛れてくれるならいいけれどねぇ。

 でも売れない俳優さんも増えてきたことだし、芝居仕立てで絵本を読み聞かせる商売って言うのは悪くないかもねぇ。」

 失業対策にもなるだろうし、紙芝居自体が悪いものでもない。

 幸い、画家先生たちもカールを通じて何人か知り合いになっている。

 進められるようなら進めておくか。

「とりあえず、それ以上はお手上げですね。取り締まりの強化とかはモーダル市の仕事ですから。」

 何か画期的なアイディアというものはないものだ。

 俺が言ったようなことなんか誰でも思いついていることだろうし、みんな試してみていることだろう。

 でも、まあやらないよりはましだよな。

 

 しかし、本当に疲れた。

 引継ぎがあったにもかかわらず、グラスコーがそれを無視して旅を続けていて戻らないと手紙で伝えられた時はどうしようかと思ってしまった。事前の打ち合わせのない行動だったので執事のフィリップには負担をかけてしまったし、領主としての仕事をベネットに丸投げだ。

 とりあえず、インベントリを通じて執務室に戻る。

 この急な移動というのがなんとも感覚が狂う。

「おかえり、ヒロシ。無事に済んだ?」

 執務室の椅子に腰かけて、ベネットはヨハンナをあやしていた。

「あー、うん。何とか無事にすんだよ。いくつか話のあったものも前倒しで済ませてきたし、あとは多少楽になるかな。こっちは平気?」

 そう尋ねると、ベネットは苦笑いを浮かべる。

「身構えてたけど、特に何も。

 いざという時には旦那様の代わりを務めないととか思いっきり意気込んでみたけれど、何もなくて拍子抜けしちゃった。」

 何もないとは思っていたけれど、本当にそうなってよかった。

 でも変な緊張を強いてしまって申し訳ないな。

 前々から話してはいたけれど、いざその時になってみると何かとそわそわしてしまうものだ。

「ありがとう。それと、ヨハンナ預かろうか?」

 赤ん坊とはいえ、抱え続けるのは結構大変だ。

 ベネットから、ヨハンナを受け取ろうと腕を伸ばす。

「うん、助かる。そういえば、ハロルドさんの所には寄った?」

 ヨハンナを抱っこした後、ベネットの言葉に俺は首を横に振る。

「いや、今回はすぐ帰ってきたかったからね。おみやげは、こんなのしか用意できなかったよ。」

 倉庫にあるお菓子類の中から、質素なクッキーの詰め合わせを貰ってきた。

 インベントリから直接机の上に出現させる。

 手を使わなくても、直接ものを取り出せるのは便利だよな。

 しかし、おみやげとしては何とも貧相だ。

 何もないよりかはましかなぁと考えていたけど、これじゃ急な仕事を押し付けた埋め合わせにはならないよなぁ。

「それじゃ、おみやげ催促してるみたいじゃない。もう。」

 ちょっとベネットは頬を膨らませる。

 いや、そういうつもりじゃなかったんだけどな。

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