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14-4 いきなり来るのは勘弁してくれませんか?

久しぶりの登場です。

 そういえば、”学究の徒”という能力について調べるんだったな。寝室に戻り、俺は特殊能力の一覧を眺める。

 ”売買”されているものの中にきっちりとその能力は存在していた。

 思っていた効果と若干違う。

 確かに初期段階では学習によるレベルアップ効果があった。だけれど、残念ながら、それは4レベルまでが限界であり、それ以降は1日に使用できる呪文の回数を1回分増やすという効果しか残らない。

 俺はため息をついてしまう。

 いや、勝手に期待して、勝手に落胆するなよって話ではあるんだけれども。俺は、抱きかかえていたヨハンナをあやしながら、ウィンドウを閉じた。

「何か期待外れだったの?」

 浴室から出てきたベネットに尋ねられた。

「あー、いや簡単にレベルアップする方法ないかなぁって。」

 そういうと、ベネットは苦笑いを浮かべる。

「そんなに簡単に強くなれるなら苦労しないよ。地道に訓練とか鍛錬を続けるしかないんじゃない?」

 それはごもっとも。とはいえなぁ。

 領主である俺が、ダンジョンに潜るわけにもいかない。出来れば、勉強や訓練だけでレベルアップするという実績があればいいんだけれど。

 きっかけが本当によく分からない。

「久しぶりに私も訓練したけど、なまってなくてよかった。積み重ねてきたものってそんなに簡単には失われないんだなって。」

 そういいながら、タオルで汗を拭きつつ、ベネットは炭酸水を飲み干す。そういえば、レベルアップはしても、レベルダウンって言う現象は起こってないな。普通なら、寝たきりとかになれば筋力は落ちるものだ。

 妊娠中は、運動不足に陥りがちなのに、特にベネットの能力値に変化はなかった。どころか、出産したらレベルアップだもんな。

 この世界の仕組みはいったいどうなってるのか、不思議でならない。ベネットの場合は神様の加護に加えて、竜の血を浴びている。

 おかげで再生能力なんかも得てしまっていた。

 だから普通の人と一緒にしちゃいけないわけなんだけども。

「そうだ。ヒロシ、約束忘れてないよね?」

 あぁ、グラネに《加速》をかけて乗ってみたいのかな?

「明日ね。

 グラネの調子もあるだろうし、無理はさせないようにね?」

「分かってますぅ。でも、どんな感じなのかわくわくする。」

 出産を終えたばかりなのに、ベネットは元気いっぱいだ。ヨハンナもすくすく育っているようで、とても元気だ。

 少し、大人しい気がするけれど、赤ん坊ってこんなものなのかな?

 そこは少し気になる。

 夜中に突然泣き出すというのも、それほど回数があるわけでもない。

 しかし、ちょっと目が細くないかなぁ。

 髪はグレーで俺とベネットの間くらいだけれど、顔はややしもぶくれで鼻も低い気がする。ちょっと将来が不安だ。

 俺の遺伝子が強すぎなのかなぁ。

「ヨハンナは可愛いよね。

 ぷくぷくしたほっぺとか食べちゃいたいくらい。」

 そういいながら、ベネットはヨハンナのほっぺを突く。そうして差し出された指にヨハンナはちゅっと吸い付いた。

「あれ? お腹空いてる? ちょっと待ってねぇ。」

 そういうとベネットは、服をたくし上げ始めた。

 いや、その……

 男は俺しかいないから、気にしなくてもいいのかもしれないけどさ。俺は目のやり場に困って目をそらした。

 その視線の先にとんでもないものが立っていた。

 俺が思わず、びくっと身を竦めるとヨハンナが泣き始めてしまった。

「え? 何?」

 ベネットも突然の変化に身を竦ませた。いつの間にか、寝室に一人の女性が立っていた。

 いや、正確に言うなら半透明な女性の姿が映し出されている。

 見覚えはある。

 モーラ様だ。

 俺は乾いた笑いしか出せなかった。

「あー、ごめんごめん、授乳中だった? そっちはそっちで進めてね。」

 にやにやと笑う姿は整った顔立ちから想像つかないくらい下卑た笑い方だ。よくそんな笑い方ができるもんだな。

 とりあえず、俺はベネットにヨハンナを預ける。

 彼女も警戒した様子でヨハンナを抱き上げると、ベッドの方へと距離を取った。

「何もそんなに警戒しなくてもいいんじゃないかな? お祝いをしに来ただけなんだから。」

 そういうモーラ様の前まで行って俺は膝をついて頭を下げた。

「お祝いいただき幸いにございます。

 モーラ様のおかげで、これほどまでの幸せを得られたこと、心から感謝申し上げます。」

 余計なことを考えないように俺は丁寧な言葉づかいで敬う。

「別にいいんだよぉ。好きにしてもらって。おかげで現世に顕現できるようになったし。

 これも君のおかげだよ。」

 上機嫌といった様子でモーラ様は中空に腰かけた。どういう仕組みなんだか知らないけど、ずいぶんとくつろいでるな。

「それでね。君にはお願いしたいことがあるんだ。」

 何を対価に求められるんだろう?

 このタイミングだから、すごい嫌な想像をしてしまう。

「何をお望みでしょう?」

 恐る恐る俺は尋ねた。

「まずは血を捧げてくれないかな?」

 思わずほっと胸をなでおろしてしまいそうになる。先ずと言われているのだから、他にも要求はあるはずだ。気を抜いて良いわけないんだよな。

「直接でしょうか?」

 そういうと、モーラ様はにんまりと笑う。

「こっちに姿を現したからね。貰ってもいい?」

 思わず、俺はベネットの顔を見てしまう。どういう対応をしていいのか、分からないのかベネットも困った顔をしている。

 でも、逆らうわけにもいかないからなぁ。

「どうぞ。」

 そう言って、俺は右腕を差し出す。

 モーラ様は嬉しそうに舌なめずりして顔を近づけ、舌で血管を探すように這わせる。これで顔が醜ければホラーなんだけど、すごく整った顔なんだよな。

 変な気分になる。

 そう思った次の瞬間、モーラ様はガブリと犬歯を突き立てた。

 

 痛い。

 

 注射くらいなら、大して痛くもないけれど、犬歯ってかなり太いからな。涙が出てくる。

 噴き出してきた血を嬉しそうに浴びながらモーラ様は血を舐め啜った。

 やばい、くらくらする。

 結構な量が噴き出した気がするな。妙に艶めかしいため息をつくと、モーラ様は満足したように立ち上がる。

 俺の方は頭がくらくらして地面に手をついてしまった。

「ごめんごめん。さすがに吸いすぎちゃったかな?」

 あっけらかんと言われているけど、こっちとしては生命の危機を覚えるレベルだ。やはり感覚が普通の人間とは違うよな。

「それで、もう一つなんだけれど。できれば、祭壇を作ってもらいたいんだ。

 そう何度も顕現できるわけじゃないからね。

 そこに像を置いて、毎月血を捧げて欲しいんだ。もちろん、君の血でなくても構わないよ?」

 邪教の神らしい要求だ。でも、そこまででいいのかな?

「もちろん、ただじゃないよ。君には、一つ力をあげようと思う。」

 そう言って、モーラ様は俺の額に手のひらをかざす。

 ぐっと頭が重くなる。

 次の瞬間、とんでもない技が身に付いた事がはっきりと認識させられた。

 俺が顔をしかめるしかない。

「それを使って、効率よく血を集めてくれると嬉しいなぁ。」

 しかし、これを使ってという事は人間の血でなくてもいいんだろうか? そうだとするなら非常に助かるんだけども。

 聞くべきか否か。

 いや、条件は知っておくべきだな。

「出来ましたら、質や量についてお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 ともかく、それが支払える代価であるならいいんだけども。

「最上は人の乙女が流す血だけどね。別に魔獣や亜人の血でも構わないよ。

 量は、今回吸った分くらいは最低限欲しいかなぁ。

 もちろん、多ければ多いほど私としては望ましいけれど。だから、頑張った分はご褒美を用意してあげよう。」

 俺は頭を下げる。

「畏まりました。ご期待に沿えるよう鋭意努力いたします。」

 出来れば、このまま帰って欲しい。

 そんな期待が滲んでいないか心配しながら俺は顔を伏せ続ける。

「うんうん、君はいい子だねぇ。そろそろ厄介な奴に介入されそうだから、退散するね?

 また近いうちに会えることを楽しみにしているよ。」

 そう言って、現れた時と同じようにモーラは姿を消した。

 俺はほっとした。

 おそらくベネットに力を貸している過去を司る神、ウルズ様の加護のおかげかモーラ様も長くはこちらにいられないんだろうな。

「ヒロシ、大丈夫?」

 そういいながら、ベネットはヨハンナを抱えたまま、俺に癒しの手を使ってくれた。

「大丈夫、それよりヨハンナは平気?」

 泣き声が聞こえないのが少し不安だ。

 最初は泣いていたんだけど、それが途中から亡くなったので少し不安になってしまった。

「大丈夫、少し緊張したけど、お乳を上げてたら泣き止んだから。」

 そうか。

 あの状態でお乳を飲んでいたのか。安心はしたけど、なんだかもやもやする。

「ごめんね……まさかいきなり噛みつかれるとは思ってもなかったから……」

 まあ、そりゃそうだよな。

 いきなり訳の分からない存在が現れて、不穏な空気を漂わせて、俺がそれに傅いたわけだからベネットとしてはどうすればいいかなんてわからない。

「あの方が俺に力を授けたモーラ様だよ。モーラ様については前に話したっけ?」

 そう尋ねるとベネットは頷く。

「何度か気配みたいなものは感じていたけれど、まさか顕現されるとは思ってもみなかった。

 でも、困ったね。

 捧げものをしないといけないなんて。」

 祭壇と血を捧げる儀式をしないといけない。そこは確かに面倒と言えば面倒だけれど。

 血を捧げるだけでいいなら、それほど困らないんだよな。

「とりあえず、落ち着こう。それほど大変なことじゃないから。」

 そう言って、俺は、ベネットをソファに座らせる。

 何時までも、ヨハンナを抱えたまま立たせておくわけにもいかない。

「ほら、ヨハンナおいで……」

 ベネットからヨハンナを預かり、俺もソファに腰かけた。

「大変じゃないって言っても、毎月血を捧げないといけないんでしょ?」

 うん、まあ。

 普通に考えると腐った血ではいけないだろうから、保存方法がなければ、そのたびに生贄が必要になる。魔獣や亜人でもいいとは言っていたけれど、それでもいけにえを捧げていたら評判が悪い。

 だけど、幸いなことに血を保存する方法はある。それに血を採取する方法もあった。

 毎度犬歯を立てられるよりもはるかに楽な方法だ。

「そこら辺は、”売買”で採血キットを利用すれば何とかなるよ。幸い、血を保存するのはそれほど難しくないしね。」

 ”収納”があれば、血を保存するのも難しくはない。時間経過しないから、固まってしまうこともないしな。

 それでも、ベネットは少し不安そうな顔をしている。

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