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14-6 色々と勉強になる。

オーバーオール便利ですよね。

「ありがとうミリーちゃん。ヨハンナのこと面倒見てくれてたんだよね?」

 ベネットはグラネを厩舎に戻した後、ミリーに礼を言う。

 普段はミリーたちが休憩所にしているところで腰かけながら、ベネットはミリーからヨハンナを預かった。

「面倒見てたって言うか。一緒に遊んでただけだよ? でも、赤ちゃんってかわいいね。」

 ミリーがそういうとベネットは頷く。

「うん、可愛いよね。本当、大好き。」

 そういうと、ベネットはヨハンナに頬ずりする。

 まあ気持ちは分かる。見た目もだけど、仕草や声が可愛いなと感じてしまう。

 まあ、これは人間の本能なんだろうな。

「羊の子とかも、可愛いんだよ。でも、すぐに成長しちゃうからなぁ。」

 そういうとミリーは口をへの字に曲げる。成長した羊は可愛くないって感じなんだな。気持ちは分からなくもない。

「そういえば、グラネの乗り心地どうだった? 最近調子いいみたいだけど。」

 ミリーが尋ねると、ベネットは笑う。

「すごかった。あんなに速く走れるんだねぇ。

 前よりも力強くなってるみたいだし、まるで空を飛んでるみたいだった。」

 空を飛んでるみたいか。

 そういえば、ゲームのルール的には馬以外の乗騎がもらえるレベルではある。そのうちグラネから翼が生えてペガサスになったりするかもしれないなぁ。

 そこら辺はどういう形で反映されるのかは分からないから、どうなるとも断定はできないけども。

「ヒロシがいろんな餌を持ってきてくれてるからね。馬はいろんなものを食べないとすぐ弱っちゃうから。

 時々石なんかも食べるんだよ?」

 うん、まあそこまですぐに弱ったりはしないだろうけど、それなりに気を使っている。元々ミリーは蛮地で暮らしていたからそう言うのを肌感覚で知っていたんだろうけど、俺はつい最近まで知らなかった。

 領地を貰い、そこで牧畜をしてもらう都合上、いろいろと調べた結果として、狭い地域で押し込めてしまうと畜産って言うのはそれなりに問題がある。それを解決するために、牧場主さんや畜産業の人の動画や記事なんかを読み漁って解決策を探っていた。

 それでも上手くいかなくなっていくのかなぁ。

「ところでヒロシ。前掛けが何枚か破れちゃったから、補充をお願いしたいんだけど平気かな?」

 ミリーは自分の身に着けているエプロンを引っ張って、俺を見てくる。

「遠慮なんかする必要ないよ。必要なら予備を買っておこうか?」

 そもそも、おしゃれをしたいというなら普通の服だって用意するんだけどなぁ。こっちに来てから、渡したジーンズ地のオーバーオールをずっと着ている。

 何着か用意していたので、着まわしているのだと思うけれど、スカートを履いてるところは見たことがない。

 まあ、牧畜をやる以上はズボンの方が何かと便利だというのは分かるけれど。

「予備買ってくれるんだったら、これを買ってくれる? 他の子たちに何着か譲っちゃったから、洗濯間に合わなくなりそうだし。」

 見てみると、牧童たちの何人かはジーンズ地のオーバーオールを着ていた。

 なんだか制服みたいになってるな。

「それなら言ってくれよ。備品としてなら、ちゃんと支給するから他の子たちにも声をかけて。サイズだって違うんだろうしさ。」

 ぶっちゃけた話、大した値段じゃない。

 まだまだ、こちらの世界だと高い代物だけれど、”売買”で購入するなら大した出費にはならない。ここで働いてもらう以上、能力の出し惜しみをするつもりはないし多少流出したところで影響は限定的だ。

 だけど、ミリーは少し困った顔をする。

 手招きをしてきたので、俺は耳を寄せた。

「あんまり、大盤振る舞いするのはよくないよ? 手癖の悪い子も結構いるから。支給じゃなくて、売るってした方がいい。」

 そうか。

 元々根無し草の牧童も多いから、そういうのも多いのかもなぁ。

「分かった。じゃあ、とりあえずミリーの分はともかく、他は販売しよう。値段はどれくらいがいいかな?」

 買ったままの値段で渡したら、それはそれで意味ないだろうしな。

「うーん。300ダールくらいかなぁ。転売して利益が出るかもしれないけど、それなら飛ぶように売れるほどじゃないだろうし。

 そんなところじゃない?」

 そうか。じゃあ、それくらいで売ろう。

「それについてはみんなに伝えてくれ。もちろん、ミリーたちだけじゃなくて他の使用人にも欲しい人がいれば売るから。」

 そういうとミリーは明るく笑って頷く。

「庭師のおっちゃんとかも欲しがってたしね。ある程度の数が集まったらヒロシの所に枚数を伝えるよ。」

 ミリーが窓口になってくれるのなら助かるな。

「よろしく。他に必要なものとかもあれば言ってくれ。フォークリフトとか、使える人が増えたら、数も増やすし。」

 大きなものを移動させたり、高く積んだりするのに便利だろうという事でミリーにはフォークリフトを渡してある。彼女が器用に扱っているのは知っているが、他の牧童たちが使っているのは見ていない。

 数が足らないというのであれば、用意してもいい。

「あー、いや。興味はあるけど、怖がってる感じかな。数が足らないわけじゃなくて、みんな慣れてないから。

 必要になったら言うよ。」

 そうか。使えると便利なんだけどな。そう考えると、外で使うのは微妙か。村で使っているトラクターは大丈夫なんだろうか?

 少し、そこは不安になるな。

 恐ろしいものとして、壊されたりとかしなければいいけど。そういう話をしてたら、ベネットに後ろから服を引っ張られた。

「私も欲しいかなぁ。」

「え? フォークリフト?」

「違う。オーバーオール。」

 あぁ、びっくりした。

 ベネットがフォークリフトを乗り回す理由がない。

 でも、オーバーオールもベネットが着る理由なんかないと思うんだけどなぁ。

「馬に乗る時とか鎧下を着るより楽かなぁって。ミリーちゃんはどう思う?」

 ミリーは少し悩んだそぶりを見せる。

「城の中ならいいけど、外で男爵夫人が着るものじゃないかなぁ。まあ、ベネちゃんは美人さんだから、何着ても様にはなるけどさ。」

 確かに、ベネットに似合わないというつもりはないけれど。

「ほら、ヒロシも微妙な顔してる。」

 ミリーがそういうとベネットは不満そうな顔をしている。

「おっぱいあげる時とか、ドレスよりもオーバーオールにシャツの方が楽だと思う。」

 いや、まあ確かにドレスだと面倒だというのは分かるけれど。問題は、体裁が悪い。作業着を妻に着させているなんて噂を立てられると面倒だ。

 だけど、それを理由に希望をかなえないというのも情けないというか……

「分かりました。ご用意致しますよ、奥様。でも、お客様の前とか、城の外とかでは勘弁してね。」

 結局妥協案を出してしまう。

「ヒロシは、ベネちゃんに甘いなぁ。」

 ミリーはにやにや笑う。

「ありがとう、ヒロシ。」

 ベネットは喜んで、俺の頬にキスをしてくる。

 まあ、その。これだけでも十分な報酬だよな。

 

 やるべきことというのはいろいろとあるものだ。

 モーラ様を祭る祭壇を作るのも、その一つだけど、それ以外にも完成した後装砲の試射に立ち会ったり、モーダルのギルドに顔を出す必要もあった。いくつもの投資話があって、どこに投資するのかという打ち合わせもある。

 インベントリ間移動があるので、緊急時に商会長のグラスコーを捕まえるのは俺の仕事になりつつあった。

 モーダルには商会の事務所に置いてある専用インベントリに移動すればいいし、俺がグラスコーの所に行けばモーダルに連行するのは一瞬だ。

 うん、便利。

「最悪だ。せっかく、面白いもん見つけたのに、割り込みやがってよ。」

 サンクフルールの外れにまで何をしてたんだかさっぱりだが、捕まえたグラスコーは不満顔だ。

「んなことより、王都に店を構える許可が出たんだから、少しはしゃんとしてくれよ。モーダルの支部長になるんだから、そっちの業務もあるんだぞ?

 あっちへふらふら、こっちへふらふらはいい加減やめて、腰を落ち着けてくれ。」

 実は、ダーネン支部長がギルドの副総裁になるという出世をしたので、グラスコーがモーダルの支部長になるという事が内定している。

 他にも候補としてアーノルド商会の商会長の名前も挙がっていたんだが、ギルドの総裁であるネストホルン伯の指名が入った。

 流石にお断りだとは言えず、グラスコーも渋々指名を受け入れたわけだけど。とても不満顔だ。

「ダーネンの野郎の後釜なんて、まっぴらごめんなんだが。モーダルは結構でかくなったからな。

 そこの支部長ともなると、色々と捗るんだけどよ。」

 ギルドの建物へ向かう、運転手付きの自動車の中で、グラスコーは頬杖をつく。

 平民が何もなしに到達できる地位としては文句なしに最高到達点であるギルドの支部長という地位はグラスコーにとってはあまり魅力的ではないようだ。

「そもそも、商店抱えた数から言って、俺よりアーノルドん所の方が先だと思うんだがなぁ。王都に店構えたって、人件費ばっかりがかかって大して儲かりゃしないし。

 どうせなら、お前が支部長やれよ。男爵様なら、箔がつくってもんだろ。」

 男爵だから、俺がなったらまずいだろ。

 ギルドはネストホルンという貴族の所有物だ。それがいかに巨大でフランドル王国を遍く商人たちを統べる組織であると言っても、その中枢はネストホルンに牛耳られている。

 ダーネン支部長も、副総裁になれたのは娶った嫁がネストホルン家の子女であったからだ。

 というか最近知ったのだが、支部長と面談するときに色々と給仕をしてくれていた人が支部長の奥さんだったというのは驚きだ。ある意味、ずっとネストホルン家に監視されてたと言ってもいいのかもなぁ。

 まあ、そういうわけで俺ではなくグラスコーが選ばれたのだろう。男爵となってしまったことで、俺はギルドの中枢には食い込めない。

 もちろん、グラスコーだってイレーネという嫁のせいでアーネスト家という男爵家の縁者になっているわけだけども、男爵そのものよりはましという判断なんだろうな。

 それにイレーネが実家と折り合いが悪い。なので、グラスコー商会の中で普通に考えれば発言力が高くなるであろうアーネスト家の影響は薄く、グラスコーの親類が幅を利かせている。

 というか俺とアノー、それにロドリゴの意見が通り易くて、他の意見はほとんどシャットアウトされていた。

 理由としては、ほとんどがグラスコーの独裁と言っていい体制になっているからなんだが、商売に明るい人間がほとんどいないというのも理由の一つだ。

 商家としては、そもそも代を重ねていない。

 だから、グラスコーを支部長にしても、変に食い込まれないだろうという思惑も働いているのかもな。

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